殿下、どうぞお好きに。

yukiya

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9 彼と私の距離感

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 鉄拳を食らった後、しばらく頭がぐわんぐわんと揺れていたが、仕方ない。

「マミもこんなDV男のどこが良かったんだか」
「しばくぞテメェ」
「やれるもんならやってみろ馬鹿男」
「マジでやんぞオラ、馬鹿女」

 あぁ。こんなに汚い言葉を使ったのは一体いつぶりだったろうか。

「それにしても私たち凄くない?こーんな広い世界で、また会えちゃうなんて!しかもお互いビビッと来たしね!」
「俺のミラクルパワーだな」
「なに馬鹿なこと言ってんの!まぁ、これも運命だよね~」

 そうまで言ったところで、カップに茶が無くなったのに気付く。おかわり、と言おうとしたけれどやめておいた。先程からずっと作業台に向かっている彼に頼むのは気が引けたし、空が少し暗くなってきたからだ。

「そろそろ帰らないと、お兄様が心配する」
「おにーさま、ね。お前ずっと兄貴ほしーって言ってたもんな。願い叶って良かったんじゃねぇの」
「まぁね。今度、家に遊びに来てよ」
「あぁ、そう………」

 ここでお互いハッとなる。ここは前世とは違う。年頃の男が婚約者のある(しかも相手は王子)女の家を訪ねるなんて、関係を疑ってくれと言っているようなものではないか。
 さすがの涼太の馬鹿な頭でも、この世界で貴族子息として教育を受けてきたのだ。そのくらいは分かるらしい。

「…王子様と別れるまではまずいんじゃねーの」
「そうね。…じゃあ、手紙!ね、いいでしょ!それで、たまにはこうして会おうよ!」
「まぁ…別にいいけど」
「決まりね!絶対に返事返してよ!わかった?」
「はいはい」

 念を押してから帰ろうと扉に向かう。すると、ずっと作業台に向かっていたギアンがこちらを向き、ブーケを渡してきた。

「ほら、お前がこの前言ってた花」
「…私にくれるの?」

 ずっと作業しているなと思っていたけれど、私のために作ってくれていたのか。

「いらねぇなら、」
「いる!!ありがとっ!」
「…門まで送る」
「……ありがと」

 幼馴染だから分かる、不器用な優しさ。それが心地良くて、恋人になったりもしたけれど。やっぱりこの距離が私たちには合っているのだろう。
 そう思わないといけない気が、なんだか、した。
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