スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)

文字の大きさ
上 下
9 / 46

アトリエとしばしの別れ

しおりを挟む
「…………っあったーッッ!!!」

 叫ぶ。手の中には、比較的大ぶりな閉花石が眩く輝いていた。恐る恐る、カトラさんに見せれば──

「……うん、合格。ありがとう」

 ふわり、と花が咲くように彼は笑った。安堵と歓喜が胸の中に湧いて、だらしなく頬は緩んだ。


 報酬も受けとり、彼のアトリエへ案内された。森の中にあるそこは、まるでおとぎ話に出てくる家のようだ。目を輝かせながら見ていると。

「……良ければ、見ていく?」

「! ロイ、」

「ああ、もちろん構わない。……それに、俺も興味がある」

 子どもを相手にするような態度に、少しだけ気恥しさを覚えながら。俺たちは、彼のアトリエへと足を踏み入れた。

 わあ。壮観だ。
 中には可愛らしい人形が所狭しと並んでいて、年季の入った机は整然としている。
 不躾ながらも見回していると、カトラさんが口を開いた。

「妹さんが持っていた人形って、どんなの」

「! 何故、それを――いえ、報酬は既に受け取っています。他にも受け取るなど……」

「貴方たちに頼んで良かったって思えた。だから、そのお礼」

「……ありがとうございます。桃色の髪が肩ぐらいまである、紅い瞳の女の子の人形でした」

「ああ、それならわかった。同じ子がいるから」

 そう言って奥に引っ込み、また戻ってきた彼の手には可愛らしい女の子の人形が抱えられていた。容姿から、ロイの持っていた肖像画を思い出す。きっと自分に似た人形を妹さんは持っていたのだろう。燃えるような瞳が光を受けて煌めいた。
 震える手で受け取ったロイは暫し悚然と立ち尽くし、そして壊れ物を扱うように胸へと掻き抱いた。は、と息の漏れる音。

「……マリア……」

 ぽつりと、確かにそう呟いたのだ。声は僅かに潤んでいたように聞こえたが──俺は、何も言えなかった。しかし、彼はすぐに凛と顔を上げると、真っ直ぐにカトラさんを見て「ありがとうございます」と礼を述べた。涙の影など、微塵も見せない声色だった。

「それで、貴方は? ……ああ、駆け出し冒険者なら、簡単だけど魔法強化の加護がかけられた装飾品がいいかな。なんの属性が良い?」

「すみません……俺、魔法は使えないんです」

「……は?」

 ロイと同じ顔だ。また笑いが込上げる。

「……どうしよう。身体能力強化は今無いし……」

 悩むように顎に手を当てて──彼は近くにあった可愛らしい男の子の獣人らしい人形を手に取った。どこかカトラさんの面影を感じさせるそれは、耳には他のものと同様に宝石が煌めいている。

「……じゃあ、これ。……加護もなにも無いただの人形だから、貴方は要らないかもしれないけど……」

「っいいんですか!」

「っわ、」

「俺、この子可愛いと思ってたんです! ありがとうございます、大事にしますね!」

「……う、ん。……魔法が使えないならたくさん危険な目にも遭うかもしれない。貴方が無事でいられるようにって……お守り代わりにでもして、連れて行ってあげて」

 暖かい言葉に、胸がじんと震える。渡される瞬間、手が触れた。

「……本当に、ありがとうございます」

 今まで辛い思いも多くしてきたことだろう。心優しいこの人の行く末が、どうか暖かいものであって欲しいと願ってしまうのは──余計なお節介だろうか。

「っ……あ、はは。どこまでも真っ直ぐだね、貴方は。……また、会おうね。絶対」

 微笑を浮かべて、彼は俺の手を握る。また、会える日を信じて。
 俺たちは、しばしの別れを告げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

まだ、言えない

怜虎
BL
学生×芸能系、ストーリーメインのソフトBL XXXXXXXXX あらすじ 高校3年、クラスでもグループが固まりつつある梅雨の時期。まだクラスに馴染みきれない人見知りの吉澤蛍(よしざわけい)と、クラスメイトの雨野秋良(あまのあきら)。 “TRAP” というアーティストがきっかけで仲良くなった彼の狙いは別にあった。 吉澤蛍を中心に、恋が、才能が動き出す。 「まだ、言えない」気持ちが交差する。 “全てを打ち明けられるのは、いつになるだろうか” 注1:本作品はBLに分類される作品です。苦手な方はご遠慮くださいm(_ _)m 注2:ソフトな表現、ストーリーメインです。苦手な方は⋯ (省略)

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!

柑橘
BL
王道詰め合わせ。 ジャンルをお確かめの上お進み下さい。 7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです! ※目線が度々変わります。 ※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。 ※火曜日20:00  金曜日19:00  日曜日17:00更新

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

この僕が、いろんな人に詰め寄られまくって困ってます!〜まだ無自覚編〜

小屋瀬 千風
BL
〜まだ無自覚編〜のあらすじ アニメ・漫画ヲタクの主人公、薄井 凌(うすい りょう)と、幼なじみの金持ち息子の悠斗(ゆうと)、ストーカー気質の天才少年の遊佐(ゆさ)。そしていつもだるーんとしてる担任の幸崎(さいざき)teacher。 主にこれらのメンバーで構成される相関図激ヤバ案件のBL物語。 他にも天才遊佐の事が好きな科学者だったり、悠斗Loveの悠斗の実の兄だったりと個性豊かな人達が出てくるよ☆ 〜自覚編〜 のあらすじ(書く予定) アニメ・漫画をこよなく愛し、スポーツ万能、頭も良い、ヲタク男子&陽キャな主人公、薄井 凌(うすい りょう)には、とある悩みがある。 それは、何人かの同性の人たちに好意を寄せられていることに気づいてしまったからである。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 【超重要】 ☆まず、主人公が各キャラからの好意を自覚するまでの間、結構な文字数がかかると思います。(まぁ、「自覚する前」ということを踏まえて呼んでくだせぇ) また、自覚した後、今まで通りの頻度で物語を書くかどうかは気分次第です。(だって書くの疲れるんだもん) ですので、それでもいいよって方や、気長に待つよって方、どうぞどうぞ、読んでってくだせぇな! (まぁ「長編」設定してますもん。) ・女性キャラが出てくることがありますが、主人公との恋愛には発展しません。 ・突然そういうシーンが出てくることがあります。ご了承ください。 ・気分にもよりますが、3日に1回は新しい話を更新します(3日以内に投稿されない場合もあります。まぁ、そこは善処します。(その時はまた近況ボード等でお知らせすると思います。))。

転生先がBLの世界とか…俺、聞いてないんですけどぉ〜?

彩ノ華
BL
何も知らないままBLの世界へと転生させられた主人公…。 彼の言動によって知らないうちに皆の好感度を爆上げしていってしまう…。 主人公総受けの話です!((ちなみに無自覚…

処理中です...