転校生は朝ドラ女優!?

小暮悠斗

文字の大きさ
上 下
72 / 111
第三幕 新たな戦場――苦戦続きのバラエティー

ACT71

しおりを挟む
 なぜ番組は、たったワンクールで新レギュラーを投入したのか?
 視聴率は悪くない。むしろ好調と言うべき数字を残している。
 番組はゴールデンタイムということもあり、毎回二桁――二桁後半を記録していた。
 時間帯では視聴率トップだったはずだ。

 視聴率は好調。だとすれば、更なる視聴者の獲得に動き出したと見るべきだろう。
 売り出し中のアイドルをキャスティングしたのは、新たな男性視聴者の確保が目的なのか? 
 しかし私と真希で、十分男性視聴者は確保できているだろう。
 確かに、女優とアイドルとでは支持層が異なるだろうが、真希はともかく、私は基本的に男性に好かれるタイプである。
 これ以上の男性視聴者の獲得は難しいように思う。
 反対に、女性視聴者の獲得を積極的に行うべきだと私は思う。

 結衣がレギュラーを務めるバラエティー番組『お笑い革命~至高の笑い発信基地局~』は、結衣と真希、そして新たに加入したMIKA以外は全員が芸人という「THEバラエティー」空間であった。
 イケメン俳優の一人や二人連れてくれば若い女の子たちの人気も取れただろうに。

 現状の結衣と真希の扱いを見て、喜んで参加する俳優が居るのかは不明だが、まったくいないなんて事はないだろう。
 何と言ってもここは芸能界。奇人変人の集まりである。
 変わり者の一人や二人、容易に見つかる。
 増やすべきは女性レギュラーではなく、男性(イケメン)レギュラーだ。

 しかし、いくら結衣がそのように思ったところでその考えが番組作りに反映されることはない。
 結衣は所詮、バラエティーは素人同然――畑違いなのである。
 そもそも意見を口にすることもなかったのだが……

 不安と不満を抱いたまま、新体制での収録が始まる。

 …………
 ……
 …

 MIKAが加わって既にひと月。
 4回の収録全てが、何の滞りもなく進んだ。
 まるで、最初から番組に居たかのように場に溶け込み、新レギュラーと感じさせない健闘ぶりであった。
 デビューして日が浅いにもかかわらず、それを感じさせない自然なキャラクターは、お茶の間にも受け入れられつつあった。

 そして結衣は、このひと月を通して、MIKAに好感を抱くようになっていた。
 収録のたびにあいさつをしに楽屋を尋ねてくれるし、収録の合間の休憩時間にお喋りしたときも感じがよかった。
 芸人さん相手にも物怖じしない受け答えに、MIKAの人柄の一端を垣間見た気がする。
 その点は結衣も見習わなくてはと思う。

 結衣が芸人と初めて絡んだ際には、互いに距離感が掴めず、手探り状態(未だに感じる時がある)。
 その結果、変な間が幾度も生まれた。
 それら全てを、晩春さんがフォローしてくれたのは言うまでもない。

 芸歴3年に満たないという、MIKAの順能力には脱帽である。
 レギュラーとして4回(ゲスト登場を含めて5回)も収録をこなす頃には、バラエティーの土俵でしっかりとトークを繰り広げていた。
 そんなMIKAに対して、レギュラー歴どころか芸歴も10年近く長い結衣と真希は、どこかバラエティーという現場にフィットできていなかった。

 MIKAが加わってから、平行線だった視聴率にも変化が生まれた。
 15~16パーセントをウロウロしていた視聴率が、MIKAがゲストの回に18.4パーセント、翌週のMIKAレギュラー初回が19.2パーセント。
 その後の放送でも右肩上がりに視聴率を伸ばし、ついに先週の放送では21.6パーセントを記録。20パーセントの大台を超えたのだ。

 これにはプロデューサも笑いが止まらないらしい。
 テレビ局はMIKAの話題で持ち切りで、耳を澄ませば彼女を讃える言葉が聞こえて来る。
 テレビ業界は今、MIKA旋風(とでも言うべきか?)が到来していた。
 今や業界は、新視聴率女――MIKAの話題で持ち切りだ。

「マジでありえない!!」

 ヒステリックな声えお上げながら真希が楽屋に入ってくる。
 真希が私の楽屋に来るなんてビックリ!? 今日は槍でも降って来るのかしら?

「何なのよ!? 人の楽屋に押しかけてきて」

 私は真希の襲来に眉根を寄せた。
 やっぱり真希は苦手だ。

「あの女、疫病神よ!」

「誰が?」

「あの新レギュラーの女に決まってるでしょッ!」

「MIKAちゃんのこと? いい娘じゃない」

 しかし、真希はそうは思っていないらしく、

「あの女のせいで『今、旬のタレント――女性部門』で11位になったのよ。トップ10からこの私が零れるなんて、ありえないわ!?」

「そのランキングMIKAちゃんは何位だったの?」

「2位よ? 2位!? ちなみにアンタは6位よッ――」

 吐き捨てるように教えてくれた順位に、

「教えてくれてありがと。それにしても2位は大躍進ね」

 素直に新人の活躍を褒めたたえると、真希は違うと叫ぶように言葉を遮った。

「そうじゃないでしょ!? あの女、調子ノってるわ!」

「調子にノってるって……」

 アナタじゃないんだから――という言葉は何とか堪えた。



 ――この時、この真希の被害妄想が現実のものになるとは、夢にも思っていなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

処理中です...