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第一章
第九話・アレンと母ルイーズ、ワイリー牧場を追い出される。
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ルイーズは高熱が続いた。
アレンはずっと側で看病していたかったがワイリーにルイーズの分まで働けとこき使われていた。
羊番の時には熱に効く薬草を探して飲ませたが少しは下がっても又、熱が出る。
煎じる為の道具を持っていないので、ただ石で叩いて磨り潰すぐらいしかできなかった。
それはとても青臭くて熱の高いルイーズは戻してしまうのだった。
なにぶん納屋は寒い、扉も昼間は開けっぱなしだし、土埃も舞い上がる。そして、馬房の床は土だ。
病人を置ける環境ではなかった。
夜もルイーズの側を離れる訳にいかず、街から遠のいたアレンはグレンやメリンダ達からの支援も受けられなかった。
八日ほど経ったころ漸く高熱は下がり出したが体力の弱りきったルイーズは起き上がる事ができなかった。
ボイルが夜にそっとやって来た。姿を見せないアレンを心配して、ハデスにそれとなく探りを入れたらしい。
「ほんと、ばれないか冷や冷やしたよ」
「それと、これ差し入れ。メリンダさんから」
「やぎのヨーレットだよ、病人には食べ易いからって。それと、咳に効くお薬と山ぐくりの湿布。胸に貼るらしいよ」
「これはグレンさんから、惣菜パンの差し入れ。卵サンドはおかあさんに、だって」
メリンダはアレンとボイルが友達になったのを知っていて、ボイルが様子を見に行く時には必ず声を掛けてくれと頼んでいた。
「これは俺のかあちゃんから、身体にいいスープ。作って貰ったんだ」まだ暖かい吸い筒を渡してくれた。
「それからさ、俺は何にも持ってないから、これお母さんが良くなったら一緒に遊んで」そう言うとカードゲームを差し出した。
「これ大事にしてたんじゃないの?」
「うぅん。いいんだ。アレンが持っていたら一緒に遊べるだろ。同じことさ」
「大切にするよ」アレンの大きな瞳から涙が零れた。
「わ、わ、アレン」ボイルはどうしていいか分からずオタオタする。
ルイーズが病気になって、なんの力もない自分が悔しくて悲しくて、誰からも顧みられず、世界にたった一人ぼっちになった気分だったのだ。
「ごめん、びっくりさせたね。凄く、凄く、嬉しかったんだ。ほんとうにありがとう、ボイル」と、とびきりの笑顔で答えた。
涙を湛えたアレンの瞳は紫水晶のようだと場違いな感想を持ったボイルはただ、ただ頷くばかりだった。
少し話すとボイルは帰って行った。牧場の入り口で父親が待っているからと。
翌々日も、差し入れを持ってボイルはやって来た。
それから間もなく、皆からの差し入れが功を奏したのかルイーズは微熱も下がり、漸く起きる事ができた。
しかし、待ってましたとばかりに早速、牧場の仕事が課せられる。
ルイーズはだるい身体を引きずるようにして働いたのでアレンは心配でならなかった。
そして、とうとうルイーズは血を吐いて倒れてしまった。
血を吐くのは肺の病とされ、その病に効く薬はなく、罹った者はほぼ助からない死病だとされていた。
ルイーズが馬房に寝かされて五日ほど経った頃だった。
「アレン、大変だ。母ちゃんが連れていかれたぞ」牧童の一人が放牧から帰って来たばかりのアレンを見つけて知らせてくれた。
「どこに?」アレンは既に泣きそうだ。
「今なら追いつくと思うぜ。牧場の北裏手の入り口の方に荷馬車で向かったよ」
アレンはす直ぐさま飛び出して行った。
それを見ていた別の牧童が呟いた「余計なことを・・・」
「なに!どう言う事だ!」
「ふん。北裏手の入り口の方は街に行く道じゃない」
「どう言うこった?」
「だから、あの業突く張りのワイリーがルイーズを医者に見せる訳ねえだろーが」
「・・・じゃあ、じゃあ、もしかして?」
「おうよ。ベルファウストの森に捨てに行ったんじゃねーの」
「だったら、なおさらアレンに教えてやらないと」
「はっ、あのワイリーがアレンの言う事なんざ聞く訳がねえ」
「・・・・・・」
「・・・たぶん、アレンは母親の側を離れねえ。一緒に捨てられのが落ちサ」
「じゃあ、俺のしたことは・・・」
「だから余計な世話だと言ったろ。知らなけりゃ、後を追う事もできなかったのにな」
「おまえ、冷たい奴だな!それがわかってるんなら、何とかしろよ!」
男はジロッと睨み付ける。
「だったら、お前がアレンを引き取ってやれるのか?俺のとこは無理だ、七人家族で精一杯だ。おまけにワイリーに首にされてみろ!一家全員が路頭に迷う事になるんだぞっ!」
牧童は何も言えなくなった。先の鉄砲水で給金がへり、皆自分の事で精一杯なのだ。
アレンはずっと側で看病していたかったがワイリーにルイーズの分まで働けとこき使われていた。
羊番の時には熱に効く薬草を探して飲ませたが少しは下がっても又、熱が出る。
煎じる為の道具を持っていないので、ただ石で叩いて磨り潰すぐらいしかできなかった。
それはとても青臭くて熱の高いルイーズは戻してしまうのだった。
なにぶん納屋は寒い、扉も昼間は開けっぱなしだし、土埃も舞い上がる。そして、馬房の床は土だ。
病人を置ける環境ではなかった。
夜もルイーズの側を離れる訳にいかず、街から遠のいたアレンはグレンやメリンダ達からの支援も受けられなかった。
八日ほど経ったころ漸く高熱は下がり出したが体力の弱りきったルイーズは起き上がる事ができなかった。
ボイルが夜にそっとやって来た。姿を見せないアレンを心配して、ハデスにそれとなく探りを入れたらしい。
「ほんと、ばれないか冷や冷やしたよ」
「それと、これ差し入れ。メリンダさんから」
「やぎのヨーレットだよ、病人には食べ易いからって。それと、咳に効くお薬と山ぐくりの湿布。胸に貼るらしいよ」
「これはグレンさんから、惣菜パンの差し入れ。卵サンドはおかあさんに、だって」
メリンダはアレンとボイルが友達になったのを知っていて、ボイルが様子を見に行く時には必ず声を掛けてくれと頼んでいた。
「これは俺のかあちゃんから、身体にいいスープ。作って貰ったんだ」まだ暖かい吸い筒を渡してくれた。
「それからさ、俺は何にも持ってないから、これお母さんが良くなったら一緒に遊んで」そう言うとカードゲームを差し出した。
「これ大事にしてたんじゃないの?」
「うぅん。いいんだ。アレンが持っていたら一緒に遊べるだろ。同じことさ」
「大切にするよ」アレンの大きな瞳から涙が零れた。
「わ、わ、アレン」ボイルはどうしていいか分からずオタオタする。
ルイーズが病気になって、なんの力もない自分が悔しくて悲しくて、誰からも顧みられず、世界にたった一人ぼっちになった気分だったのだ。
「ごめん、びっくりさせたね。凄く、凄く、嬉しかったんだ。ほんとうにありがとう、ボイル」と、とびきりの笑顔で答えた。
涙を湛えたアレンの瞳は紫水晶のようだと場違いな感想を持ったボイルはただ、ただ頷くばかりだった。
少し話すとボイルは帰って行った。牧場の入り口で父親が待っているからと。
翌々日も、差し入れを持ってボイルはやって来た。
それから間もなく、皆からの差し入れが功を奏したのかルイーズは微熱も下がり、漸く起きる事ができた。
しかし、待ってましたとばかりに早速、牧場の仕事が課せられる。
ルイーズはだるい身体を引きずるようにして働いたのでアレンは心配でならなかった。
そして、とうとうルイーズは血を吐いて倒れてしまった。
血を吐くのは肺の病とされ、その病に効く薬はなく、罹った者はほぼ助からない死病だとされていた。
ルイーズが馬房に寝かされて五日ほど経った頃だった。
「アレン、大変だ。母ちゃんが連れていかれたぞ」牧童の一人が放牧から帰って来たばかりのアレンを見つけて知らせてくれた。
「どこに?」アレンは既に泣きそうだ。
「今なら追いつくと思うぜ。牧場の北裏手の入り口の方に荷馬車で向かったよ」
アレンはす直ぐさま飛び出して行った。
それを見ていた別の牧童が呟いた「余計なことを・・・」
「なに!どう言う事だ!」
「ふん。北裏手の入り口の方は街に行く道じゃない」
「どう言うこった?」
「だから、あの業突く張りのワイリーがルイーズを医者に見せる訳ねえだろーが」
「・・・じゃあ、じゃあ、もしかして?」
「おうよ。ベルファウストの森に捨てに行ったんじゃねーの」
「だったら、なおさらアレンに教えてやらないと」
「はっ、あのワイリーがアレンの言う事なんざ聞く訳がねえ」
「・・・・・・」
「・・・たぶん、アレンは母親の側を離れねえ。一緒に捨てられのが落ちサ」
「じゃあ、俺のしたことは・・・」
「だから余計な世話だと言ったろ。知らなけりゃ、後を追う事もできなかったのにな」
「おまえ、冷たい奴だな!それがわかってるんなら、何とかしろよ!」
男はジロッと睨み付ける。
「だったら、お前がアレンを引き取ってやれるのか?俺のとこは無理だ、七人家族で精一杯だ。おまけにワイリーに首にされてみろ!一家全員が路頭に迷う事になるんだぞっ!」
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