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「ユウト、何かおかしなところは無いか」
「大丈夫だって、これでも前よりは頑丈になったんだからさ」
ロイと話していると、駆けつけた騎士団が建物の中へ入ってきた。クレッシタさんが呼んでくれたらしい。中でも一際立派な勲章がついた、騎士然とした男性がクレッシタさんと話していたかと思えば──ふたりはこちらへ歩み寄った。
「団長のカヴァレリアという。今回は災難だったな」
どうやら騎士団長らしい男性はクルエルさんを顎でしゃくると、淡々と言葉を紡いだ。
「それで──君は、彼の罪を重くしたいか? 被害者側としては、どう思う。素直に教えてくれていい」
「……できれば、軽くしていただきたいです。彼も、反省してるみたいだし。傷つけようと思ってたわけではないみたいだし……」
少し考える素振りを見せる。
「……わかった、君の意思を尊重しよう。奉仕活動する程度で、お咎め無しにはなるだろう」
「……そう、ですか」
ここの法律のような決まりがどうなっているかはわからないが、とにかくそこまで深刻な話にはならなかったようだ。ちょっと、ほっとする。
話を聞いていたクレッシタさんも、苦笑いを浮かべて口を開く。
「邪教っつっても、名前に憧れた奴らの集まりだし。エルフを殺したり、違法取引だったりも無いみたいだし──当のリーダーがあれじゃな」
あれ、が指す意味がわかってしまう。だけど、人望はかなりあるようだった。実際、俺自身も愛嬌がある人だと思ってしまったし。
「……愛嬌がありますから、そこに惹かれた人も多そうですよね」
「愛嬌といえば、愛嬌だけどよ」
「そのカリスマ性が、いつか民を未曾有の危機に陥れたかもしれない。君たちはそういう意味では救ったんだ」
ふ、と表情を緩ませる。
「あの魔導書も、どうも半端な代物ではないらしい。強大な魔獣を使役できているうえに──どうも我々の人智を超えた魔術も書いてあるようだ」
「理解しきってないまま儀式に及んでたら、アイツ後戻りできない状況になってたかもな。これはオレの憶測でしかないけどさ」
「クレッシタの直感はよく当たるだろう。私も頼りにしているよ、今回はお手柄だったな」
「どうも。なら褒美に騎士団長の座が欲しいですね」
「ははは。また減らず口を」
ばち、とふたりの間で火花が散った気がする。クレッシタさんから視線を外すと興味深そうに、カヴァレリアさんはロイへと視線を向けた。
「……しかし、あの魔獣をすぐ倒す君も、私としては甚だ疑問だが」
「相棒に危害が及ぶかもしれない状況で、悠長にいられるわけがないだろう」
「火事場の馬鹿力か。それとも──ああ、そろそろ行かないとな」
言葉を途中で切り、彼は微笑む。固い表情が綻ぶ様子は、氷が溶ける様を思わせた。
「ユウト。君の協力に感謝する──またなにかあったときは、よろしく頼む」
「オレも騎士団の本部に一回戻っから。今度飲み直そーぜ……ほら、行くぞ」
促されて、クルエルさんは歩き出す。ケルベロスは、彼が命令したのかどこかへ消えていた。冥府とやらに戻ってしまったのかもしれない。彼の視線が、ふとこちらへ向く。
「……ゆうと」
クルエルさんが、縋るような声で名前を呼んで。あんまりにも寂しそうな顔をするから。ああ、これは確かにカリスマというか──人たらしだと実感する。
手を振って、笑いかけた。
「また会いましょう、絶対」
「……っああ。すぐ逢いに行く。我との逢瀬の時を待ち望め、ユウト!」
表情が、溌剌としたものになる。明朗とした声で宣言し、びしりと指を突き立てた。元気な人だ。
今度は、騎士団に言って聞いてみよう。クルエルさんがどんな奉仕活動をすることになるのか気になるから。意外と、子どもと遊んでいる姿が合っているかもしれない。芝居がかった調子と幼い子どもとの相性がかなり良さそうだ。
「ユウトさん攫われやすすぎじゃないですか?」
そんなことを想像していると、プロタくんの質問が胸を抉った。
「俺も気にしてるからやめて……」
「あと面倒くさそうな愛情欲しがってる男に弱くないですかー?」
それはわからないけど。
「面倒な男がそれを言うのか」
「だから言ってるんです。あはは、いつか刺されますよ」
満面の笑みで恐ろしいことを言う。しかし、自分が弱い事実は常々痛感しているのだ。もっと、力が欲しい。……せめてこうやって他人に攫われないくらいには。
「……もっと強くなろ。明日あたり、討伐系の依頼受けようかな……」
「いきなり実践とかすごいですね。ユウトさん、オークに嬲られそう」
「鍛錬ならいくらでも付き合おう。対人なら、護身術を覚えた方がいい」
「確かに」
そうだ。今度、クレッシタさんにも鍛えてもらおう。手合わせの相手をしてくれるとも言っていたし──騎士団に所属しているだけあって、何人もの教団員をのしていた。いい先生役になってくれるだろう。
親父さんからもらった剣の柄を撫でて、決意を胸にした。
「かなり遅くなったし、あの双子にも怒られますね。怪我してるから尚更か」
「……あ」
「……夜の外出は、しばらく禁止になるかもしれないな」
頭を抱える。家に帰るのが、怖くなった。
***
「逢瀬とか言ってましたけど、ロイさんとしてはなんとも思わないんですか?」
「……俺が口を出す権利は無いだろう。ただ会うくらいならな」
「あは、ほんと貴方ってヘタレですね。そんな嫌そうな顔しといてなに言ってるんですか。……ま、僕は絶対邪魔しますけど」
「……ヘタレ……?」
「大丈夫だって、これでも前よりは頑丈になったんだからさ」
ロイと話していると、駆けつけた騎士団が建物の中へ入ってきた。クレッシタさんが呼んでくれたらしい。中でも一際立派な勲章がついた、騎士然とした男性がクレッシタさんと話していたかと思えば──ふたりはこちらへ歩み寄った。
「団長のカヴァレリアという。今回は災難だったな」
どうやら騎士団長らしい男性はクルエルさんを顎でしゃくると、淡々と言葉を紡いだ。
「それで──君は、彼の罪を重くしたいか? 被害者側としては、どう思う。素直に教えてくれていい」
「……できれば、軽くしていただきたいです。彼も、反省してるみたいだし。傷つけようと思ってたわけではないみたいだし……」
少し考える素振りを見せる。
「……わかった、君の意思を尊重しよう。奉仕活動する程度で、お咎め無しにはなるだろう」
「……そう、ですか」
ここの法律のような決まりがどうなっているかはわからないが、とにかくそこまで深刻な話にはならなかったようだ。ちょっと、ほっとする。
話を聞いていたクレッシタさんも、苦笑いを浮かべて口を開く。
「邪教っつっても、名前に憧れた奴らの集まりだし。エルフを殺したり、違法取引だったりも無いみたいだし──当のリーダーがあれじゃな」
あれ、が指す意味がわかってしまう。だけど、人望はかなりあるようだった。実際、俺自身も愛嬌がある人だと思ってしまったし。
「……愛嬌がありますから、そこに惹かれた人も多そうですよね」
「愛嬌といえば、愛嬌だけどよ」
「そのカリスマ性が、いつか民を未曾有の危機に陥れたかもしれない。君たちはそういう意味では救ったんだ」
ふ、と表情を緩ませる。
「あの魔導書も、どうも半端な代物ではないらしい。強大な魔獣を使役できているうえに──どうも我々の人智を超えた魔術も書いてあるようだ」
「理解しきってないまま儀式に及んでたら、アイツ後戻りできない状況になってたかもな。これはオレの憶測でしかないけどさ」
「クレッシタの直感はよく当たるだろう。私も頼りにしているよ、今回はお手柄だったな」
「どうも。なら褒美に騎士団長の座が欲しいですね」
「ははは。また減らず口を」
ばち、とふたりの間で火花が散った気がする。クレッシタさんから視線を外すと興味深そうに、カヴァレリアさんはロイへと視線を向けた。
「……しかし、あの魔獣をすぐ倒す君も、私としては甚だ疑問だが」
「相棒に危害が及ぶかもしれない状況で、悠長にいられるわけがないだろう」
「火事場の馬鹿力か。それとも──ああ、そろそろ行かないとな」
言葉を途中で切り、彼は微笑む。固い表情が綻ぶ様子は、氷が溶ける様を思わせた。
「ユウト。君の協力に感謝する──またなにかあったときは、よろしく頼む」
「オレも騎士団の本部に一回戻っから。今度飲み直そーぜ……ほら、行くぞ」
促されて、クルエルさんは歩き出す。ケルベロスは、彼が命令したのかどこかへ消えていた。冥府とやらに戻ってしまったのかもしれない。彼の視線が、ふとこちらへ向く。
「……ゆうと」
クルエルさんが、縋るような声で名前を呼んで。あんまりにも寂しそうな顔をするから。ああ、これは確かにカリスマというか──人たらしだと実感する。
手を振って、笑いかけた。
「また会いましょう、絶対」
「……っああ。すぐ逢いに行く。我との逢瀬の時を待ち望め、ユウト!」
表情が、溌剌としたものになる。明朗とした声で宣言し、びしりと指を突き立てた。元気な人だ。
今度は、騎士団に言って聞いてみよう。クルエルさんがどんな奉仕活動をすることになるのか気になるから。意外と、子どもと遊んでいる姿が合っているかもしれない。芝居がかった調子と幼い子どもとの相性がかなり良さそうだ。
「ユウトさん攫われやすすぎじゃないですか?」
そんなことを想像していると、プロタくんの質問が胸を抉った。
「俺も気にしてるからやめて……」
「あと面倒くさそうな愛情欲しがってる男に弱くないですかー?」
それはわからないけど。
「面倒な男がそれを言うのか」
「だから言ってるんです。あはは、いつか刺されますよ」
満面の笑みで恐ろしいことを言う。しかし、自分が弱い事実は常々痛感しているのだ。もっと、力が欲しい。……せめてこうやって他人に攫われないくらいには。
「……もっと強くなろ。明日あたり、討伐系の依頼受けようかな……」
「いきなり実践とかすごいですね。ユウトさん、オークに嬲られそう」
「鍛錬ならいくらでも付き合おう。対人なら、護身術を覚えた方がいい」
「確かに」
そうだ。今度、クレッシタさんにも鍛えてもらおう。手合わせの相手をしてくれるとも言っていたし──騎士団に所属しているだけあって、何人もの教団員をのしていた。いい先生役になってくれるだろう。
親父さんからもらった剣の柄を撫でて、決意を胸にした。
「かなり遅くなったし、あの双子にも怒られますね。怪我してるから尚更か」
「……あ」
「……夜の外出は、しばらく禁止になるかもしれないな」
頭を抱える。家に帰るのが、怖くなった。
***
「逢瀬とか言ってましたけど、ロイさんとしてはなんとも思わないんですか?」
「……俺が口を出す権利は無いだろう。ただ会うくらいならな」
「あは、ほんと貴方ってヘタレですね。そんな嫌そうな顔しといてなに言ってるんですか。……ま、僕は絶対邪魔しますけど」
「……ヘタレ……?」
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