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第二幕 映画撮影と超新星
ACT44
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いつもは高野さんに起こしてもらって、ようやく身支度を始める私だけど今日は違う。
ちゃんと自分で起きて高野さんが来る前にすでに身支度は整えていた。
高野さんビックリするだろうな~。
普段じゃありえない事だから。私は朝に弱いの、低血圧だから。
まあ、深夜アニメをお母さんに隠れて観ていることが原因の一端だと言われてしまえばそれまでなのだけど。
一応チャイムは鳴らすけど、返答を聞く前に家の中に上がり込む高野さん。
「オハヨー、高野さん」
「おはよう、結衣。さぁ、行きましょ。準備は出来てるわね?」
「もちろんよ!」
今日は朝から気分がいい。だって今日は――朝からずっと赤崎くんと一緒似られるから。
移動物車にはすでに彼が乗っていて、私を出迎えてくれた。
「おはよう、新田」
「おはよう、赤崎くん」
ああ、赤崎くんカッコいい! 二次元のカグラ様みたいに目がキラキラしてる。
眠たくて欠伸をした為に出た涙で、潤んだ瞳という発想に至らない私はその瞳を見つめ続けていた。
「あー、お二人さん? そろそろ出発しないと間に合わないんだけど。結衣! 早く車に乗りなさい!」
叱られちゃった。
でも、めげない。だって今日はハッピーな一日になるはずだから。
えへへ。
浮かべた笑みに応えて彼も微笑む。
ああ、私はなんて幸せ者なのだろう。冷え冷えとした朝の空気さえも、今の私にとっては心地いい。
車に乗り込みバタンとドアを閉めると、急発進した。
危うく舌を噛むところだった。
彼を撮影現場に連れて行くと言う私の我儘に応えてくれた高野さんは、ちょっとお疲れモードだ。
ほんとにありがと高野さん。感謝してもしきれない。
そんな高野さんのおかげで私は今、こうして彼氏との貴重な一時を得ることが出来ている。
雑談すること20分。スタジオに到着。
さぁて、いっちょいいとこ見せますか!
最悪の共演者たちとのバトル開始だ。
バトルと言っても殴りあう訳ではない。まあ、今回の映画はアクション過多な部分があるので全く殴りあわないという訳ではない。
そのことに託けて本気で真希を蹴ったり殴ったりできる。なんて素晴らしい撮影なんだ! こんな大っぴらに積年の恨みを晴らすことが出来るとは……フフフ。
「何か悪い奴の顔してるぞ」
「そ、そんなことないよー」
あっ、声が上ずった。
「やぁ、おはよう、結~衣ちゃん」
――チッ
「何か用ですか? 太刀川さん」
「いやだな結衣ちゃん。俺たちの仲だろ? いつもみたいに慶って呼んでよ」
つまりは他人と言う事ですね。
「おや? そちらの方は、付き人さんかな? 初めまして、俺は太刀川慶でーす。結衣ちゃんの彼氏なんで今後ともよろしくね~」
そ~っと赤崎くんの顔を覗き見る。
鬼の形相って今までピンとこなかったけど、これからはすぐにイメージできそう。だって、今の赤崎くん……とてつもなく怖い。
鬼の形相=赤崎くんが、私の脳にインプットされた瞬間だった。
「初めまして太刀川さん。俺は赤崎あやt――」
「あー、いいよ。俺、男の挨拶とか別にいらねぇし」
ムカつくなコイツ! しばいたろか!?
「今、コイツ殴りてぇ~って思ったろ?」
「そんなこと思ってないよー」
しばきたいとは思ったけど。
「早速、撮ろうか。俺たちの愛溢れるシーンを」
え、愛? 殴りあった末に足手まといになった慶を置き去りにするシーンじゃなかったけ?
王子監督のシーン説明によると恋愛感情はあるが、それを内に秘めたまま慶(あくまで役)が死ぬシーンだそうだ。
どうせなら慶も本当に死んでしまえばいいのに。
そしたら私の悩みの種が一つ消えるのになぁ。
王子監督の端麗な顔に無造作に生えた髭は整えられておらず、見るからにチクチクしていた。
撮影が始まってから一切剃っていないのだと言う。
そんな王子監督の声が飛ぶ。
拡声器でより大きくなった声がスタジオに轟く。
ちなみに赤崎くんには私のディレクターズチェアに座ってもらっている。
ディレクターズチェアって監督とかが座っている折り畳めるイスの事ね。
「――本番!」
古賀弘宗(慶)は、ぜえぜえと整わない息を必死で押し殺して笑う。
「早くしてよ」
不機嫌そうな顔で高島玲子(私)は急かす。
「俺はもう……」
雨の降った後で水けを多く含んだ土は、ただでさえ遅くなった足取りをより遅くする。
「そんなに急かされても……これ以上速く動けないよ……」
膝に手を置き、動こうとしない古賀弘宗に高島玲子が詰め寄る。
「早くしてください」
胸ぐらを掴み無理やりに身体を起こす。
顔が近づく。
幸の薄そうなか細い笑みを浮かべると、古賀弘宗は最後の力を振り絞って突き飛ばす。
――突き飛ばす……あれ? 突き飛ばされない、どころかどんどん顔が近づいてくる。
か細い笑みの中に艶っぽさが見え隠れする。
迫った慶の顔が視界を完全に塞いだ。
次の瞬間、唇に伝わる柔らかい感触と熱の正体に気付くまでに暫しの時間を要した。
――ぬぉぉぉぉおおおおお!?
口づけ!? 口づけされたぁぁあああ!?
口と口をづけされた!?
何だか考えがまとまらないけど、私のファーストキスがぁぁあああ――。
私が狼狽えている間に赤崎くんの姿は消えていた。
残されたディレクターズチェアが一脚――寂しく立っていた。
ちゃんと自分で起きて高野さんが来る前にすでに身支度は整えていた。
高野さんビックリするだろうな~。
普段じゃありえない事だから。私は朝に弱いの、低血圧だから。
まあ、深夜アニメをお母さんに隠れて観ていることが原因の一端だと言われてしまえばそれまでなのだけど。
一応チャイムは鳴らすけど、返答を聞く前に家の中に上がり込む高野さん。
「オハヨー、高野さん」
「おはよう、結衣。さぁ、行きましょ。準備は出来てるわね?」
「もちろんよ!」
今日は朝から気分がいい。だって今日は――朝からずっと赤崎くんと一緒似られるから。
移動物車にはすでに彼が乗っていて、私を出迎えてくれた。
「おはよう、新田」
「おはよう、赤崎くん」
ああ、赤崎くんカッコいい! 二次元のカグラ様みたいに目がキラキラしてる。
眠たくて欠伸をした為に出た涙で、潤んだ瞳という発想に至らない私はその瞳を見つめ続けていた。
「あー、お二人さん? そろそろ出発しないと間に合わないんだけど。結衣! 早く車に乗りなさい!」
叱られちゃった。
でも、めげない。だって今日はハッピーな一日になるはずだから。
えへへ。
浮かべた笑みに応えて彼も微笑む。
ああ、私はなんて幸せ者なのだろう。冷え冷えとした朝の空気さえも、今の私にとっては心地いい。
車に乗り込みバタンとドアを閉めると、急発進した。
危うく舌を噛むところだった。
彼を撮影現場に連れて行くと言う私の我儘に応えてくれた高野さんは、ちょっとお疲れモードだ。
ほんとにありがと高野さん。感謝してもしきれない。
そんな高野さんのおかげで私は今、こうして彼氏との貴重な一時を得ることが出来ている。
雑談すること20分。スタジオに到着。
さぁて、いっちょいいとこ見せますか!
最悪の共演者たちとのバトル開始だ。
バトルと言っても殴りあう訳ではない。まあ、今回の映画はアクション過多な部分があるので全く殴りあわないという訳ではない。
そのことに託けて本気で真希を蹴ったり殴ったりできる。なんて素晴らしい撮影なんだ! こんな大っぴらに積年の恨みを晴らすことが出来るとは……フフフ。
「何か悪い奴の顔してるぞ」
「そ、そんなことないよー」
あっ、声が上ずった。
「やぁ、おはよう、結~衣ちゃん」
――チッ
「何か用ですか? 太刀川さん」
「いやだな結衣ちゃん。俺たちの仲だろ? いつもみたいに慶って呼んでよ」
つまりは他人と言う事ですね。
「おや? そちらの方は、付き人さんかな? 初めまして、俺は太刀川慶でーす。結衣ちゃんの彼氏なんで今後ともよろしくね~」
そ~っと赤崎くんの顔を覗き見る。
鬼の形相って今までピンとこなかったけど、これからはすぐにイメージできそう。だって、今の赤崎くん……とてつもなく怖い。
鬼の形相=赤崎くんが、私の脳にインプットされた瞬間だった。
「初めまして太刀川さん。俺は赤崎あやt――」
「あー、いいよ。俺、男の挨拶とか別にいらねぇし」
ムカつくなコイツ! しばいたろか!?
「今、コイツ殴りてぇ~って思ったろ?」
「そんなこと思ってないよー」
しばきたいとは思ったけど。
「早速、撮ろうか。俺たちの愛溢れるシーンを」
え、愛? 殴りあった末に足手まといになった慶を置き去りにするシーンじゃなかったけ?
王子監督のシーン説明によると恋愛感情はあるが、それを内に秘めたまま慶(あくまで役)が死ぬシーンだそうだ。
どうせなら慶も本当に死んでしまえばいいのに。
そしたら私の悩みの種が一つ消えるのになぁ。
王子監督の端麗な顔に無造作に生えた髭は整えられておらず、見るからにチクチクしていた。
撮影が始まってから一切剃っていないのだと言う。
そんな王子監督の声が飛ぶ。
拡声器でより大きくなった声がスタジオに轟く。
ちなみに赤崎くんには私のディレクターズチェアに座ってもらっている。
ディレクターズチェアって監督とかが座っている折り畳めるイスの事ね。
「――本番!」
古賀弘宗(慶)は、ぜえぜえと整わない息を必死で押し殺して笑う。
「早くしてよ」
不機嫌そうな顔で高島玲子(私)は急かす。
「俺はもう……」
雨の降った後で水けを多く含んだ土は、ただでさえ遅くなった足取りをより遅くする。
「そんなに急かされても……これ以上速く動けないよ……」
膝に手を置き、動こうとしない古賀弘宗に高島玲子が詰め寄る。
「早くしてください」
胸ぐらを掴み無理やりに身体を起こす。
顔が近づく。
幸の薄そうなか細い笑みを浮かべると、古賀弘宗は最後の力を振り絞って突き飛ばす。
――突き飛ばす……あれ? 突き飛ばされない、どころかどんどん顔が近づいてくる。
か細い笑みの中に艶っぽさが見え隠れする。
迫った慶の顔が視界を完全に塞いだ。
次の瞬間、唇に伝わる柔らかい感触と熱の正体に気付くまでに暫しの時間を要した。
――ぬぉぉぉぉおおおおお!?
口づけ!? 口づけされたぁぁあああ!?
口と口をづけされた!?
何だか考えがまとまらないけど、私のファーストキスがぁぁあああ――。
私が狼狽えている間に赤崎くんの姿は消えていた。
残されたディレクターズチェアが一脚――寂しく立っていた。
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