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第二幕 映画撮影と超新星
ACT54
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プレミアム試写会当日。
私はこの日を心待ちにしていた。でもそれは私だけじゃない。今回の映画に携わった人みんなが心待ちにしていた。
それと同時に一抹の不安を抱える日でもある。
だって、もし、この上映で歓声ではなくブーイングでも浴びることになったら私たちは卒倒する事だろう。
キャスト&スタッフは心をポキポキに圧し折られ、制作会社や資金元となっているスポンサーは一瞬で赤字が確定。
そんな状況では、心臓が一つでは足りない。今もバクバクと鼓動し続けている。
こんなんで今日持つかな~。
心労とかで途中退席なんかになりそうで怖い。
それともう一つ気掛かりなことがある。
今日のスケジュールは、プレミアム試写会だけのはずなのだが、押さえてある時間がやたらと長い。こんなに時間を取るなんてことないと思うんだけど……。
120分の映画を上映。その後、壇上にて挨拶を行い。インタビュー・観客の質問等々……。
多く見積もっても3時間あれば事足りそうだが、私のスケジュールは5時間超に渡って抑えられていた。
高野さんの仕事は完璧。だからこの5時間超の時間には必ず意味がある。
でも考えてもわからないから今は気ににしない。その時になれば未来の私が頑張ってくれるよね? 楽観的にこのスケジュールを捉えていた私は、この後(数時間後の未来に)、痛い目を見ることになる。
…………
……
…
プレミアム試写会会場。キャスト控室。
会場入りしてから余計に心臓が脈打っている。
プレミアム試写会のチケットの倍率は100倍にもなったらしい。
それほどまでに今作は期待されていると言う事だ。
うっ……ちょっとお腹が痛いかも……。
「ちょっと――」
「お手洗いね。行ってらっしゃい。籠っててもいいわよ、時間になったら呼びに行ってあげるから」
「そんなに時間はかかりません!」
「いいから早く行ってきなさい」
「高野さん、デリカシー無さ過ぎ」
べーっと、舌を出してお花を摘み(あくまでお花摘みである)に席を立った。
お花畑には先客がいた(察してくれるよね?)。
電話中の真希である。
「何よそれ!? そんなの聞いてないわよ!!」
ヒステリックに騒いでいる。
鏡越しに私の姿を目視しているのも拘わらず、無視を決め込み話を続ける。
「だから! そんな勝手なこと許せるわけないじゃない! どんなに条件が良くても絶対にイヤ!!」
誰が話を聞いてもおかしくない公共の場で真希がここまで取り乱すのは珍しい。
よほどの事態だと言う事は確かだろう。
私しかいなくて良かったわね。私はアナタと違って週刊誌に情報を流したりしないから。私って優しい!
「とにかく、私は出ない。今から帰る」
電話を切る間際、小さく舌打ちした真希が私を見て、
「精々頑張りなさいよ」
と、激励の言葉を口にする。
――!? 青天の霹靂とはまさにこの事である。
「アンタ大丈夫? どこか悪いんじゃないの? 死ぬの? 死んじゃうのね……」
「死なないわよ! それ以上馬鹿な事言ってると週刊誌にアンタのネタ売り込むわよ!!」
いつもの真希だわ。どこかほっとしたような……気のせいね。
「そんなことばっかり言ってるから私に勝てないのよ。この腹黒」
フンと鼻で笑い、真希は同情するといった表情を見せる。
「まあいいわ。今回は私とアンタ、二人で共倒れだから」
「共倒れって何がよ!」
「聞かされてないのね……――」
続く言葉は容易に想像できた。「可哀想に」。
結局真希はその言葉を飲み込んだ。
お花摘みから無事戻った私は高野さんから笑顔で迎えられた。
「どうかしたの高野さん?」
「結衣! 綾瀬真希が帰ったわ」
「あぁ、うん」
「あら? 反応が薄いわね」
「さっき真希と逢ったから」
「えっ! まさか何か聞いちゃった?」
「聞いてないけど、やっぱり何か隠してるのね」
絶対に問い詰めてやる! と心に誓った瞬間――
「新田さん準備お願いします」
「グッドタイミング!」
親指を立てる高野さん。
「バッドタイミングだわ」
スタッフの呼び出しにより、問いただす機会を失った私は、何も知らないままプレミアム試写会を迎えた。
映画は予定通り120分上映された。
通常であれば監督とメインキャストが視界の呼び込みに応じて登場。というのが通例なのだが……。
王子監督だけが先に登場、挨拶を始める。
何故一緒に挨拶をしないのか。監督とキャストを分ける意味とは? 次々と浮かぶ疑問符の数々を解決してくれる人はいない。
頼みの綱でもある草薙さんと瀧川さんに目を向けるが、二人とも肩を竦めるだけだった。
舞台上では王子監督が今回の映画について語っていた。
「楽しんでいただけましたか?」
観客が割れんばかりの拍手で答える。
「ありがとう。実はこの映画、完成した瞬間から世界一の称号を手にしているんだ」
すかさず報道陣から質問が飛ぶ。
「世界一というのはどういう事でしょうか?」
王子監督は待ってましたと言わんばかりの笑顔で答える。
「エンドロールの長さだよ。今までの世界記録の倍近くある」
観客の反応はいまいち。それはそうだろう、映画好きなら最後まで作品として鑑賞するという人もいる。しかし、好き好んでエンドロールを観ようと言う人間は稀有だろう。
キャストにスタッフ、出資元・制作会社等の名前が延々に流れ続ける。退屈以外の何物でもない。実際にエンドロールが流れ始めたら席を立つ人も少なくない。
会場の空気を見て王子監督が言う。
「もちろん最後まで楽しめる作品になっています。エンドロールだからって俺は手を抜かない。何なら本編よりも面白いと思う人間だっているだろう」
この言葉で会場の空気は変わった。
「それじゃ、最後まで楽しんでくれ」
――暗転。
会場が闇と一瞬の静寂に包まれる――
スクリーンに映し出されたのは私と真希だった。
? 何だこれ??
何も判らない私だが、一つだけ言えることがある。
私はスクリーンに映る自分がこの後何を口にするかを知っている。
『う◯こはアンタよ!』
『私はう◯こじゃないわよ!』
私は顔を覆った。
エンドロールは、NGシーンを再構成して作った物語仕立てになっていて、面白いと思った。やはり王子監督は天才だと。
でもこれはあんまりだ。
最高傑作なのは間違いないが、色々と代償を払わされた気がする。
加えてスタンディングオベーションの会場に登場する私は、観客の中では「う◯こ」を連発していた女優としてしか印象に残っていないことだろう。
この事を知ったから真希は逃げたのだろう。私も知っていたら逃げたに違いない。
それでも無情に時は過ぎる。
「では今作のキャストの皆さんにご登場願います!」
司会の呼び込みの声がした――それ以降の記憶がハッキリとしいない。
しかし翌日、新田結衣と綾瀬真希の二人そろって検索急上昇ランキングのトップ2を独占。
二人そろって「う◯こ」が関連ワードの最初に来るようになっていた。
私はこの日を心待ちにしていた。でもそれは私だけじゃない。今回の映画に携わった人みんなが心待ちにしていた。
それと同時に一抹の不安を抱える日でもある。
だって、もし、この上映で歓声ではなくブーイングでも浴びることになったら私たちは卒倒する事だろう。
キャスト&スタッフは心をポキポキに圧し折られ、制作会社や資金元となっているスポンサーは一瞬で赤字が確定。
そんな状況では、心臓が一つでは足りない。今もバクバクと鼓動し続けている。
こんなんで今日持つかな~。
心労とかで途中退席なんかになりそうで怖い。
それともう一つ気掛かりなことがある。
今日のスケジュールは、プレミアム試写会だけのはずなのだが、押さえてある時間がやたらと長い。こんなに時間を取るなんてことないと思うんだけど……。
120分の映画を上映。その後、壇上にて挨拶を行い。インタビュー・観客の質問等々……。
多く見積もっても3時間あれば事足りそうだが、私のスケジュールは5時間超に渡って抑えられていた。
高野さんの仕事は完璧。だからこの5時間超の時間には必ず意味がある。
でも考えてもわからないから今は気ににしない。その時になれば未来の私が頑張ってくれるよね? 楽観的にこのスケジュールを捉えていた私は、この後(数時間後の未来に)、痛い目を見ることになる。
…………
……
…
プレミアム試写会会場。キャスト控室。
会場入りしてから余計に心臓が脈打っている。
プレミアム試写会のチケットの倍率は100倍にもなったらしい。
それほどまでに今作は期待されていると言う事だ。
うっ……ちょっとお腹が痛いかも……。
「ちょっと――」
「お手洗いね。行ってらっしゃい。籠っててもいいわよ、時間になったら呼びに行ってあげるから」
「そんなに時間はかかりません!」
「いいから早く行ってきなさい」
「高野さん、デリカシー無さ過ぎ」
べーっと、舌を出してお花を摘み(あくまでお花摘みである)に席を立った。
お花畑には先客がいた(察してくれるよね?)。
電話中の真希である。
「何よそれ!? そんなの聞いてないわよ!!」
ヒステリックに騒いでいる。
鏡越しに私の姿を目視しているのも拘わらず、無視を決め込み話を続ける。
「だから! そんな勝手なこと許せるわけないじゃない! どんなに条件が良くても絶対にイヤ!!」
誰が話を聞いてもおかしくない公共の場で真希がここまで取り乱すのは珍しい。
よほどの事態だと言う事は確かだろう。
私しかいなくて良かったわね。私はアナタと違って週刊誌に情報を流したりしないから。私って優しい!
「とにかく、私は出ない。今から帰る」
電話を切る間際、小さく舌打ちした真希が私を見て、
「精々頑張りなさいよ」
と、激励の言葉を口にする。
――!? 青天の霹靂とはまさにこの事である。
「アンタ大丈夫? どこか悪いんじゃないの? 死ぬの? 死んじゃうのね……」
「死なないわよ! それ以上馬鹿な事言ってると週刊誌にアンタのネタ売り込むわよ!!」
いつもの真希だわ。どこかほっとしたような……気のせいね。
「そんなことばっかり言ってるから私に勝てないのよ。この腹黒」
フンと鼻で笑い、真希は同情するといった表情を見せる。
「まあいいわ。今回は私とアンタ、二人で共倒れだから」
「共倒れって何がよ!」
「聞かされてないのね……――」
続く言葉は容易に想像できた。「可哀想に」。
結局真希はその言葉を飲み込んだ。
お花摘みから無事戻った私は高野さんから笑顔で迎えられた。
「どうかしたの高野さん?」
「結衣! 綾瀬真希が帰ったわ」
「あぁ、うん」
「あら? 反応が薄いわね」
「さっき真希と逢ったから」
「えっ! まさか何か聞いちゃった?」
「聞いてないけど、やっぱり何か隠してるのね」
絶対に問い詰めてやる! と心に誓った瞬間――
「新田さん準備お願いします」
「グッドタイミング!」
親指を立てる高野さん。
「バッドタイミングだわ」
スタッフの呼び出しにより、問いただす機会を失った私は、何も知らないままプレミアム試写会を迎えた。
映画は予定通り120分上映された。
通常であれば監督とメインキャストが視界の呼び込みに応じて登場。というのが通例なのだが……。
王子監督だけが先に登場、挨拶を始める。
何故一緒に挨拶をしないのか。監督とキャストを分ける意味とは? 次々と浮かぶ疑問符の数々を解決してくれる人はいない。
頼みの綱でもある草薙さんと瀧川さんに目を向けるが、二人とも肩を竦めるだけだった。
舞台上では王子監督が今回の映画について語っていた。
「楽しんでいただけましたか?」
観客が割れんばかりの拍手で答える。
「ありがとう。実はこの映画、完成した瞬間から世界一の称号を手にしているんだ」
すかさず報道陣から質問が飛ぶ。
「世界一というのはどういう事でしょうか?」
王子監督は待ってましたと言わんばかりの笑顔で答える。
「エンドロールの長さだよ。今までの世界記録の倍近くある」
観客の反応はいまいち。それはそうだろう、映画好きなら最後まで作品として鑑賞するという人もいる。しかし、好き好んでエンドロールを観ようと言う人間は稀有だろう。
キャストにスタッフ、出資元・制作会社等の名前が延々に流れ続ける。退屈以外の何物でもない。実際にエンドロールが流れ始めたら席を立つ人も少なくない。
会場の空気を見て王子監督が言う。
「もちろん最後まで楽しめる作品になっています。エンドロールだからって俺は手を抜かない。何なら本編よりも面白いと思う人間だっているだろう」
この言葉で会場の空気は変わった。
「それじゃ、最後まで楽しんでくれ」
――暗転。
会場が闇と一瞬の静寂に包まれる――
スクリーンに映し出されたのは私と真希だった。
? 何だこれ??
何も判らない私だが、一つだけ言えることがある。
私はスクリーンに映る自分がこの後何を口にするかを知っている。
『う◯こはアンタよ!』
『私はう◯こじゃないわよ!』
私は顔を覆った。
エンドロールは、NGシーンを再構成して作った物語仕立てになっていて、面白いと思った。やはり王子監督は天才だと。
でもこれはあんまりだ。
最高傑作なのは間違いないが、色々と代償を払わされた気がする。
加えてスタンディングオベーションの会場に登場する私は、観客の中では「う◯こ」を連発していた女優としてしか印象に残っていないことだろう。
この事を知ったから真希は逃げたのだろう。私も知っていたら逃げたに違いない。
それでも無情に時は過ぎる。
「では今作のキャストの皆さんにご登場願います!」
司会の呼び込みの声がした――それ以降の記憶がハッキリとしいない。
しかし翌日、新田結衣と綾瀬真希の二人そろって検索急上昇ランキングのトップ2を独占。
二人そろって「う◯こ」が関連ワードの最初に来るようになっていた。
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