転校生は朝ドラ女優!?

小暮悠斗

文字の大きさ
上 下
102 / 111
第四幕 VS大手レコード会社

ACT101

しおりを挟む
 社内の清掃は行き届いている。一安心だ。
 もし、外観のイメージそのままのゴミ屋敷状態だったらどうしようかと心配していたが、その心配はなさそうである。
 それと一応は営業しているみたいで良かった。
 潰れているんじゃないかと、割と本気で思っていた。
 それほどまでに外観は……あえて言うまでもないだろう(察してほしい)。

「これはこれは、こんな小汚い場所にお呼び立てして申し訳ない」

 やたらと腰の低い小太りの、いかにも中間管理職のおじさんが私たちを出迎えてくれた。

「今回はお世話になります」

 元気にあいさつ。
 この業界、挨拶が資本。
 挨拶が満足にできない奴は消える――一部はお怒りを買って消されている。
 そんな世界だ。
 それなのに、

「ほんとよ。買ったばかりの靴が汚れちゃうわ」

 なんで真希は、碌な挨拶ができないのに芸能界で十年以上も生き残っているのだろう?
 芸能界の七不思議のひとつである(結衣の独断監修)。

「アハハ、これでも毎日清掃しているんですけどね」

 真希のストレートな物言いにはおじさんも苦笑い。

「こちらの会議室にお願いします」

 通された部屋にはすでに先客がいた。

「お早うございます。先輩」

「おはようございます」

 二つの頭が私と真希を出迎える。

「おはよう。MIKAちゃんにHIKARUちゃん。二人とも早いのね」

「先輩をお待たせするわけにはいきませんから」

 MIKAが言う。
 一体どこまで本気で思っているんだか。
 きっと――絶対にそんなこと、これっぽっちも思ってはいないだろう。

「少しでも早く曲を聴きたかったんですよ」

 MIKAをフォローするようにHIKARUが話に割って入る。

(それにしてマジで小学生にしか見えないんだけど!?)

 以前番組で共演していたものの、改めて驚いた。
 まさか逆にサバ読んで芸能活動してたりしないよね?
 そんな私の心配をよそに、彼女はポーチから箱を取り出す。
 箱の上部をトントンと叩くと、白い筒状のものが……ってタバコ!?
 この娘は吸っても大丈夫なのか? と周囲を見やる。

 真希は全く関心無さそう。
 MIKAはライターを差し出している。
 MAKAの反応からすると大丈夫なんだよね?
 ……本当に? めちゃくちゃ不安なんですけど!

「どうかしました?」

 タバコを吹かしながらHIKARU。
 吹かした煙で輪を作って遊んでいる。
 相当手慣れている――吸い慣れていると見た。

「いや、私はタバコ吸えないからどんな味なのかなって」

「う~ん。美味しくはないですかね? 私の場合は中毒みたいなものだから、味云々より吸うと言う行為に意味がありますからね」

 受け答えからも、目の前の幼女(見た目が)は大人の女性だとという事がわかる。
 失礼とは思いつつも、年齢を尋ねてみる。

「歳ですか? 四捨五入すればアラサーですね」

「え……」

 自分で訊いておいて固まってしまった。
 思いの外、人生経験豊富だった。

「意外と歳食ってるのね」

(だからオブラートに包め!!)

 真希はそれだけ言うとスマホに目を落とした。
 すでにこの話題に感心を無くしたようだ。

 言葉を選ぶ回路が死滅してるのか?
 そんな思いを抱きながらも、追及しても意味がない事はわかっているので、HIKARUとの会話に戻ることにする。

「それじゃあ、芸歴も長いんじゃ」

 もし先輩だったら大変だ。
 この業界、売れていようが売れていなかろうが、先輩は立てるべきなのだ。
 だからこの業界では、20代の若者に40を過ぎたおじさんがペコペコする光景がよく見られる。
 私や真希みたいに子役からやっている人間は若くして大ベテランとなる。
 私も真希も大ベテランの域にはまだないと思うけど、あと十年もすればその域に到達するかもしれない。
 私同様にHIKARUも子役上がりだったとすれば、間違いなく芸歴は上。
 大先輩である。

「私は……」

 指折り数えて、四本指を折ったところで止まった。

「4年目ですかね?」

 バリバリの新人だった。

「でもそれは日本での芸歴ですから」

 MIKAが補足する。

「日本での?」

「HIKARUさんは韓国のプロダクションに居たので」

「韓国……」

「なので、向こうでの芸歴も足したら」

「それでもほとんど同期。私は子役からじゃないから」

 話を聞いて疑問に思うことが一つ。

「なんで日本に?」

 至極まっとうな疑問である。

「向こうでデビューできなかったから」

 おっと? これは訊いちゃいけない話だったかな。

「私の見た目はこっちではいいけど向こうではダメだった」

「ん? それって見た目が小学生だからデビューさせてもらえないってこと?」

 少し違うと前置きしてから、

「私がいたプロダクションはKポップをメインにしていたから」

 ?? 未だに話が見えない。

「Kポップのダンスは揃えることに意味がある。統率された一糸乱れぬダンスが求められる」

 なるほど。
 何となく話が見えて来たぞ。

「だから身体の小さな私が入ると全体のバランスを崩す。私と同じくらいの身長の人間が集まればデビューできた」

 さすがにそれは無理だろ、と思いはしたが、口には出さなかった。
 それは彼女のコンプレックスだから。わざわざ相手を傷つけなくてもいい。

「そんなの――」

 真希がいつもの調子で余計な一言を言うよりも早く、高野さんが口を塞ぐ。

「貴女はゲームに集中してなさい」

 その様子を手を叩きながら真希のマネージャーが見ている。

(あなたのとこのタレントでしょ!)

 高野さんも同様の意見だったようで、真希のマネージャー相手にマネジメント論を語って聞かせていた。

 色々と騒がしくなってしまったが、

「色々と大変だったのね。でも、日本では無事にデビューできたわけだし、良かったわね」

「まあ、クイーン・レコードからはデビューできると思っていたけど」

「確信があったの? すごい自信ね」

「自信じゃなくて確定事項みたいなものだったわ。私を飼い殺しにしたプロダクションの情報を相良に買ってもらったの、私はオマケみたいなものよ」

 伊達に歳は食ってないな。
 大人の女って怖い。
 笑顔で生々しい話を平然と語る。

「でも、なんで今回私と真希を入れた四人でCD出すことに?」

「韓国はデビューまでに大金をつぎ込むから、元手は回収しないと。ラビットガールはグループ活動は折半だから。個人であまり仕事がないのよ。テレビ局もこの見た目だから使いづらいのかしら?」

 反応に困る。
 ありえない話ではないだろう。
 年齢不詳の見た目幼女のHIKARU相手に、過激な事をやればテレビ局にはクレームが殺到するだろう。

「まあ、そんなわけでお金が必要なの。とっとと稼ぎたいのよ」

 HIKARUの話を聞きながら思った。

 なんで芸能界って裏のある人が多いんだろう。
 今回の新規ユニットは腹黒二人かと思っていたが、三人目がいた。
 芸能界の黒い部分を煮詰めたような、悪い意味で芸能人らしい人間が揃った。

 大丈夫なのかこのメンバーで?
 そんな私の心配をよそに、CDデビュー計画は進行してゆく。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...