転校生は朝ドラ女優!?

小暮悠斗

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幕間Ⅰ 姉妹の物語

ACT57

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 誰しも過去に苦い経験の一つや二つ、ある事だろう。
 もちろん私にもある。
 人生において、勝ち負けの付く事は山ほどある。
 そうした勝負事には勝たなくてはならない。
 何事も負けるより勝った方がいい。
 当然と言えば当然の事だ。勝たなくては何も手に入れることが出来ない。
 私がこの真理を学んだ(気付いた)のは、4歳の時だった。
 その時に負けることの意味を知った私は、それから先の人生において一度も負けることなく、12年の歳月が経った。

 回想はここまでにしておこう。
(そろそろ奴が来る――)

「そろそろ起きてくれる? 私は暇じゃないのよ」
(あなたの仕事は私のマネージャーでしょ)
 毎日思う。何でこの人マネージャーなんてやっているんだろう、と。
 私は大手の事務所ではなく、しがない個人事務所所属の女優だ。
 所属していると言っても私しかいないんだけど。
 その代りと言ってはなんだけど、取り分が多い(もちろんギャラの)。
 だから私は同年代の業界人の中では割とお金を持っている。
 趣味も何もないからお金は溜まっていく一方である。
 唯一お金を使う機会と言えば旅行の時に乗る飛行機代くらいのものだ。
 お金は現地調達が基本なので、パスポート以外に執着がなく、荷造りしても大抵その荷物を忘れて飛行機に乗ってしまう。
(そして今日も――)
「アタッシュケース忘れた……」
「またなの? 面倒だから取りに帰ったりしないわよ」
 このマネージャーの仕事放棄も(荷物忘れの)要因の一つだった。


 ♢ ♢ ♢


 そんなんこんなで、また荷物忘れちゃったから今夜、……やっぱり日本にいる間泊めてくれない? これは懇願だ。
 しかし、
 はぁ? の一言で一蹴。
 相変わらず冷たい。優しさが一切感じられない。
 でもそれは、私に対してだけではない。誰が相手でも同じように厳しい。冷たいのではなく、厳しいのだ。他人にも自分にも。彼女の名誉のためにそれだけは伝えておこうと思う。
 本人はそんなこと望んでいないだろうけど。

 家主の了解も得ずに家に上がり込む。
 口では文句たらたらの彼女も、本気で私を排除しようとはしない。
 何だかんだ言っても実の妹の頼みは断れないのだろう。

「今度は何の用でこっちに来たのよ」
「お姉ちゃん冷たいな~。久しぶりの妹でしょ? もっと可愛がってくれてもいいのよ」
「可愛がる? 誰が誰を?」
「お姉ちゃんが私を」
「私がアナタを? イヤよそんなの」
 完璧な塩対応を見せる姉。
(そこがまたいい!――)
 心の中で親指を立てる。
 ――ちっ
 あ、そろそろお姉ちゃんがキレそうだから本当の事(突然の来日理由)を言う事にする。
「私、こっち(日本)で映画に出ることになったから、しばらくお世話になるね! お姉ちゃん!!」
 私は全力の懇願を見せる。
 目には涙を溜め、上目遣いで訴える。
(今の私最高に可愛い――)
 その証拠に――
 お姉ちゃんも言葉を失ってる。

 …………
 ……
 …

 何故かこの後小突かれた。
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