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小説家①

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「今日の依頼、これがいい! 面白そうだもの!」

 ギルドにて。騒がしい建物の中、エーベルさんが楽しそうにひらりと一枚の依頼書を俺たちの前へ取り出す。その瞳は好奇心にきらきら輝いていて、なんだか子どもみたいだ。

「ふむ……作家からの依頼か。依頼主は……ノイギア、というのだな」

 受け取ったそれをロイが読み上げる。リュディガーさんと一緒に覗き込んだ。
 カトラさんからの位は依頼といい──なんだか、創作家からの依頼も意外とあるのだな、と感じ入る。



「依頼内容は──『いい刺激をください』」




『…………は?』


 視線で追った文章を読み上げ──エーベルさんを除いた俺たち三人は、揃って間抜けな声をあげた。


「やだやだやだやだ!! 絶対面白いから!! 絶対面白いから行こ!!」


「……はあ……わかった。だから騒ぐのをやめろ、周りの目が痛い」


「……すまない、ロイ」


 面白そうだからと子どものように駄々をこねたエーベルさんに根負けし、俺たちは結局依頼主であるという作家さんの家へ向かっていた。怪しい、というか。意図が掴めない文章ではあるが──正直、俺も興味があったので何も言えない。
 文明の発展を象徴するような舗装された路地から、牧歌的な雰囲気へと道が変わっていく。

「ノイギアさんかー、私小説とか読まないんだよねー。有名な人?」

「王都の方では、最近本屋が増えているが……確か大々的に売り出されていたのを見かけたな」

 リュディガーさんが答える。本屋が増えだしたのは最近のことなのか。
 へえ、と呆けた相槌をすると、考えていることを見透かしたのかロイが補足するように説明してくれた。

「都の方で魔法を応用した刷版技術が進み始めたのは──今から、十数年ほど前か。それに伴って、作家も増えている」

「へえ……」

 あれだ。歴史の授業でやった、イギリスの方だったかで起きた産業革命、ってやつ。常識の知識だろうけど、生憎俺は歴史が苦手だったからあんまり覚えていない。……得意な教科の方が少なかったけど。やめよう。


 するとふと、一軒の小さな家が見えてくる。場所は確かこの辺りで、他に目立った建物も無い。きっとあれだろう。



 足を踏み出した瞬間──轟音が鳴った。同時に、扉から何かが飛び出す。それは数人の人間で、まるで強い衝撃を食らったように背中から外へ投げ出され。ボロボロの体を積み重ね、気絶した。



 思わず足が止まる。……今、何が起きた?

 疑問符で埋まる頭を動かそうとしていると──家の中からひょっこりと、手をパンパンはたきながら眼鏡をかけた青年が出てくる。こちらを見咎めるが、すぐになにかに気づいたような表情を作った。

「ああ、出迎えもせず悪かったね。いやあ、辺境はよくないね。不届き者が次々と狙ってくる。あーあ、退治したせいで散らかってしまった」

 どうやら──彼が、ノイギアさんらしい。ぶつぶつと小言を漏らして、心底面倒そうに首を鳴らしている。
 俺たちは慌てて駆け寄った。怪我は無いだろうか。

「お怪我は──」

「ないない。全く、こちとら執筆で忙しいのに面倒事を増やさないで欲しいよ」

 真っ白な手をひらひら振って、青年は答える。真ん中で分けた長い紫がかった髪はところどころぴょんぴょん跳ねていて、眠たげな目の下には隈ができていた。
 尖った耳。白い肌。きっと彼は、エルフ属だ。

「ご無事で何よりです。後の手配はこちらで行います」

「いいさ。もうこいつらを引き取るよう人を呼んである。襲われる頻度が高くてね、自警団とは懇意なんだ」


 ああ、そうだ。


「自己紹介がまだだったね──僕はノイギア。俗に言う小説家先生さ」



 レンズの奥で、髪と揃いの藤色の瞳がこちらを見つめる。手を広げ、口角を上げる彼。依頼文から予想はしていたが、どうやら一癖も二癖もある人物のようだ。
 今回は、何をすれば達成になるのか──不安と期待で、胸が鳴った。
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