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第一幕 転校生は朝ドラ女優!?
ACT10
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大きく伸びをする。
同時に「ふあぁ~あ」と欠伸が出る。
結局、一睡もできなかった。
私、緊張してる。
小学校までは普通に通っていたはずなのに。
思い出は何一つないけど……。
イジメではなかったと思う。でも、それはきっとテレビで見る人間が目の前にいるという事実を小学生という幼い少年少女は受け止め切れなくて、仲良くしたいと思っても自分たちとは違う世界の住人を、遠巻きに観察するに留まったというだけの話。
それでも、当時の私にはかなり堪えた。
誰も口を利いてくれない。
孤独だった。
そんな過去との決別。できるか判らないけど。
その第一歩を今日、私は踏み出す。
昨夜色々と考えた結果、一般人新田結衣の設定はかなり大雑把なものとなった。
だって結局、容姿以外は素のままでも女優の私のイメージと掛け離れているから。
オタク(腐ってはいないはず)であることなんかは身内しか知らないし。
素で喋るとテレビの印象とは違うらしい。
自分じゃよく判らないけど……。
という訳で、
自由を手に入れた私はファッションも自由。
登校初日だからね。気合い入れなくちゃ。
カグラ様のプリントされたスニーカーを履いていこうと思っていたのだが、
「いきなりクラスで浮いちゃうから!」と瑞樹に忠告を受けたので渋々承諾した。
自宅から学校までの道のりはいつもと違ってワクワクしていた。
いつもと同じ車、高野さんがいつもと同じように運転しているのに何かが違う。
「結衣。学校に着いたらまずは校長先生に挨拶に行くのよ」
「はーい」
「校長先生は貴女のことを知ってるから大丈夫だけど、校長先生と瑞樹ちゃん
以外は貴女のこと何も知らないんだからね。わかってる?」
「大丈夫だよ。バレないようにするから」
高野さんの顔には心配だと書いてある。
信用されてないなぁ。
一応、演技派女優なんだけどなぁ。
「演技の問題じゃないのよ……」
ポツリと言う高野さんの目には諦めの色が見て取れた。
***
学校に到着!!
高野さんと別れて校長室を目指す。
思いのほか広いんだな高校って。
後になって知ることだが敷地の広さは私立のマンモス校特有のものであって一般的なものではないらしい。
やっぱり私って常識ないのかしら?
どうしよう。迷ったみたい。
清掃のおばさんたちに案内されて何とか校長室までたどり着いた。
案内してもらう道中、一度も女優新田結衣だと疑念を抱かれた様子はなかった。
ドキドキしたけどバレてない。
行ける!! 行けるぞ私!!
すると、
「結衣さん」
肩を叩かれる。
――バレた!?
「とりあえず中に」
私は言われるがまま校長室へと入った。
「新田結衣さんね?」
「は……はい」
恐る恐る答える。
「よかった。間違ってたらどうしようかと―」
メガネのレンズ越しに見える細い目をさらに細くして笑う。
「テレビで観ている顔と違うからビックリしちゃった。ようこそ新田結衣さん。歓迎するわ」
目の前の人がこの学校の校長先生だとたった今気付いた。
「宜しくお願いします。……あっ、校長先生!?」
「ええ、そうよ。もしかして緊張してる?」
「ま、まあ……それなりに」
「貴方みたいな女優さんでも緊張するのね」
「撮影よりも緊張しますよ」
本心だった。
撮影と言えば! と声を上げた校長は、「今度の連ドラ出演するのよね?」と詰め寄る。
私は、ええ……、と答えながら一歩、二歩と後退りする。
圧がすごい。 真正面から目を合わせることが出来ずに思わず視線を逸らしてしまう。
視線の先の壁には歴代校長の写真が並んでいる。
一番左が初代校長(白黒写真)だから……一番右が目の前のこの人―名前は内海智子……覚えた。
「私、貴方と真希ちゃんの姉妹のファンなの」
「ありがとうございます。内海校長」
あら、そんな畏まらなくたっていいのよ。名前で呼んで」
「いえ、さすがに目上の方相手にそんな……」
「あらそう、残念」
言うほど残念がっていないように見えるのは気のせいではないだろう。
返答は想定済みだったのだろう。
しかし、校長が「菓子屋ファミリーシリーズの頃からのファンなのよ。特に……」と語った話はマニアックなものばかりだ。
ファンというのはあながちウソではないらしい。
どうでもいいことだが……。
「ちなみに私と真希どちらのファンですか?」
「どちらも好きだけど―私は断然貴方推しよ」
ウィンクする内海校長は見た目以上にお茶目なのかもしれない。
「ところで、結衣ちゃんがやってた去年の映画って……」と話題が本格的に本題から大きく逸れ始めた。
結衣さんと呼んでいたのが結衣ちゃんに変わっている。
完全にプライベートな会話である。
「あのー、そろそろ私教室に行った方がいいんじゃ」
「あら、そう。もう少しお話していたかったのだけど……」
そんなやり取りからさらに十数分の足止めを食らった後、ようやく解放された時には一時限目がすでに始まっていた。
同時に「ふあぁ~あ」と欠伸が出る。
結局、一睡もできなかった。
私、緊張してる。
小学校までは普通に通っていたはずなのに。
思い出は何一つないけど……。
イジメではなかったと思う。でも、それはきっとテレビで見る人間が目の前にいるという事実を小学生という幼い少年少女は受け止め切れなくて、仲良くしたいと思っても自分たちとは違う世界の住人を、遠巻きに観察するに留まったというだけの話。
それでも、当時の私にはかなり堪えた。
誰も口を利いてくれない。
孤独だった。
そんな過去との決別。できるか判らないけど。
その第一歩を今日、私は踏み出す。
昨夜色々と考えた結果、一般人新田結衣の設定はかなり大雑把なものとなった。
だって結局、容姿以外は素のままでも女優の私のイメージと掛け離れているから。
オタク(腐ってはいないはず)であることなんかは身内しか知らないし。
素で喋るとテレビの印象とは違うらしい。
自分じゃよく判らないけど……。
という訳で、
自由を手に入れた私はファッションも自由。
登校初日だからね。気合い入れなくちゃ。
カグラ様のプリントされたスニーカーを履いていこうと思っていたのだが、
「いきなりクラスで浮いちゃうから!」と瑞樹に忠告を受けたので渋々承諾した。
自宅から学校までの道のりはいつもと違ってワクワクしていた。
いつもと同じ車、高野さんがいつもと同じように運転しているのに何かが違う。
「結衣。学校に着いたらまずは校長先生に挨拶に行くのよ」
「はーい」
「校長先生は貴女のことを知ってるから大丈夫だけど、校長先生と瑞樹ちゃん
以外は貴女のこと何も知らないんだからね。わかってる?」
「大丈夫だよ。バレないようにするから」
高野さんの顔には心配だと書いてある。
信用されてないなぁ。
一応、演技派女優なんだけどなぁ。
「演技の問題じゃないのよ……」
ポツリと言う高野さんの目には諦めの色が見て取れた。
***
学校に到着!!
高野さんと別れて校長室を目指す。
思いのほか広いんだな高校って。
後になって知ることだが敷地の広さは私立のマンモス校特有のものであって一般的なものではないらしい。
やっぱり私って常識ないのかしら?
どうしよう。迷ったみたい。
清掃のおばさんたちに案内されて何とか校長室までたどり着いた。
案内してもらう道中、一度も女優新田結衣だと疑念を抱かれた様子はなかった。
ドキドキしたけどバレてない。
行ける!! 行けるぞ私!!
すると、
「結衣さん」
肩を叩かれる。
――バレた!?
「とりあえず中に」
私は言われるがまま校長室へと入った。
「新田結衣さんね?」
「は……はい」
恐る恐る答える。
「よかった。間違ってたらどうしようかと―」
メガネのレンズ越しに見える細い目をさらに細くして笑う。
「テレビで観ている顔と違うからビックリしちゃった。ようこそ新田結衣さん。歓迎するわ」
目の前の人がこの学校の校長先生だとたった今気付いた。
「宜しくお願いします。……あっ、校長先生!?」
「ええ、そうよ。もしかして緊張してる?」
「ま、まあ……それなりに」
「貴方みたいな女優さんでも緊張するのね」
「撮影よりも緊張しますよ」
本心だった。
撮影と言えば! と声を上げた校長は、「今度の連ドラ出演するのよね?」と詰め寄る。
私は、ええ……、と答えながら一歩、二歩と後退りする。
圧がすごい。 真正面から目を合わせることが出来ずに思わず視線を逸らしてしまう。
視線の先の壁には歴代校長の写真が並んでいる。
一番左が初代校長(白黒写真)だから……一番右が目の前のこの人―名前は内海智子……覚えた。
「私、貴方と真希ちゃんの姉妹のファンなの」
「ありがとうございます。内海校長」
あら、そんな畏まらなくたっていいのよ。名前で呼んで」
「いえ、さすがに目上の方相手にそんな……」
「あらそう、残念」
言うほど残念がっていないように見えるのは気のせいではないだろう。
返答は想定済みだったのだろう。
しかし、校長が「菓子屋ファミリーシリーズの頃からのファンなのよ。特に……」と語った話はマニアックなものばかりだ。
ファンというのはあながちウソではないらしい。
どうでもいいことだが……。
「ちなみに私と真希どちらのファンですか?」
「どちらも好きだけど―私は断然貴方推しよ」
ウィンクする内海校長は見た目以上にお茶目なのかもしれない。
「ところで、結衣ちゃんがやってた去年の映画って……」と話題が本格的に本題から大きく逸れ始めた。
結衣さんと呼んでいたのが結衣ちゃんに変わっている。
完全にプライベートな会話である。
「あのー、そろそろ私教室に行った方がいいんじゃ」
「あら、そう。もう少しお話していたかったのだけど……」
そんなやり取りからさらに十数分の足止めを食らった後、ようやく解放された時には一時限目がすでに始まっていた。
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