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アトリエとしばしの別れ
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「…………っあったーッッ!!!」
叫ぶ。手の中には、比較的大ぶりな閉花石が眩く輝いていた。恐る恐る、カトラさんに見せれば──
「……うん、合格。ありがとう」
ふわり、と花が咲くように彼は笑った。安堵と歓喜が胸の中に湧いて、だらしなく頬は緩んだ。
報酬も受けとり、彼のアトリエへ案内された。森の中にあるそこは、まるでおとぎ話に出てくる家のようだ。目を輝かせながら見ていると。
「……良ければ、見ていく?」
「! ロイ、」
「ああ、もちろん構わない。……それに、俺も興味がある」
子どもを相手にするような態度に、少しだけ気恥しさを覚えながら。俺たちは、彼のアトリエへと足を踏み入れた。
わあ。壮観だ。
中には可愛らしい人形が所狭しと並んでいて、年季の入った机は整然としている。
不躾ながらも見回していると、カトラさんが口を開いた。
「妹さんが持っていた人形って、どんなの」
「! 何故、それを――いえ、報酬は既に受け取っています。他にも受け取るなど……」
「貴方たちに頼んで良かったって思えた。だから、そのお礼」
「……ありがとうございます。桃色の髪が肩ぐらいまである、紅い瞳の女の子の人形でした」
「ああ、それならわかった。同じ子がいるから」
そう言って奥に引っ込み、また戻ってきた彼の手には可愛らしい女の子の人形が抱えられていた。容姿から、ロイの持っていた肖像画を思い出す。きっと自分に似た人形を妹さんは持っていたのだろう。燃えるような瞳が光を受けて煌めいた。
震える手で受け取ったロイは暫し悚然と立ち尽くし、そして壊れ物を扱うように胸へと掻き抱いた。は、と息の漏れる音。
「……マリア……」
ぽつりと、確かにそう呟いたのだ。声は僅かに潤んでいたように聞こえたが──俺は、何も言えなかった。しかし、彼はすぐに凛と顔を上げると、真っ直ぐにカトラさんを見て「ありがとうございます」と礼を述べた。涙の影など、微塵も見せない声色だった。
「それで、貴方は? ……ああ、駆け出し冒険者なら、簡単だけど魔法強化の加護がかけられた装飾品がいいかな。なんの属性が良い?」
「すみません……俺、魔法は使えないんです」
「……は?」
ロイと同じ顔だ。また笑いが込上げる。
「……どうしよう。身体能力強化は今無いし……」
悩むように顎に手を当てて──彼は近くにあった可愛らしい男の子の獣人らしい人形を手に取った。どこかカトラさんの面影を感じさせるそれは、耳には他のものと同様に宝石が煌めいている。
「……じゃあ、これ。……加護もなにも無いただの人形だから、貴方は要らないかもしれないけど……」
「っいいんですか!」
「っわ、」
「俺、この子可愛いと思ってたんです! ありがとうございます、大事にしますね!」
「……う、ん。……魔法が使えないならたくさん危険な目にも遭うかもしれない。貴方が無事でいられるようにって……お守り代わりにでもして、連れて行ってあげて」
暖かい言葉に、胸がじんと震える。渡される瞬間、手が触れた。
「……本当に、ありがとうございます」
今まで辛い思いも多くしてきたことだろう。心優しいこの人の行く末が、どうか暖かいものであって欲しいと願ってしまうのは──余計なお節介だろうか。
「っ……あ、はは。どこまでも真っ直ぐだね、貴方は。……また、会おうね。絶対」
微笑を浮かべて、彼は俺の手を握る。また、会える日を信じて。
俺たちは、しばしの別れを告げた。
叫ぶ。手の中には、比較的大ぶりな閉花石が眩く輝いていた。恐る恐る、カトラさんに見せれば──
「……うん、合格。ありがとう」
ふわり、と花が咲くように彼は笑った。安堵と歓喜が胸の中に湧いて、だらしなく頬は緩んだ。
報酬も受けとり、彼のアトリエへ案内された。森の中にあるそこは、まるでおとぎ話に出てくる家のようだ。目を輝かせながら見ていると。
「……良ければ、見ていく?」
「! ロイ、」
「ああ、もちろん構わない。……それに、俺も興味がある」
子どもを相手にするような態度に、少しだけ気恥しさを覚えながら。俺たちは、彼のアトリエへと足を踏み入れた。
わあ。壮観だ。
中には可愛らしい人形が所狭しと並んでいて、年季の入った机は整然としている。
不躾ながらも見回していると、カトラさんが口を開いた。
「妹さんが持っていた人形って、どんなの」
「! 何故、それを――いえ、報酬は既に受け取っています。他にも受け取るなど……」
「貴方たちに頼んで良かったって思えた。だから、そのお礼」
「……ありがとうございます。桃色の髪が肩ぐらいまである、紅い瞳の女の子の人形でした」
「ああ、それならわかった。同じ子がいるから」
そう言って奥に引っ込み、また戻ってきた彼の手には可愛らしい女の子の人形が抱えられていた。容姿から、ロイの持っていた肖像画を思い出す。きっと自分に似た人形を妹さんは持っていたのだろう。燃えるような瞳が光を受けて煌めいた。
震える手で受け取ったロイは暫し悚然と立ち尽くし、そして壊れ物を扱うように胸へと掻き抱いた。は、と息の漏れる音。
「……マリア……」
ぽつりと、確かにそう呟いたのだ。声は僅かに潤んでいたように聞こえたが──俺は、何も言えなかった。しかし、彼はすぐに凛と顔を上げると、真っ直ぐにカトラさんを見て「ありがとうございます」と礼を述べた。涙の影など、微塵も見せない声色だった。
「それで、貴方は? ……ああ、駆け出し冒険者なら、簡単だけど魔法強化の加護がかけられた装飾品がいいかな。なんの属性が良い?」
「すみません……俺、魔法は使えないんです」
「……は?」
ロイと同じ顔だ。また笑いが込上げる。
「……どうしよう。身体能力強化は今無いし……」
悩むように顎に手を当てて──彼は近くにあった可愛らしい男の子の獣人らしい人形を手に取った。どこかカトラさんの面影を感じさせるそれは、耳には他のものと同様に宝石が煌めいている。
「……じゃあ、これ。……加護もなにも無いただの人形だから、貴方は要らないかもしれないけど……」
「っいいんですか!」
「っわ、」
「俺、この子可愛いと思ってたんです! ありがとうございます、大事にしますね!」
「……う、ん。……魔法が使えないならたくさん危険な目にも遭うかもしれない。貴方が無事でいられるようにって……お守り代わりにでもして、連れて行ってあげて」
暖かい言葉に、胸がじんと震える。渡される瞬間、手が触れた。
「……本当に、ありがとうございます」
今まで辛い思いも多くしてきたことだろう。心優しいこの人の行く末が、どうか暖かいものであって欲しいと願ってしまうのは──余計なお節介だろうか。
「っ……あ、はは。どこまでも真っ直ぐだね、貴方は。……また、会おうね。絶対」
微笑を浮かべて、彼は俺の手を握る。また、会える日を信じて。
俺たちは、しばしの別れを告げた。
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