上 下
14 / 107
第二章

第十四話▪ベルファウスト東の森

しおりを挟む
 騎士バルトは衛士のジョエルを伴ってフォートランド城下へ引き返してきた。
 二人は伯爵から密命を受け、農夫を装いワイリー牧場にルイーズ親子の行方を探りに行ったが、そこで聞いた話は酷い物だった。

 (伯爵様になんとお伝えしたらいいか・・・)道すがら、バルトの横で若いジョエルは憤慨ふんがいし、ワイリーと言う牧場主の事をさんざん扱き下ろしていたが、深く考え込んでいたバルトの耳には全く入って来なかった。
 (これで、その子の死が確実ならば、フォートランド領の安定は一気に崩れ去ることだろう。いや、まだその子がイルビス様の御子と決まった訳でもないし、第一、魔力があるかどうかも分からない・・・)

 丁度、外門に着いた時「聞いてますか?バル、・・バ、バートンさん」ジョエルは途中でバルトに睨まれ、慌てて言い直す。彼らは帽子を目深く被り、名前を変え農民に変装していた。
 騎士バルトの名前は広く知られている。

 「なんの話だ?ジョン」
 「だから!ワイリーの奴が酷い奴だって言う話ですよ」興奮して、ジョエルの声が大きくなった。

 「ワイリー?ワイリーの奴が又、なんかやらかしたのか?」側に立っていた門衛が話を聞きつけて問い掛けて来た。
 「いやね、二人して雇って貰おうと訪ねて行ったんですがね、全くケチな旦那でしたね」バルトはジョエルを制止て代わりに答えた。
 「あぁ、全くだ、あいつは酷い奴で、あそこで働けば死ぬまで働かされるぜ」と、その門衛は返した。

 「とは穏やかじゃありませんね、なんかあったんですかい?」

 「まあな、俺の知ってる親子が酷い目に遭ったんだ」
 「その話を詳しく聞きたいな。実は給金は安かったけど結局雇って貰う事にしたんだが、辞めた方が無難かな?」
 「そうだな、あそこで朝から晩まで働かされていた親子が病気になった途端、ベルファウストの森に置き去りされたんだ。」
 「その、親子はどうなりましたか?」
 「分からんな。聞いた話じゃ、ベルファウストの南の森を三日間掛けて探したそうだが何も分からず仕舞いよ。その親子が置き去りにされた場所には焼けて黒ずんだ薪が散乱してたが、血の跡もなんもなかったらしい」

 「血の跡?」
 「ああ。狼の足跡やフンは見つかったみたいだが、その・・ほれ、狼どもも流石に服とか靴とかは食わねえだろ?それらがねえのよ。死体を引き摺った痕も無かったみたいだぜ」

 「そう言や、捜索に加わったフッドがよ、つい最近隣町で見かけたらしいぜ」別の門衛が割込んで来た。
 「へえ、そりゃ本当か?それならボイルに知らせてやんないと」
 「いや、確かな話じゃないんだ。フッドはその子の顔を知らないらしいし、見たと言っても後ろ姿だけらしい只、その子が銀髪だったそうだ」
 「なるほどな、それだけじゃボイルの奴を糠喜びさせるだけだな」

 「隣町とはベルファウストの東の森近くの東エルデ町のことですか?」バルトは尋ねた。
 「ああ、そうだよ。東の森を根城にしてるフランクと言う名の狩人が連れてたらしい。でも、周りの店主に聞いたら遠縁の子を預かってると話してたそうだ」

 バルトとジョエルは急いで街中に戻った。

 「どうしますか?一旦、用意を整えにお城に戻りますか?」
 「いや、時間が惜しい。どこかで馬を借りてエルデ町まで飛ばそう。食料は聞き込みしながらあっちで手に入れよう、そうして今日中にそのフランクの狩猟小屋に辿り着くんだ」

 「でも、今からじゃ、どんなに急いでも森に入る頃には日が暮れてしまいますよ」
 「そうさ、丁度いいじゃないか。道に迷ったと言い訳が立つ。小屋を突然訪ねてもおかしくない」
 「でも、狼がでるんでしょう」
 「ベルファウストの森じゃ、どこも同じさ。それに俺は剣、お前は弓も上手いだろう。ついでに鉄砲と絞めた兎も手に入れよう」

 二人は馬を手に入れ外門を再び通り抜けた、門衛は交代した後だったので問題なく通過できた。
             


             
             ・
             ・              
             ・
             ・

 「ほんとにこの道であってるですか?」二人は情報を無事に仕入れ、ベルファウストの東の森の川沿いに進んでいた。
 「ああ。しばらく行くと右に小道が見える筈だ、それさえ見落とさなければ大丈夫だ。後は道なりに行けば着く筈だ」
 もう辺りは暗くなってきており、ジョエルは不安になって来ていた。

 「どうしてそんなに急ぐんですか?」
 「噂が立つのは早い。あの子が生きているのが知れて、誰かが探しているのが分かれば、誰が探しているのか、どうして孤児をわざわざ探すのか、詮索好きは何処にでもいる。そうなると、あの子がイルビス様の子で有っても無くても暗殺の対象になる」
 「街中に影の者達がいるということですね」  ∴影の者=スパイ
 「城内にもいるぞ」
 それを聞くと、ジョエルは黙り込んだ。

 無事に記しのある大木を見つけ右手の小道を見つけた。獣道と大差ない小道だがきれいに下生えを刈ってある。
 道なりに進んで行くと、犬の吠える声が聞こえてきた。
 二人は顔を見合わせて頷き合う。

 犬の吠える声が益々激しくなり、狩猟小屋に辿り着いたが、コトリとも音はせず小屋は真っ暗だった。
 「誰もいないんですかね?」なぜかジョエルは小声で喋った。
 「取り敢えず、馬を家畜小屋に入れさせて貰おう」狩猟小屋の回りはレンガと太い木の堅牢な柵が張り巡らされ、家畜小屋も頑丈な造りになっている。

 ドンドンと扉を叩いた。暫くすると扉の内側から高い子供の声がした。
 「どなたですか?」
 「済まない、狩りの途中で道に迷ってしまった」すると、覗き窓がずらされ子供の顔が少しだけ覗いた。
 中は真っ暗のようで、顔は影になって見えない。
 「道案内が必要ですか?」
 「いや、外はもう真っ暗だ、出来たら二人とも今晩泊めて貰いたい」
 子供は躊躇っているようだ。他に人の気配は無い。
 (フランクはどうしたのだろう、子供一人では中に入れて貰えないかもしれない)

 「あの俺達怪しい者じゃないです。野宿は狼がおっかなくて。そうだ、ほら今日は大猟で兎が6羽も獲れたんですよ」兎を掲げて見せた。ジョエルの人当たりのいい柔らかな物言いが功を奏したのか、子供が扉を開けてくれた。

 戸口に現われた子供の頭は月明かりに銀色に輝いた。そして、大きな紫色の瞳で俺達を見上げた。

 「俺はバルト、こっちはジョエルだ、よろしく」挨拶して手を差し出した。

 「僕はアレンです。何のお構いもできませんが、どうぞ中に入ってください」彼はしっかりと挨拶して手を握り返してくれた。



+++次回+++

第十五話・アレン、フォートランド城に向かう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

(完結)嫌われ妻は前世を思い出す(全5話)

青空一夏
恋愛
私は、愛馬から落馬して、前世を思いだしてしまう。前世の私は、日本という国で高校生になったばかりだった。そして、ここは、明らかに日本ではない。目覚めた部屋は豪華すぎて、西洋の中世の時代の侍女の服装の女性が入って来て私を「王女様」と呼んだ。 さらに、綺麗な男性は、私の夫だという。しかも、私とその夫とは、どうやら嫌いあっていたようだ。 些細な誤解がきっかけで、素直になれない夫婦が仲良しになっていくだけのお話。 嫌われ妻が、前世の記憶を取り戻して、冷え切った夫婦仲が改善していく様子を描くよくある設定の物語です。※ざまぁ、残酷シーンはありません。ほのぼの系。 ※フリー画像を使用しています。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

処理中です...