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第六章

第八十五話・リュウジールへの旅⑬亜人達の願い

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 食堂に居合わせた面々はざわつき、アレンも吃驚してナリスを見た。
 「ナリスのお父さんは、タンデールの国王なの?」
 「まあ、一応は。でも、俺は一度も会った事が無いんだ。俺の事は、居ない者として扱われて来た」それを聞いた皆は黙り込んだ。
 
 「俺の母は第五婦人で、田舎の小貴族。その上、俺のこのだ。だから、疎まれて生まれて直ぐに実家に返された。以来、からは、なんの連絡もない」ナリスはそう言うと、先の尖った自分の耳を指す。そして、ナリスは”父”とは言わず、敢えて”王”と言った。

 「しかし、今回は違う。ここに、『我が息子』と、書いてある。昔の事は忘れて、直ぐに会いに行くんだ。これは千載一遇せんざいいちぐうの機会だ」エトル叔父は、書面を振り翳して、ナリスを説得しようとする。
 しかし、ナリスは叔父の言葉にも、国王の書面にも、心を動かされた様子は無く、表情は硬かった。
 (なぜだろう、あんなに認めて貰いたかったのに・・・)

 「アレリス殿、どうか貴殿からもナリスに言ってやってください。この機会を逃すなと」自分の言葉に心動かないナリスを見て、叔父のエトルはアレンに助けを乞う。
 
 「・・・ナリスは御父さんに会いたくないの?」ナリスをじっと見つめていたアレンは促されて口を開らいた。
 「分からない、つい最近までは会いたいと言うよりは、認めさせたいと思っていたよ」ナリスはアレンに正直な気持ちを打ち明けた。
 「そうなんだ・・・でも、この招聘状はナリスの事を認めてくれた印じゃないかな?」
 二人のやり取りに、周りは静かになった。叔父のエトルも祈るような気持ちでアレンを見つめる。

 「・・・・」
 「一度会えば、自分の気持ちも、これからの事もよく考えられるんじゃないかな」アレンは自分の経験から話した。
 「・・・経験者は語る?」ナリスは自虐的に笑う。
 「そうだよ。自分の経験から言ってる。僕は父親が誰だか分からなかった。だけど、その機会が訪れて、僕は直ぐに会いに行ったよ」
 「会えたのか?」ナリスは、アレンの話を少し驚きながら聴いた。そんな風に苦労しているとは微塵も見えなかったので。
 「ううん、残念ながら亡くなっていた。でも、自分の父親が誰だか分かって良かったよ。それに、新しい道が開けたし、自分の目標が定まった」
 「・・・凄いなアレンは、まるで、俺よりずっと年上のようだ」
 「そんなことは無いよ。只、自分の事を真剣に考える機会が多かっただけ。だから、ナリスもどうしたいか、じっくり考えればいいんだよ。只、チャンスは一度しかないかも、と考えた方がいいと思う。チャンスを受ける事は一歩前に進む事に繋がると思うし」
 「そうだな・・・会ってみないと、分からないな。自分の気持ちも、これからどうしたいかも」

 「じゃあ、王に会いに行ってくれるのか?」エトルは、黙って居られずに口を挟む。
 「ふ~・・・分かったよ。招聘状に応じるよ、叔父上。アレンも一緒に行ってくれるかい?」
 「えっ・・・と、それは・・・」アレンはジョエルを振り返った。
 ジョエルが口を開く前にエトルが懇願し始める。

 「アレリス殿、是非一緒に、宮廷へ参ってください。ここにも、御一緒にと書いてある。何より、あなたが一緒だと、ナリスも向こうで無下に扱われる事はないでしょう。どうか、よろしくお願いします」そう言うと、アレンに深々と頭を下げる。どうしようもない俗物に見える叔父のエトルだが、甥を思う気持ちは深いようだ。
 
 「あの、頭を上げてください」
 「では、一緒に行って頂けますか?」
 「一緒に行って力になりたいとは思いますが、僕ではナリスの足を引っ張るだけかも・・」
 「そんな事はない」
 「そんな事はありません」二人の声は同時に被った。
 
 「・・・でも、僕はライオネル国王様から、リュウジールの親善交流団として命を受けまだ、旅の道中なのです」
 ジョエルはそれを聞いてふんふんと頷いているのが、目の端に入った。
 「そうですか。でも、それは別に期限も無い訳でしょう。あなたが王都へ行っている間は、亜人の方達のお世話はこちらで引き受けます。旅程が少しくらい伸びても構いますまい」
 「・・・えっと、それは亜人のみなさんに聞いてみないと」アレンはナグ達の方を振り返る。

 ナグ達亜人は話しがどう言う風になるのか固唾を飲んで見守っていたので、振り返ったアレンと目が合った。
 ナグはその瞬間に心を決めた。

 「アレリス様。実は、急ぎ我がリュウジールを訪れて欲しいのです」ナグがそう語り出すと、亜人達、全員が居ず舞いを正し、アレンを見つめた。
 「どう言う事ですか?ちゃんと、分かるように話してください」ジョエルが、彼等の只事では無い雰囲気に口を挟んだ。

 「実は、私達がエイランド王国を訪れたのは、親善交流の為ではありません。私達の国で起こっている事に力を貸して欲しくて宮廷を訪れました」
 「・・・・」ジョエルは非常に嫌な予感がした。
 
 「・・・リュウジールは、いえ、東の大陸は今、一匹の狂った火竜に寄って向こう側の扉が開き、魔力の命脈がとんでも無い事になっているのです。ある箇所では魔力の枯渇が始まり、別の場所では魔力の流出の所為で原始の森が魔の森となり、大型獣も魔獣に近い存在になって二重の意味で私達、亜人は追い詰められ滅亡の危機に瀕しています」
 「なんだって!そんな事に・・・しかし、タンデール国はどうなのです?隣国でしょう」
 「・・・そんな噂を聞いた事がある程度です、なにせここは王宮から遠く、タンデールでも西の端です。詳しい事は何も」そう言うと、エトルは済まなそうに首を振る。
 
 「タンデールの国王にも、何度か親書を出しました。最終的には、何も力になれないと返事が来た」ナグも力無く首を振る。
 「対岸の火事だと思っているのよ!何れ、私達が浸食され尽くしたら、その矛先は隣国のタンデールに向かうのに!私達が全滅しても、何とも思ってないんだわ!」狼族のデナが糾弾するように叫ぶ。
 デナの叫びに、エトルもナリスも言葉を失った。食堂のいる皆はそんな深刻な事になっているとは、誰も知らなかったので、デナの言葉に呆然とした。


 「国王は、ライオネル国王はこの事を御存じなのですか?」アレンが冷静に尋ねる。
 「ええ、国王には親書にて、詳しく書き送りました。軍隊を送って欲しいと。そうしたら、エイランド国に来るようにと招待を受けたのです。」
 「国王の招待状には軍を送るとも、断るとも、何も書いていなかった。だから、俺達は命を懸けて、一縷の望みを持ってエイランド国に行ったのです」べゼルも立ちあがって発言した。
 
 「畜生、やられたぜ。あの狸親父め!」ジョエルが思わず呟く。
 「おいおい、いいのか?不敬だぞ。ま、俺も同じ気持ちだが」ロンデルがにやにやして言った。
 ジョエルは、今度は、ナグをキッと睨みつけた。
 「あんた達もだ。騙してアレンに何をさせるつもりだ!」
 「・・・騙すつもりは無かった、信じてくれ。エイランドの王宮では、事の成り行きに、こちらが吃驚したんだ。軍隊の代わりに、こんな小さな子供を寄越すと・・・私は唯の子供だと思っていた」ナグはジョエルを見、アレンを見て話した。
 「だが、今は違う。どうか、俺達に力を貸して欲しい。あなたが最後の頼みの綱だ。この通りだ」ナグはアレンに頭を下げる。
 
 「無茶な事言うなっ!アレンはまだ、十歳の子供だ。”狂った火竜”だと、”魔の森”だと、その上、”魔獣化した大型獣”にどう立ち向かえって言うんだ」
 「だが、”蝗害こうがい”を制した」
 「”蝗害”など、只の虫けらだ!”火竜”と比べ物にもなりはしない。それに、分かってるのか?アレンの力は”炎”の力だ、相手も同じ”火”だ、力はされる。無理だ!」
 「!!」その事に気付いたナグは押し黙り、室内は重苦しい雰囲気になった。

 「でも、巫女さまのご宣託があるよ」ケルトは椅子から立ち上がると、アレンに近寄る。
 「”宣託”?」アレンは小首を傾げて、ケルトを見つめる。
 「そうだよ、巫女さまは我々に宣託をくだされた。””がエイランド国に現れるって」
 「””?」ケルトはアレンの手を取った。
 「そう、の事だよ、アレン。僕達はエイランド王国でを見つけたんだ。こそがだよ」

 「お願いだ、アレン。僕達を助けて」ケルトは手を握ったまま、床に膝を付いて深く頭を下げた。それを見た、他の亜人達も、椅子から滑り降りて膝を付き頭を下げて、アレンに懇願した。
 































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