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第一章 ジンディオールの復讐編
第53話 戦場への風
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◇ 聖王国 トルネス平原 ◇
白髪の老将ビュロックは、眼前に広がるトルネス平原を見下ろしながら、深くため息をついた。
「軍団長殿!我が軍一万の兵は、平原南西部に陣を敷きました。」
駆けつけてきた若き副官の報告に、ビュロックは顎髭を撫でながらうなずいた。
「よくやった。帝国の軍勢は、まだ動き出しておらぬか?」
「現在、国境近くまで行軍中との情報です。それから偵察の結果、敵の兵力は二万にも上るとのことでした!」
「二万とは…!?先日の情報では、一万と聞いておったのだが。」
「私も同じくです。おそらく、帝国は属国になった二国から兵を集めたのでしょう。」
「サマルトとマスチマか…。厄介な話だ。」
「軍団長殿!どうなさいますか?」
副官の問いに、ビュロックは、再び顎髭に手をやると、思案に沈んだ。
「そうだな…。あれだ。あれの準備はできておるか?」
「はい!二日前に完成いたしました。」
「それは幸いだ。後は、彼らが魔剣士隊を食い止められるかどうかだな。ラシュホードよ、この老害に無理を押し付けるなよ…。」
◇ 聖王国 国境 パリミ山脈 ◇
「先発はサマルト駐留軍、次発はマスチマ駐留軍、補給隊、レーナス正規軍、魔剣士隊の順で行軍を進めろ!」
黒鉄の鎧に身を包み、鋭い眼光を放つ男は、レーナス軍団長のヤングクロップである。
彼は、準侯爵という爵位を持つ貴族であり、今回の軍団指揮官である。
「おい!成り上がりのフレイ魔剣士隊長!お前たちは俺が命じるまでは、黙って後方に控えていろ!」
「はいはい。わかっていますよ!あなたの手柄を奪うつもりはありません。ヤングクロップ閣下。」
「それでいい。あの偉そうなクソ司令を引きずり降ろして俺がこの国の実権を握ってやる!」
「ふふふ…。野望が丸見えですねぇ。これが上に漏れたら大変ですよ。私は知らないことにしておきますけどねぇ。」
「ふん!」
ヤングクロップは、自分の能力に絶対の自信を持ち、軍司令官の座を狙う野心家であった。
彼は優秀な人物ではあるが、短気で狭量であり、自分の思い通りに物事を進める傾向が強かった。柔軟な対応ができないことが、彼の最大の欠点である。
(兵数の差が大きいので彼でも大丈夫でしょうが、大きな問題を起こさないといいのですがねぇ。)
これまでの戦場では、オーベルが指揮を取っていた。彼は、我々魔剣士隊が先陣を切り、敵戦力をある程度削ぎ落とした後に、全軍で一掃する戦術を好んでいた。
しかし、強引なやり方で軍団長の座に座ったヤングクロップは、私たち魔剣士隊が目障りのようであった。
彼は自分の力量を誇示したくてたまらないのだ。
不満は感じるが、今の所は向こうの方が上の立場であるため、波風を立てないように振る舞うことにした。
「明日にはトルネス平原まで降りるぞ!行軍の速度は落とすなよ!」
(やれやれです。今回は、あまり出番はなさそうですねぇ。)
聖王国軍との接触は、もうすぐだろう。
◇ パリミ山脈 ふくろう渓谷 ◇
「まさか、またお目にかかれるとはな。あの時言っていたのは、この状況を見越していたからか?」
「まあな。俺は、これでも聖騎士団の副団長だからな。」
私とジュリアは、作戦のために聖王国の国境近くに来ていた。
そこで、同じ作戦に参加することになったカヌリュと再会したのだ。
「それで、ガズールの方は大丈夫なのか?」
「大丈夫とは言えないな。防衛を依頼していたSランク冒険者パーティ『雷光』は、俺たちと同じ作戦に参加中だ。」
「では、ガズールは…。」
「今は非常時だ。俺たちが不在の間は、冒険者パーティが複数対応に当たってくれる。」
「やっほー!ジン、ジュリア!ガズールなら、Bランクパーティを四チーム派遣しといたから、なんとかなるっしょ!」
「ミサさん!」
ジュリアは、ギルマスのミサまで来ていることに驚いていた。
「面倒だけど、聖王に頼まれたからさ。仕方なく作戦に参加しに来たって訳。けど、魔剣士隊なんて強すぎて無理っしょ?」
他にも、筋肉質の聖騎士団長や、冒険者たちなどの姿があり、どの者も強者の風格を持っていた。
「皆、集まってくれ。」
白銀の鎧を身にまとい、最も強者の風格を持つこの男こそが、聖騎士団長のラシュホードであった。
「今回の作戦は、魔剣士隊を帝国の本隊から分離させ、動きを封じることを目的としている。一度戦場に魔剣士隊が加われば、我が軍の敗北は、あのビュロックの老将がいたとしても確定されてしまうだろう。」
「ちょっと待て!聖王国軍は、あの知将ビュロックが率いているのか!?」
大声で驚きの声を上げたのは、Sランク冒険者のバルトである。筋肉隆々の体格は、そこにいるラシュホードにも劣らない逞しさを感じさせている。
「そうだ。だが、さすがの老将でも大幅な兵力差は致命的だ。魔剣士隊に削られればどうにもならなくなる。その為に俺たちがいる。」
「つまり、俺たちが魔剣士隊の奴らを殺すか足止めすりゃいいんだろ?」
自信満々な表情で現れたのは、Sランク冒険者パーティ『雷光』のユリオである。
見た目は、チャラチャラした若者で、体の線は細く、正直あまり強そうには見えなかった。
「馬鹿ユリオ!私たちの祖国が奪われたのはアイツらのせいよ!それほどの強者ってこと!油断していると殺されるわよ!」
ユリオに喝を入れた気の強そうな女性は、同じく『雷光』の魔法士ミザリだ。
「そうだな。君たちは確かに強者揃いだ。だが、奴らは大陸最強の部隊と言われている『魔剣士隊』だ。全力をもって任務に当たって貰いたい。」
ラシュホードも同調し、適度な緊張感が漂い始めた。
「それで作戦というのは?」
「それはな…。」
白髪の老将ビュロックは、眼前に広がるトルネス平原を見下ろしながら、深くため息をついた。
「軍団長殿!我が軍一万の兵は、平原南西部に陣を敷きました。」
駆けつけてきた若き副官の報告に、ビュロックは顎髭を撫でながらうなずいた。
「よくやった。帝国の軍勢は、まだ動き出しておらぬか?」
「現在、国境近くまで行軍中との情報です。それから偵察の結果、敵の兵力は二万にも上るとのことでした!」
「二万とは…!?先日の情報では、一万と聞いておったのだが。」
「私も同じくです。おそらく、帝国は属国になった二国から兵を集めたのでしょう。」
「サマルトとマスチマか…。厄介な話だ。」
「軍団長殿!どうなさいますか?」
副官の問いに、ビュロックは、再び顎髭に手をやると、思案に沈んだ。
「そうだな…。あれだ。あれの準備はできておるか?」
「はい!二日前に完成いたしました。」
「それは幸いだ。後は、彼らが魔剣士隊を食い止められるかどうかだな。ラシュホードよ、この老害に無理を押し付けるなよ…。」
◇ 聖王国 国境 パリミ山脈 ◇
「先発はサマルト駐留軍、次発はマスチマ駐留軍、補給隊、レーナス正規軍、魔剣士隊の順で行軍を進めろ!」
黒鉄の鎧に身を包み、鋭い眼光を放つ男は、レーナス軍団長のヤングクロップである。
彼は、準侯爵という爵位を持つ貴族であり、今回の軍団指揮官である。
「おい!成り上がりのフレイ魔剣士隊長!お前たちは俺が命じるまでは、黙って後方に控えていろ!」
「はいはい。わかっていますよ!あなたの手柄を奪うつもりはありません。ヤングクロップ閣下。」
「それでいい。あの偉そうなクソ司令を引きずり降ろして俺がこの国の実権を握ってやる!」
「ふふふ…。野望が丸見えですねぇ。これが上に漏れたら大変ですよ。私は知らないことにしておきますけどねぇ。」
「ふん!」
ヤングクロップは、自分の能力に絶対の自信を持ち、軍司令官の座を狙う野心家であった。
彼は優秀な人物ではあるが、短気で狭量であり、自分の思い通りに物事を進める傾向が強かった。柔軟な対応ができないことが、彼の最大の欠点である。
(兵数の差が大きいので彼でも大丈夫でしょうが、大きな問題を起こさないといいのですがねぇ。)
これまでの戦場では、オーベルが指揮を取っていた。彼は、我々魔剣士隊が先陣を切り、敵戦力をある程度削ぎ落とした後に、全軍で一掃する戦術を好んでいた。
しかし、強引なやり方で軍団長の座に座ったヤングクロップは、私たち魔剣士隊が目障りのようであった。
彼は自分の力量を誇示したくてたまらないのだ。
不満は感じるが、今の所は向こうの方が上の立場であるため、波風を立てないように振る舞うことにした。
「明日にはトルネス平原まで降りるぞ!行軍の速度は落とすなよ!」
(やれやれです。今回は、あまり出番はなさそうですねぇ。)
聖王国軍との接触は、もうすぐだろう。
◇ パリミ山脈 ふくろう渓谷 ◇
「まさか、またお目にかかれるとはな。あの時言っていたのは、この状況を見越していたからか?」
「まあな。俺は、これでも聖騎士団の副団長だからな。」
私とジュリアは、作戦のために聖王国の国境近くに来ていた。
そこで、同じ作戦に参加することになったカヌリュと再会したのだ。
「それで、ガズールの方は大丈夫なのか?」
「大丈夫とは言えないな。防衛を依頼していたSランク冒険者パーティ『雷光』は、俺たちと同じ作戦に参加中だ。」
「では、ガズールは…。」
「今は非常時だ。俺たちが不在の間は、冒険者パーティが複数対応に当たってくれる。」
「やっほー!ジン、ジュリア!ガズールなら、Bランクパーティを四チーム派遣しといたから、なんとかなるっしょ!」
「ミサさん!」
ジュリアは、ギルマスのミサまで来ていることに驚いていた。
「面倒だけど、聖王に頼まれたからさ。仕方なく作戦に参加しに来たって訳。けど、魔剣士隊なんて強すぎて無理っしょ?」
他にも、筋肉質の聖騎士団長や、冒険者たちなどの姿があり、どの者も強者の風格を持っていた。
「皆、集まってくれ。」
白銀の鎧を身にまとい、最も強者の風格を持つこの男こそが、聖騎士団長のラシュホードであった。
「今回の作戦は、魔剣士隊を帝国の本隊から分離させ、動きを封じることを目的としている。一度戦場に魔剣士隊が加われば、我が軍の敗北は、あのビュロックの老将がいたとしても確定されてしまうだろう。」
「ちょっと待て!聖王国軍は、あの知将ビュロックが率いているのか!?」
大声で驚きの声を上げたのは、Sランク冒険者のバルトである。筋肉隆々の体格は、そこにいるラシュホードにも劣らない逞しさを感じさせている。
「そうだ。だが、さすがの老将でも大幅な兵力差は致命的だ。魔剣士隊に削られればどうにもならなくなる。その為に俺たちがいる。」
「つまり、俺たちが魔剣士隊の奴らを殺すか足止めすりゃいいんだろ?」
自信満々な表情で現れたのは、Sランク冒険者パーティ『雷光』のユリオである。
見た目は、チャラチャラした若者で、体の線は細く、正直あまり強そうには見えなかった。
「馬鹿ユリオ!私たちの祖国が奪われたのはアイツらのせいよ!それほどの強者ってこと!油断していると殺されるわよ!」
ユリオに喝を入れた気の強そうな女性は、同じく『雷光』の魔法士ミザリだ。
「そうだな。君たちは確かに強者揃いだ。だが、奴らは大陸最強の部隊と言われている『魔剣士隊』だ。全力をもって任務に当たって貰いたい。」
ラシュホードも同調し、適度な緊張感が漂い始めた。
「それで作戦というのは?」
「それはな…。」
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