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第二幕 映画撮影と超新星
ACT37
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等間隔で並んだ白線に沿って走る。
真直ぐに走っては曲がる。暫く弧を描き走ると直線が続く。
ぜぇぜぇ――
な、なんで私が、こ、こんな目に――、
「ほらほら~背筋伸ばしな。姿勢悪いと余計に疲れるよ」
「そ、そんなこと言ったてぇ~」
なぜか私は競技場のトラックを彼氏と一緒に走っていた。
事の発端は一時間前にまで遡る。
瑞樹の言葉(寝言)に励まされ、再始動への第一歩を踏み出した。その時偶然にも電話を掛けてくれたのが赤崎くんだった。
そう、偶然に――そんなわけなかった。全ては瑞樹の策略。
一睡もしていないはずだったのだが、記憶の曖昧な時間帯があったが、その隙を見て赤崎くんに連絡を入れていたらしい。
今になって思い返せば、部屋を出る時に聞いた寝息も、笑いを堪えていたように聞こえなくもない。
被害妄想だと言われればそれまでなのだが、私の中では完全な黒――有罪判決が下されていた。
つまりは、私の根性を叩き直してやる――叩き直してやってくれ、と言う事らしい。まんまと嵌められたという訳だ。
だがこれは――最早罰でしかない。
真夏でないとは言っても照り付ける太陽はまだまだ元気でその存在を誇示するかのように燦々と輝いていた。
さっさと影ってしまえばいいのに。
まあ、そんなこんなで親友の瑞樹に嵌められた私は、彼氏から扱かれている。
随分と久し振りに逢えたと思っていたらこれだ。ほんとに恨むからね瑞樹――。
恨み言を言ったところで何も現状は打開できない。
それに、付き合ってはいる筈なのだが、よくよく考えてみると二人きりで何処かにお出かけ――デートしたことが無かった。
これもデートって言えばデートなのかな?
だた……この張り裂けそうな胸の鼓動は……恋の所為なんかじゃ無い。絶対に。
その証拠に彼の心拍は平常運航。私の心臓だけがバクバク音を立てていた。
何か、いつもの二倍増しで彼がカッコいい。
あっ! これが吊り橋効果で名高い(正式名称は知らないが)――体感したドキドキを恋と錯覚すると言うヤツなのではないか?
まさか、今まで私を走らせていたのも全てはこの錯覚のための複線!? 孔明も驚くほどの策士だわ!! などと疲れがピークに達していた私の思考回路はとうの昔にショートしていた。
「あっ、休憩しようか?」
「……うん❤」
はぁはぁ……。あれ、身体が火照っているのは身体を動かした所為? それとも……――。
肩で息をしながら、彼について歩く。
汗で貼り付いたシャツから浮かび上がる肉体に興奮が隠せない。
彼に勘づかれてないよね? それにしても惚れ惚れする肉体美である。これでもまだ彼から言わせれば「鈍ってる」とのことだった。どれだけすごい身体をしていたんだ、と妄想が膨らむ。
「なんか楽しそうだね」
「そ、そうかしら?」
動揺を悟られまいと平静を装いながら答える。
「いいよ。無理しなくて」
(動揺隠せてなかったー)
「む、無理なんてしてないよ」
ああっ~ッ! どう頑張っても挙動不審になってしまう。隠そうとすればするほど墓穴を掘っている感じだ。
「もっと走りたいんだろ?」
――はぁ?
「今回の役はアクションも多いから身体鍛えないといけないって、蒼井と高野さんが言ってたから、身体を動かす面白さに目覚めてくれて良かったよ」
やっぱり瑞樹の差し金だったか……って高野さんも一枚噛んでたのか! 道理でこんな大きな競技場に私たち以外に人が見当たらないわけだ。
瑞樹の家で電話を掛けてた相手は映画関係者ではなく、この競技場の関係者だったのかもしれない。
その証拠に――トラックを横断してくる人影に見覚えがあった。
手を振りながら迎える。
「やっほー! 高野さん、なんでここにいるの?」
「ん? 偶然?」
……んな訳ねぇだろ! ポーカーフェイスで受け答えしつつも、腸はすでに煮え繰り返っていた。
「調子戻ってきたわね」
不器用なウィンクと共に投掛けられる言葉。
「私はいつでも絶好調だし!」
「あら、そうなの? だったらもうしばらく身体作りに励んでいてもらおうかしら」
復調の兆しが射したのだから、本来であれば、撮影現場に連れて行くのが道理だと思うのだけれど。
なにやら様子がおかしい。
不穏な空気を察知した私が訊ねるよりも早く彼が訊ねた。
「何かあったんすか?」
――鋭い!? これがスポーツマン特有の勝負勘的なものの作用なのだろうか?
「ん? えーっとねぇ……」
少し言い淀んだものの、「まあ、いいか」と開き直るように話し始めた。
「王子監督ね、行方不明なの」
「「――行方不明!?」」
あっ、息ピッタリ! って、今はそんなことよりも、
「行方不明ってどうゆうこと」
「大丈夫よ。連絡がつかないのはきっと今頃、私たちの上空に居るからだろうし」
上空って、飛行機に乗ってるって事?
だから、と顔を近づける高野さんは続けて、
「監督から音沙汰があるまで身体作り。OK?」
「お、OK」
右手でOKサインを作って見せる。
よろしい、と一言と言うと、
「後は任せたわ」と踵を返して競技場を後にした。
「了解です」
と敬礼ポーズを返す彼氏に私は悟った。
すでに私の周りの人間は掌握されているのだ。きっと彼氏だけじゃない。学校の友達もみんな掌握されている。
気付かぬうちに外堀は完全に埋められていたのだ。
「じゃあ走るか」
「あっ――はい❤」
恋は盲目とはよく言ったものだ。
この後私は、全身の水分が蒸発したかと錯覚するほど走り込んだ。最後の方の記憶はほとんどない。
しかし、熱を持った身体をアイシングしてくれる彼の手が、ひんやりと冷たかったことと、彼のくれたスポーツドリンク越しの初(間接)キスの味だけはしっかりと記憶していた。
真直ぐに走っては曲がる。暫く弧を描き走ると直線が続く。
ぜぇぜぇ――
な、なんで私が、こ、こんな目に――、
「ほらほら~背筋伸ばしな。姿勢悪いと余計に疲れるよ」
「そ、そんなこと言ったてぇ~」
なぜか私は競技場のトラックを彼氏と一緒に走っていた。
事の発端は一時間前にまで遡る。
瑞樹の言葉(寝言)に励まされ、再始動への第一歩を踏み出した。その時偶然にも電話を掛けてくれたのが赤崎くんだった。
そう、偶然に――そんなわけなかった。全ては瑞樹の策略。
一睡もしていないはずだったのだが、記憶の曖昧な時間帯があったが、その隙を見て赤崎くんに連絡を入れていたらしい。
今になって思い返せば、部屋を出る時に聞いた寝息も、笑いを堪えていたように聞こえなくもない。
被害妄想だと言われればそれまでなのだが、私の中では完全な黒――有罪判決が下されていた。
つまりは、私の根性を叩き直してやる――叩き直してやってくれ、と言う事らしい。まんまと嵌められたという訳だ。
だがこれは――最早罰でしかない。
真夏でないとは言っても照り付ける太陽はまだまだ元気でその存在を誇示するかのように燦々と輝いていた。
さっさと影ってしまえばいいのに。
まあ、そんなこんなで親友の瑞樹に嵌められた私は、彼氏から扱かれている。
随分と久し振りに逢えたと思っていたらこれだ。ほんとに恨むからね瑞樹――。
恨み言を言ったところで何も現状は打開できない。
それに、付き合ってはいる筈なのだが、よくよく考えてみると二人きりで何処かにお出かけ――デートしたことが無かった。
これもデートって言えばデートなのかな?
だた……この張り裂けそうな胸の鼓動は……恋の所為なんかじゃ無い。絶対に。
その証拠に彼の心拍は平常運航。私の心臓だけがバクバク音を立てていた。
何か、いつもの二倍増しで彼がカッコいい。
あっ! これが吊り橋効果で名高い(正式名称は知らないが)――体感したドキドキを恋と錯覚すると言うヤツなのではないか?
まさか、今まで私を走らせていたのも全てはこの錯覚のための複線!? 孔明も驚くほどの策士だわ!! などと疲れがピークに達していた私の思考回路はとうの昔にショートしていた。
「あっ、休憩しようか?」
「……うん❤」
はぁはぁ……。あれ、身体が火照っているのは身体を動かした所為? それとも……――。
肩で息をしながら、彼について歩く。
汗で貼り付いたシャツから浮かび上がる肉体に興奮が隠せない。
彼に勘づかれてないよね? それにしても惚れ惚れする肉体美である。これでもまだ彼から言わせれば「鈍ってる」とのことだった。どれだけすごい身体をしていたんだ、と妄想が膨らむ。
「なんか楽しそうだね」
「そ、そうかしら?」
動揺を悟られまいと平静を装いながら答える。
「いいよ。無理しなくて」
(動揺隠せてなかったー)
「む、無理なんてしてないよ」
ああっ~ッ! どう頑張っても挙動不審になってしまう。隠そうとすればするほど墓穴を掘っている感じだ。
「もっと走りたいんだろ?」
――はぁ?
「今回の役はアクションも多いから身体鍛えないといけないって、蒼井と高野さんが言ってたから、身体を動かす面白さに目覚めてくれて良かったよ」
やっぱり瑞樹の差し金だったか……って高野さんも一枚噛んでたのか! 道理でこんな大きな競技場に私たち以外に人が見当たらないわけだ。
瑞樹の家で電話を掛けてた相手は映画関係者ではなく、この競技場の関係者だったのかもしれない。
その証拠に――トラックを横断してくる人影に見覚えがあった。
手を振りながら迎える。
「やっほー! 高野さん、なんでここにいるの?」
「ん? 偶然?」
……んな訳ねぇだろ! ポーカーフェイスで受け答えしつつも、腸はすでに煮え繰り返っていた。
「調子戻ってきたわね」
不器用なウィンクと共に投掛けられる言葉。
「私はいつでも絶好調だし!」
「あら、そうなの? だったらもうしばらく身体作りに励んでいてもらおうかしら」
復調の兆しが射したのだから、本来であれば、撮影現場に連れて行くのが道理だと思うのだけれど。
なにやら様子がおかしい。
不穏な空気を察知した私が訊ねるよりも早く彼が訊ねた。
「何かあったんすか?」
――鋭い!? これがスポーツマン特有の勝負勘的なものの作用なのだろうか?
「ん? えーっとねぇ……」
少し言い淀んだものの、「まあ、いいか」と開き直るように話し始めた。
「王子監督ね、行方不明なの」
「「――行方不明!?」」
あっ、息ピッタリ! って、今はそんなことよりも、
「行方不明ってどうゆうこと」
「大丈夫よ。連絡がつかないのはきっと今頃、私たちの上空に居るからだろうし」
上空って、飛行機に乗ってるって事?
だから、と顔を近づける高野さんは続けて、
「監督から音沙汰があるまで身体作り。OK?」
「お、OK」
右手でOKサインを作って見せる。
よろしい、と一言と言うと、
「後は任せたわ」と踵を返して競技場を後にした。
「了解です」
と敬礼ポーズを返す彼氏に私は悟った。
すでに私の周りの人間は掌握されているのだ。きっと彼氏だけじゃない。学校の友達もみんな掌握されている。
気付かぬうちに外堀は完全に埋められていたのだ。
「じゃあ走るか」
「あっ――はい❤」
恋は盲目とはよく言ったものだ。
この後私は、全身の水分が蒸発したかと錯覚するほど走り込んだ。最後の方の記憶はほとんどない。
しかし、熱を持った身体をアイシングしてくれる彼の手が、ひんやりと冷たかったことと、彼のくれたスポーツドリンク越しの初(間接)キスの味だけはしっかりと記憶していた。
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