悪役令息の死ぬ前に

やぬい

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 食事が終わりお兄様が軽く休んだあと、ついに一緒にお風呂に入ることになった。

……ダニエルも一緒に。

「あー、ダニー。厨房に戻らなくていいの?」
「ご安心を。許可は取ってあります。たった7つの子供……しかも1人はろくに動けないという状態で見送るわけには行きませんので」

 さらっとお兄様を横抱きにしながら僕の部屋を目指す。僕の部屋には大浴場ではない個別のバスルームがついてるからだ。大浴場よりは狭いけどこの家に慣れないうちはこのほうがいいだろうとお父様が付けてくれた。

「お風呂……あったかい、の……?」
「はい、あったかいですよ。お兄様、入ったことあるでしょう?」
「体を、洗うのは……水だったから……」

 毛布を巻かれたお兄様がぼんやりと告げる。夏はいいけど、冬は嫌だったな、と当然のように言うお兄様に……いや、お兄様にそう言わせたお父様にどうしようもない怒りが湧く。

「……これからはずっとあったかいお湯で洗いましょうね」

 ダニエルに抱かれているお兄様の手をぎゅっと握れば、弱い力できゅっと返ってきた。

「マークは、手を握るの、好きだね……」

 そんなことは言っているけどお兄様の顔は嬉しそうだ。きゅ、きゅ、と何度も握ってくるので、ゆっくりと力を込めてみたら、ほっぺがぽっと赤くなる。

「お兄様はかわいいですね」
「そうですね、ラインハルト様はお可愛らしい」

 お風呂に入る前からのぼせてしまったようにまっかっかになってしまったお兄様をかわいいと思いながら部屋までの道を歩く。途中であった何人かの侍女はお兄様の顔を見てびっくりしたり怪訝な顔をしたりしていたけど、気づかないふりをした。お兄様は疲れてしまったみたいでウトウトしてたから気づいていなかったようで安心した。



「お兄様、つきましたよ。起きてください」
「……あ……おふろ……」
「はい、お風呂ですよ、ラインハルト様。お洋服脱がしますね」

 まだウトウトしているお兄様を抱き上げてするりと服を脱がすダニエル。お兄様のお肌は真っ白でとてもきれいだけどやっぱりガリガリで骨が浮いている。いっぱい食べさせなければ……。そんな事を考えているうちにお兄様が脱ぎ終わったので僕も急いで脱いでお兄様のあとに続く。

「あ、たか……水なのに……」
「あったかいですね、お兄様」

 ダニエルに体を洗われてゆっくりと湯船に浸かるお兄様は溶けちゃいそうなくらいとろとろになっていた。バスタブに寄りかかって思いっきり満喫している。今日は何か入浴剤を入れたらしくふわりと花のいい匂いがする。

「マークも、入る、でしょ……?」
「え!?あ、はい!」

 飛び込むようにして入ってしまったがしょうがない。そこまで広いバスタブじゃないからぎゅっと近くに寄っていても怪しまれない……はずだ。真横から感じるお兄様の体温に、お湯よりも体が熱くなっている気がする。そんなふうに10分が過ぎた。

「おふろ……きもち……」
「……お兄様?」
「……寝てしまわれたようです」

 すぅ、すぅ、と緩やかな寝息が聞こえる。久々に部屋から出たことで凄く緊張していたんだろう。青かった顔がほんのり色づいているのが凄くかわいくて――

―――色っぽい。
 頭に浮かんだ考えを備え付けの冷水をかぶることで振り切る。色っぽい……7歳のお兄様が色っぽい……いや、お風呂に入るお兄様の事を考えた時鼻血を出しそうになった時点で駄目だった。もう無理だ、無視し続けるなんて、できないよ……。

 お兄様は、色っぽい……。
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