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4.初めての緊急会議
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五月。外で過ごす時間が快適に感じる。
そう思っているのは、もちろん僕だけじゃない。
不審者・変質者と呼ばれる人たちも、きっと外に出るのが気持ちいいんだと思う。
だから、ここ最近の目撃情報もすごく増えた気がする。
「みなさん、いいですか?不審な人物を見かけたときは、決して近寄らないでくださいね!逃げる。大声で叫ぶ。近くの大人に助けを求めてください」
朝の会と終わりの会に、先生は必ずそんな注意喚起をしていた。
そんな終わりの会の後、僕は図書室へ向かう。
図書室に到着すると、ちょうど博人が図書室のドアを開けるところだった。
「おう。お疲れ」
博人は笑いながらそう言って、ドアを開けた。博人に続いて図書室に入ろうとした僕は、勢いよく博人のランドセルにぶつかってしまった。
「うぉ!な、何?!」
ぶつけたあごを抑えつつ、体勢を立て直す。
博人は、入り口を塞ぐような形で立ち尽くしていた。その博人の背中越しに中をのぞき込んで、博人が立ち尽くしている理由が分かった気がした。
「あ、植木鉢が・・・」
「動いてるな」
赤い植木鉢が、端っこに動かされていた。
僕と博人は顔見合わせ、肩をすくめた。
今日は部活がない日だけど、緊急会議で居残りということになる。
こんな僕たちだけにしか分からないやりとりは、ミステリー研究会っぽい。うん。なんだかいい。
「お待たせ~」
席について十分くらいたったとき、のんびりした口調でそう言いながら、ゆみりさんが図書室に入って来た。
「お。えらい、えらい。ちゃんと合図に気づいたね~」
いつもの席に座って、ゆみりさんは大きく背伸びをした。
「いや、今日はいろいろと忙しくって、大変だったよ。で、今日の会議の目的は・・・」
ゆみりさんはそこまでいうと、大きな目をくりくりと動かしながら、僕たちを見つめた。
「なんと!緊急会議の合図に気がつくか?!というテストでした」
えへ。と、かわいく笑って見せるゆみりさんだったけど、僕はものすごく拍子抜けした。それはきっと、博人も同じはず。
「ええ~?!」
「何だよ、それ。俺たちも暇じゃあないんだけど?」
そうだ、そうだ。
今日は、お母さんが家で仕事の日だから、博人も含めて三人で、一緒に夜ご飯を作る約束をしていた。つまりは、野島(母)家・料理部が開催される日なんだ。
「いや。ごめん、ごめん。テストっていうのは冗談で、ちゃんと議題があるんだよ。では、あちらをご覧ください」
ゆみりさんが示した方向を見ると、何やらごちゃごちゃ入っているダンボールが置かれていた。
「ひいらぎ君、あのダンボールをこちらにお願いします。・・・ありがとう」
忠実に動く僕(しもべ)に、ゆみりさんは満足そうにうなずく。
「来週、全校生が参加する『防災・安全教室』が行われるのだけど、そのお手伝いにミステリー研究会が参加させてもらえることになりました」
「お手伝い?」
「何すんの?」
「ひいらぎ君とひろと君には、モデルになってもらいます。不審者に出会ったときは、どうするかっていうのを、君たち二人に全校生徒の前で演じてもらいます」
「・・・えっ。えぇ~!無理無理!」
僕は、慌てて手を振る。僕は人前に出るのが苦手なんだ。みんなの前で演じてみせるとか!無理です!
「へぇ。面白そう」
「え?!」
僕は焦って、博人を見た。
「ひ、博人は平気なの?」
「うん。別にそんな大したことないって。大丈夫だよ。ただ、どうやるのか分かんないんだけど」
「それなら大丈夫!生活安全課の刑事さんが、教えに来てくれます。校長先生のお友達なんだって。なので明日の部活では、その練習をします。よろしくね」
問答無用の決定事項に、僕は一人であたふたしていた。
ゆみりさんは、まだまだ言葉続ける。
「それと、明日までに二人で不審者マップを作成してください。そこに地図とシールが入っているのでそれを使ってね。シールには、不審者が目撃された日付と時間を記入すること」
「あの!質問!!」
僕は手を挙げた。
「不審者の目撃情報って、どうやって調べるんですか?」
「あ、それ。俺、分かるかも」
僕はまたまた、尊敬の眼差しを博人に向けた。
「母さんの携帯に、市からのメールがちょいちょい送られて来るんだ。イベントのお知らせとかもだけど、その中に不審者情報もあった気がする」
ゆみりさんは、頷いて拍手した。
「いい着眼点だと思う。直近から一か月の期間分、お願いできるかな?」
断るという選択肢はなさそうだった。
「刑事さんに見てもらう予定だから、明日までによろしく」
「・・・げ」
「・・・はい」
素直な僕たちに、ゆみりさんは満足そうににっこりと笑った。
結局、僕の家で不審者マップを作成することにした。お母さんに確認したら、ちゃんと市からのメールを受け取ってくれていた。
結局お母さんも巻き込んで、三人でマップ作りに取りかかる。
「結構不審者情報、多いのね。先月くらいから増えたなって思ってたのよね」
そして、黙々と作業すること一時間!
僕たちは完成したマップをまじまじと見つめた。
用意されていたマップは、双葉小学校の学区内の地図だった。目撃情報の件数は十五件ほど。
一か月分の集計だから、二日に1回は不審者が目撃されている計算になる。
「・・・多いな」
「多いね・・・」
「ちょっとぉ、気味が悪いんだけど。あんたたち大丈夫?心配になって来たじゃない」
博人が、シールに記された日付を辿る。
シールは、双葉小学校付近に集まっているように見えた。
「近づいて来てる」
「何が?」
僕も博人の手元を覗き込む。
「日が経つにつれて、学校の近くでの目撃情報が増えて行ってる。つまり、不審者が学校に近づいて来ているってこと」
博人の言葉に、僕たちはお互いに顔を見合わせたまま、しばらく固まっていた。
そう思っているのは、もちろん僕だけじゃない。
不審者・変質者と呼ばれる人たちも、きっと外に出るのが気持ちいいんだと思う。
だから、ここ最近の目撃情報もすごく増えた気がする。
「みなさん、いいですか?不審な人物を見かけたときは、決して近寄らないでくださいね!逃げる。大声で叫ぶ。近くの大人に助けを求めてください」
朝の会と終わりの会に、先生は必ずそんな注意喚起をしていた。
そんな終わりの会の後、僕は図書室へ向かう。
図書室に到着すると、ちょうど博人が図書室のドアを開けるところだった。
「おう。お疲れ」
博人は笑いながらそう言って、ドアを開けた。博人に続いて図書室に入ろうとした僕は、勢いよく博人のランドセルにぶつかってしまった。
「うぉ!な、何?!」
ぶつけたあごを抑えつつ、体勢を立て直す。
博人は、入り口を塞ぐような形で立ち尽くしていた。その博人の背中越しに中をのぞき込んで、博人が立ち尽くしている理由が分かった気がした。
「あ、植木鉢が・・・」
「動いてるな」
赤い植木鉢が、端っこに動かされていた。
僕と博人は顔見合わせ、肩をすくめた。
今日は部活がない日だけど、緊急会議で居残りということになる。
こんな僕たちだけにしか分からないやりとりは、ミステリー研究会っぽい。うん。なんだかいい。
「お待たせ~」
席について十分くらいたったとき、のんびりした口調でそう言いながら、ゆみりさんが図書室に入って来た。
「お。えらい、えらい。ちゃんと合図に気づいたね~」
いつもの席に座って、ゆみりさんは大きく背伸びをした。
「いや、今日はいろいろと忙しくって、大変だったよ。で、今日の会議の目的は・・・」
ゆみりさんはそこまでいうと、大きな目をくりくりと動かしながら、僕たちを見つめた。
「なんと!緊急会議の合図に気がつくか?!というテストでした」
えへ。と、かわいく笑って見せるゆみりさんだったけど、僕はものすごく拍子抜けした。それはきっと、博人も同じはず。
「ええ~?!」
「何だよ、それ。俺たちも暇じゃあないんだけど?」
そうだ、そうだ。
今日は、お母さんが家で仕事の日だから、博人も含めて三人で、一緒に夜ご飯を作る約束をしていた。つまりは、野島(母)家・料理部が開催される日なんだ。
「いや。ごめん、ごめん。テストっていうのは冗談で、ちゃんと議題があるんだよ。では、あちらをご覧ください」
ゆみりさんが示した方向を見ると、何やらごちゃごちゃ入っているダンボールが置かれていた。
「ひいらぎ君、あのダンボールをこちらにお願いします。・・・ありがとう」
忠実に動く僕(しもべ)に、ゆみりさんは満足そうにうなずく。
「来週、全校生が参加する『防災・安全教室』が行われるのだけど、そのお手伝いにミステリー研究会が参加させてもらえることになりました」
「お手伝い?」
「何すんの?」
「ひいらぎ君とひろと君には、モデルになってもらいます。不審者に出会ったときは、どうするかっていうのを、君たち二人に全校生徒の前で演じてもらいます」
「・・・えっ。えぇ~!無理無理!」
僕は、慌てて手を振る。僕は人前に出るのが苦手なんだ。みんなの前で演じてみせるとか!無理です!
「へぇ。面白そう」
「え?!」
僕は焦って、博人を見た。
「ひ、博人は平気なの?」
「うん。別にそんな大したことないって。大丈夫だよ。ただ、どうやるのか分かんないんだけど」
「それなら大丈夫!生活安全課の刑事さんが、教えに来てくれます。校長先生のお友達なんだって。なので明日の部活では、その練習をします。よろしくね」
問答無用の決定事項に、僕は一人であたふたしていた。
ゆみりさんは、まだまだ言葉続ける。
「それと、明日までに二人で不審者マップを作成してください。そこに地図とシールが入っているのでそれを使ってね。シールには、不審者が目撃された日付と時間を記入すること」
「あの!質問!!」
僕は手を挙げた。
「不審者の目撃情報って、どうやって調べるんですか?」
「あ、それ。俺、分かるかも」
僕はまたまた、尊敬の眼差しを博人に向けた。
「母さんの携帯に、市からのメールがちょいちょい送られて来るんだ。イベントのお知らせとかもだけど、その中に不審者情報もあった気がする」
ゆみりさんは、頷いて拍手した。
「いい着眼点だと思う。直近から一か月の期間分、お願いできるかな?」
断るという選択肢はなさそうだった。
「刑事さんに見てもらう予定だから、明日までによろしく」
「・・・げ」
「・・・はい」
素直な僕たちに、ゆみりさんは満足そうににっこりと笑った。
結局、僕の家で不審者マップを作成することにした。お母さんに確認したら、ちゃんと市からのメールを受け取ってくれていた。
結局お母さんも巻き込んで、三人でマップ作りに取りかかる。
「結構不審者情報、多いのね。先月くらいから増えたなって思ってたのよね」
そして、黙々と作業すること一時間!
僕たちは完成したマップをまじまじと見つめた。
用意されていたマップは、双葉小学校の学区内の地図だった。目撃情報の件数は十五件ほど。
一か月分の集計だから、二日に1回は不審者が目撃されている計算になる。
「・・・多いな」
「多いね・・・」
「ちょっとぉ、気味が悪いんだけど。あんたたち大丈夫?心配になって来たじゃない」
博人が、シールに記された日付を辿る。
シールは、双葉小学校付近に集まっているように見えた。
「近づいて来てる」
「何が?」
僕も博人の手元を覗き込む。
「日が経つにつれて、学校の近くでの目撃情報が増えて行ってる。つまり、不審者が学校に近づいて来ているってこと」
博人の言葉に、僕たちはお互いに顔を見合わせたまま、しばらく固まっていた。
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