転校生は朝ドラ女優!?

小暮悠斗

文字の大きさ
上 下
45 / 111
第二幕 映画撮影と超新星

ACT44

しおりを挟む
 いつもは高野さんに起こしてもらって、ようやく身支度を始める私だけど今日は違う。
 ちゃんと自分で起きて高野さんが来る前にすでに身支度は整えていた。

 高野さんビックリするだろうな~。
 普段じゃありえない事だから。私は朝に弱いの、低血圧だから。
 まあ、深夜アニメをお母さんに隠れて観ていることが原因の一端だと言われてしまえばそれまでなのだけど。

 一応チャイムは鳴らすけど、返答を聞く前に家の中に上がり込む高野さん。
「オハヨー、高野さん」
「おはよう、結衣。さぁ、行きましょ。準備は出来てるわね?」
「もちろんよ!」
 今日は朝から気分がいい。だって今日は――朝からずっと赤崎くんと一緒似られるから。
 移動物車にはすでに彼が乗っていて、私を出迎えてくれた。

「おはよう、新田」
「おはよう、赤崎くん」
 ああ、赤崎くんカッコいい! 二次元のカグラ様みたいに目がキラキラしてる。

 眠たくて欠伸をした為に出た涙で、潤んだ瞳という発想に至らない私はその瞳を見つめ続けていた。
「あー、お二人さん? そろそろ出発しないと間に合わないんだけど。結衣! 早く車に乗りなさい!」
 叱られちゃった。
 でも、めげない。だって今日はハッピーな一日になるはずだから。

 えへへ。
 浮かべた笑みに応えて彼も微笑む。
 ああ、私はなんて幸せ者なのだろう。冷え冷えとした朝の空気さえも、今の私にとっては心地いい。

 車に乗り込みバタンとドアを閉めると、急発進した。
 危うく舌を噛むところだった。

 彼を撮影現場に連れて行くと言う私の我儘わがままに応えてくれた高野さんは、ちょっとお疲れモードだ。
 ほんとにありがと高野さん。感謝してもしきれない。
 そんな高野さんのおかげで私は今、こうして彼氏との貴重な一時を得ることが出来ている。

 雑談すること20分。スタジオに到着。
 さぁて、いっちょいいとこ見せますか!
 最悪の共演者たちとのバトル開始スタートだ。


 バトルと言っても殴りあう訳ではない。まあ、今回の映画はアクション過多な部分があるので全く殴りあわないという訳ではない。
 そのことにかこつけて本気で真希を蹴ったり殴ったりできる。なんて素晴らしい撮影なんだ! こんな大っぴらに積年の恨みを晴らすことが出来るとは……フフフ。

「何か悪い奴の顔してるぞ」
「そ、そんなことないよー」
 あっ、声が上ずった。
「やぁ、おはよう、結~衣ちゃん」
 ――チッ
「何か用ですか? 太刀川さん」
「いやだな結衣ちゃん。俺たちの仲だろ? いつもみたいに慶って呼んでよ」
 つまりは他人と言う事ですね。
「おや? そちらの方は、付き人さんかな? 初めまして、俺は太刀川慶でーす。結衣ちゃんの彼氏なんで今後ともよろしくね~」
 そ~っと赤崎くんの顔を覗き見る。

 鬼の形相って今までピンとこなかったけど、これからはすぐにイメージできそう。だって、今の赤崎くん……とてつもなく怖い。
 鬼の形相=赤崎くんが、私の脳にインプットされた瞬間だった。

「初めまして太刀川さん。俺は赤崎あやt――」
「あー、いいよ。俺、男の挨拶とか別にいらねぇし」
 ムカつくなコイツ! しばいたろか!?
「今、コイツ殴りてぇ~って思ったろ?」
「そんなこと思ってないよー」
 しばきたいとは思ったけど。

「早速、撮ろうか。俺たちの愛溢れるシーンを」
 え、愛? 殴りあった末に足手まといになった慶を置き去りにするシーンじゃなかったけ?

 王子監督のシーン説明によると恋愛感情はあるが、それを内に秘めたまま慶(あくまで役)が死ぬシーンだそうだ。
 どうせなら慶も本当に死んでしまえばいいのに。
 そしたら私の悩みの種が一つ消えるのになぁ。

 王子監督の端麗な顔に無造作に生えた髭は整えられておらず、見るからにチクチクしていた。
 撮影が始まってから一切剃っていないのだと言う。
 そんな王子監督の声が飛ぶ。

 拡声器でより大きくなった声がスタジオに轟く。
 ちなみに赤崎くんには私のディレクターズチェアに座ってもらっている。
 ディレクターズチェアって監督とかが座っている折り畳めるイスの事ね。

「――本番!」

 古賀弘宗かがひろむね(慶)は、ぜえぜえと整わない息を必死で押し殺して笑う。
「早くしてよ」
 不機嫌そうな顔で高島玲子(私)は急かす。
「俺はもう……」
 雨の降った後で水けを多く含んだ土は、ただでさえ遅くなった足取りをより遅くする。
「そんなに急かされても……これ以上速く動けないよ……」
 膝に手を置き、動こうとしない古賀弘宗に高島玲子が詰め寄る。
「早くしてください」
 胸ぐらを掴み無理やりに身体を起こす。
 顔が近づく。
 幸の薄そうなか細い笑みを浮かべると、古賀弘宗は最後の力を振り絞って突き飛ばす。
 ――突き飛ばす……あれ? 突き飛ばされない、どころかどんどん顔が近づいてくる。
 か細い笑みの中に艶っぽさが見え隠れする。

 迫った慶の顔が視界を完全に塞いだ。
 次の瞬間、唇に伝わる柔らかい感触と熱の正体に気付くまでに暫しの時間を要した。
 ――ぬぉぉぉぉおおおおお!?
 口づけ!? 口づけされたぁぁあああ!? 
 口と口をづけされた!?
 何だか考えがまとまらないけど、私のファーストキスがぁぁあああ――。

 私が狼狽えている間に赤崎くんの姿は消えていた。
 残されたディレクターズチェアが一脚――寂しく立っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...