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7.目の前にあった謎
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「ね、どういうことかな」
僕はまだ信じられない思いで、そう博人に問いかけた。
学校は今、大変な騒ぎになっていた。
本物の不審者が学校に侵入して、刃物で生徒を襲おうとしたという事件が、いち早くニュースとなってしまっていた。
学校の先生たちは、マスコミと保護者への対応に追われていた。
職員室の電話が鳴り止まなくて、ついには小牧先生まで駆り出された。
「先生が戻るまで、ここで待っててね。すぐ、戻るから」
そう言って小牧先生は出て行き、僕と博人は生活相談室に二人、取り残されていた。
僕は最初興奮していたものの、しばらく放置されていたお陰でようやく落ち着きを取り戻した。
「若尾さん、冗談で言ってたんだよね?その、ゆみりさんのこと・・・」
僕の問いかけに、博人はしばらく無言だった。その様子に、僕はさらに不安になる。
「だって、博人だって図書室にゆみりさんいたの見たよね?声が出てない僕たちを笑ってたよね?」
「俺、ずっと思い返していたんだけどさ。ゆみりさんが俺たち以外と話しているのを、見ていないんだよな」
「そんなことないでしょ。ゆみりさんは・・・」
僕は言葉に詰まった。
あの時、図書室に行ったらゆみりさんと校長先生と若尾さんがいた。その時の雰囲気で、三人がそれまで楽しげに話していたのだと、僕は思った。
若尾さんへのゆみりさんの紹介も、既に終わっていたと思っていたんだ。
でも、確かに。
ゆみりさんが誰かと会話しているのを見た訳じゃない。
ゆみりさんは、笑たり、頷いたり、拍手したりしてくれていたけど、校長先生と若尾さんと言葉を交わすところを、僕も、見て、いない?
だって、まさか普通は思わないよ。
ゆみりさんが僕と博人にしか見えていない、なんて。
「そんな・・・。僕たちにしか見えないって、そんなの、まるでゆみりさんが・・・」
幽霊みたいじゃないか。
その言葉は、怖くて最後まで言えなかった。
博人がすくっと立ち上がった。
「靴箱、見に行こう。さすがに4年生の教室には近寄れないからさ、靴箱でみゆりさんの名前、確認しようぜ」
僕は大きく頷き、立ち上がった。
「四年三組って言ってたよな?」
博人の言葉に僕は頷き、目の前の靴箱の名前を目で追って行く。
結局。ゆみりさんの名前は、なかった。
四年生は三組までしかないから、一組から隅々まで見たのだけど、僕たちはゆみりさんの名前を見つけることは出来なかった。
「ウソでしょ。そんな訳、ない。だって、あんなに普通に会話してたのに!」
僕は足の力が抜けて、がっくりと膝をついた。
「校長先生は・・・」
博人の呟きに、僕は顔を上げる。
「校長先生は、何か知ってる」
そこには、何かを確信しているような博人の表情があった。
「だって、そうだろ。今回の『防犯・安全教室』に協力する話は、ゆみりさんから聞いたよな。ゆみりさんが俺たち以外に見えないってことなら、校長先生は誰に、俺たちにその話を伝えてもらったんだ?」
「あ、確かに・・・」
「俺たちが作った不審者マップだって、俺たちは言われた通り図書室に置いていたけど、ちゃんと若尾さんの手に渡っていたよな?」
「うん、渡ってた。え、ってことは」
「俺たち以外に、若尾さんに橋渡しした誰かが絶対にいる。それがゆみりさんじゃないってことなら、あとは校長先生しか考えられない」
「じゃあ、校長先生にもゆみりさんは見えてたってこと?!」
博人は頷く。
「校長先生に、話を聞きに行こう」
僕は頷き、よろよろと立ち上がった。
校長室は、職員室の奥の部屋にあった。
なので校長室に行くのなら、必ず職員室を通る必要がある。
どんな状況かと職員室を覗いていたら、まだまだ騒然としていて、とても僕たちが入って行ける雰囲気ではなかった。
そこで入るのを戸惑っていたら、小牧先生に見つかった。
「あなたたち!相談室で待っててって言ったでしょ!!探したのよ?!」
「あ、いや。校長先生に話があって」
「校長先生は、今それどころじゃないの。もうすぐ保護者の方も迎えに来るから、それぞれ教室で待っててくれるかな?」
またしても問答無用でその場から引き離され、僕と博人はそれぞれ担任の先生に引き渡された。
教室に戻った僕を、教室のみんなが心配そうに見つめて来る。
「先生ー。柊君が泣いてます」
担任の山田容子先生が、僕の顔を覗き込み、ハンカチで涙を拭いてくれた。だけど、僕の目からは涙が止まらなかった。
「かわいそうに。怖かったよね」
体を支えられながら、そっと自分の席に座らされる。先生が貸してくれたハンカチも、既にぐっしょりだった。
教室のみんなが、大丈夫?と優しい言葉をかけてくれる。近くの席の友達は、背中をさすってくれたりもした。
だけど僕の涙は止まらず、嗚咽を押し殺して泣き続けていた。
怖かったから?いや、違う。確かに怖い思いをしたけど、今こんなに胸が張り裂けそうになっているのは。
ゆみりさんに、もう会えないかもしれないから。
自分でもびっくりするくらい、僕にはそのことが苦しいくらい悲しかったんだ。
僕はまだ信じられない思いで、そう博人に問いかけた。
学校は今、大変な騒ぎになっていた。
本物の不審者が学校に侵入して、刃物で生徒を襲おうとしたという事件が、いち早くニュースとなってしまっていた。
学校の先生たちは、マスコミと保護者への対応に追われていた。
職員室の電話が鳴り止まなくて、ついには小牧先生まで駆り出された。
「先生が戻るまで、ここで待っててね。すぐ、戻るから」
そう言って小牧先生は出て行き、僕と博人は生活相談室に二人、取り残されていた。
僕は最初興奮していたものの、しばらく放置されていたお陰でようやく落ち着きを取り戻した。
「若尾さん、冗談で言ってたんだよね?その、ゆみりさんのこと・・・」
僕の問いかけに、博人はしばらく無言だった。その様子に、僕はさらに不安になる。
「だって、博人だって図書室にゆみりさんいたの見たよね?声が出てない僕たちを笑ってたよね?」
「俺、ずっと思い返していたんだけどさ。ゆみりさんが俺たち以外と話しているのを、見ていないんだよな」
「そんなことないでしょ。ゆみりさんは・・・」
僕は言葉に詰まった。
あの時、図書室に行ったらゆみりさんと校長先生と若尾さんがいた。その時の雰囲気で、三人がそれまで楽しげに話していたのだと、僕は思った。
若尾さんへのゆみりさんの紹介も、既に終わっていたと思っていたんだ。
でも、確かに。
ゆみりさんが誰かと会話しているのを見た訳じゃない。
ゆみりさんは、笑たり、頷いたり、拍手したりしてくれていたけど、校長先生と若尾さんと言葉を交わすところを、僕も、見て、いない?
だって、まさか普通は思わないよ。
ゆみりさんが僕と博人にしか見えていない、なんて。
「そんな・・・。僕たちにしか見えないって、そんなの、まるでゆみりさんが・・・」
幽霊みたいじゃないか。
その言葉は、怖くて最後まで言えなかった。
博人がすくっと立ち上がった。
「靴箱、見に行こう。さすがに4年生の教室には近寄れないからさ、靴箱でみゆりさんの名前、確認しようぜ」
僕は大きく頷き、立ち上がった。
「四年三組って言ってたよな?」
博人の言葉に僕は頷き、目の前の靴箱の名前を目で追って行く。
結局。ゆみりさんの名前は、なかった。
四年生は三組までしかないから、一組から隅々まで見たのだけど、僕たちはゆみりさんの名前を見つけることは出来なかった。
「ウソでしょ。そんな訳、ない。だって、あんなに普通に会話してたのに!」
僕は足の力が抜けて、がっくりと膝をついた。
「校長先生は・・・」
博人の呟きに、僕は顔を上げる。
「校長先生は、何か知ってる」
そこには、何かを確信しているような博人の表情があった。
「だって、そうだろ。今回の『防犯・安全教室』に協力する話は、ゆみりさんから聞いたよな。ゆみりさんが俺たち以外に見えないってことなら、校長先生は誰に、俺たちにその話を伝えてもらったんだ?」
「あ、確かに・・・」
「俺たちが作った不審者マップだって、俺たちは言われた通り図書室に置いていたけど、ちゃんと若尾さんの手に渡っていたよな?」
「うん、渡ってた。え、ってことは」
「俺たち以外に、若尾さんに橋渡しした誰かが絶対にいる。それがゆみりさんじゃないってことなら、あとは校長先生しか考えられない」
「じゃあ、校長先生にもゆみりさんは見えてたってこと?!」
博人は頷く。
「校長先生に、話を聞きに行こう」
僕は頷き、よろよろと立ち上がった。
校長室は、職員室の奥の部屋にあった。
なので校長室に行くのなら、必ず職員室を通る必要がある。
どんな状況かと職員室を覗いていたら、まだまだ騒然としていて、とても僕たちが入って行ける雰囲気ではなかった。
そこで入るのを戸惑っていたら、小牧先生に見つかった。
「あなたたち!相談室で待っててって言ったでしょ!!探したのよ?!」
「あ、いや。校長先生に話があって」
「校長先生は、今それどころじゃないの。もうすぐ保護者の方も迎えに来るから、それぞれ教室で待っててくれるかな?」
またしても問答無用でその場から引き離され、僕と博人はそれぞれ担任の先生に引き渡された。
教室に戻った僕を、教室のみんなが心配そうに見つめて来る。
「先生ー。柊君が泣いてます」
担任の山田容子先生が、僕の顔を覗き込み、ハンカチで涙を拭いてくれた。だけど、僕の目からは涙が止まらなかった。
「かわいそうに。怖かったよね」
体を支えられながら、そっと自分の席に座らされる。先生が貸してくれたハンカチも、既にぐっしょりだった。
教室のみんなが、大丈夫?と優しい言葉をかけてくれる。近くの席の友達は、背中をさすってくれたりもした。
だけど僕の涙は止まらず、嗚咽を押し殺して泣き続けていた。
怖かったから?いや、違う。確かに怖い思いをしたけど、今こんなに胸が張り裂けそうになっているのは。
ゆみりさんに、もう会えないかもしれないから。
自分でもびっくりするくらい、僕にはそのことが苦しいくらい悲しかったんだ。
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