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生き残れ「地下迷宮」編
第48話 チーム分け
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「まず、このピエロは先生の生まれ変わりなんだわ。で、このダンジョンは、ピエロが成長するためにオレたちを吸収する器官。んで、オレらが粘ってたら、ピエロが三日で終るゲームで決着つけようぜって言い出したってわけ」
わかりやすい。
だいぶ端折ってはあるが、概ねその通りだ。
オルクは決して頭のいい方ではないが、それゆえ端的に物事を捉えている。
それに、物事を他人にわかりやすく伝える能力も高い。
要するに、コミュ力が高い。
こういう点は、すぐにスキル「狡猾」に頼ってしまいがちなオレが見習うべきところだ。
小手先だけの口八丁でその場を乗り切ることに慣れてしまうと、いつか大きなしっぺ返しを食らいそうな気がする。
こういった、スキル以外の部分。
そこが欠けていては、これから先、ルゥやリサたちを守っていけないかもしれない。
それに、オレはクラスメイトのみんなのことだってオレは守りたいと思っている。
そのためにも、スキルやステータス以外の部分の成長も必要不可欠だ。
魔物たちはオルクやパルを下位の魔物だと見下すが、彼らの中にあるシンプルな強さ。
一緒に行動していると、それを感じさせられることも多い。
「つまり、先生はオレたちを食って成長しようとしてるってことか?」
「ん~……もうあれ、先生じゃないんだけどな。あ~、お前らのとこにデカい蟻、来なかったか? あれでオレたちを殺して、壁とか床から吸収するつもりだったらしい」
「お~、きたきた! クソうざかったぜ! まぁ、オレたちの相手じゃなかったけどな! ってか、スキル使えない奴が多すぎて手間取ったわ!」
オルクとデュラハンのヌハンの間で、とんとん拍子で話が進んでいく。
そして、スキルの問題となれば、当然話はこちらに向いてくる。
「……で、そこのフィードがオレたちからスキルを奪ったってのは……本当なのか?」
「ああ、それは──」
「オルク、お前に聞いてない。フィード、お前が答えるんだ、人間」
デュラハンが、今までにない真剣な表情で問い詰めてくる。
「──本当だ。オレはオレが生き延びるためにするべきことをした。みんなには申し訳ないと思ってるが、後悔はしていない。きっと、また同じ目に遭っても同じことをすると思う」
間。
戸惑いが広がる。
オルクの場合は、運良く大事にならなくて済んだ。
でも、それは彼が喧嘩自慢で物事を割り切って考えるタイプだったからだ。
三十日間見てきたが、魔物たちは非常に個性に溢れている。
捻くれてるもの、素直なもの。
他人を従えたいもの、追従したいもの。
喧嘩っ早いもの、思慮深いもの。
彼らが一体、オレに対してどのような反応を示すのか……。
命を賭けて復讐したいと言われれば、オレはそれを受けざるを得ない。
もしかしたら一秒後には、もう乱戦になっているかもしれない。
だが──今のオレには、彼ら全員を殺してしまえるだけの『力』がある。
殺したくないんだ。
スキルを奪っておいて図々しいのは重々承知だが、オレは彼らを殺したくない。
スキルがなくなった彼らは、これからの魔界での生活が大変かもしれない。
スキルがないせいで死んでしまうかもしれない。
食あたりで死んだオチューや、仕事中に返り討ちにされたレッドキャップのように。
でも、それでもオレは、オレが優先順位を付けた『価値の総量の高いもの』──ルゥ、リサ、そして今ではパルもそこに入ってきている──を守るためには、恩のあるクラスメイトが相手だろうと戦う所存だ。
オレの中のアベルは、クラスメイト全員を助けて、今後の生活にも差し障りないようにするべきだと思ってる。
オレの中のフィードは、恩があろうが敵対するものを全員殺してでも『価値の総量の高いもの』を守ろうと思ってる。
さぁ、どっちだ。クラスメイトたちの反応は。
オレに殺させてくれるなよ……。
そう思って気を張っていると、凛とした声が響いた。
「ちょぉ~っといいですことぉ!?」
セイレーンのセレアナ。
スキル「美声」の効果が発揮されているのは、全員が彼女に釘付けになっていることからも察せられた。
「スキルを奪われたことに対して色々思う気持ちもわかりますわぁ! わたくし達がこの半日の間、何度も命の危険に晒された怒りはフィードに向けて当然!」
やはり……セレアナでもそう思うか。
だよな。
ってことは……やはり……戦わなければいいけないのか…………この生徒たちと…………。
にわかに殺気立つ魔物たち。
「でもっ!」
一段と強い言葉。
一同が、セレアナの次の言葉に注目する。
「その前に片付けて置かなければならない問題があるのではなくって!? そう、そこの間抜けな格好のあなたっ!」
ビシッ! とセレアナはピエロ大悪魔を指す。
「キャハっ!? 吾輩?」
「まず、あなたのお名前をお聞かせいただけるかしらぁ? わたくしは、いずれ世界を統べる歌姫、セレアナ・グラデンですわぁ~!」
パチパチパチ。
こんな状況でもスキュラがちゃんと拍手している。
彼女たちのそんな見慣れた行動が、場の空気をいつもの教室へと引き戻す。
「ムムッ! 癖強っ! 吾輩、こいつ苦手! 吾輩、テス・メザリア! いずれ世界を統べる悪魔界序列第一位の大悪魔!」
なんかセレアナのノリに引っ張られた感じで名乗りを上げる大悪魔。
「ふむ……メザリア先生と同じ苗字なのですね……。でぇもっ! あなたは生まれたばかりの子供! わたくし達の方が遥かに人生の大先輩ですわぁ! よって、わたくし達は、今後あなたの事をテスと呼ぶことにしますわぁ!」
「テス! 吾輩の名前! キャハッ! 了解っ!」
パルの触手に掴まれたままピエロ大悪魔──テスは、なぜかちょっと嬉しそうに同意した。
セレアナの「美声」の効果だろう。オレの心の中に、テスは年下で取るに足らない、与し易い相手だという感情が芽生えてくる。
「で、テスぅ? タイムリミットの三日とは? まさかワタクシ達が言い合いをしてるこの時間が含まれてたりはしませんわよねぇ?」
「当然至極! 時間計測、只今、実行っ!」
地面からズズズ……と小ぶりな砂時計が一つ出てくる。
手にとって見てみると、毒々しい装飾に覆われた砂時計のくびれから、小さな小さな赤黒い砂がチリチリと落ちている。
「その砂、落ちきる、三日後! それまでに脱出できなかったら、貴様ら、死! キャハハッ!」
「死とは? あなたは私達を殺せなかったからゲームを提案したと聞きましたわぁ。仮に時間が過ぎたとしても、あなたにワタクシ達は殺せないのではなくてぇ?」
「貴様ら、悪魔との契約を締結! ゆえにルールに従い、命を落とす! 吾輩も、不正を働けば、死! 悪魔の契約は、絶対!」
「その『貴様ら』とは、具体的に誰のことなのかしらぁ?」
「契約の条件を示した者! フィード! ルゥ! リサ! オルク! 以上、四名!」
「あらぁ? それなら、わたくし達は三日過ぎても命に影響はないってことかしらぁ?」
「是! 吾輩、フィード・オファリングが一番邪魔ッ! フィード・オファリングさえ食えば、吾輩、すぐに成長! そうなれば、どっちみち貴様らも死! キャハッ!」
「どちらにしろ、わたくし達も三日以内に脱出できなければ死ぬ……というわけですわね」
「是! 出口は一箇所! ただし、場所、形状、一切秘密! 探し当てて出られれば貴様らの勝ち! ここから出ていける! ただし、出て行けなければ、貴様ら、死! 吾輩、成長して史上最強の大悪魔になる! キャハハッ、最強、キャハハハっ!」
「わかりましたわぁ。で、その砂時計はもう砂が落ちてるみたいですけど、まさかまだ始まっていたりはしませんわよねぇ?」
「非! 砂時計、出来た瞬間からスタート! 残り、二日と二十三時間五十九分!」
「そうですの……」
セレアナは、そう言うとクラスメイトのたちの方を向いて両手を広げる。
「ということで、もう始まっているらしいですわぁ! ここで言い合いや争いをして時間を無駄にするより、二手に分かれることをご提案いたしますわぁ! 要は、フィードを……許せるかどうか」
皆の視線がオレに集まる。
憎しみを込めたのもの。
猜疑の宿ったもの。
戸惑いを浮かべたもの。
その瞳から読み取れる感情は様々だ。
「ですので、フィードと行動を共にしたい者はフィードの元へ。フィードを許せない、共に行動をしたくない者は反対側へ。二手に分かれてダンジョンとやらを攻略しませんこと? 復讐なりは、脱出した後にご自由にどうぞ。まずは、ここから出られないと、何も意味がありませんわよ」
スキルの効果もあるのだろうが、セレアナの言葉がすんなりと胸に落ちる。
まず、最初に動いたのはオークのオルクだった。
「フィード、わりぃな。ここで助けてもらったことは感謝してるが、スキルを奪われたことを笑って許せるほど、オレは人が出来ちゃいねぇんだ」
そう言って蟻の前脚で作った槍を地面に放り捨てると、反対側へと離れていった。
それに従って、デュラハンやキマイラ、ケルベロスなどの比較的戦闘力の高い者たちが離れていく。
続いて、ドッペルゲンガーやミミック、マンドレイク、ラスト・モンスターなどの非戦闘員たちが、彼らに追随する。
俺の元にはリサ、ルゥ、パルだけだ。
やはり、そうなるよな……。
みんな、オレを許してはくれないだろう。
オレに出来ることは、三日以内にダンジョンを攻略して、みんなをここから無事に出してあげることくらいだ。
その後は──彼らとちゃんと向き合おう。
「パルも向こうに行っていいんだぞ」
ふるふる。
パルは、オレの言葉にテス──大悪魔を二回横に振って答えた。拒否の合図だ。
「パル……」
残ってくれて嬉しい気持ちもある。
しかし、ルゥ、リサ、オレの三人は人間だ。
そこに魔物のパルを参加させてしまうのは、なんとなく自然じゃない気がして、どこか心苦しく感じてしまう。
そう思っていると、セレアナが声をかけてきた。
「フィード・オファリング。あなた、なんて顔をしてるんですの? 二手に分かれても、みんなのスキルを奪ってワイバーンや大悪魔すらを殺したあなたが脱出の要であることに変わりはありませんわぁ。はぁ……仕方がありませんわねぇ……」
チアガール姿──しかし、その服はボロボロに汚れきっている。きっと、蟻との激しい戦いを繰り広げてきていたのだろう。そのセレアナが魚状の下半身をうねうねと蛇行させながら、オレの元へとやってきた。
「あなたには、これからもチアとしての応援が必要なようですわね」
母のような慈愛の表情でそう微笑みかけてくるセレアナ。
彼女に続いて、女子~ズのアルラウネ、ケルピー、ラミアがオレの元へとやってきた。
「セ、セレアナ様……」
スキュラがまごまごとした様子で俯いている。
「キュアラン。あなたはあなたの思う道を行きなさい。なぁに、三日後にまた地上で会いましょう。ここで分かれても、あなたが、わたくしのファン第一号であることに変わりはありませんわぁ」
「す、すみませんっ……!」
こうしてオレたちは二手に分かれ、それぞれ砂時計を手渡された。
【フィードチーム】
アベル・フィード・オファリング(人間)
ルゥ(人間)
リサ(人間)
パル(ローパー)
セレアナ(セイレーン)
ケプ(ケルピー)
カミラ(ラミア)
アルネ(アルラウネ)
テス・メザリア(大悪魔)
【オルクチーム】
オルク(オーク)
ガイル(ガーゴイル)
ライマ(キマイラ)
ルベラ(ケルベロス)
ヘイトス(ケンタウロス)
トリス(コカトリス)
サバム(サキュバス)
キュアラン(スキュラ)
ロンゾ(タロス)
エモ(デーモン)
ヌハン(デュラハン)
ゲルガ(ドッペルゲンガー)
マイク(マンドレイク)
ミック(ミミック)
デュド(メデューサ)
スラト(ラスト・モンスター)
二つのチームは互いに背を向け、無言のまま歩き出す。
チリチリと、砂時計の落ちる音が耳に焼き付いていた。
【タイムリミット 二日二十三時間五十四分】
【現在の生存人数 五十三人】
わかりやすい。
だいぶ端折ってはあるが、概ねその通りだ。
オルクは決して頭のいい方ではないが、それゆえ端的に物事を捉えている。
それに、物事を他人にわかりやすく伝える能力も高い。
要するに、コミュ力が高い。
こういう点は、すぐにスキル「狡猾」に頼ってしまいがちなオレが見習うべきところだ。
小手先だけの口八丁でその場を乗り切ることに慣れてしまうと、いつか大きなしっぺ返しを食らいそうな気がする。
こういった、スキル以外の部分。
そこが欠けていては、これから先、ルゥやリサたちを守っていけないかもしれない。
それに、オレはクラスメイトのみんなのことだってオレは守りたいと思っている。
そのためにも、スキルやステータス以外の部分の成長も必要不可欠だ。
魔物たちはオルクやパルを下位の魔物だと見下すが、彼らの中にあるシンプルな強さ。
一緒に行動していると、それを感じさせられることも多い。
「つまり、先生はオレたちを食って成長しようとしてるってことか?」
「ん~……もうあれ、先生じゃないんだけどな。あ~、お前らのとこにデカい蟻、来なかったか? あれでオレたちを殺して、壁とか床から吸収するつもりだったらしい」
「お~、きたきた! クソうざかったぜ! まぁ、オレたちの相手じゃなかったけどな! ってか、スキル使えない奴が多すぎて手間取ったわ!」
オルクとデュラハンのヌハンの間で、とんとん拍子で話が進んでいく。
そして、スキルの問題となれば、当然話はこちらに向いてくる。
「……で、そこのフィードがオレたちからスキルを奪ったってのは……本当なのか?」
「ああ、それは──」
「オルク、お前に聞いてない。フィード、お前が答えるんだ、人間」
デュラハンが、今までにない真剣な表情で問い詰めてくる。
「──本当だ。オレはオレが生き延びるためにするべきことをした。みんなには申し訳ないと思ってるが、後悔はしていない。きっと、また同じ目に遭っても同じことをすると思う」
間。
戸惑いが広がる。
オルクの場合は、運良く大事にならなくて済んだ。
でも、それは彼が喧嘩自慢で物事を割り切って考えるタイプだったからだ。
三十日間見てきたが、魔物たちは非常に個性に溢れている。
捻くれてるもの、素直なもの。
他人を従えたいもの、追従したいもの。
喧嘩っ早いもの、思慮深いもの。
彼らが一体、オレに対してどのような反応を示すのか……。
命を賭けて復讐したいと言われれば、オレはそれを受けざるを得ない。
もしかしたら一秒後には、もう乱戦になっているかもしれない。
だが──今のオレには、彼ら全員を殺してしまえるだけの『力』がある。
殺したくないんだ。
スキルを奪っておいて図々しいのは重々承知だが、オレは彼らを殺したくない。
スキルがなくなった彼らは、これからの魔界での生活が大変かもしれない。
スキルがないせいで死んでしまうかもしれない。
食あたりで死んだオチューや、仕事中に返り討ちにされたレッドキャップのように。
でも、それでもオレは、オレが優先順位を付けた『価値の総量の高いもの』──ルゥ、リサ、そして今ではパルもそこに入ってきている──を守るためには、恩のあるクラスメイトが相手だろうと戦う所存だ。
オレの中のアベルは、クラスメイト全員を助けて、今後の生活にも差し障りないようにするべきだと思ってる。
オレの中のフィードは、恩があろうが敵対するものを全員殺してでも『価値の総量の高いもの』を守ろうと思ってる。
さぁ、どっちだ。クラスメイトたちの反応は。
オレに殺させてくれるなよ……。
そう思って気を張っていると、凛とした声が響いた。
「ちょぉ~っといいですことぉ!?」
セイレーンのセレアナ。
スキル「美声」の効果が発揮されているのは、全員が彼女に釘付けになっていることからも察せられた。
「スキルを奪われたことに対して色々思う気持ちもわかりますわぁ! わたくし達がこの半日の間、何度も命の危険に晒された怒りはフィードに向けて当然!」
やはり……セレアナでもそう思うか。
だよな。
ってことは……やはり……戦わなければいいけないのか…………この生徒たちと…………。
にわかに殺気立つ魔物たち。
「でもっ!」
一段と強い言葉。
一同が、セレアナの次の言葉に注目する。
「その前に片付けて置かなければならない問題があるのではなくって!? そう、そこの間抜けな格好のあなたっ!」
ビシッ! とセレアナはピエロ大悪魔を指す。
「キャハっ!? 吾輩?」
「まず、あなたのお名前をお聞かせいただけるかしらぁ? わたくしは、いずれ世界を統べる歌姫、セレアナ・グラデンですわぁ~!」
パチパチパチ。
こんな状況でもスキュラがちゃんと拍手している。
彼女たちのそんな見慣れた行動が、場の空気をいつもの教室へと引き戻す。
「ムムッ! 癖強っ! 吾輩、こいつ苦手! 吾輩、テス・メザリア! いずれ世界を統べる悪魔界序列第一位の大悪魔!」
なんかセレアナのノリに引っ張られた感じで名乗りを上げる大悪魔。
「ふむ……メザリア先生と同じ苗字なのですね……。でぇもっ! あなたは生まれたばかりの子供! わたくし達の方が遥かに人生の大先輩ですわぁ! よって、わたくし達は、今後あなたの事をテスと呼ぶことにしますわぁ!」
「テス! 吾輩の名前! キャハッ! 了解っ!」
パルの触手に掴まれたままピエロ大悪魔──テスは、なぜかちょっと嬉しそうに同意した。
セレアナの「美声」の効果だろう。オレの心の中に、テスは年下で取るに足らない、与し易い相手だという感情が芽生えてくる。
「で、テスぅ? タイムリミットの三日とは? まさかワタクシ達が言い合いをしてるこの時間が含まれてたりはしませんわよねぇ?」
「当然至極! 時間計測、只今、実行っ!」
地面からズズズ……と小ぶりな砂時計が一つ出てくる。
手にとって見てみると、毒々しい装飾に覆われた砂時計のくびれから、小さな小さな赤黒い砂がチリチリと落ちている。
「その砂、落ちきる、三日後! それまでに脱出できなかったら、貴様ら、死! キャハハッ!」
「死とは? あなたは私達を殺せなかったからゲームを提案したと聞きましたわぁ。仮に時間が過ぎたとしても、あなたにワタクシ達は殺せないのではなくてぇ?」
「貴様ら、悪魔との契約を締結! ゆえにルールに従い、命を落とす! 吾輩も、不正を働けば、死! 悪魔の契約は、絶対!」
「その『貴様ら』とは、具体的に誰のことなのかしらぁ?」
「契約の条件を示した者! フィード! ルゥ! リサ! オルク! 以上、四名!」
「あらぁ? それなら、わたくし達は三日過ぎても命に影響はないってことかしらぁ?」
「是! 吾輩、フィード・オファリングが一番邪魔ッ! フィード・オファリングさえ食えば、吾輩、すぐに成長! そうなれば、どっちみち貴様らも死! キャハッ!」
「どちらにしろ、わたくし達も三日以内に脱出できなければ死ぬ……というわけですわね」
「是! 出口は一箇所! ただし、場所、形状、一切秘密! 探し当てて出られれば貴様らの勝ち! ここから出ていける! ただし、出て行けなければ、貴様ら、死! 吾輩、成長して史上最強の大悪魔になる! キャハハッ、最強、キャハハハっ!」
「わかりましたわぁ。で、その砂時計はもう砂が落ちてるみたいですけど、まさかまだ始まっていたりはしませんわよねぇ?」
「非! 砂時計、出来た瞬間からスタート! 残り、二日と二十三時間五十九分!」
「そうですの……」
セレアナは、そう言うとクラスメイトのたちの方を向いて両手を広げる。
「ということで、もう始まっているらしいですわぁ! ここで言い合いや争いをして時間を無駄にするより、二手に分かれることをご提案いたしますわぁ! 要は、フィードを……許せるかどうか」
皆の視線がオレに集まる。
憎しみを込めたのもの。
猜疑の宿ったもの。
戸惑いを浮かべたもの。
その瞳から読み取れる感情は様々だ。
「ですので、フィードと行動を共にしたい者はフィードの元へ。フィードを許せない、共に行動をしたくない者は反対側へ。二手に分かれてダンジョンとやらを攻略しませんこと? 復讐なりは、脱出した後にご自由にどうぞ。まずは、ここから出られないと、何も意味がありませんわよ」
スキルの効果もあるのだろうが、セレアナの言葉がすんなりと胸に落ちる。
まず、最初に動いたのはオークのオルクだった。
「フィード、わりぃな。ここで助けてもらったことは感謝してるが、スキルを奪われたことを笑って許せるほど、オレは人が出来ちゃいねぇんだ」
そう言って蟻の前脚で作った槍を地面に放り捨てると、反対側へと離れていった。
それに従って、デュラハンやキマイラ、ケルベロスなどの比較的戦闘力の高い者たちが離れていく。
続いて、ドッペルゲンガーやミミック、マンドレイク、ラスト・モンスターなどの非戦闘員たちが、彼らに追随する。
俺の元にはリサ、ルゥ、パルだけだ。
やはり、そうなるよな……。
みんな、オレを許してはくれないだろう。
オレに出来ることは、三日以内にダンジョンを攻略して、みんなをここから無事に出してあげることくらいだ。
その後は──彼らとちゃんと向き合おう。
「パルも向こうに行っていいんだぞ」
ふるふる。
パルは、オレの言葉にテス──大悪魔を二回横に振って答えた。拒否の合図だ。
「パル……」
残ってくれて嬉しい気持ちもある。
しかし、ルゥ、リサ、オレの三人は人間だ。
そこに魔物のパルを参加させてしまうのは、なんとなく自然じゃない気がして、どこか心苦しく感じてしまう。
そう思っていると、セレアナが声をかけてきた。
「フィード・オファリング。あなた、なんて顔をしてるんですの? 二手に分かれても、みんなのスキルを奪ってワイバーンや大悪魔すらを殺したあなたが脱出の要であることに変わりはありませんわぁ。はぁ……仕方がありませんわねぇ……」
チアガール姿──しかし、その服はボロボロに汚れきっている。きっと、蟻との激しい戦いを繰り広げてきていたのだろう。そのセレアナが魚状の下半身をうねうねと蛇行させながら、オレの元へとやってきた。
「あなたには、これからもチアとしての応援が必要なようですわね」
母のような慈愛の表情でそう微笑みかけてくるセレアナ。
彼女に続いて、女子~ズのアルラウネ、ケルピー、ラミアがオレの元へとやってきた。
「セ、セレアナ様……」
スキュラがまごまごとした様子で俯いている。
「キュアラン。あなたはあなたの思う道を行きなさい。なぁに、三日後にまた地上で会いましょう。ここで分かれても、あなたが、わたくしのファン第一号であることに変わりはありませんわぁ」
「す、すみませんっ……!」
こうしてオレたちは二手に分かれ、それぞれ砂時計を手渡された。
【フィードチーム】
アベル・フィード・オファリング(人間)
ルゥ(人間)
リサ(人間)
パル(ローパー)
セレアナ(セイレーン)
ケプ(ケルピー)
カミラ(ラミア)
アルネ(アルラウネ)
テス・メザリア(大悪魔)
【オルクチーム】
オルク(オーク)
ガイル(ガーゴイル)
ライマ(キマイラ)
ルベラ(ケルベロス)
ヘイトス(ケンタウロス)
トリス(コカトリス)
サバム(サキュバス)
キュアラン(スキュラ)
ロンゾ(タロス)
エモ(デーモン)
ヌハン(デュラハン)
ゲルガ(ドッペルゲンガー)
マイク(マンドレイク)
ミック(ミミック)
デュド(メデューサ)
スラト(ラスト・モンスター)
二つのチームは互いに背を向け、無言のまま歩き出す。
チリチリと、砂時計の落ちる音が耳に焼き付いていた。
【タイムリミット 二日二十三時間五十四分】
【現在の生存人数 五十三人】
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勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
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