上 下
5 / 107
第一章

第三話・居酒屋《ガストン》

しおりを挟む
 店の戸口に又、別の人影が立ち二人に声を掛けた。
 「メリンダいつまでさぼってるつもりだい」
 「あっ、おかみさん。ごめんなさい」
 「まったく、アレンが困ってるだろ、それにその擦り傷を早く手当てしておやり。」そう言うと、戸口を大きく開き二人を指し招いた。

 「ごめんねアレン痛いだろ。さあ、中へお入り、ちっとばかし汚くて五月蝿いけど」アレンはメリンダに手を引かれて店の中に入った。
 「汚いは余計だろ、メリンダ」
 「五月蝿いーはいい~んだ」と酔っ払いの一人が茶々を入れた。
 「あんたら酔っ払いが騒ぐんだから本当の事だろ。減らず口を叩いてる暇があったらさっさと、そこを空けとくれ」おかみはそう言うと、その酔っ払いを席から追い出した。
 「ひでーおかみだ」酔っ払いも周りの客と一緒になって笑いだした。

 おかみは気にする事なく空いた席をアレンに運んで来た。
 メリンダは再びアレンを膝の上に抱き上げる。

「いいなあ~、いいなあ~、膝抱っこ」「俺達にもしてくれよ、メリンダ~」それを見た酔っ払い達が囃し立てた。 メリンダは燃えるような赤毛に緑の眼をしたかわいい娘で、その可愛い顔と豊満な胸と括れた腰が評判の看板娘の一人だった。

 「うるさいわね。私の膝はアレン専用なのよ。酔っ払いなんて真っ平ごめんだね。い~だ」メリンダはかわいい顔を顰めて舌を突き出した。
 「まったく、客を大事にしない店だな~」
 「嫌なら余所へ行くんだね。但し、ちゃ~んと付けを払ってから行っとくれ」

 この店ならではのいつもの客との掛け合いだ。酔っ払い達も気にする事なくげらげら笑い合っている。

 「アレ~ン」そこにもう一人の金髪美女がやって来て、酔っ払いを尻で席から追い出しメリンダの膝からアレンを取り上げ自分の膝にさっと移し替えた。
 「ひでぇ」
 「ひどい」尻餅をついた客とメリンダの声が重なった。どっと笑い声が店内にあふれかえった。

 「マサラ、酷いじゃない。アレンを返して」
 「今度は私の番。アレンは私にとっても癒しなの。はいどーぞ」マサラはそう言うと、メリンダの方に持って来た傷薬を差し出した。
 「しかたないわね」メリンダはぶつぶつ言いながらも薬を受け取りアレンの足元に屈み込んだ。

 (うぅ、はずかしい)アレンはされるがままだ、ここで膝抱っこが恥ずかしいと下りてしまったら、二人のアレンの取り合いが始まってしまい余計に注目を浴びる事になるのが分かっているのでじっと我慢するのであった。

 アレンの足を膝に乗せながらそっと傷薬を垂らした。
 「痛くない?」同じように傷口を覗き込んだマサラが心配そうに囁いた。

 その遣り取りを見ていた客の一人が囁いた「ありゃあ何処の子だ?」
 「知らないのか?ワイリーのとこの居候だよ」
 「居候?」
 別の客が返事した「ワイリーのとこのルイーズの子供だよ」
 「ワイリーの息子って事かい?」
 「違う違う、父無し子だよ。私生児さ」

 はらはらとやり取りを聞いていたメリンダはアレンを「私生児」呼ばわりした男をキッと睨みつけた。

 「おお~恐」酔っ払い達はひそひそ囁き合った。

 「ごめんね。アレン」男の変わりにメリンダが謝ってきた。
 「ううん。気にしてないから、傷の手当てありがとう。メリンダさん、マサラさん」アレンはそう言うだけで精一杯だった。
 ここ、《ガストン》はおかみさんをはじめ、マサラやメリンダは本当にアレンの事を心配し優しくしてくれる。ワイリー牧場での扱いに比べると正に天国と地獄だ。(ほんとうに優しくて暖かい人達だ)だから、アレンは胸一杯で涙を一生懸命我慢しているのだった。

 それを見た客の一人が勘違いして「メリンダの傷の手当てが荒いから痛いのを我慢してるみたいだぞ」とからかってきた。
 それを真に受けたメリンダは「えっ、ごめんアレン痛かった?」と焦りだしたので、「全然、大丈夫です」と慌てて否定した。

 実はメリンダはアレンの母親のルイーズと知り合いだった。短い間だったがフォートランド城の下働きとして一緒に働いた事があったのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)嫌われ妻は前世を思い出す(全5話)

青空一夏
恋愛
私は、愛馬から落馬して、前世を思いだしてしまう。前世の私は、日本という国で高校生になったばかりだった。そして、ここは、明らかに日本ではない。目覚めた部屋は豪華すぎて、西洋の中世の時代の侍女の服装の女性が入って来て私を「王女様」と呼んだ。 さらに、綺麗な男性は、私の夫だという。しかも、私とその夫とは、どうやら嫌いあっていたようだ。 些細な誤解がきっかけで、素直になれない夫婦が仲良しになっていくだけのお話。 嫌われ妻が、前世の記憶を取り戻して、冷え切った夫婦仲が改善していく様子を描くよくある設定の物語です。※ざまぁ、残酷シーンはありません。ほのぼの系。 ※フリー画像を使用しています。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...