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第七章

第九十四話・ウナスの森③”扉を開く者”

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 アレンは少し考えると、口を開いた。

 「ねえ、イリーメル。今の話しは亜人なら、誰でも知っている話しなのかな」
 「いいえ、巫女の間に代々伝わる話しです。テルル老も、”扉を開く者”の話しなら少しはご存じです」
 「そう・・・だったら、二人で少し話したい。テルル長、申し訳ありませんが、イリーメルと二人にして頂けませんか。ジョエル達もご免、席を外して貰えないかな」
 「アレン・・・」
 「ご免ね、ジョエル。今は先に話を詳しく聞きたいんだ。後で、整理できたら話せるかもしれない。それと、さっき聞いた話は黙ってて欲しい」
 「・・・いつか、話してくれるかい?」
 「・・・うん」
 
 ジョエルとロンデル、ナグは立ち上がった。だが、ナリスは腕を組んで座ったままだ。
 「おい、ナリス」
 「状況が分からないと、アレンを守る事ができない」
 ナリスは頑固に言い張る。
 「ナリス、ご免ね。たぶん、知ってる人が少ない方が安全なんだ、僕の為にも、皆の為にも」アレンは、ナリスに頭を下げた。
 
 「おい、ナリス。人には知られたくない話、知らない方がいい話がある。知らないから、相手を守る事ができる場合もあるんだぜ。ここは甲斐性の見せどころだろう、男は黙って守り抜いてやりゃいいんだよ」ロンデルがナリスを促してくれて彼の重い腰がやっと上がり、皆と一緒に出て行った。

 

 「ごめんなさい、私が軽率でした」二人きりになると、イリーメルが謝って来た。
 「ううん、僕も詳しい話しはよく知らないんだ。ただ、母さまの家系の方で人に知られてはいけない秘密があるんだ。それと、君の話がもしかすると繋がるのかも知れない・・・」
 「どんな話かお聞かせ願えますか?」
 「ご免ね、話す事はできない。・・・それでも、僕にさっきの”扉を開く者”達の話を聞かせて貰えるかな?」
 「勿論です。ご主人様達のお話でよろしいですか?」
 「うん。なぜ、御主人さまと、呼ぶの?」

 「私達、亜人はご主人様によって創りだされたからです」
 「君達、全員?」
 「ええ。ご主人様達は、”扉を開く者”と、呼ばれておりました。もう、何千年も昔の話です。私達、亜人はご主人様達に創られ、扉の向こうから一緒に、こちらの世界へとやって来ました」
 「・・・”扉”って、あのを受ける時の”扉”のこと?」
 
 「人族の儀式のことはよく分かりませんが、青い紋章が浮かび上がり””に続く”扉”の事です。”道”の先には、又”扉”があり、その先は向こうの世界へと続いているのはご存じですよね?」
 「うん。たぶん同じ”扉”のことだろうね」

 「亜人達も、元を正せば魔獣だったと聞き及んでいます。私達一族は水妖と、妖精族の交配とか・・・」
 「君の力は魔法なの?亜人達は魔法を使えるの?」
 「ええ、私の力は魔法の名残りだと思います。今は交配が進み、血が薄れ、亜人のほとんどが魔法とは無縁の生活を送っています。肉体的にも、獣人の力が薄れ人族と変わりない容姿の者や、獣の姿に変身出来ない者が増えています」
 
 「・・・その・・・ご主人様って、どんな力を持っているの?」
 「”水渡り”の力や、水や火、風や土を操る力をお持ちだったとか。それに、人族達に”魔獣”を得る力をお与えになったのもご主人様達です」
 「魔獣を与えた・・・・」
 「ええ、そう伝えられています」
 「・・・・」

 アレンは、考え込んだ。自分は一体なんなのか。
 (たぶん、母さまも分かってはいなかったのだろう。その父親である放浪の騎士のおじいさまも。余りにも、長い間逃げ続け、隠し続けて来たんだろう。今や、ほんとうの事は誰にも分からないに違いない)

 「アレン様?」
 「彼等の・・・ご主人様達の名前って、分かる?」
 「申し訳ありません。なにせ、途方もない昔のことなので。私は聞いておりません」

 (只、名前だけが引き継がれた・・・それと、恐怖と)

 「ねえ、彼等に生きている人はいる?」
 「・・・分かりません。この地に隠れておられたご主人様ももう、五百年程昔に御隠れになったと・・・それで、”水鏡”も濁ってしまったとか」
 「彼等は全員亡くなった筈はないよね、生き残った人達はどこに行ったのかな?扉の向こう?・・・でも、だったら、儀式の時に誰かが遇ってるよね・・・」
 
 「・・・私が伝え聞いた所によると、御主人様達の偉大な力を恐れて人族達から迫害を受け始め、それでこの地を去られたとか・・・命を落とされた方達も多かったと聞いております」
 「そうなんだ・・・・」

 「ご主人様達は、もともと少人数だったとお聞きしています。新しい命が誕生しにくくなった為に、故郷を捨てて、この地に出向かれたとか・・・そこで、人族と交わり、新しい血を迎え入れられたと」
 「・・・・・」

 「ご主人様達は”与える者”なのです。我らにも、人族にも惜しみなく”力”を分け与えられる方達だったのです。”奪う事”を良しとはされない方々だったとお聞きしています。人族達はご主人様方の力を畏怖して“魔法族”と呼ぶ者もいたとか」

 (”魔法族”聞いた事のない呼び名だな・・・水渡りが出来るのは”扉を開く者”だけ・・・僕は火と水扱える。・・・でも、母さまもおじいさまも、魔法の力は受け継いでいない・・・僕は、父上の血を引いているから魔獣を召喚できた・・これだけじゃあ分からない。でも、用心は怠らないでおこう。どちらにしても迫害されていたのは事実だから)

 「アレン様?」
 「ありがとう、イリーメル。参考になったよ。今度はそちらの事を教えてくれる」
 「もう、よろしいのですか?あの、アレン様のことを”ご主人様”と御呼びしてもよろしいでしょうか?」
 「それは止めて。僕は普通の人族だよ。それに”様”もいらないよ、只、アレンだけでいいよ」
 「でも・・・」
 「僕の母も母方のおじいさまも普通の人だった。僕が”魔獣や魔法”を手に入れたのは父親が貴族だったからだよ。彼も普通の人族だ。それより、”火竜”の話を聞かせて欲しい」

 イリーメルは納得していない顔していたが、アレンの気持ちに変化が無いのを見て取ると、気持ちを切り替えて現在、亜人達が置かれている状況と、”火竜”の話しをしてくれた。
 正しくは“飛竜”、又は翼竜だ。この地で亡くなった”扉を開く者”の召喚獣で、ここを守る為に扉の番人として強い魔法の力を与えられたと言う。
 
 











 
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