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第二章
第十四話▪ベルファウスト東の森
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騎士バルトは衛士のジョエルを伴ってフォートランド城下へ引き返してきた。
二人は伯爵から密命を受け、農夫を装いワイリー牧場にルイーズ親子の行方を探りに行ったが、そこで聞いた話は酷い物だった。
(伯爵様になんとお伝えしたらいいか・・・)道すがら、バルトの横で若いジョエルは憤慨し、ワイリーと言う牧場主の事をさんざん扱き下ろしていたが、深く考え込んでいたバルトの耳には全く入って来なかった。
(これで、その子の死が確実ならば、フォートランド領の安定は一気に崩れ去ることだろう。いや、まだその子がイルビス様の御子と決まった訳でもないし、第一、魔力があるかどうかも分からない・・・)
丁度、外門に着いた時「聞いてますか?バル、・・バ、バートンさん」ジョエルは途中でバルトに睨まれ、慌てて言い直す。彼らは帽子を目深く被り、名前を変え農民に変装していた。
騎士バルトの名前は広く知られている。
「なんの話だ?ジョン」
「だから!ワイリーの奴が酷い奴だって言う話ですよ」興奮して、ジョエルの声が大きくなった。
「ワイリー?ワイリーの奴が又、なんかやらかしたのか?」側に立っていた門衛が話を聞きつけて問い掛けて来た。
「いやね、二人して雇って貰おうと訪ねて行ったんですがね、全くケチな旦那でしたね」バルトはジョエルを制止て代わりに答えた。
「あぁ、全くだ、あいつは酷い奴で、あそこで働けば死ぬまで働かされるぜ」と、その門衛は返した。
「死ぬまでとは穏やかじゃありませんね、なんかあったんですかい?」
「まあな、俺の知ってる親子が酷い目に遭ったんだ」
「その話を詳しく聞きたいな。実は給金は安かったけど結局雇って貰う事にしたんだが、辞めた方が無難かな?」
「そうだな、あそこで朝から晩まで働かされていた親子が病気になった途端、ベルファウストの森に置き去りされたんだ。」
「その、親子はどうなりましたか?」
「分からんな。聞いた話じゃ、ベルファウストの南の森を三日間掛けて探したそうだが何も分からず仕舞いよ。その親子が置き去りにされた場所には焼けて黒ずんだ薪が散乱してたが、血の跡もなんもなかったらしい」
「血の跡?」
「ああ。狼の足跡やフンは見つかったみたいだが、その・・ほれ、狼どもも流石に服とか靴とかは食わねえだろ?それらがねえのよ。死体を引き摺った痕も無かったみたいだぜ」
「そう言や、捜索に加わったフッドがよ、つい最近隣町で見かけたらしいぜ」別の門衛が割込んで来た。
「へえ、そりゃ本当か?それならボイルに知らせてやんないと」
「いや、確かな話じゃないんだ。フッドはその子の顔を知らないらしいし、見たと言っても後ろ姿だけらしい只、その子が銀髪だったそうだ」
「なるほどな、それだけじゃボイルの奴を糠喜びさせるだけだな」
「隣町とはベルファウストの東の森近くの東エルデ町のことですか?」バルトは尋ねた。
「ああ、そうだよ。東の森を根城にしてるフランクと言う名の狩人が連れてたらしい。でも、周りの店主に聞いたら遠縁の子を預かってると話してたそうだ」
バルトとジョエルは急いで街中に戻った。
「どうしますか?一旦、用意を整えにお城に戻りますか?」
「いや、時間が惜しい。どこかで馬を借りてエルデ町まで飛ばそう。食料は聞き込みしながらあっちで手に入れよう、そうして今日中にそのフランクの狩猟小屋に辿り着くんだ」
「でも、今からじゃ、どんなに急いでも森に入る頃には日が暮れてしまいますよ」
「そうさ、丁度いいじゃないか。道に迷ったと言い訳が立つ。小屋を突然訪ねてもおかしくない」
「でも、狼がでるんでしょう」
「ベルファウストの森じゃ、どこも同じさ。それに俺は剣、お前は弓も上手いだろう。ついでに鉄砲と絞めた兎も手に入れよう」
二人は馬を手に入れ外門を再び通り抜けた、門衛は交代した後だったので問題なく通過できた。
・
・
・
・
「ほんとにこの道であってるですか?」二人は情報を無事に仕入れ、ベルファウストの東の森の川沿いに進んでいた。
「ああ。しばらく行くと右に小道が見える筈だ、それさえ見落とさなければ大丈夫だ。後は道なりに行けば着く筈だ」
もう辺りは暗くなってきており、ジョエルは不安になって来ていた。
「どうしてそんなに急ぐんですか?」
「噂が立つのは早い。あの子が生きているのが知れて、誰かが探しているのが分かれば、誰が探しているのか、どうして孤児をわざわざ探すのか、詮索好きは何処にでもいる。そうなると、あの子がイルビス様の子で有っても無くても暗殺の対象になる」
「街中に影の者達がいるということですね」 ∴影の者=スパイ
「城内にもいるぞ」
それを聞くと、ジョエルは黙り込んだ。
無事に記しのある大木を見つけ右手の小道を見つけた。獣道と大差ない小道だがきれいに下生えを刈ってある。
道なりに進んで行くと、犬の吠える声が聞こえてきた。
二人は顔を見合わせて頷き合う。
犬の吠える声が益々激しくなり、狩猟小屋に辿り着いたが、コトリとも音はせず小屋は真っ暗だった。
「誰もいないんですかね?」なぜかジョエルは小声で喋った。
「取り敢えず、馬を家畜小屋に入れさせて貰おう」狩猟小屋の回りはレンガと太い木の堅牢な柵が張り巡らされ、家畜小屋も頑丈な造りになっている。
ドンドンと扉を叩いた。暫くすると扉の内側から高い子供の声がした。
「どなたですか?」
「済まない、狩りの途中で道に迷ってしまった」すると、覗き窓がずらされ子供の顔が少しだけ覗いた。
中は真っ暗のようで、顔は影になって見えない。
「道案内が必要ですか?」
「いや、外はもう真っ暗だ、出来たら二人とも今晩泊めて貰いたい」
子供は躊躇っているようだ。他に人の気配は無い。
(フランクはどうしたのだろう、子供一人では中に入れて貰えないかもしれない)
「あの俺達怪しい者じゃないです。野宿は狼がおっかなくて。そうだ、ほら今日は大猟で兎が6羽も獲れたんですよ」兎を掲げて見せた。ジョエルの人当たりのいい柔らかな物言いが功を奏したのか、子供が扉を開けてくれた。
戸口に現われた子供の頭は月明かりに銀色に輝いた。そして、大きな紫色の瞳で俺達を見上げた。
「俺はバルト、こっちはジョエルだ、よろしく」挨拶して手を差し出した。
「僕はアレンです。何のお構いもできませんが、どうぞ中に入ってください」彼はしっかりと挨拶して手を握り返してくれた。
+++次回+++
第十五話・アレン、フォートランド城に向かう。
二人は伯爵から密命を受け、農夫を装いワイリー牧場にルイーズ親子の行方を探りに行ったが、そこで聞いた話は酷い物だった。
(伯爵様になんとお伝えしたらいいか・・・)道すがら、バルトの横で若いジョエルは憤慨し、ワイリーと言う牧場主の事をさんざん扱き下ろしていたが、深く考え込んでいたバルトの耳には全く入って来なかった。
(これで、その子の死が確実ならば、フォートランド領の安定は一気に崩れ去ることだろう。いや、まだその子がイルビス様の御子と決まった訳でもないし、第一、魔力があるかどうかも分からない・・・)
丁度、外門に着いた時「聞いてますか?バル、・・バ、バートンさん」ジョエルは途中でバルトに睨まれ、慌てて言い直す。彼らは帽子を目深く被り、名前を変え農民に変装していた。
騎士バルトの名前は広く知られている。
「なんの話だ?ジョン」
「だから!ワイリーの奴が酷い奴だって言う話ですよ」興奮して、ジョエルの声が大きくなった。
「ワイリー?ワイリーの奴が又、なんかやらかしたのか?」側に立っていた門衛が話を聞きつけて問い掛けて来た。
「いやね、二人して雇って貰おうと訪ねて行ったんですがね、全くケチな旦那でしたね」バルトはジョエルを制止て代わりに答えた。
「あぁ、全くだ、あいつは酷い奴で、あそこで働けば死ぬまで働かされるぜ」と、その門衛は返した。
「死ぬまでとは穏やかじゃありませんね、なんかあったんですかい?」
「まあな、俺の知ってる親子が酷い目に遭ったんだ」
「その話を詳しく聞きたいな。実は給金は安かったけど結局雇って貰う事にしたんだが、辞めた方が無難かな?」
「そうだな、あそこで朝から晩まで働かされていた親子が病気になった途端、ベルファウストの森に置き去りされたんだ。」
「その、親子はどうなりましたか?」
「分からんな。聞いた話じゃ、ベルファウストの南の森を三日間掛けて探したそうだが何も分からず仕舞いよ。その親子が置き去りにされた場所には焼けて黒ずんだ薪が散乱してたが、血の跡もなんもなかったらしい」
「血の跡?」
「ああ。狼の足跡やフンは見つかったみたいだが、その・・ほれ、狼どもも流石に服とか靴とかは食わねえだろ?それらがねえのよ。死体を引き摺った痕も無かったみたいだぜ」
「そう言や、捜索に加わったフッドがよ、つい最近隣町で見かけたらしいぜ」別の門衛が割込んで来た。
「へえ、そりゃ本当か?それならボイルに知らせてやんないと」
「いや、確かな話じゃないんだ。フッドはその子の顔を知らないらしいし、見たと言っても後ろ姿だけらしい只、その子が銀髪だったそうだ」
「なるほどな、それだけじゃボイルの奴を糠喜びさせるだけだな」
「隣町とはベルファウストの東の森近くの東エルデ町のことですか?」バルトは尋ねた。
「ああ、そうだよ。東の森を根城にしてるフランクと言う名の狩人が連れてたらしい。でも、周りの店主に聞いたら遠縁の子を預かってると話してたそうだ」
バルトとジョエルは急いで街中に戻った。
「どうしますか?一旦、用意を整えにお城に戻りますか?」
「いや、時間が惜しい。どこかで馬を借りてエルデ町まで飛ばそう。食料は聞き込みしながらあっちで手に入れよう、そうして今日中にそのフランクの狩猟小屋に辿り着くんだ」
「でも、今からじゃ、どんなに急いでも森に入る頃には日が暮れてしまいますよ」
「そうさ、丁度いいじゃないか。道に迷ったと言い訳が立つ。小屋を突然訪ねてもおかしくない」
「でも、狼がでるんでしょう」
「ベルファウストの森じゃ、どこも同じさ。それに俺は剣、お前は弓も上手いだろう。ついでに鉄砲と絞めた兎も手に入れよう」
二人は馬を手に入れ外門を再び通り抜けた、門衛は交代した後だったので問題なく通過できた。
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「ほんとにこの道であってるですか?」二人は情報を無事に仕入れ、ベルファウストの東の森の川沿いに進んでいた。
「ああ。しばらく行くと右に小道が見える筈だ、それさえ見落とさなければ大丈夫だ。後は道なりに行けば着く筈だ」
もう辺りは暗くなってきており、ジョエルは不安になって来ていた。
「どうしてそんなに急ぐんですか?」
「噂が立つのは早い。あの子が生きているのが知れて、誰かが探しているのが分かれば、誰が探しているのか、どうして孤児をわざわざ探すのか、詮索好きは何処にでもいる。そうなると、あの子がイルビス様の子で有っても無くても暗殺の対象になる」
「街中に影の者達がいるということですね」 ∴影の者=スパイ
「城内にもいるぞ」
それを聞くと、ジョエルは黙り込んだ。
無事に記しのある大木を見つけ右手の小道を見つけた。獣道と大差ない小道だがきれいに下生えを刈ってある。
道なりに進んで行くと、犬の吠える声が聞こえてきた。
二人は顔を見合わせて頷き合う。
犬の吠える声が益々激しくなり、狩猟小屋に辿り着いたが、コトリとも音はせず小屋は真っ暗だった。
「誰もいないんですかね?」なぜかジョエルは小声で喋った。
「取り敢えず、馬を家畜小屋に入れさせて貰おう」狩猟小屋の回りはレンガと太い木の堅牢な柵が張り巡らされ、家畜小屋も頑丈な造りになっている。
ドンドンと扉を叩いた。暫くすると扉の内側から高い子供の声がした。
「どなたですか?」
「済まない、狩りの途中で道に迷ってしまった」すると、覗き窓がずらされ子供の顔が少しだけ覗いた。
中は真っ暗のようで、顔は影になって見えない。
「道案内が必要ですか?」
「いや、外はもう真っ暗だ、出来たら二人とも今晩泊めて貰いたい」
子供は躊躇っているようだ。他に人の気配は無い。
(フランクはどうしたのだろう、子供一人では中に入れて貰えないかもしれない)
「あの俺達怪しい者じゃないです。野宿は狼がおっかなくて。そうだ、ほら今日は大猟で兎が6羽も獲れたんですよ」兎を掲げて見せた。ジョエルの人当たりのいい柔らかな物言いが功を奏したのか、子供が扉を開けてくれた。
戸口に現われた子供の頭は月明かりに銀色に輝いた。そして、大きな紫色の瞳で俺達を見上げた。
「俺はバルト、こっちはジョエルだ、よろしく」挨拶して手を差し出した。
「僕はアレンです。何のお構いもできませんが、どうぞ中に入ってください」彼はしっかりと挨拶して手を握り返してくれた。
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