上 下
27 / 46

これからのこと

しおりを挟む

「ユウト!! どこにいたんだ、無事だったか!?」

「わあっ」

 元の場所に戻るや否や──どこからかロイが駆けてきて、肩を掴まれた。その勢いに、素っ頓狂な声が出る。大丈夫だよ、と返せば、硬い表情には安堵が宿り──また、険しいものになる。
 後ろにいた、双子たちに視線を向けて。

「初めまして。ロイくんだよね?」

「……貴方たちは」

 じろ、と相手を見定める。警戒する野良猫のようなその態度に、エーベルさんはふふ、と笑い声を漏らした。



「私はエーベル、こっちは弟のリュディガー。ユウトとの関係は……うーん、キスするくらいの仲?」



「…………は?」



 何故かロイが、剣の柄に手をかけた。

「ちょっとロイどうしたの!? やめてやめてマジで!!」

 手には青筋が浮かんでいる。表情が抜け落ちたような顔のまま、ふたりを見つめる彼に焦りと寒気がした。

「あれ。あはは、まずいこと言っちゃった?」

「ああ、間違いなく言ったな。言葉選びを間違えすぎだ」

 慌てる俺には構いもせず、エーベルさんとリュディガーさんは動揺を見せる素振りもなく平常運転で。
 ロイの腕を抑えながら、俺はと言うと──

「説明! とりあえず、今までのこと説明するから落ち着いて、な!?」

 裏返る間抜けな声で、相棒を宥めることしかできなかったのだ。


 ***


「……ってことで、帰れなくなっちゃった。へへ」

「……それ、は……」

 愕然とした表情で、手で口を押え。ロイは言葉を失っているようだった。それもそうだろう。旅の目的でもあった、元の世界に帰る方法はもう無いのだと判明してしまったのだから。

「……最初のこと、覚えてる? 俺、帰る方法を探すために旅してたんだけどさ、」

「……ああ」

 重々しく、ロイは頷いた。真っ赤な瞳が、痛々しげに伏せられて。

「……俺、まだロイと旅したいんだ。ロイさえよければ、もう少し冒険に付き合ってくれないかな」

「は……」

 ばっ、と、顔があげられる。
 ほんの少しの勇気を振り絞って告げた言葉。それを受け入れてくれるかどうか、なんだか怖くなってしまって。視線から逃げるように、俺は顔を伏せた。

「……むしろ、こちらが聞きたかったんだ。目的を見失ったお前が、俺と共に居てくれる、のか……」

 歓喜に震える声。ロイの方を見れば、信じられないというように、目を見開いて。

「うん。だって元々、ロイと冒険がしたかったから」

「ッユウト!」

 がばりと抱きしめられ。その力強さと温かさに、いつの間にか空いていた胸の穴が埋められた感覚があった。
 ああ。俺は、ここにいてもいいのだ。そう、思えた。

「で。これからのことなんだけど、君たちについていくからよろしくね!」

「……ん、え!? ま、まって、聞いてないです!!」

「言ってないからな」

 淡々と告げられるそれに、ロイと顔を見合わせる。
 俺の一存では決められない。それに、友人とはいえ危険な目に遭わせるのもそれは重い責任が伴う。彼らは沢山のスキルや魔力をがあるとはいえ、怪我だってする。痛みだって感じる。もし自分たちに付き合わせて、それで命を落としたら。

 胸に生まれる恐ろしい可能性に、どうしたものかと頭を悩ませていれば。

 くい、と服の端が引かれる。見上げれば、リュディガーさんが寂しそうな顔で言うのだ。

「……駄目か? 悠斗と友人になれて、嬉しかったんだ。共に旅ができたら、もっと楽しいだろうと思ったんだが……」

 う。
 
 リュディガーさんが、捨てられた子犬のような表情で俺を見下ろす。逞しい印象を与えるそのギャップと、縋るような響きに胸が痛くなる。

「うん……言ったよね。私たち、愛に飢えてるって。人との繋がりが恋しくて、仕方ないから……」

 うる、と綺麗な瞳が潤み始めていた。つうと頬を伝う一筋の線に、とうとう良心が爆散した。

「……ロイ~……」

「……わかった。メンバーは多い方が心強いしな」

「あはっ、ありがとね!」

「感謝する」

 え。

 まさか、今のは演技、なのか。
 口を挟む暇もなく、きゃいきゃいはしゃぐ双子を目の前に、呆れて笑う。
 再び始まる冒険と、これから迎えるだろう沢山の出会いを期待し、俺は決意を新たにした。



 ***



「……あはは、ね、ロイくん。あのとき──嬉しかったでしょ?」

「……あのとき、というのは? 共に旅をしたいという言葉なら、素直に嬉しかったが」

「隠さなくてもいい」

 双子は笑う。見透かすようなその視線が、ロイには酷く居心地の悪いものに思えた。

「──帰れないってわかったときだよ」

 エーベルが、透き通る声で言う。否定は、できなかった。
 だって自分はあのとき。切実な顔で、泣きそうな笑顔で告げられた残酷な真実に。隠した口元は──確かに、弧を描いていたのだから。もう、これで離れることはない。共にいられるのだと、安堵したのだから。

 何も言えないロイに、双子はよりいっそう笑みを深くした。

「ふふ、ねえ。私たち、仲間になるんだから……悠斗のこと、一緒に幸せにしてあげようね」

「…………キスをしたことは、許していないからな」

「……まだ根に持っていたのか。互いの額にしただけだ、許せ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

俺のまったり生活はどこへ?

グランラババー
BL
   異世界に転生したリューイは、前世での死因を鑑みて、今世は若いうちだけ頑張って仕事をして、不労所得獲得を目指し、20代後半からはのんびり、まったり生活することにする。  しかし、次代の王となる第一王子に気に入られたり、伝説のドラゴンを倒したりと、今世も仕事からは逃れられそうにない。    さて、リューイは無事に不労所得獲得と、のんびり、まったり生活を実現できるのか? 「俺と第一王子との婚約なんて聞いてない!!」   BLではありますが、軽い恋愛要素があるぐらいで、R18には至りません。  以前は別の名前で投稿してたのですが、小説の内容がどうしても題名に沿わなくなってしまったため、題名を変更しました。    題名変更に伴い、小説の内容を少しずつ変更していきます。  小説の修正が終わりましたら、新章を投稿していきたいと思っています。

転生令息の、のんびりまったりな日々

かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。 ※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。 痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。 ※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.

魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?── 嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。 ※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。

異世界に転移したショタは森でスローライフ中

ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。 ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。 仲良しの二人のほのぼのストーリーです。

Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん
BL
俺――須藤美陽はその日、大きな悲しみの中に居た。 ある日突然、一番大切な親友兼恋人であった男を事故で亡くしたからだ。 恋人の葬式に参列した後、誰も居ない公園で悲しみに暮れていたその時――俺は突然眩い光に包まれた。 あまりに眩しいその光に思わず目を瞑り――次に目を開けたら。 「あうううーーー!!?(俺、赤ちゃんになってるーーー!!?)」 ――何故か赤ちゃんになっていた。 突然赤ちゃんになってしまった俺は、どうやら魔法とかあるファンタジー世界に転生したらしいが…… この新しい体、滅茶苦茶病弱だし正直ファンタジー世界を楽しむどころじゃなかった。 突然異世界に転生してしまった俺(病弱)、これから一体どうなっちゃうんだよーーー! *** 作者の性癖を詰め込んだ作品です 病気表現とかあるので注意してください BL要素は薄めです 書き溜めが尽きたので更新休止中です。

処理中です...