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第一章
第三話・居酒屋《ガストン》
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店の戸口に又、別の人影が立ち二人に声を掛けた。
「メリンダいつまでさぼってるつもりだい」
「あっ、おかみさん。ごめんなさい」
「まったく、アレンが困ってるだろ、それにその擦り傷を早く手当てしておやり。」そう言うと、戸口を大きく開き二人を指し招いた。
「ごめんねアレン痛いだろ。さあ、中へお入り、ちっとばかし汚くて五月蝿いけど」アレンはメリンダに手を引かれて店の中に入った。
「汚いは余計だろ、メリンダ」
「五月蝿いーはいい~んだ」と酔っ払いの一人が茶々を入れた。
「あんたら酔っ払いが騒ぐんだから本当の事だろ。減らず口を叩いてる暇があったらさっさと、そこを空けとくれ」おかみはそう言うと、その酔っ払いを席から追い出した。
「ひでーおかみだ」酔っ払いも周りの客と一緒になって笑いだした。
おかみは気にする事なく空いた席をアレンに運んで来た。
メリンダは再びアレンを膝の上に抱き上げる。
「いいなあ~、いいなあ~、膝抱っこ」「俺達にもしてくれよ、メリンダ~」それを見た酔っ払い達が囃し立てた。 メリンダは燃えるような赤毛に緑の眼をしたかわいい娘で、その可愛い顔と豊満な胸と括れた腰が評判の看板娘の一人だった。
「うるさいわね。私の膝はアレン専用なのよ。酔っ払いなんて真っ平ごめんだね。い~だ」メリンダはかわいい顔を顰めて舌を突き出した。
「まったく、客を大事にしない店だな~」
「嫌なら余所へ行くんだね。但し、ちゃ~んと付けを払ってから行っとくれ」
この店ならではのいつもの客との掛け合いだ。酔っ払い達も気にする事なくげらげら笑い合っている。
「アレ~ン」そこにもう一人の金髪美女がやって来て、酔っ払いを尻で席から追い出しメリンダの膝からアレンを取り上げ自分の膝にさっと移し替えた。
「ひでぇ」
「ひどい」尻餅をついた客とメリンダの声が重なった。どっと笑い声が店内にあふれかえった。
「マサラ、酷いじゃない。アレンを返して」
「今度は私の番。アレンは私にとっても癒しなの。はいどーぞ」マサラはそう言うと、メリンダの方に持って来た傷薬を差し出した。
「しかたないわね」メリンダはぶつぶつ言いながらも薬を受け取りアレンの足元に屈み込んだ。
(うぅ、はずかしい)アレンはされるがままだ、ここで膝抱っこが恥ずかしいと下りてしまったら、二人のアレンの取り合いが始まってしまい余計に注目を浴びる事になるのが分かっているのでじっと我慢するのであった。
アレンの足を膝に乗せながらそっと傷薬を垂らした。
「痛くない?」同じように傷口を覗き込んだマサラが心配そうに囁いた。
その遣り取りを見ていた客の一人が囁いた「ありゃあ何処の子だ?」
「知らないのか?ワイリーのとこの居候だよ」
「居候?」
別の客が返事した「ワイリーのとこのルイーズの子供だよ」
「ワイリーの息子って事かい?」
「違う違う、父無し子だよ。私生児さ」
はらはらとやり取りを聞いていたメリンダはアレンを「私生児」呼ばわりした男をキッと睨みつけた。
「おお~恐」酔っ払い達はひそひそ囁き合った。
「ごめんね。アレン」男の変わりにメリンダが謝ってきた。
「ううん。気にしてないから、傷の手当てありがとう。メリンダさん、マサラさん」アレンはそう言うだけで精一杯だった。
ここ、《ガストン》はおかみさんをはじめ、マサラやメリンダは本当にアレンの事を心配し優しくしてくれる。ワイリー牧場での扱いに比べると正に天国と地獄だ。(ほんとうに優しくて暖かい人達だ)だから、アレンは胸一杯で涙を一生懸命我慢しているのだった。
それを見た客の一人が勘違いして「メリンダの傷の手当てが荒いから痛いのを我慢してるみたいだぞ」とからかってきた。
それを真に受けたメリンダは「えっ、ごめんアレン痛かった?」と焦りだしたので、「全然、大丈夫です」と慌てて否定した。
実はメリンダはアレンの母親のルイーズと知り合いだった。短い間だったがフォートランド城の下働きとして一緒に働いた事があったのだった。
「メリンダいつまでさぼってるつもりだい」
「あっ、おかみさん。ごめんなさい」
「まったく、アレンが困ってるだろ、それにその擦り傷を早く手当てしておやり。」そう言うと、戸口を大きく開き二人を指し招いた。
「ごめんねアレン痛いだろ。さあ、中へお入り、ちっとばかし汚くて五月蝿いけど」アレンはメリンダに手を引かれて店の中に入った。
「汚いは余計だろ、メリンダ」
「五月蝿いーはいい~んだ」と酔っ払いの一人が茶々を入れた。
「あんたら酔っ払いが騒ぐんだから本当の事だろ。減らず口を叩いてる暇があったらさっさと、そこを空けとくれ」おかみはそう言うと、その酔っ払いを席から追い出した。
「ひでーおかみだ」酔っ払いも周りの客と一緒になって笑いだした。
おかみは気にする事なく空いた席をアレンに運んで来た。
メリンダは再びアレンを膝の上に抱き上げる。
「いいなあ~、いいなあ~、膝抱っこ」「俺達にもしてくれよ、メリンダ~」それを見た酔っ払い達が囃し立てた。 メリンダは燃えるような赤毛に緑の眼をしたかわいい娘で、その可愛い顔と豊満な胸と括れた腰が評判の看板娘の一人だった。
「うるさいわね。私の膝はアレン専用なのよ。酔っ払いなんて真っ平ごめんだね。い~だ」メリンダはかわいい顔を顰めて舌を突き出した。
「まったく、客を大事にしない店だな~」
「嫌なら余所へ行くんだね。但し、ちゃ~んと付けを払ってから行っとくれ」
この店ならではのいつもの客との掛け合いだ。酔っ払い達も気にする事なくげらげら笑い合っている。
「アレ~ン」そこにもう一人の金髪美女がやって来て、酔っ払いを尻で席から追い出しメリンダの膝からアレンを取り上げ自分の膝にさっと移し替えた。
「ひでぇ」
「ひどい」尻餅をついた客とメリンダの声が重なった。どっと笑い声が店内にあふれかえった。
「マサラ、酷いじゃない。アレンを返して」
「今度は私の番。アレンは私にとっても癒しなの。はいどーぞ」マサラはそう言うと、メリンダの方に持って来た傷薬を差し出した。
「しかたないわね」メリンダはぶつぶつ言いながらも薬を受け取りアレンの足元に屈み込んだ。
(うぅ、はずかしい)アレンはされるがままだ、ここで膝抱っこが恥ずかしいと下りてしまったら、二人のアレンの取り合いが始まってしまい余計に注目を浴びる事になるのが分かっているのでじっと我慢するのであった。
アレンの足を膝に乗せながらそっと傷薬を垂らした。
「痛くない?」同じように傷口を覗き込んだマサラが心配そうに囁いた。
その遣り取りを見ていた客の一人が囁いた「ありゃあ何処の子だ?」
「知らないのか?ワイリーのとこの居候だよ」
「居候?」
別の客が返事した「ワイリーのとこのルイーズの子供だよ」
「ワイリーの息子って事かい?」
「違う違う、父無し子だよ。私生児さ」
はらはらとやり取りを聞いていたメリンダはアレンを「私生児」呼ばわりした男をキッと睨みつけた。
「おお~恐」酔っ払い達はひそひそ囁き合った。
「ごめんね。アレン」男の変わりにメリンダが謝ってきた。
「ううん。気にしてないから、傷の手当てありがとう。メリンダさん、マサラさん」アレンはそう言うだけで精一杯だった。
ここ、《ガストン》はおかみさんをはじめ、マサラやメリンダは本当にアレンの事を心配し優しくしてくれる。ワイリー牧場での扱いに比べると正に天国と地獄だ。(ほんとうに優しくて暖かい人達だ)だから、アレンは胸一杯で涙を一生懸命我慢しているのだった。
それを見た客の一人が勘違いして「メリンダの傷の手当てが荒いから痛いのを我慢してるみたいだぞ」とからかってきた。
それを真に受けたメリンダは「えっ、ごめんアレン痛かった?」と焦りだしたので、「全然、大丈夫です」と慌てて否定した。
実はメリンダはアレンの母親のルイーズと知り合いだった。短い間だったがフォートランド城の下働きとして一緒に働いた事があったのだった。
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