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第三章

第三十六話・フォートランド城での日常・(思いがけない訪問者)①

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アレンはバルトから、ネルと言う若者を紹介された。

「初めましてアレリス様、ネル・リンガーンと申します。ついこの間衛士に昇格したばかりです、どうぞよろしくお願い致します。」

黒髪巻き毛の真面目そうな青年だ。

「ネルの得物はレイピアとタガーだ。俺はロングソードだからな、だが、レイピアも携帯には便利だが案外と重い。今は一番軽いスモールソードで練習して、慣れれば何れはショートソードも練習に取り入れて何が一番使いやすいかを決めればいい。」

「因みに俺の得物はショートソードとナイフだよ。投げさせれば百発百中、弓も得意だから今度教えるよ。」ジョエルもそう言えば衛士だった。

皆はそれぞれ自分の剣を取り出して説明をしてくれたがその内、剣談義になってしまった。三人の目がキラキラしてる、さすがは騎士と衛士だ、腕に覚えがある人ばかりだからか。

「オホン、悪い悪い。今日はアレンの型の練習だったな、ネル、アレンの左手の得物は小さな楯がいいか?それとも
最初からタガーで行く方がいいか。」

僕達四人は兵舎の奥にある武器庫に来ている、周りは槍や大きな楯、練習用のフルーレや剣、弓までが整然と並べられていて、バルト曰く武器庫がちゃんとしていない所は指揮系統が成っておらず、いざとなっても役に立たない軍隊だそうだ。

「私は最初からタガーで練習した方がいいと思います。楯の方が怪我の率が少ないですが、アレリス様の場合、実際に楯を持って戦う場面はまず無いですし、楯で身体が覚えてしまうと実践の時に腕を差し出して切り落とされてしまう事があるのです。だから、レイピアを使うならタガーを覚えてから楯の練習をした方がいいと思います。」

「そうだな、最初は一番軽いスモールソードとタガーで少し練習してみるか。」バルトは手招きすると僕の左腕を取り鎧の一部のような物を嵌めた。

「これは、伯爵様をはじめ、イルビス様達が子供の時に練習用に使われていた物だ。」バルトが取り出した棚には色々なサイズのナックルガードが並べられている。

「お前が今嵌めているのもその内の一つで、指付きがガントレット、二股がミトンで練習だからミトンでいいだろう。少し重いが刀身からも打ち身からも有る程度守ってくれる。今日は初日だし軽く型練習だけだから胸当てと脛当てはいいだろう、彼らは上手いから寸止めしてくれる筈だ。」

左腕の鎧はナックルガードと言うらしい、これだけでかなりの重さで更にダガーを持たされるがバルトに鞘から抜いて見ろと言われ、恐る恐る抜くと目の前で刀身が三本に飛び出して分かれたので驚かされる。

「そっちを購入されたのですか?」ネルが寄って来た。

「ふふ、面白そうだろ、こっちの方が。」

「まあ、でも取り扱いに気を付けてくださいよ、アレリス様。うまく鞘から抜かないと自分の身体の何処かに引っ掛ける時がありますから慌てて抜かない事です。」ネルが注意してくれたけど、僕は初心者なんだから扱い易い物がよかったな、バルト。


「ま、刀身が三本に分かれてるから、相手のレイピアを受け易いぞ。だが、絡め取られないようにも気を付けないとな。」

「ウ~ン、難しそう。」

「ま、慣れだ慣れ。練習、練習。」バルトは二ヤリと笑った。怖いよ、その笑い。


僕達は練習場に移動し、刃の無いフルーレを使って軽くネルとジョエルが模範演技を見せてくれた。
次に彼らは自分の得物を持ってそれぞれが構えると、顔付きがガラッと変わって真剣になる。二人とも目が怖いよ。


ジョエルは通常左手にナイフを持つらしいけど、殺傷力が高いので今日は楯を持つことになり、それを聞いたネルはナイフで大丈夫ですと食い下がったがバルトから僕の為の模範演技でお前を侮っている訳じゃないと言われて、やっと引き下がった。

始めはバルトの指示通りにゆっくり目に演技していた二人だったがジョエルがネルの懐に飛び込んだ時にネルがレイピアの鍔の金具で殴り掛りジョエルが頭を素早く引いたので事無きを得たがこれがジョエルに火を付けた。

二人は真剣に剣を交え始めたので僕はハラハラして見守ったが何回か打ち合わせた後、バルトが止めに入り難なく彼らを治めてしまい先ほどの演技(?)の説明をし始めた。

レイピアは鍔の所が手を守る様にも、相手の剣を折ったり、殴ったりもできるらしい。
もちろん左手のタガーも相手の剣を折れるようにできている。

因みにバルトのロングソードはそう長い訳では無く、鍔の所が特殊な形状になっており、それで「相手の剣と心をぽっきり折るのが面白いのだ。」そうらしい。悪っ。

貴族はソードよりレイピアの方を好んで使う者が圧倒的に多く、その鍔は攻撃性より華美な装飾性を誇っている。
又、魔獣に守って貰う事ができる為、今や嗜む程度で貴族自らが剣を振り回して戦うのは野蛮であり、兵士の真似ごとと侮られる傾向にあるそうだ。

「あれ?だったら僕も嗜む程度でいいのかな?」アレンは本格的な装備を前に疑問に思いバルトに聞いた。

「いや、お前はダンドリュウス家の嫡男として、馬、剣、弓と全てマスターして貰う。」

「それがお爺様の意向なの?」

「いいや、伯爵様は俺に任せると仰られた。俺は任された以上、お前を軟弱な後継ぎに育てる訳にはいかん。全力で一流の騎士に育ててやるから安心しろ。」

「え~、いや普通でいいよ。普通がいい。」

「却下だ。」

(・・・お爺様、・・・・・・人選ミスです。)



そんな訳で型の練習の筈が、何度も受け損ねて胴や腕に打ち身ができた上、一度など真ともに胸を強打され息が詰まってぶっ倒れた。
(・・・・・・死ぬかと思いました。なにが胸当ていらない、だよ~。何が寸止めしてくれる、だよ~。)

「肋骨折れて無いか?おお、さすがに魔力の強い奴は頑丈だな、ニ、三本は折れたと思ったがな。」

(うう~、なんですかそれ?聞いてないよ~。痛すぎて声が出せませ~ん。)


後で聞いた話しだが稀に魔力が剣技に作用する事があるそうで僕の場合もそれに当て嵌まったらしく、言われてみれば途中から、ナックルガードや剣の重さが気にならなくなっていた。

(だからって、本気で打ち込む事は無いと思います。普通だったら、ニ、三回いやもっと、大怪我か軽く死んでます。)


その日は疲れ過ぎて、お昼は二倍・・・は、おろか夜も食べずに就寝する散々な一日となったが、僕の頭からはグラバル兄さまや諸々の悩み事がきれいさっぱり消えていた。
(ジョエルの言葉を借りると、”バルト様々”になるそうだ。)


こうして、考える暇もなくきっちりと身体の鍛錬(一日置きに、素振りと城から正門を出て途中の休息地までの)歩行訓練、馬術、弓術、剣術の日々鍛錬に振れ回され、午後からは歴史や読み書き、貴族のマナー(その内、ダンスも)が当てられ、忙しい毎日を送っている。






そんなある日、ネルが門衛の兵士の頃に同じ組にいた者から、僕に会いたいと言っている子供がいると言う話しを聞いて来た。街での知り合いで父親が大外門の門衛だと言う。

「もしかして、その子の名前はボイルじゃない?」

「やっぱりお知り合いですか?」

「うん、凄いや、覚えててくれたんだ?」

「ちょっと待て、そいつはいつ頃の知り合いだ?」バルトが口を挟んでくる。

「え?ワイリー牧場に居た時に知り合った友達だよ。母さまが病気の時には何度も差し入れを持ってお見舞いに来てくれたりしたんだ。」

「牧場に居た時になると、ベルファウストの森以降は会っていないと言う事になるな。」バルトの口振りに嫌な予感を覚えた。

「何?どう言う事、会えないって事?ボイルは友達だよ、それに只の子供だよ。」

「う~ん、ちと不味いかもしれん。取り敢えず、伯爵様に相談してみない事には始まらない。ネル、悪いがその門衛に人違いだと断ってくれ。噂が広まるといけないからな。」

「はい。分かりました。」ネルが済まなさそうに答えた。

「どうしてなの?何が駄目なの?本当に只の友達だよ、バルト。」

「お前には立場と言う物がある、その上、一人に会ったら、我も我もと際限なく知り合いが湧き出てくるぞ。」

「そんな~。」

「そんな馬鹿な話し、と思うかも知れんがな、人間とはそんなもんだ。それにその中に、お前に害をなそうとする人物がいたらどうする、お前だけじゃない伯爵様を狙う輩もおるかも知れん。だから慎重に対処する必要があるんだ。」

僕は悲しくなった。事は僕だけで終わらず、もし、お爺様を巻き込んだらと思うとそれ以上駄々を捏ねる訳にいかなかった。


(でも、ボイルに会いたいな。)























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