へなちょこ鑑定士くん、脱獄する ~魔物学園で飼育された少年は1日1個スキルを奪い、魔王も悪魔も神をも従えて世界最強へと至る~

めで汰

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還ってきた「辺境の街」編

第106話 ボク、めちゃくちゃ可愛い

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「はい、目を開けていいわよ」

 ボクの顔を覆っていたリサの手がどけられる。

「わぁ……! これが、ボク……?」

 目の前の全身鏡には、ぷりぷりな肉体(主に胸とお尻部分)を絶妙に包むぴったり系のワンピース姿のボクが映っていた。

「ねっ!? やっぱりルードにはこういうかわいい系の服が似合うと思ってたの!」
「ルードさん、すっごくかわいいです! はぅ~……!」
「うむ、この服は、ルードに着られるために、そんざいしてると、言ってもいい」

 後ろから鏡を覗き込みながらキャッキャとはやし立ててくるリサ、ルゥ、テス。
 そんな三人に声をかけるセレアナ。

「あ~ら、ルードも美しいけど、あなた達三人もとっても素敵よぉ~?」

 さらにその後ろから、店員さんが声をかけてくる。

「ごめんねぇ、ここは服しか置いてなくて。ま、お嬢さんたちに似合いそうなのはそれくらいのもんだね」

 ここは僻地の町メダニアにある女性向け服飾店。
 といっても、魔界をへだてる壁の監視をするくらいしか仕事のないこの町には、普通の女性なんてほとんど住んでいない。
 住んでいる女性といえば──。

「うちみたいな向けの店に、まさかこんなおぼこい娘さんたちが来るなんてねぇ」

 商売女。
 そう、つまり娼婦しょうふくらいのものなのだ。
 だから、ここもそういうお店。
 肌をめちゃめちゃ露出する服ばかりが置いてある中で、どうにか普通に着れそうなものを見繕みつくをったってわけ。
 ちなみにお金はラルクくんが出してる。

「セ、セレアナさん、もう振り返っていいですかっ!?」

 玄関で表を向いたままのラルクくんが裏返った声を上げる。

「いいわけないでしょう? あなたには強姦未遂男ゼノスを監視するっていう義務があるのですから」

「そんなぁ~、お金ボクが出してるのにぃ~!」

「あらあら、神父様が寄付金で女たちに貢物みつぎものとは……。こりゃまた呆れた聖職者さまだねぇ」

 店員のスレた感じのおばちゃん──おばちゃんと言うには色っぽすぎるが……とにかくその店員さんが、ラルクくんをおちょくるように声をかける。

「こ、これはボクの私財から出してます! あ、あと、これは人助けなんですよ! まぁ、色々と事情が込み入ってるんですが……! あぁ、神よっ! 決して私は色欲などにおぼれてなどおりません……!」

 うん、その色欲に溺れまくってるゼウスが、さっきから店の前をちょろちょろして中を覗こうとしてるんだけどね……。

 にしても……。

 鏡をマジマジと見つめる。

 ボクって……。


 めちゃくちゃかわいい~~~~~~~~!



 鏡の中に映る絶世ぜっせいの美少女。
 ぞくに言う天使の輪がつややかに光る黒髪ボブカット。
 ふっくらとした赤ちゃんみたいなぷにぷにほっぺ。
 高級な羽毛うもうのような眉毛に、幻のエビゾリオマールのように長く反り返ったまつ毛。
 そのお目々は「ぱっちり」としか言いようのない、見てる自分ですら吸い込まれていきそうな蠱惑的こわくてきな輝きを帯びている。
 ちっちゃなお鼻に、点のようなおちょぼ口。
 中肉中背、肉付きよし。
 ただし、ウエストと足首、手首、アゴだけはシュッと絞られている。
 手足の長さもひと目で「あ、これ黄金比ってやつだ」とピーンとくるほどの絶妙のバランス。
 これが……。

 ──アイドル。

 いやはや恐ろしい。
 我ながら自分が可愛すぎて怖い。
 アイドルって一体何なんだ。
 鑑定で視たら、今は「職業:なし」になってたけど……。
 この美貌で得られる職業って一体……。

 そして思い出していた。
 ドッペルゲンガーにこの「アイドル」の姿を見せられた時のことを。
 なぜ、ボクがあの時、そこまで興味を惹かれなかったのか。
 それは外套がいとうで体を覆ってて、顔以外が見えてなかったからだ。
 ボクは変身後、すぐにその外套を脱いだから、あんなにみんなが食いついてきた──のかもしれない。

「あら、ルード、肩になにかついてるわよ?」

「え?」

 ひょい。

 リサがボクの肩に付いてるものをつまむ。

「きゃぁ! 蜘蛛じゃないっ!」

 リサは慌ててポイッと放り出す。
 放り出された蜘蛛をすかさずボクがキャッチ。
 危ない危ない。
 今のボクの本体が蜘蛛なこともあるせいか、そんなに怖がられたらちょっと悲しい。

「ラルクくん、この子、表に逃してあげて」

「はい! 一寸の虫にも五分の魂! ルードさん、なかなかの徳を積まれましたね! いっそルードさんもこれを機会に我が星光聖教スターライトせいきょうに……」

「いや、いいからゼノスを監視してて。ほら、目を血走らせてこっち見てるから」

「は、はい……そうですね……。それにしてもルードさん、かわい……ハッ!」

 顔の筋肉がとろけかけたラルクくん、店内を見て青ざめた顔をすると、一瞬で正気を取り戻した模様。
 さすがは神官。
 フラフラしてるようでも自制心はちゃんと働くんだな。
 蜘蛛をラルクくんに手渡したボクは、振り返って女性陣四人を見渡す。


「な、なによ……じっと見て……恥ずかしいじゃないの……」

 リサ。
 真紅しんくのドレス。
 元バンパイアのリサにぴったりだ。
 胸元はキュッと絞られているが、肩のところがふんわりと膨らんでいて、華奢なリサの少女らしい可憐かれんさと柔らかさを引き立てている。
 金髪のロングヘアー、真紅の瞳の色ともベストマッチだ。
 足元は、以前から履いていた厨二っぽい黒のロングブーツ。


「あの……ルードさん、私似合って……ますか?」

 ルゥ。
 純白のワンピース。
 ザ・清楚。
 膝上丈のシンプルなワンピースは、ルゥの純真さを満点に表している。
 かわいいオブかわいい。
 くしゃっとした緑色のくせっ毛がワンピースの白さとあいまって、まるで大草原にでもいるような気持にさせられる。
 大きな街に着いたら麦わら帽子を買ってあげたい。
 そう思わせられる初夏のかおり漂う見事なコーディネート。
 足元は、シンプルな薄茶色のソールの低いサンダル。


「うむ、わがはいは、前のほうが、よかったのじゃが……」

 テス。
 ピンクのワンピース。
 子供用のサイズがなかったので、余ったすそを前に持ってきて胸の前でリボン結びしてる。
 ふむ、非常に可愛い。
 まさか数日前まで辛気臭いおっさんだったとは思えない可愛さだ。
 金髪のロングヘアーも子供らしく二つ結び。
 肩からたらんと垂れたツヤツヤの髪の毛が、またかわいらしい。
 そして頭には花柄のヘアピンをつけている。
 実はこのヘアピン、オレがテスに返した魔鋭刀を変形させたものだ。
 元々、魔界を脱出するためにボクたちが大悪魔から盗んだものだしね。
 魔界から脱出した今、彼女に返すのがすじだろう。
 しかも、テスはボクらの中で一番戦闘力が低い。
 もし、テスの身になにかあった場合、きっと助けになるだろう。


「あ~ら、ルードぉ、わたくしの美貌に酔いしれるがいいわぁ!」

 セレアナ。
 水色のピッタリと体に張り付いたロングドレス。
 はち切れそうな胸部きょうぶ
 そして臀部でんぶ
 ボクが女の姿になっていても、なおドキドキさせられる爆発的なプロポーション。
 今まではボクたちが生き残ることに必死だったけど、いざ安全なとこまでたどり着いてみたら目立つな……この、ナイスバディー……。
 うん、むしろボクは今、女の姿でよかったかもしれない。


「みんなとっても可愛いよ」


 ボクの言葉に恥ずかしそうに照れる三人と、自信満々な一人。


「しかしあんたら……ほんとに商売女じゃないのかい?」

 店主がいぶかしげに聞いてくる。

「はい。ボクたちは人さらいから逃げ出してきて、今は故郷に帰ろうとしてるだけです」

 そういう設定にしてる。
 若い女の子の五人組が一番怪しまれない設定。
 深く突っ込まれないだろうし、同情もしてもらえる。
 これもスキル『狡猾モア・カニング』さんの導き出した案。

「へぇ、そりゃ大変だったねぇ。ってことは……」

 店主の目が外の方に向く。

「もし、あんたらの身になにかあったとしても、誰も気にしないってことかい」


 バンッ!


 乱暴に店のドアが開けられる。

「ちょっ、ちょっと! なんなんですか、あなたたち! 今、セレアナさんたちが……ぶべっ!」

 ラルクくんをふっとばして入ってきたのは、数人の屈強くっきょうな男たち。

「おぅおぅ、本当に上玉じょうだまじゃねぇか。こりゃあ高く売れるわ」

「だろ? 紹介料たんまり頼むよ?」

「へっへっへっ、当然だぜ。ま、最初にオレたちが味見をさてもらうがな……って、ぶふぉっ!」

 
 ズン──。


 男の脇腹にめり込むボクの拳。

 こんな奴ら、スキルを使う価値もない。

 ましてや鑑定なんか──

「謝ってもらおうか。ラルクくんをふっとばしたことを」

「な、なんだこいつ……女のくせに意外とやるのか!? 格闘技!? おい、やっちまえっ!」

「おうっ!」


 十秒後。


 パンッパンッ。

 手を叩いてほこりを払うボク、リサ、ルゥ、セレアナ、そしていつの間にか乱入してきてたゼノス。

「ぐえっ!」

 テスがちっちゃいハンマーに魔鋭刀を変えて、倒れてる男どもの頭をポコンと殴る。

「ま、こんなもんかな」

 何度も死地をくぐり抜けてきたボクらだ。
 こんなあらくれごときに遅れをとるはずもない。

「で、店員さん」

 にっこりとボクは笑いかける。
 ボクらをらしき店員さんに。

「ヒイっ……!」

 怯えた顔を見せる店員。

「これって、おいくらでしたっけ?」

 青ざめた顔で、店員さんは。

「た……無料ただでいいです……」

 と答えた。

「ほんとに!? やったぁ~! 得したね、みんな! ……って、あれ?」

 テスは、倒れた男たちから小銭をくすねてるし。
 ルウは「えいっ!」と言いながら男の顔を踏んづけてるし。
 リサは「あ~、怪我したかも。治療費かかるかもだわぁ~」と言って店員から金をせしめてるし。
 セレアナは、さらにいろんな服を重ね着してる。

「み、みんな結構ちゃっかりしてるんだね……」 

 そらそうか。
 彼女たちは、生き馬の目を抜くような魔界で育ってきたんだ。
 ましてやリサはマフィアだし。
 ま、今はこのたくましさが心強いかな、うん。

「ワハハ~! やはりワシは最強~!」

 表で男にアルゼンチンバックブリーカーをかけてごきげんなゼノスと。

「あいたたたぁ~……なんでもいつもボクばっかり……」

 自分に『回復ヒール』をかけてタンコブを治してるラルクくんを横目に、ボクはもう一度鏡を見てみる。

 鏡の中のボク。

 黄色の膝上ワンピース。

 セレアナほどじゃないが、胸もバインっで、お尻もパインっ。

 ふとももは、ボクが男だったら正気を失いかけそうなくらいにプリプリのパンッパンの張りに張り詰めて自己の存在をアピールしまくっている。

 うん、色々あったけど、やっぱりボクは──。

 めちゃくちゃかわいいいいいいいい!
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