上 下
25 / 46

ダークエルフの双子②

しおりを挟む
「簡単に言えば──君は、私たちみたいな忌み者にだって優しくしてくれる人だから」

「……忌み者?」

 不穏な単語。対面へ座るふたりへ、思わず繰り返していた。それに、優しくしてくれる、だなんて。いったい、彼らは何を根拠にしてそう確信しているのだろうか。

「エルフとダークエルフはわかるか」

「ええと……そういう種族がいることくらいは」

 弟さんに問われ、頷く。ファンタジーもので、よく見るものの通りなら。多少──いや、ろくな知識は無いけれど、存在くらいならわかる。
 答えれば、そうか、と弟さんが頷いて口を開く。

「どちらもエルフ属に所属しているが──俺たちダークエルフは希少だから、名称を分けてつけられた。加えて長命で、比較的高度な魔法を使えるな。エルフは光魔法に特化し、ダークエルフは闇魔法に特化しているのが大きな違いだ」

「エルフは色白だけどダークエルフは褐色なのも大きいね~」

「なるほど……」

 彼らは、エルフの中でも特別な存在らしい。

「俺たちダークエルフは古臭いエルフには嫌われているんだ。災いを引き起こすだのなんだので散々な言われようでな。全て謂れもない流言飛語だが」

 ……酷い話だ。元の世界でもそういうことは遠い国であったようだが──異世界でもそれは変わらないらしい。
 重苦しい表情を浮かべて、彼は俺の目を真っ直ぐ見つめた。


「とうとうふたつの勢力がぶつかった。とは言っても小さな村同士の抗争だが、……当然、エルフの圧勝だったさ。向こうからいきなり仕掛けてきたのだからな」


「で、私たち兄弟以外は誰も生き残らなかったんだ」


「そんな……」

 言葉を失う。凄惨なそれに、返す言葉も見つからなくて。
 どうして──異世界はこうも、世知辛いのだろう。なまじっか、魔法やスキルなんてものがあるせいだろうか? もっと夢がいっぱいで、理想通りで。みんなが幸せに暮らせる場所ではないのか。
 プロタくんのこともあって、自分の中の生ぬるい幻想ががらがらと崩れていく音が聞こえた。



「いっそのこととエルフを皆殺しにする計画を練っていたところで見つけたのが、悠斗。お前だ」



「みっ」

 聞き間違いでは、ないだろう。
 間抜けな反応を返した俺へ、お兄さんはにこりと微笑んで。また、何も無い空間から大きな鏡を生み出した。

「皆殺しにしたって良い方法が思いつかない。だから、私のスキル──『千里眼』でこの鏡に向こうの世界を映し出して見ていたんだ。弟のスキルで向こうにあるのを持ってくるのはかなり魔力の消費が激しいから、上手く技術を使えないかと思ってね」

 つまりは──文明の発達した元の世界から、流用できる技術を探していたのだ。彼が持っているらしいスキルで、俺が住んでいた世界を映し出して。
 しかし今、鏡面は酷く曇っていて、周りの風景すら満足に映さない。その様子に、彼にスキルを使う意思が無ければ元の世界は見られないのだろうとわかった。

「まあ、それもいつの間にか、お前を見るためにスキルを使うようになっていた」

「……なにがそんなに……俺なんかが良かったんですか」

「言ったでしょう。優しくて、平凡で、非凡だから。それだけ」

 言い切って、笑う。それだけ。探るようにふたりの表情を見つめても、本当に他意は無いようで。

「結局のところ、愛されたかったんだよね。愛に飢えて、飢えて、飢えて……それを奪った奴らを殺しちゃおうってなったから」

「兄貴も言ったが──お前は平凡だが、見ていて飽きなかった。その甘さが、確かな優しさが、俺たちを惹き付けて止まなかったからだ」

「ねえ、ここで暮らそう? お願い……君から愛を貰えれば、酷いことなんてしないから」

「……悠斗、お前に愛して欲しいんだ。俺たちを、救ってくれないか」

 ふたりから次々とかけられる言葉。その響きは、切実で。迷子になった子どものようで。俺より何年も、何十年も生きているはずなのに、幼子を見ているようだった。
 選択を、迫られる。
 緊張で早くなる鼓動と、上手く回らない頭。カラカラに乾いた喉。唾を飲んで、口を開いた。



「……貴方たちの境遇は、すごく、聞いているだけで辛いです。どんなに苦労してきたのか、想像もできないほど」



「けど……俺と旅をしたいって言ってくれる友だちを裏切ることはできません。だからごめんなさい、ここにはいられません」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!

柑橘
BL
王道詰め合わせ。 ジャンルをお確かめの上お進み下さい。 7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです! ※目線が度々変わります。 ※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。 ※火曜日20:00  金曜日19:00  日曜日17:00更新

BLドラマの主演同士で写真を上げたら匂わせ判定されたけど、断じて俺たちは付き合ってない!

京香
BL
ダンサー×子役上がり俳優 初めてBLドラマに出演することになり張り切っている上渡梨央。ダブル主演の初演技挑戦な三吉修斗とも仲良くなりたいけど、何やら冷たい対応。 そんな中、主演同士で撮った写真や三吉の自宅でのオフショットが匂わせだとファンの間で持ち切りに。 さらに梨央が幼い頃に会った少女だという相馬も現れて──。 しゅうりおがトレンドに上がる平和な世界のハッピー現代BLです。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️ 第12回BL小説大賞に参加中! よろしくお願いします🙇‍♀️

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。 途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。 他サイトにも投稿しています。

処理中です...