転校生は朝ドラ女優!?

小暮悠斗

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第二幕 映画撮影と超新星

ACT55

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 世間が私と真希の件で盛り上がっていた頃(まだ盛り上がっている)、私は学校――校長室を訪れていた。
「よく来てくれたわ、結衣さん」
「お久しぶりです内海校長」
「まだ、我が校の生徒さんなんですから、よく来てくれたは少し変よね?」
「そうかもしれませんね」
 アハハハ――
「……本題に入りましょうか」
「そうですね」
 今日は校長先生と雑談をするために学校を訪れたわけではないのだ。

「電話でもお伝えしましたが――今週限りで芸能科のある学校に転校しようと思います」
「寂しくなりますね」
「私も寂しいです。でも、私は女優なんです。内海校長、「Make the most of yourself, for that is all there is of you.」って意味わかります?」
「「Make the most of yourself, for that is all there is of you.」……自分自身を最大限利用しなさい。あなたにあるのはそれだけ、みたいな感じかしら?」
 流石は先生だ。私は高野さんに意味を教えて貰った。自分じゃちっとも答えに行きつかなかったんだよね。
「そうです。だから私は女優、新田結衣を最大限利用して転入してきました」
「そうね。正直普通に転入試験を受けてたら……」
「言われなくても自覚してます……」
 ……気を取り直して、
「私はもっと女優として成長したいんです。だからこれからは仕事に力を入れたい。でも、普通科のままじゃ仕事に全力で取り組めないかもしれない。逃げ込んでしまうかもしれない。もっとここにいたかったけど、私は私の夢のために最短距離で夢を掴んで見せます!」

「それを聞いて安心したわ」
 ノックも無しに校長室に入って来たのは詩乃だった。
「詩乃?」
「あら、まだ気づいていないのね」
 いつもの不思議ちゃん口調とは違う。でも、どこかで聞いたような……。どこでだったっけ……。
 あっ、シェリルだ! 彼女の口調に似ている。と言うより酷似している。
 でも何で?
「本当におバカさんね」笑う詩乃。
「結衣の夢って何なのかしら? 聞いても良い?」
 続けて詩乃が尋ねる。

「ハリウッドで主演!」
 一言。言葉にするほど簡単なことではない事は私にでもわかる。でも、夢なのだ。夢は大きい方がいい。
「必ず叶える。詩乃に言われた通り、私を最大限利用してね」

「そう。楽しみにしてる」
 詩乃は笑顔で答え、続いて校長に「今までお世話になりました」と頭を下げると、「一人で学校辞めるの寂しかったの。結衣と一緒でよかった」と零す。

「詩乃、やめるの!? 何で!?」
「何でって、帰るのよ」
「何処に?」
「ハリウッドに」
 さも当然の事というように口にする。
「私も良い経験が出来た。この経験はきっと生きる時が来るわ。だから私も、自分自身を最大限利用するの、女優シェリル・マクレーンを」

 ………………詩乃がシェリルでシェリルが詩乃?

 ようやく気がついた? と詩乃(シェリル)が私の瞳を覗き込む。

「えぇ~ッ!!??」
 驚きのあまり私は奇声を上げていた。

 …………
 ……
 …

 学校からの帰り、シェリルに誘われ喫茶店に入った。
 彼女には聞きたいことが山ほどあった。

「なんでスターのアナタが日本の学校なんかに来たの?」
「役作りのために決まってるじゃない。それに母国の同年代の女の子たちにも興味があったしね」
「母国? アナタ日本人だった?」
「日本とアメリカのハーフよ。私はアメリカ国籍を選ぶつもりでいるけど、まだ日本国籍も持ってるわ。でも心は完璧アメリカ人よ」
 大したことではないけれどと、前置きして、
希望のぞみ姉さんも日本とアメリカ、両方の国籍を持ってるわよ」
 ? 誰それ?
 私の表情を見てシェリルはすかさず補足する。
「綾瀬真希。本名、浮気希望うきのぞみ、私の双子のお姉さん」
「――え!? だって二人とも全然見た目違うじゃん!」
「私たちは二卵性だから、似てなくて当然よ。姉さんは母親、私は父親に似たのね。ちなみに母が日本人で、父がアメリカ人ね」
「じゃあ、アナタも浮気が本当の苗字なの?」
「いいえ、逢里詩乃が私の本名よ。ちょっと複雑な家庭なの、でも、私は姉さんのこと大好きよ。向こうはどう思ってるかわからないけどね」

 クスッと笑う。

 だから真希が台本を早瀬さんに渡してしまった件を、自身の正体を明かすという捨て身の宣伝で帳消しにしたのだろう。
 きっと真希はシェリルの事をあまり良く思っていないのだろう。
 シェリルと真希の演技は、息が合っていると言うよりも感情が乗っている感じがした。迫真の演技は実は、真希の感情を全てさらけ出した結果に過ぎないのかもしれない。二人は映画の中では敵対関係のまま終わった。
 二人の演技は、二人の関係性そのものだったのかもしれない。
 でも、あんな意地悪な真希だけど、大好きと言ってくれる人が居るのなら、その気持ちに応えるくらいの良心は残っているだろう。

 だから、
「大丈夫よ。真希だってきっとシェリルの事好きだと思うわ。だって真希って素直じゃないでしょ?」
「そうね。昔から姉さんは素直じゃなかった。でもそうなったのは私の所為でもあるから、あまり姉さんのこと毛嫌いしないでね」
 シェリルの笑みに見え隠れする罪悪感が、彼女の言葉が本心であることを物語っていた。
 私は深く追求することはせずに、話題を変えた。

「シェリルの夢って何なの?」
「私の夢?」
「私はハリウッドの主演。シェリルは?」
「そうね……夢が叶ったから帰るんだけどね」
「じゃあ、王子監督の映画に出るのが夢だったの?」
「違うわ。王子監督は私の夢に為に利用しただけ」
 王子監督を利用……恐ろしい子ッ――
「私の夢はあなた」
「ん? 私?」
「そう、あなたとの共演。それが私の夢! もう、叶っちゃったわね」
「なんで私なんか……」
「あなたはすごい女優なのよ。私はオーディションでは負けたことないの。もちろんハリウッドでも欲しい役は勝ち取ってきた。でも一回だけ、一番欲しかった役を私は貰えなかった。負けたの、あなたにね」

 ……ごめんなさい。全く思い当たる節が無いんですが!?

「昔の話よ、でも私の方が今は上みたいだし、満足したから帰るの。私って負けず嫌いなのよ、姉さんと同じでね!」
 それだけ言うとシェリルは席を立ち店を出て行った。

 喫茶店には私一人が残された。
 ……あれ、無銭飲食? 結局シェリルの分まで私が代金を支払った。
 意外とスターはケチらしい。
 今度逢ったらきちんと立て替えたお金返してもらうんだから。
 だから私もいつかハリウッドへ行くんだ。
 私はシェリルの分のレシートを握りしめながら誓った。
 ――絶対に780円取り立ててやる、と。
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