上 下
79 / 81
第二章 レーナス帝国編

第79話 新たな道

しおりを挟む
◇ レーナス帝国領 ニール平原 ◇

 私たちは、ラボで危険な改造を施されそうになったところを、日本の同僚「瀧本里奈」が転生した魔剣士リーナ・タキモトに救われた。

 私とタキモトは、ジンディオールやリーナの記憶にある馬車屋のヘインに協力を求め、帝都を脱出したのだった…。

「旦那にお嬢!久しぶりでさぁ!」

 御者台から声をかけてきたのは、馬車屋のヘインだった。

「ヘイン、突然だったけど、助かったよ。」

 私は初めて会ったはずのヘインに、昔からの知り合いのような親しみを感じていた。

 それは、ジンディオールから記憶を受け継いだからだろう。

「いやいや。旦那の頼みなら断れないよ。お二人とも随分ずいぶん久しぶりだね!」

 ヘインは、ジンディオールたち魔剣士隊が贔屓ひいきにしていて、公私にわたって交流があったのだ。

「あ…うん。作戦でね!ヘインさんのおかげで無事に逃げられたよ!」

 リーナもヘインとは親しかったようだった。

 私たちは、帝都を離れて南のシュルール聖王国へ向かっている。

 馬車での移動なので、南の森を避けるルートを取っている。

「ええと…あなたは?」

 馬車の荷台には私とタキモトとジュリアの三人が乗っていた。ジュリアと初対面しょたいめんのタキモトは、おくすことなく声を掛けた。

「私はジュリアと言います。ホセ村出身です。ジンさんと一緒に旅をしていました。」

 ジュリアはタキモトをじっと見つめ、笑顔で答えた。

「あっ、ホセ村ね?私、行ったことあるよ!そうだ、あなたがアシュアさんのお孫さんね?」

「おじいちゃんを知っているんですか!?」

 ジュリアは、アシュアさんの名前に驚いた顔をした。

 タキモトは、ホセ村に行ったことがあるらしい。アシュアさんを知っているとは奇遇きぐうである。

「うん!アシュアさんだけじゃなくて、村長のライズさんとかいろんな人と仲良くなったんだ。」

 タキモトはドジっ子だけど、人懐ひとなつっこい性格なのでホセ村の人たちに気に入られたんだろう。

 その後、ホセ村の話でタキモトとジュリアはすぐに打ち解けていた。

「でね!イカ焼きを振る舞ったらみんな喜んだんだよ!」

「えっ、イカ焼きって何ですか?」

「えー!知らないの?イカ焼きは日本の食べ物でさ、イカっていう海の生き物を焼いて…」

「おい、タキモト。イカ焼きはいいから…。それより、幼女神エルルさまからの伝言は?」

 タキモトは話が脱線だっせんしがちなので、私は本題に戻した。

「あっ、先輩ごめんなさい…。大事な話を忘れてたぁ。実は女神エルルさまは…。」

 ここからは、タキモトも真剣に話し始めた。

 幼女神さまは、軍司令官のザナクゥの脅威きょうい危惧きぐしており、私たちの力を高める必要があると言っているそうだ。

 そのためには、大魔境だいまきょうの中央にあるネフィスの泉に行かなければならないらしい。

「あの幼女ようじょしん…。無茶なことを言うな。」

「幼女神?アハハ!エルルさまのことですね?先輩、そこに行くのは大変なんですか?」

「お前は知らないだろうが、大魔境はこの大陸で最も危険な場所だ。私とジュリアは、大魔境の緑竜と戦ったことがある。討伐ランクSの強敵だぞ。そんな危険な魔物が跋扈ばっこしている地帯だ。」

「うわぁぁ。無理ゲーじゃん。」

 大変ではあるが、とにかく目的地と方針は決まった。

 このままザナクゥやゴンゾーを放置しておくのはこの大陸にとって最悪の結果を招くだろう。

 だから、私は彼らに対抗できる力を身につけたいと思う。

 きっと女神さまはそれを見越しての試練なのだろう。

◇ シュルール聖王国 ◇

 馬車は数日間の移動で、帝国領とサマルト領を越えてシュルール聖王国領に入った。

「うん、聞いてみるね!」

「ねぇ、先輩。」

「どうした?タキモト。」

「リーナがジン隊長と話したいって。」

「ジン隊長?ああ、ジンディオールのことか。なるほど…。私はかまわないよ。」

「ありがとう。」

 二人は魔剣士時代の仲間だったから、話したいこともあるだろう。ジュリアにも事情を説明して、ヘインのいる御者ぎょしゃ席へと行ってもらった。

 私はスキルでジンディオールと意識を入れ替えた。タキモトもリーナと同じようにできるのだろう。

◇ ジンディオール視点 ◇

「リーナか!?」

「はい!ジン隊長!」

 私とリーナは、それぞれの肉体の持ち主のはからいで一時的に元の姿に戻った。

 本来なら、死んだらその人生は終わりだ。

 だが、女神さまや主たちのおかげで、その先の物事を見たり、時には体験することもできる。

 私は不幸な死に方をしたけど、実は幸運なのかもしれない…。

「リーナ!まさか君まで死んでしまうなんて…。」

「ええ。ジン隊長の死因がフレイの仕業しわざだとわかったんですが、そのせいで口封じされてしまって…。」

「私のせいで辛い思いをさせたな。リーナ、すまない。」

 私はリーナに謝罪した。私がフレイに殺されたことが発端ほったんで、彼女も命を落としたのだから。

「いいんですよ!私は隊長のために何かしたかっただけですから…。そういえば隊長、これ…。」

 リーナは異空庫からアイテムを取り出した。

「『再現さいげんひとみ』か…。なつかしいな。」

「ジン隊長からもらった再現の瞳でフレイの罪をあばけたんです。それから、不死鳥フェニックスの涙も…。死ぬ直前に光って、あの子タキモトが転生したら壊れてしまいました。」

「ああ。不死鳥の涙か…。あれは不思議なアイテムだな。私も本当の役割を理解していた訳じゃないが、もしかしたら主や私たちがこうしていられるのもこのアイテムが関係していたのかもな。」

 色々なことが重なり合って起こした奇跡。私はそんな風に思えたのである。

「ジン隊長、少しだけ…。少しだけ肩を貸してくださいませんか?」

 リーナは私の顔をじっと見つめて訴えた。

「ああ。もちろん…。」

 肩にリーナの頭が静かに寄りかかった。

 私は彼女の温もりを感じながら、多幸感たこうかんと自らの鼓動こどうが高鳴るのを感じた。

 私たちの時間は、それほど長くはない。

 でも、このほんの少しの時間でも貴重であり、愛おしい時間だと思った…。

 馬車は速度を落とし、ゆっくりと進んでいった…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

風来坊エルフの旅路~あの約束を果たす為に~

さいとう みさき
ファンタジー
ある時彼女はタンポポの綿毛が飛んでいるのを見て、その昔の約束を思い出す。 時間には余裕のあるエルフの彼女はサーナ。 およそ四百歳になるエルフだ。 二百年ぶりに外の世界に旅立つ彼女を待ち受けるのは、時の流れに変わった世界だった。 彼女は寄り道をしながら、当時との違いを感じながら道行く風来坊。 そして彼女はその昔の記憶を頼りに目的の地へと旅するのだった。

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

懐かれ気質の精霊どうぶつアドバイザー

希結
ファンタジー
不思議な力を持つ精霊動物とともに生きるテスカ王国。その動物とパートナー契約を結ぶ事ができる精霊適性を持って生まれる事は、貴族にとっては一種のステータス、平民にとっては大きな出世となった。 訳ありの出生であり精霊適性のない主人公のメルは、ある特別な資質を持っていた事から、幼なじみのカインとともに春から王国精霊騎士団の所属となる。 非戦闘員として医務課に所属となったメルに聞こえてくるのは、周囲にふわふわと浮かぶ精霊動物たちの声。適性がないのに何故か声が聞こえ、会話が出来てしまう……それがメルの持つ特別な資質だったのだ。 しかも普通なら近寄りがたい存在なのに、女嫌いで有名な美男子副団長とも、ひょんな事から関わる事が増えてしまい……? 精霊動物たちからは相談事が次々と舞い込んでくるし……適性ゼロだけど、大人しくなんてしていられない! メルのもふもふ騎士団、城下町ライフ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ゴブリンに棍棒で頭を殴られた蛇モンスターは前世の記憶を取り戻す。すぐ死ぬのも癪なので頑張ってたら何か大変な事になったっぽい

竹井ゴールド
ファンタジー
ゴブリンに攻撃された哀れな蛇モンスターのこのオレは、ダメージのショックで蛇生辰巳だった時の前世の記憶を取り戻す。 あれ、オレ、いつ死んだんだ? 別にトラックにひかれてないんだけど? 普通に眠っただけだよな? ってか、モンスターに転生って? それも蛇って。 オレ、前世で何にも悪い事してないでしょ。 そもそも高校生だったんだから。 断固やり直しを要求するっ! モンスターに転生するにしても、せめて悪魔とか魔神といった人型にしてくれよな〜。 蛇って。 あ〜あ、テンションがダダ下がりなんだけど〜。 ってか、さっきからこのゴブリン、攻撃しやがって。 オレは何もしてないだろうが。 とりあえずおまえは倒すぞ。 ってな感じで、すぐに死ぬのも癪だから頑張ったら、どんどん大変な事になっていき・・・

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

病弱幼女は最強少女だった

如月花恋
ファンタジー
私は結菜(ゆいな) 一応…9歳なんだけど… 身長が全く伸びないっ!! 自分より年下の子に抜かされた!! ふぇぇん 私の身長伸びてよ~

処理中です...