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おじさん vs 魔女の巻

第28話 おじさん、ピンとくる

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 銀髪ロング。
 つるぺた。
 デコ出し。
 繊細なガラス細工のような眉、まつ毛、そして瞳。
 その少女は、俺の記憶の中そのままの──。

「ミカ?」

「ち……ちちちち、ちぎゃいましゅ……!」

 違うらしい。
 声も似てるけど。

「ほんとに?」

「ほ、ほんとでしゅ……! ぷ~ぴぴ~♪」

 少女はそっぽを向いて口笛を吹き出す。

 まぁ、あれから十年も経ってるんだ。
 ミカってことはないか。
 洋服もずいぶん立派なものを着てるしな。
 しっかし……。
 よく似てるなぁ~。

 思わずマジマジと見つめてしまう俺。
 少女は気まずそうに顔をそむける。

 あっ、やべっ。
 これ誰かに見られたら誤解されるじゃん。
 事案だよ、事案~。

 って、あれ……そうだ。
 そうだよ、なんで思いつかなかったんだろう。

「キミ、親戚にミカって子は……」

「いいい、いましぇ~~~ん! 私の名前はアンバー! アンバーで~しゅ! 他人のそら似でぇ~しゅ!」

 う~ん。
 親戚ってのはいい線いってると思ったんだけどなぁ。
 しかも喋り方が妙にぎこちない。
 ……ま、いっか。
 なんにせよ、怪我がなくてなによりだ。

 頭ぽんっ。

「ほぇ……?」

「知らないおじさんにぶつかって災難だったな? 口も回ってないみたいだし、怖かったんだろう? 大丈夫っぽいが……もし怪我があったら騎士団まで伝えといてくれ。おじさん、そこで師範してるからさ」

「ししし、師範っ!?」

 少女──アンバーの唾が顔にかかる。

「うおっ! 大丈夫だよ、怖くないから。ほら、『清らかな白鳩プラミチア女騎士団』って知らないかな? そこの団長のセオリアって人のツテで三日前からやってるんだけど」

「……セオねぇのやつぅ~!」

 ん?
 今、セオ姉って言わなかった?
 たしかハンナもセオリアのことをそう呼んでたような……。

 そう思った時。

「グゥルルルルル……!」

 背後で鳴き声がした。

「──ッ!?」

 ウソだろ!?
 ありえないっ!
 こんな町中まちなか、しかも真っ昼間の往来おうらいに──。


(ケルベロス──だとっ!?)


 三股の頭の黒い魔獣。
 それが、こちらを見て唸りを上げてる。

「なんでっ!?」

 少女──アンバーが驚きの声を上げる。

 ん?
 なんで?
 どういうことだ?
 この少女はなにか知ってる?
 ……まぁ、いい。
 今わかってるのは──。

 ケルベロス、超危険!
 アンバー、危ない!
 俺、アンバー守る!

 それだけだ!

「──潜るダイブ

 問答無用。
 即臨戦態勢。

 チャキッ──。

 右手に『聖鷹飛龍堕剣グリバンゴーン』。
 左手に汎用騎士剣。
 騎士剣の方がやや重い。
 二刀流には向かないか。
 ならば──。

 先手必勝!

 ビュッ──!

 俺は騎士剣をケルベロス目がけ放り投げる。

「ガウッ!」

 ケルベルスが剣を躱して着地した地点。
 俺はそこに先回りして。

 ザンッ──!

 首を、一つ落とした。
 さらに返す刀で二つ目の首を斬り落とそうとする。
 その時。

「ケント! 危ないっ!」

 えっ?

「ギャゥゥ!」

 切り落としたはずの首が俺の喉元めがけて跳んできた。

「うおっ!?」

 咄嗟に背を向けて剣を回す。

 ガキーン!

 聖鷹飛龍堕剣グリバンゴーンがケルベロスの牙を背面で受ける。

「っぶね~! なんで首落としたのに動けるんだよ!」

「それは、そいつが幻影まやかしだからよ!」

幻影まやかし……? っていうかお前、さっき俺の名前……」

 アンバーはさっきまでのキョドりまくった様子とはうって変わり。
 なんというか……。

 キレてる?

「まずはわ」

 そう言うと、アンバーはブツブツと詠唱を始めた。


「オンキリキリつつめよつつめ夜の闇。墨汁、チョコレート、黒漆。拒絶せよ、隔離せよ、我らと怨敵の肉体すてがらを世のことわりから覆い隠せ。下りなさい──黒帳ナイトシェード


 とっぷん──っ。


 宙に黒いが湧き出たかと思うと、それが俺たちの周りを急速に覆っていき辺りは真っ暗な闇に包まれた。

「な、なんだこれ……!?」

「大丈夫。他の人に被害が出ないようにだから」

「隔離ぃ……?」

「ええ、この黒帳ナイトシェードの中に存在できるのは私の許可した者のみ。シェードの中では、それ以外のものはすべて幻。ここでなにが起きようとすべては幻想。とばりが上がれば、すべて元の通り。私達、もしくは──敵のどちらかが死ぬまでね」

 ……は?

 いや、意味わからんし。
 それにアンバー?
 お前、めっちゃ喋るやん……?
 しかもなんかちょっぴりポエムチック。

「さぁ、潰れろ、くだらぬ幻影まやかし! 私のケント様に気安く手を出したことを後悔する暇すら与えぬぞ!」

 え? 私のケント様ぁ……?
 っていうか……。
 え……?
 あれって……?

 アンバーの両手。
 そこにヤバヤバ度MAXの黒いオーラがビリビリ集まりまくってる。
 あきらかに普通じゃない。
 んだよ、あれぇ!
 絶対あれ、ケルベロスよりやばいってぇ!

 アンバーが静かに呟く。


「来なさい、母里比企もりひき


 すると、その声にこたえるかのように。


「あんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 ケルベロスの後ろにゲキヤバ意味不明巨大生物(顔のない白いおたまじゃくしに腕が生えたみたいなやつ)が現れ。


 パァ──────ン!


 と、平手でケルベロスを叩き潰した。

「………………は?」

 グッチャ──!
 ブッチャ──!
 ヌッチャ──!

「ギャッ♪ ギャッ♪」

 え、しかもその巨大生物さん、なんかケルベロスの残骸をこねくり回して遊んでるんだけど……。
 いやいやいや。
 は?
 マジでなんなのこれ?
 急に現れたケルベロス。
 黒く包まれた空間。
 俺のことを知ってるミカそっくりの子。
 意味不明ゲキヤバ生物。
 理解が追いつかないにもほどがあるんだが?

「え~っと、アンバー……さん?」

 間。

 アンバーは下を向いて黙りこくってる。

「な……」
「な?」

 プルプルと震えるアンバーが、顔を真赤にしてようやく口を開く。



「なにを隠そう私はっ! あなたと昔、共に冒険をした! ミカ……ミカ・アンバーなの~!」



「あ、うん、でしょうね」
「……は? 驚かないの?」

 ぽかん顔のアンバー。
 というか、ミカ。

「いや、だってどう見たってミカだし」
「え? でも十年経ってもまだ子どものままなんだよ……?」

 いや、っていうか。

「あれ(ケルベロスだったものをもてあんでる意味不明巨大生物)と比べたら、姿くらい別に気にならないっていうか。それよりも他に気になることがありすぎるっていうか」

 サァ~っと顔面蒼白になるミカ。

「そんな……! 嘘……! これがずっと待ちわびてた私達の再会だっていうの……? 嘘でしょ……やだ……やりなおしたい……」

 待ちわびてた私達の再会?
 はは~ん、なるほど。
 ピンときた。
 なにしろ俺は勘がいいからね。
 つまり──。


 お前も、俺に復讐したいってことか!


 だから『私のケント』だったわけだ!
 なんで『様』付けだったかは不明だが……。
 ま、ようするに俺に復讐するために、こんな謎周辺真っ暗魔法とか、あの謎クソ強生物を手なづけたってことだな。
 ふふ……これは。

 俺の命運……。
 尽きたな……。
 確実に……。
 うん……。

 だって無理だってぇ~!
 あんなの相手に戦うとかさぁ~!
 ほら? ケルベロスすら一撃で潰しちゃうような奴だよ?
 そんなの相手におじさんがどうにか出来るわけ無いじゃん!
 終わった……ふふっ……。
 おじさん・オブ・ジエンドだよ……。

 あ、でもその前にセオリアと約束した「冒険者の復興」と「魔物大量暴走スタンピートの調査」をやり終えるまで待ってもらわなきゃな。
 よし、まずは会話しよう。
 そして、それまで復讐を待ってもらうように伝えよう。
 え~っと、じゃあまずは世間話から……。

「あ~、ミカ? そもそも、この黒い膜とか、あのデカい白おたまじゃくしとかってなんなんだ?」

「お、おたまじゃくし……!? 言うに事欠いておたまじゃくし……ぷぷぷ……! たしかにおたまじゃくしっぽい……! あ、ちょっと待って、説明する。えっとね、ケント。それは……」

 なんか妙にツボった様子のミカが説明しようとした──その時。


「ハァ~ハッハァ~! それはワシから説明するとしよ~う!」


 バリバリバリーン!


 轟音とともに周囲あたりを覆ってた黒い膜を突き破られる。
 そして天頂。
 膜のてっぺんから。
 一人の女の子がゆっくりと舞い降りてきた。

「ミカ? 黒い膜これって『外部から侵入不可』みたいなこと言ってなかったっけ?」

「ええ……外部からの侵入は不可能。もし侵入できるとしたらそれは……私と同等かそれ以上に力を持ち、この術のことわりを知っている者のみ。つまり──」

 ミカはキッ──! と少女を睨む。

「師匠!」

 し、師匠ぅ~?
 えぇ~?
 あっちもずいぶんと子供の姿なんだけど……?
 なんなんだ一体……?

「私のケントにちょっかい出して、ただで済むと思ってないでしょうね!」

 はい、出た。
 また、私のケント。
 おいおい、完全に獲物えもの扱いですか?

 にしても。

 幼女と、幼女の謎いさかい……。

 え、なにこれ?
 おじさん、保護者の気分なんだけど?
 ただ、この二人の魔力のスケールがクソヤバいっぽいが……。

 とりあえず。

「よいしょ」

 話についていけないおじさんは、腰を下ろして二人のやり取りを見守ることにしたよ、うん。
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