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第二章 レーナス帝国編

第63話 新たな旅立ちの前に

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 帝国との戦争が終わり、私はジュリアと一緒に聖都ラングラでしばらく静養せいようしていた。

 その間、私たちにとって様々なことがあった。

 聖王と謁見えっけんして莫大ばくだい褒美ほうび勲章くんしょうをもらったり、冒険者ギルドでは功績こうせきを評価されてSランクにランクアップしたりと、目まぐるしい変化があった。

 そして、戦争によって命を落とした兵士たちへの葬儀そうぎにも参列した。我々と作戦を共にしたラシュホードもその一人だった。

 あの作戦で唯一ゆいいつ命を落とした聖騎士団長のラシュホードは、作戦の功績をたたえられて男爵位だんしゃくい叙爵じょしゃくが与えられた。結果、残された家族がその名誉めいよを受け取ったのだ。

 副団長のカヌリュは、同じく作戦での功績を評価されて、ラシュホードの後任として聖騎士団長を任されることになった。

 Sランク冒険者のバルトと、ランクアップしてSランクになったアーシャは相変わらずバリバリと依頼をこなしている。

 彼らは最近になってパーティを組んだそうだ。パーティ名は、『陽炎かげろう』だと言う。

 Sランク冒険者パーティ『雷光』は、予定通り防衛都市ガズールに移動して防衛依頼を受けている。日頃から強敵と戦っているので、最も成長が期待できそうなパーティだ。

 ギルドマスターのミサは相変わらずだ。

 いつも通り気怠けだるそうだが、きちんと仕事はこなしているようだ。

◇ 聖王国 冒険者ギルド ラングラ支部 ◇

「えぇー!ジンとジュリアは行ってしまうの?お抱えの看板冒険者にするつもりだったんだけどぉ!」

「すまんな。私たちはこれから帝国へ向かうんだ。」「ミサさん。ごめんなさい…。」

「まあ、ジンは元魔剣士隊長だったんでしょ?仕方ないっしょ?でも、帝国軍に入って聖王国に攻めるのは止めてくんない?本気でダルいから…。」

「それは勿論だ。帝国軍に加わるつもりはないが、今後再び戦争にならないように私もできることはするつもりだ。」

「頼んだよ!アンタらは私らのほこりっしょ!また、来なさいよ!」

「ありがとう!」「ミサさん、また来ますから!」

 私たちは、ギルドを後にした。

◇ 聖王国 聖墓地 ◇

―― 英雄ラシュホードここに眠る ――

 私たちは、出発する前に墓地へ立ち寄った。

 ジュリアは、ラシュホードの墓石に献花けんかそなえた。

「ラシュホードさん。どうか安らかに眠ってください。」

 私もジュリアの祈りにあわせて瞳を閉じた。

 彼は先日まで肩を組んで笑いあっていた仲間だった。今はこうして墓の中で眠っていることに深い悲しみを感じた。

 この世界は、日本とは違い簡単に人の命が奪われる。これが現実で、避けて通れない日常であった。

 私は、これからも大切な物を守るために剣を取り戦うこともあるだろう…。しかし、心のない戦闘狂になってはいけない。

 ラシュホードのように、人々を守るために剣を振るおうと思った。

「よう!ジン!ジュリア!来ていたのか。」

「カヌリュさん!」「おお、お前か…。」

「まさか、団長が命を落とすとはな…。」

「ああ。ラシュホードは強かったんだろ?」

「そうだな…。私が知る限りではこの国で右に出る者はいなかったな。もし、私がアッシュという男の相手だったなら、今頃は私が墓に入っていただろう…。」

「カヌリュ…。そう言うな。ラシュホードがアッシュの相手をしたからこそ、犠牲は最小限になったのかも知れん。」

「そうですよ!カヌリュさんはラシュホードさんの分まで頑張ればいいんです!ねっ?」

「ああ、そうだな!二人とも、ありがとう。そう言えば、お前たちこの国を出て行くんだってな。ミサから聞いたぞ!」

「ああ、すまないな。帝国にどうしても会わくてはならない人がいてな。」

「帝国軍司令官ザナクゥか…。」

「ああ…。私を裏切ったその真意しんいを確かめたくてな…。」

「そうか…。おい、ジン!帝国にがえって聖王国に攻めてくんなよ!」

「それ、ミサにも言われたぞ!」

「アハハ!まあ、そうなるわな…。お前たちがいなくなってさみしくなるよ。」

「ああ。だが、用が済めばきっと帰ってくるさ。カヌリュ、お前は聖騎士団長か。凄いじゃないか。」

「まあ、責任は副団長の時より随分ずいぶんと重くなったな…。」

「お前なら問題ないだろ。頑張れよ!カヌリュ!」

「ありがとう!必ずまた会おう!」

 私たちは、再び拳と拳を重ね合った。その瞬間、私は彼の熱い想いを感じた。

 カヌリュならきっと良い騎士団長になることだろう。彼は私たちの誇りだ。

 私たちはカヌリュより先に聖墓地を後にした。彼はしばらくラシュホードや部下たちに祈りをささげるつもりらしい。

 彼の祈りは、亡き仲間たちの魂に届くだろうか…。

 私たちが立ち去ろうとした時、捧げた献花は風になびいてゆらゆらと揺れていたのだった。

 それはまるで、別れをしむかのように…。
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