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還ってきた「辺境の街」編

第123話 大天使ザリエル

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「えっと、あの、う~んと……死んでください?」

 目の前のM字開脚パンチラ天使女は、ぬけぬけとそう抜かしやがった。

「なんでだよ!」

「ひぃっ……! 間違った! そして人間ごときに怒鳴られた! しかも二回も!」

「あぁ? ずいぶんと失礼なやつだな、こいつ……」

 なんだか魔物に捕らわれてる時のことを思い出す。
 違うとすれば……オレを食べようとはしてないことか。

「え~っと、じゃあ、んと……あなたを食べさせてください!」

「お前も食う気なのかよ!」

「えぇ……!? なんかダメでした!?」

「ダメに決まってんだろうが! テメェは食わせてくださいって言われて、素直に『はい、どうぞ』って食わせるのか!? あぁん!?」

「う~ん、でもあなた人間ですし……?」

「お前……人間を何だと思ってんだ!」

「なんでしょう? ゴミ?」

 こ、こいつ……。
 まったく悪気なく言ってやがる……。

 まてまてまてまて。
 オレはこいつを利用してこのゼウスの張った結界から脱出しなくちゃいけないんだ。
 だから、この間抜けでトンマですっとろそうな女天使ザリエルならくみやすそうだと思ったんだが……。

 ちょっと……調子が狂う……。
 なんだなんだ?
 みんなこんな感じなのか?
 天使とか神とかってのはよ?

「え、もしかしてゴミって言われて怒ってたりします? 人間のくせにプライドとかってあるんですか? う~ん、でもゴミはゴミだからなぁ……。ゴミっていうか、ただの神力しんりょくの供給源……?」

 神力。
 ようするに信仰心みたいなもんか?
 このオレを閉じ込めてる忌々しい結界も、もしかしてその神力とかで出来てたりする?
 だから魔力を使うオレのスキルと相反するのか?
 いや、でもゼウスもこいつも表示されてるステータスは『魔力』だしなぁ……。

 まぁ、いい。
 なんでこいつがオレを食おうとしてるのか。
 それを知るとこからだな。

「なんでオレを食べたいわけ?」

 まずは直球を投げかけてみる。

「へぇ? そりゃあ……あ~、え~~~っと……」

「なんだ? なにか言いづらいことでも? 神や天使ってのはみんな人間を食うもんなのか?」

「えぇ~!? く、食わないですよ、気持ち悪い! そもそも私たちは『食べる』だなんて低次元な行為をする必要もないですし!」

「じゃあ、なんでオレを食おうとしてんだよ? あ?」

「うぅ……そんなに凄まなくてもいいじゃないですか……人間のくせに……」

 こいつ、語り口調は丁寧なくせに、めちゃくちゃナチュラルに人間を見下してんだよな……。
 金髪。
 ボブカット。
 空みたいなあお色の瞳。
 ちっちゃい鼻に、アホみたいに半開きの口。
 スタイルはいいらしく、白いローブの布地がぱっつんぱっつんに張っている。

「おう、悪かったな。こっちも急にこんなとこに閉じ込められてちょっと苛立いらだってたんだよ。な、わかるだろ? 大目に見てくれよ、天使様」

 押して、引く。
 そして持ち上げる。
 スキル【狡猾モア・カニング】さんの駆け引き術の前に、アホそうな女天使はコロっと上機嫌になった。

「あはは! そう! 私は偉大なる天使、ザリエル! 愚かなる人間ごときが目にかかれるような存在ではないのです! えっへん!」

 ふふんと鼻息をあらくしてデカい胸を張るザリエル。

(この胸のボリュームだけは、リサとは正反対だな……)

 ん?
 というか今、鼻息がオレの顔にかかったよな?
 となれば……。

「ふぅ~!」

「きゃっ……! な、なにするんですか……!? 急に息なんか吹きかけて……!」

 ふむ。
 息はこの結界を通り抜けられる。

「ぺっぺっぺっ!」

「わわ~! 今度はツバ!? きたなっ! ばっちい! これだから人間は!」

 ツバもOK。

 ポイッ。

 履いてたブーツを放り投げてみる。

 ガッ、ゴトッ──ポトリ。

 ブーツは無理。
 ということは、気体か液体なら通り抜けられるってことか?
 【変身トランスフォーム】が使えたら……スライムなんかに変身して抜け出せただろうに。
 ってことは、結局こいつから情報を引き出して活路を見出すしかないってことか。

「な、なんですかっ! 急に私の顔をそんなにジロジロ見て! し、失礼ですよ!?」

「わりぃな、あんまり綺麗なもんで見とれてたよ」

 ボンッ!

「ききききき、綺麗、キレイ、きれ……! あわあわあわあわ……あはははは……! に、人間もちょっとは見る目があるじゃないですか! でも、なんで見とれてたら靴を投げたりツバを吐きかけたりするんですか? やっぱ人間って猿と大差ない愚かな生き物なのですね……」

 うん。
 オレ、確信。
 こいつチョロいわ。

「美しき天使ザリエル様。一体どうしてオレを食おうとするのか、哀れな人間に慈悲を持ってお教えください!」

「う、うむ! いいでしょう……そ、そこまで言うのであれば教えましょう……! なんてったって私は美しくて慈悲深く賢い正義の天使ザリエル様ですからね!」

 鼻の下を伸ばして嬉しそうに頬をヒクヒクさせながら得意げに胸を張るザリエル。

「あぁ、天使様! 一体私のような者を食べる理由とは……!? いいえ、食べられることに抵抗があるわけではございません! ただ……せめて天使様に食べて頂く前に、その理由を知って納得してからこの生涯を終えたいのです!」

 【狡猾モア・カニング】のおかげで芝居がかったセリフがスラスラと口から出てくる。
 そしてオレに持ち上げられまくったザリエルは頬を紅潮させていき、嬉しそうにプルプルと震えている。

「うひっ……い、いいでしょう! ならばお教えしましょう! 私、ザリエルは鑑定士であるあなたを食べ、さらに上位たる存在へと進化し!」

「進化し?」

「人間界へと降臨して!」

「降臨して?」

「人を一人殺さねばならないのです!」

「おお、その殺すべき人間とは一体誰なのでしょう!?」

「ふふ……いいでしょう、殊勝な子羊たるあなたに免じてお教えしましょう。私が殺さなければならない人間の名はっ!」

「名は?」

「ドミー・ボウガン! 私が間違って異世界から召喚してしまった異分子です!」

 へぇ~。

「なるほど! では、偉大なる天使ザリエル様にひとつご提案が!」

 じゃあ──。

「なんですか? ま、人間の言うことです。どうせ他愛たわいもないことでしょう。いいでしょう、言ってみなさい」

 その目的さえ果たしてやれば、オレは──。

「はい。偉大なる正義の天使ザリエル様。それであればオレが人間界へと下りて、そいつを──」

 生きられるってわけだ。

「殺してご覧にいれましょう」

 そう言ってオレは、ニヤリと邪悪に笑った。
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