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人形と、再会② 訪問者

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「どんな子がいい?」

 ちら、と一瞬こちらを見た、ような気がする。

「……特段、要望のようなものは。ドールではなく、悠斗たちが持っているようなもので……種族は人間でお願いできれば」

「……そう、わかった」

 じっと、なにか言いたげにカトラさんは瞳を見つめていたけど。頷いて、作業へと入っていった。

 これから作業するのなら、俺たちが同じ空間にいては邪魔だろう。それに、一から作り始めるのなら確実に何日かはかかるはずだ。

「じゃあ……」

「時間はかけない。……でも大丈夫、手は抜かないから」

 え。

 棚から、数体の人形が動き出す。目を疑った。ふわりと宙を舞ったかと思うと、彼の傍に行き──人形を作るのを手伝っているではないか。型紙を切ったり、裁縫の準備をしたり。意志を持ったように動いている。

 夢を見ているみたいだ。わあ、とエーベルさんから声が漏れた。
 カトラさんが手を動かしたままに、口を開く。

「……このソーイングセットでパーツとかを作れば、ある程度は操れるから。僕の、魔道具みたいなもの」

 ただの裁縫道具ではなかったようだ。まるで映画や劇の世界にのめり込むように。彼や人形たちの手さばきに、皆で魅入っていると──どれほど時間が経っていたのか、我に返ったときにはちょこんとした可愛らしい人形が握られていた。

「こんなすぐ、仕上げてもらえるなんて……」

 リュディガーさんが呟く。感情を大きく露わにはしていないが──その声には、確かな感動が込められている。

「……あんな物欲しげにされたら、すぐあげたくもなるよ」

「っそ、そんなふうに見えていましたか……」

 気恥しげに視線を伏せた。微笑ましい。
 カトラさんが立ち上がり、近くの棚に手をかけた。そこからオレンジ色の宝石をひとつ取り出すと、なにかを呟き──ぬいぐるみの耳を飾ってやる。

「少し特別な加護をかけたから。ちょっとやそっとじゃ壊れないようになってるよ」

 短い金髪の、可愛らしい人形。リュディガーさんが気にしていたことまでカバーしてくれたらしい。やっぱり、真摯な人だ。

「……はい。これも、貴方にあげる。特別、ね」

 それと、棚から取り出した人形にも同じことをし──彼に手渡す。

 瞳に閉花石を嵌めた人形と、よく似た風貌をしている。あれはドールであったが、これはぬいぐるみのためデフォルトされた可愛らしいさがあった。

「っこれ、何故、」

「貴方、わかりやすいから。読まなくても、わかる。……非売品だから、大事にしてね」

 わかりやすい、というのは──なんだろう。あのドールが欲しかったのだろうか。

「……っはい」

 じい、とぬいぐるみを見つめてから──にこ、と破顔する。エーベルさんだけではない、俺たちみんなにとって可愛らしい弟のような存在の彼に、俺たちは微笑ましさを抑えられなかった。なんて可愛らしい。


「いいなあ」


 和んでいたそのとき──聞き覚えのある声。それに、大きく目を見開いた。だってそれは、ここにはいないはずの──プロタくんのもので。

「えっ」

「羨ましいなあ。そういう人形、僕にもくださいよ」

「っお前、どこから……!!」

 ロイが剣に手をかける。いったい、いつからそこにいたのだろうか。

「ユウトさんのとこに、って思って転移しました。ぼんやりしたイメージでは初めてしましたが──案外いけるものですね」

 爽やかに笑ってから、一転してつまらなそうに顔を歪めた。それはなんだか子どもが拗ねたような、幼さの残る表情で。

「あのノイギアとかいう人とも仲良くしてるんでしょ? いいなあ、楽しそうで」

「……何故知っているんだ」

「別に傍で見てたわけじゃないですよ。これ」

 どこかから、一冊の本が出される。よく見れば分厚いそれは、どうも小説らしい。著者名には──確かに、ノイギアさんの名があった。

「これ書いた人が、『これを、平凡で非凡な青年が率いるパーティへ送る』とか言って大々的に売り出してるらしくて。なんとなく察しますよ、そりゃ」

「そんなことあるんだ」

 本当に。ノイギアさんらしいけど。
 予想外の出来事にぽかんと間抜けな顔をしていると、ぐ、とプロタくんが顔を近づけた。顎をすくわれて──その真っ黒な瞳に、息を飲む。

「やっぱり、嘘つきだった。世界を隅々まで見たけど、貴方ほど変な面白い人はいなかった」

「……褒めては、ないよね」

 ないよな。流石に。

「おかしいなあ。僕にしては褒めてる方ですけど……ところで。貴方との約束のことですけど、律儀に守ったんですよ。なんかないんですか」

 約束。どうやら、寿命を縮めるスキルを使わないでいてくれたらしい。それは、素直に嬉しい。突飛な行動をする彼が、俺なんかとの約束を破らず守っていてくれたのだ。
 なにか。それに見合った、ご褒美が欲しいのだろうか。

「……ご褒美とか? ええと……なにか奢る?」



「面白いけど、もっと別のがいいな。──貴方とか」



 それ、どういう意味──


 聞こうとした瞬間、言葉は彼に飲み込まれた。長い睫毛が、目の前にあって。まぶたが開き、至近距離の黒い瞳に間抜けな俺の顔が映っている。


 なにより。唇に、柔らかな何かが触れている。何が?


 それに気づく頃には、唇はもう離れていた。


「……息止まってましたよ。鼻ですればいいのに」


 彼が、笑って。周りを見てから、気づいたように口を開いた。


「ああ、すみませんでしたね。お邪魔しました」


 その言葉とともに──俺たちは、光に包まれる。転移するつもりだ。ロイに視線をやったその一瞬、彼は絶望したような顔で手を伸ばしていた。
 それを最後に、俺たちはその場から消えたのだった。
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