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第二幕 映画撮影と超新星
ACT56
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シェリルとの別れは意外と寂しくなかった。何故かって? だってシェリルってばLINEをどんどん送ってくるから。正直そのせいで寝不足なの。
多分、日本とアメリカの時差とか考えずにメッセージを送っているに違いない。
仕方なくと言うより気力体力ともに限界を迎えた私がベッドにうつ伏せで倒れ込んでいる間にもピコンピコンとスマホが鳴る。
画面を見てみると、
詩乃(シェリル):寝た? もう寝た?
詩乃(シェリル):おーい
詩乃(シェリル):おーいってば~!!
詩乃(シェリル):無視はダメだよ!
詩乃(シェリル):流石に疲れたか。時差あるもんね。よく返信してくれた方だと思うよ
(時差の事判ってメッセージ送ってきてたのか!? 性質悪いな。流石は真希の妹である)
詩乃(シェリル):寝たなら寝たって返信頂戴❤
結衣:おやすみなさい
詩乃(シェリル):返信できる余力があるならもう少しお話しよ?
…………
……
…
その結果が目の下のクマである。
どうしたのそのクマ!? と朝からお母さんが大騒ぎ。
正直うるさい。
何でもないと一言告げて自分の部屋に閉じ籠った。
映画の撮影が終わり、当分の間暇になった私は時間を持て余していた。
本来であれば赤崎くんを誘ってデートの一つや二つしているはずだった。
自分自身を最大限に利用する、か……。
でも、彼には新田結衣の名前は通用しない。だから私はフラれてしまったのだ。
私はLINEにメッセージを送る。
結衣:叶わない夢ってあるのかな?
返信は期待してない。
アメリカは今頃深夜の筈である。
筈なのだが、すぐに返信がきた。
詩乃(シェリル):叶わない夢なんてない。叶えることが出来るのが夢。夢はたくさん持った方がいい。貪欲に全てを手に入れればいい、私みたいにね!
全てを手に入れる。
私は、ありがとうと一言打つと、そのまま家を出た。
初めて来た時よりも緊張してるかも。
私は赤崎くんの家の前でインターホンに指を押し当てたまま固まっていた。
ガチャと玄関が開き女の子が顔を覗かせる。
「未来ちゃん」
「あ、結衣ちゃんだ!」
出てきたのは赤崎くんの妹の未来ちゃんだった。
「お兄ちゃん居るかな?」
「うん、待ってて呼んでくる」
玄関からバタバタと駆けて行く未来ちゃんを見送り私は待った。
出てくるのが遅い。もしかして私とは逢いたくないって事?
もしそうだとしても私は決めたんだ。全てを手に入れると。
玄関のドアに手を掛ける。と同時にドアが開く。
――わっ! ちょうど赤崎くんがドアを開けたところだった。
「ひ、久し振り……」
「お、おう……」
気まずい。この空気どうしたんのかと考えていると、
「二人はケンカしてるの?」
未来ちゃんが首を傾げながら尋ねる。
「「そんなことないよ」」
「ほんとだ。息ピッタリだね」
「そうだろ! お兄ちゃんたち喧嘩なんかしてないぞ。だから未来、ちょっと二人にしてくれないか?」
「うんいいよ。じゃあ、後で遊んでね結衣ちゃん」
手を振る未来ちゃんに手を振り返す。
「じゃあ、ちょっとそこらへん散歩でもするか」
「うん」
並んで歩く。
彼との間にできた十数センチの距離がとても遠く感じられた。
二人で並んで歩く。
会話はない。ただ黙って歩く。
彼が私の歩幅に合わせて歩いてくれる。
それがなんだか嬉しくて私の歩幅は次第に大きくなった。
それに合わせて彼の歩幅も大きくなる。
気分はまるでデートをしている時のように軽やかだった。
「私はアナタが好き。だから私の世界を知ってもらいたいと思った……。だけど、知られるのも怖いと思った。私は自分に自信がないから」
私は、恐る恐る口を開いた。
「怖い?」
彼は険し顔で言う。
「私は小さな頃から芸能界に居て、きっと普通じゃない。仕事をしていない時もイメージを崩さないように気を配ってきた。だから私は本当の自分が判らない。
いつも誰かを演じてきたから。役柄だけじゃない。日常生活でも女優、新田結衣を演じてる。
16歳の新田結衣じゃない、女優の新田結衣。
学校に素性を隠して通ってた時もそう、女優、新田結衣が演じる普通の女子高生の新田結衣だった。
本当の私って何? きっと本当の私はつまらない人間なの空っぽなのよ。だからいろんな役が出来るんだわ!」
感情むき出しで話していた。
ヒステリックなところはやっぱりお母さん譲りなのかしら?
「俺も同じだよ」
彼も少しずつ話し始めた。
「注目されて周囲が勝手に盛り上がって、俺は置いてけ堀だよ。
でも期待されるのは嬉しいから頑張った。その結果オーバーワークで身体を痛めて焦ってた、けど同時にほっとした。もう走らなくて済むんだって。
きっと俺も普通じゃない。普通の人間なんてどこにもいないのかもしれない。
女優とか、スプリンターとか、他にもいろいろな悩みを持った人がいる。俺たちはガキだったからそれが判ってなかったんだよ。
俺には俺の、新田には新田の苦労がある。
だから、これからはもっと話そう。そうしたらもっとお互いの事が判るはずだから」
「そうね」
私は小さく頷いた。
だったら折角だし正直に言おうかな。
「ねぇ、赤崎くん。綾人って名前で呼んでいい?」
「え、いいけど」
「ありがとね、綾人くん」
何か照れるなと頭を掻く彼。
「それと私の事も名前で呼んで」
「えーとぉ……ゆ、結衣?」
「なんで疑問系なのよ!」
「あとそれからねぇ~」
「まだあるのかよ!?」
「だって言いたいことは言おうって……」
「判ったからそんな顔をするな」
涙に潤んだ瞳の効かは抜群だ!
涙なんかいくらでも出さるのに、こんな大量生産できるものでやられちゃうなんて、男ってチョロいわね。
「あとね、私、カグラ様よりユーリ様が好きなの。ごめんね綾人くん」
「いやいや、どうでもいいし、そもそも俺そのカグラ様もユーリ様も知らないから!」
それは大変! 一大事だわ!!
「大丈夫。私に任せて」
私は彼の手を引きその足でレンタルショップへと向かった。
その後の事はご想像にお任せします!
なんでか判らないけど、綾人くんは「二度と結衣とはアニメを観ない……」と言って辟易していた。なんでだろう?
まあ、いいか。万事すべて丸く収まったみたいだし、次の仕事が決まるまでデートし放題だ。
もっと綾人くんにアニメの、特にユーリ様とカグラ様の絡みの素晴らしさについては論じ足りない。
だから今日も私はLINEを打つ。
結衣:今日は絶海のプリンス劇場版を観よう!!
…………
……
…
既読ついてるのに返信が無い。
既読スルー? まさかね。
暫くすると返信が来た。
綾人:いいよ……
私は急いで支度を済ませる。
三点リーダの意味は判らないが、今日も楽しい一日になりそうだ!!
きっとこれからも私たちは迷い、苦しみながら目の前の壁を乗り越えていくのだろう。これから先どうんなことが待ち受けているのか判らない。でも、だからこそ素の自分でいたいと思う。
私は自分を奮い立たせるように大きな声で言った。
「行ってきます!!」
多分、日本とアメリカの時差とか考えずにメッセージを送っているに違いない。
仕方なくと言うより気力体力ともに限界を迎えた私がベッドにうつ伏せで倒れ込んでいる間にもピコンピコンとスマホが鳴る。
画面を見てみると、
詩乃(シェリル):寝た? もう寝た?
詩乃(シェリル):おーい
詩乃(シェリル):おーいってば~!!
詩乃(シェリル):無視はダメだよ!
詩乃(シェリル):流石に疲れたか。時差あるもんね。よく返信してくれた方だと思うよ
(時差の事判ってメッセージ送ってきてたのか!? 性質悪いな。流石は真希の妹である)
詩乃(シェリル):寝たなら寝たって返信頂戴❤
結衣:おやすみなさい
詩乃(シェリル):返信できる余力があるならもう少しお話しよ?
…………
……
…
その結果が目の下のクマである。
どうしたのそのクマ!? と朝からお母さんが大騒ぎ。
正直うるさい。
何でもないと一言告げて自分の部屋に閉じ籠った。
映画の撮影が終わり、当分の間暇になった私は時間を持て余していた。
本来であれば赤崎くんを誘ってデートの一つや二つしているはずだった。
自分自身を最大限に利用する、か……。
でも、彼には新田結衣の名前は通用しない。だから私はフラれてしまったのだ。
私はLINEにメッセージを送る。
結衣:叶わない夢ってあるのかな?
返信は期待してない。
アメリカは今頃深夜の筈である。
筈なのだが、すぐに返信がきた。
詩乃(シェリル):叶わない夢なんてない。叶えることが出来るのが夢。夢はたくさん持った方がいい。貪欲に全てを手に入れればいい、私みたいにね!
全てを手に入れる。
私は、ありがとうと一言打つと、そのまま家を出た。
初めて来た時よりも緊張してるかも。
私は赤崎くんの家の前でインターホンに指を押し当てたまま固まっていた。
ガチャと玄関が開き女の子が顔を覗かせる。
「未来ちゃん」
「あ、結衣ちゃんだ!」
出てきたのは赤崎くんの妹の未来ちゃんだった。
「お兄ちゃん居るかな?」
「うん、待ってて呼んでくる」
玄関からバタバタと駆けて行く未来ちゃんを見送り私は待った。
出てくるのが遅い。もしかして私とは逢いたくないって事?
もしそうだとしても私は決めたんだ。全てを手に入れると。
玄関のドアに手を掛ける。と同時にドアが開く。
――わっ! ちょうど赤崎くんがドアを開けたところだった。
「ひ、久し振り……」
「お、おう……」
気まずい。この空気どうしたんのかと考えていると、
「二人はケンカしてるの?」
未来ちゃんが首を傾げながら尋ねる。
「「そんなことないよ」」
「ほんとだ。息ピッタリだね」
「そうだろ! お兄ちゃんたち喧嘩なんかしてないぞ。だから未来、ちょっと二人にしてくれないか?」
「うんいいよ。じゃあ、後で遊んでね結衣ちゃん」
手を振る未来ちゃんに手を振り返す。
「じゃあ、ちょっとそこらへん散歩でもするか」
「うん」
並んで歩く。
彼との間にできた十数センチの距離がとても遠く感じられた。
二人で並んで歩く。
会話はない。ただ黙って歩く。
彼が私の歩幅に合わせて歩いてくれる。
それがなんだか嬉しくて私の歩幅は次第に大きくなった。
それに合わせて彼の歩幅も大きくなる。
気分はまるでデートをしている時のように軽やかだった。
「私はアナタが好き。だから私の世界を知ってもらいたいと思った……。だけど、知られるのも怖いと思った。私は自分に自信がないから」
私は、恐る恐る口を開いた。
「怖い?」
彼は険し顔で言う。
「私は小さな頃から芸能界に居て、きっと普通じゃない。仕事をしていない時もイメージを崩さないように気を配ってきた。だから私は本当の自分が判らない。
いつも誰かを演じてきたから。役柄だけじゃない。日常生活でも女優、新田結衣を演じてる。
16歳の新田結衣じゃない、女優の新田結衣。
学校に素性を隠して通ってた時もそう、女優、新田結衣が演じる普通の女子高生の新田結衣だった。
本当の私って何? きっと本当の私はつまらない人間なの空っぽなのよ。だからいろんな役が出来るんだわ!」
感情むき出しで話していた。
ヒステリックなところはやっぱりお母さん譲りなのかしら?
「俺も同じだよ」
彼も少しずつ話し始めた。
「注目されて周囲が勝手に盛り上がって、俺は置いてけ堀だよ。
でも期待されるのは嬉しいから頑張った。その結果オーバーワークで身体を痛めて焦ってた、けど同時にほっとした。もう走らなくて済むんだって。
きっと俺も普通じゃない。普通の人間なんてどこにもいないのかもしれない。
女優とか、スプリンターとか、他にもいろいろな悩みを持った人がいる。俺たちはガキだったからそれが判ってなかったんだよ。
俺には俺の、新田には新田の苦労がある。
だから、これからはもっと話そう。そうしたらもっとお互いの事が判るはずだから」
「そうね」
私は小さく頷いた。
だったら折角だし正直に言おうかな。
「ねぇ、赤崎くん。綾人って名前で呼んでいい?」
「え、いいけど」
「ありがとね、綾人くん」
何か照れるなと頭を掻く彼。
「それと私の事も名前で呼んで」
「えーとぉ……ゆ、結衣?」
「なんで疑問系なのよ!」
「あとそれからねぇ~」
「まだあるのかよ!?」
「だって言いたいことは言おうって……」
「判ったからそんな顔をするな」
涙に潤んだ瞳の効かは抜群だ!
涙なんかいくらでも出さるのに、こんな大量生産できるものでやられちゃうなんて、男ってチョロいわね。
「あとね、私、カグラ様よりユーリ様が好きなの。ごめんね綾人くん」
「いやいや、どうでもいいし、そもそも俺そのカグラ様もユーリ様も知らないから!」
それは大変! 一大事だわ!!
「大丈夫。私に任せて」
私は彼の手を引きその足でレンタルショップへと向かった。
その後の事はご想像にお任せします!
なんでか判らないけど、綾人くんは「二度と結衣とはアニメを観ない……」と言って辟易していた。なんでだろう?
まあ、いいか。万事すべて丸く収まったみたいだし、次の仕事が決まるまでデートし放題だ。
もっと綾人くんにアニメの、特にユーリ様とカグラ様の絡みの素晴らしさについては論じ足りない。
だから今日も私はLINEを打つ。
結衣:今日は絶海のプリンス劇場版を観よう!!
…………
……
…
既読ついてるのに返信が無い。
既読スルー? まさかね。
暫くすると返信が来た。
綾人:いいよ……
私は急いで支度を済ませる。
三点リーダの意味は判らないが、今日も楽しい一日になりそうだ!!
きっとこれからも私たちは迷い、苦しみながら目の前の壁を乗り越えていくのだろう。これから先どうんなことが待ち受けているのか判らない。でも、だからこそ素の自分でいたいと思う。
私は自分を奮い立たせるように大きな声で言った。
「行ってきます!!」
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