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第四幕 VS大手レコード会社
ACT107
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正直、ヤスヒロの要望に応えられるか分からない。
彼が何を求めているのか全く見当がつかない。
メリットとは何を指しているのか。
お金は充分メリットのある話だと思う。しかし彼は断った。
ならば求めるものは物質的なものではないのかしれない。
もしかするともっと精神的な……っていくら考えても私には答えは分からないまま。
今日初めて会って、相手の事何にも知らない。
そんな状態で一体何が分かるって言うんだろう。
だからこういう時は彼のことをよく知る人に話を聞くのが一番。
となれば真っ先に名前が挙がるのはお母さんだ。
でも、なんて聞けばいいの?
あなたの息子さんの言うメリットって何の事でしょう? なんて聞けない。それだけじゃさすがのお母さんも分からないだろうし……。
やっぱりヤスヒロの事を聞くほかない。
色々聞いて、そして彼の事を知る。それが答えに辿りつく一番の近道だ。
なんて思っていたら、
「お母さん。ヤスヒロ君はいつから引き篭もってるんですか?」
ズカズカ踏み入りすぎでしょ!?
MIKAの行動力には毎度のことながら驚かされる。
行動力というより不躾なだけな気がしないでもない。
世間一般ではMIKAの事を失礼な人間と呼ぶのだと思う。
かなり失礼だと思うのだけれど、MIKAの無遠慮な質問にもお母さんは怒らず対応してくれている。
大人な対応なのか、それともあまりにも急な事で怒ることを忘れているのか……多分後者な気がする。
「あの子はもう10年近く今みたいな状態です」
10年……、見たところヤスヒロは私たちと同じくらいの歳だろう。
もしかすると少し下かもしれない。
そう考えると小学生の頃には引き籠っていたことになる。
「10年か……」
私の呟きにお母さんは「ええ……」と寂しそうに相槌を打つ。
しんみりした空気が流れる中、「弱いだけでしょ?」とMIKAの配慮の足りない言葉。
ほんとにこの娘は……もう、何を言っても変わる気がしないから私もお手上げ。諦めてる。
「何があっても自分だけは自分の事をSん字なくちゃいけないのに、あの子は逃げているだけ」
私はMIKAの過去を知らない。でも、相当苦労してきたであろうことは分かる。
そんな彼女から見たらヤスヒロは弱い人間なのかもしれない。
でも、すべての人間がMIKAのように強い人間という訳ではない。
「あの子は一人になってしまったんです」
ん?
「一人って?」
ヤスヒロには家族がいる。
違うんです、と私の言葉を遮ってお母さんが言う。
「あの子は夫の連れ子なんです」
そこまで聞いて、「一人になった」という意味を理解した。
この家には父親がいない。
初めは仕事に出ているものとばかり思っていたが、違ったのだ。
私には家族がいる。
誰一人として欠けていない。
だから、ヤスヒロの気持ちを本当の意味で理解することは出来ない。
「だから?」
冷たく言い放たれた一言。
MIKAだ。
「そんな言い方ないでしょ!?」
私は自分の事ではなかったけれど怒りを覚えた。
けれどもMIKAは私をあざ笑うように、
「あの子の気持ちなんて分からないですよね? だったら先輩があの子の境遇について意見することなんてできないでしょ?」
言い返したかったが、MIKAの鋭い眼光に射抜かれ、言葉が出てこなかった。
「大丈夫です。あとは私が何とかします」
有無を言わせぬ迫力があった。
MMIKAに任せるほかないと直感的に悟った。
* * *
数日後。
MIKAのマネージャーから一枚のCDが届いた。
中身を尋ねると、MIKAが歌った音源が入っているとのことだった。
歌? 私たちの曲はまだできてないはずだけど……
マネージャーさんの説明によるとスタジオでMIKAが歌ったもののバックアップだとのこと。
バックアップ?
その答えはネット上にあった。
動画投稿サイト。ユーチューブ。
その中に異常に閲覧数の伸びている動画があった。
投稿者の名前はMIKA……ってMIKA!? 本物!? マネージャーさんの顔を窺うと静かに頷く。
マジか……
公式ではない完全プライベート投稿という事もあり、閲覧数は上がり続けていた。
何やってるのあの娘?
最近の娘の考えていることは分からない……あっ、私とMIKAって同年代だった……。
彼が何を求めているのか全く見当がつかない。
メリットとは何を指しているのか。
お金は充分メリットのある話だと思う。しかし彼は断った。
ならば求めるものは物質的なものではないのかしれない。
もしかするともっと精神的な……っていくら考えても私には答えは分からないまま。
今日初めて会って、相手の事何にも知らない。
そんな状態で一体何が分かるって言うんだろう。
だからこういう時は彼のことをよく知る人に話を聞くのが一番。
となれば真っ先に名前が挙がるのはお母さんだ。
でも、なんて聞けばいいの?
あなたの息子さんの言うメリットって何の事でしょう? なんて聞けない。それだけじゃさすがのお母さんも分からないだろうし……。
やっぱりヤスヒロの事を聞くほかない。
色々聞いて、そして彼の事を知る。それが答えに辿りつく一番の近道だ。
なんて思っていたら、
「お母さん。ヤスヒロ君はいつから引き篭もってるんですか?」
ズカズカ踏み入りすぎでしょ!?
MIKAの行動力には毎度のことながら驚かされる。
行動力というより不躾なだけな気がしないでもない。
世間一般ではMIKAの事を失礼な人間と呼ぶのだと思う。
かなり失礼だと思うのだけれど、MIKAの無遠慮な質問にもお母さんは怒らず対応してくれている。
大人な対応なのか、それともあまりにも急な事で怒ることを忘れているのか……多分後者な気がする。
「あの子はもう10年近く今みたいな状態です」
10年……、見たところヤスヒロは私たちと同じくらいの歳だろう。
もしかすると少し下かもしれない。
そう考えると小学生の頃には引き籠っていたことになる。
「10年か……」
私の呟きにお母さんは「ええ……」と寂しそうに相槌を打つ。
しんみりした空気が流れる中、「弱いだけでしょ?」とMIKAの配慮の足りない言葉。
ほんとにこの娘は……もう、何を言っても変わる気がしないから私もお手上げ。諦めてる。
「何があっても自分だけは自分の事をSん字なくちゃいけないのに、あの子は逃げているだけ」
私はMIKAの過去を知らない。でも、相当苦労してきたであろうことは分かる。
そんな彼女から見たらヤスヒロは弱い人間なのかもしれない。
でも、すべての人間がMIKAのように強い人間という訳ではない。
「あの子は一人になってしまったんです」
ん?
「一人って?」
ヤスヒロには家族がいる。
違うんです、と私の言葉を遮ってお母さんが言う。
「あの子は夫の連れ子なんです」
そこまで聞いて、「一人になった」という意味を理解した。
この家には父親がいない。
初めは仕事に出ているものとばかり思っていたが、違ったのだ。
私には家族がいる。
誰一人として欠けていない。
だから、ヤスヒロの気持ちを本当の意味で理解することは出来ない。
「だから?」
冷たく言い放たれた一言。
MIKAだ。
「そんな言い方ないでしょ!?」
私は自分の事ではなかったけれど怒りを覚えた。
けれどもMIKAは私をあざ笑うように、
「あの子の気持ちなんて分からないですよね? だったら先輩があの子の境遇について意見することなんてできないでしょ?」
言い返したかったが、MIKAの鋭い眼光に射抜かれ、言葉が出てこなかった。
「大丈夫です。あとは私が何とかします」
有無を言わせぬ迫力があった。
MMIKAに任せるほかないと直感的に悟った。
* * *
数日後。
MIKAのマネージャーから一枚のCDが届いた。
中身を尋ねると、MIKAが歌った音源が入っているとのことだった。
歌? 私たちの曲はまだできてないはずだけど……
マネージャーさんの説明によるとスタジオでMIKAが歌ったもののバックアップだとのこと。
バックアップ?
その答えはネット上にあった。
動画投稿サイト。ユーチューブ。
その中に異常に閲覧数の伸びている動画があった。
投稿者の名前はMIKA……ってMIKA!? 本物!? マネージャーさんの顔を窺うと静かに頷く。
マジか……
公式ではない完全プライベート投稿という事もあり、閲覧数は上がり続けていた。
何やってるのあの娘?
最近の娘の考えていることは分からない……あっ、私とMIKAって同年代だった……。
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