上 下
41 / 81
第一章 ジンディオールの復讐編

第41話 聖王国にお立ち寄り(タキモト視点)

しおりを挟む
「いや~驚いたなぁ。まさか、荷馬車の中に人が隠れているとは思わなかったよ。でも、おかげで道中の危機ききを乗り越えられたから感謝しているよ!」

「まあ、お互い様ってことでぇ。」

 私はサマルト法国の首都クルールで、レーナス帝国の間者スパイと間違われて捕まってしまったのだ。

 私は、リーナの能力で牢屋から脱出し、商人のラザムさんの荷馬車に忍び込んだ。

 無断で乗り込んだのは悪いと思ったが、途中で魔物に襲われたラザムさんを助けたことで仲良くなり、護衛として同行することになった。

「おじさん、今はどこなの?」

「シュルール聖王国の領土に入って、かなり南下したよ。もうすぐ聖都ラングラに着くはずだよ。」

「聖都ラングラって、この国で一番大きな街なの?」

「そうだよ。聖堂があって、この国の中心地だよ。私はね、商売のために法国から来たんだ。嬢ちゃんは何の用があるんだい?」

「私は人探しをしているの。南の方に行く予定なのよ。」

「そうかい。人探しなら冒険者ギルドで聞いてみるといいよ。その人がこの国に来たことがあるなら、ギルドに記録が残っているかもしれないからね。」

「冒険者ギルド?この世界にもあるんだね。」

「ん、当然だろ?何を言っているんだい?」

「あはは。そうだね。」

「問題は聖都への入場だな。嬢ちゃんは身分証明がないんだろ?」

「うん。だから『蜘蛛スパイダー男』になって突破するつもりだったんだけど。」

「蜘蛛男???まあいいや。身分証明は早めに作った方がいいよ。冒険者ギルドで作れるから、そこで作っておきなさい。」

「わかったわ。おじさん、ありがとう!」
 

◇ シュルール聖王国 聖都ラングラ ◇

 どの国も都への入場は厳しいチェックがある。今回も例外ではなく、荷馬車は審査所しんさじょに止められた。

 私は、前回と同じ方法で荷馬車の底に張り付いてやり過ごすことにした。

 見つかったらどうしようと、ドキドキしながら審査が終わるのを待った。

 荷馬車の構造上、下から良くのぞきこまないと見えないので、見つからずに通過できた。

 
◇ ◇ ◇

「嬢ちゃん、これでお別れだね。道中、何度も助けてくれてありがとう。元気でな!」

「おじさん、こちらこそ本当に助かりました!」

 私たちは、ここで別れた。

 私は一人になって街中を見回した。

 ディオール・フブキさんの情報を手に入れるため、冒険者ギルドに向かうことにした。

 街並みは統一感があり、どこもかしこも美しい建物が並んでいた。

 都の中心部には、巨大な建物がそびえ立っていた。帝都の王城とは全く違うタイプの建物だった。

 近くの人に聞いてみると、それは『聖堂』と呼ばれる建物で、『聖王』というこの国の支配者が住んでいるという。

 ついでに冒険者ギルドの場所も教えてもらった。
 

◇ 冒険者ギルド ラングラ支部 ◇

 扉を開けると、異世界らしい光景が目に飛び込んできた。

 様々な種族の人々が集まっていて、パーティを組んだり、掲示板で依頼を探したりしていた。

 私は、想像していた通りの異世界の風景に興奮を覚えた。

「いらっしゃいませ!何のご用でしょうか?」

 ウサギのような耳を持つ女性が、受付カウンターから声をかけてきた。私は、彼女のところに行って返事した。

「人を探しているの。」

「はい、お名前は?」

「ディオール・フブキっていうの。」

「かしこまりました。お調べしますので、少々お待ちください。」

 《 10分後 》

「お客様、お待たせしました。ご依頼のディオール様ですが、残念ながら当ギルドには登録されていません。」

「えっ!いないの!?困ったなぁ…。」

「申し訳ありません。冒険者登録されていない可能性もありますし、他国のギルドに登録されている場合は、こちらでは検索できません。」

「そうなのか…。この国にはいないのかもね。」

「そうですね。もし、他国に行かれる際は、そちらのギルドでお尋ねになるといいかもしれません。」

「ありがとう。あのね、私、身分証明がなくなっちゃって…。作ってもらえる?」

「あ…はい。作れますが、冒険者登録されていますか?」

「冒険者?登録はしていないよ。」

「なるほど。身分証明は冒険者に発行されるものなので、発行するには登録していただく必要があります。」

「そうなの?私、やってみようかな?冒険者ってどんなことするの?」

「はい。冒険者は、様々な依頼を受けて、その対価として報酬をもらっています。魔物や盗賊の討伐や護衛任務、素材採取、雑用など、いろいろな仕事がありますよ。」

「そうなんだ。私にもできるかな?わかった、登録してみるよ。」

「ありがとうございます。では、こちらの書類に必要事項をご記入ください。」

 私は言われた通りに自分の情報を書き込んだ。

 私はこの世界に来て初めて文字を読み書きしたが、不思議とこの世界の文字に慣れていた。

(ええ!日本語じゃないのに読めるし、書けるなんて!)

「リーナ・タキモトさんですね?貴族様のようなお名前ですね。」

「いえいえ、普通のエルフですよ。」

(タキモトって書いちゃったからかな…。この世界では平民には苗字なんてないのかも。)

「失礼しました。書類は受理しました。最後にこの宝玉に触れてください。」

「これは何?」

「犯罪歴を調べる魔道具です。盗賊や犯罪者を冒険者にするわけにはいきませんからね。」

「なるほど…。」

(犯罪歴って私大丈夫かな?帝国や法国ではお尋ね者だし…。でも、ここまでやって断るわけにはいかないし、何かあったらなんとかするしかないよね。)

 私は不安を抱えながらも宝玉に手を触れた。

 宝玉は白く光った後、すぐに静まった。

「はい。問題ありません。では、冒険者登録を行います。カードを発行しますので、しばらくお待ちください。」

(よかった!セーフだった!でも、なんでだろう?もしかして…。)

 私は不思議に思って『インフォ』を使ってみると、なんと隠蔽いんぺいレベル3を習得していたのだ。

(ああ、それか。都合の悪い情報は隠せるようになったのか。)

 私は冒険者ギルドの説明を受けながらカード発行を待った。

 ランクや依頼に関する説明などを聞いた。私の予想通りのシステムだったことに驚いた。

 説明を終えて冒険者カードを受け取ると、依頼は受けずにギルドを出た。

 宿を探して、明日にはまた南へと旅立とう。

 街中は人々の往来でにぎわっていた。

 しかし、人々とは別に鎧を着た兵士たちが忙しそうに走り回っている様子に違和感を覚えた。

(兵士たちが何かを準備している?)

 気のせいかもしれないが、何か聖都で問題が起きているのではないかと思った。

 再び南へ移動したのは翌朝のことだった…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

最強執事の恩返し~大魔王を倒して100年ぶりに戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。恩返しのため復興させます~

榊与一
ファンタジー
異世界転生した日本人、大和猛(やまとたける)。 彼は異世界エデンで、コーガス侯爵家によって拾われタケル・コーガスとして育てられる。 それまでの孤独な人生で何も持つ事の出来なかった彼にとって、コーガス家は生まれて初めて手に入れた家であり家族だった。 その家を守るために転生時のチート能力で魔王を退け。 そしてその裏にいる大魔王を倒すため、タケルは魔界に乗り込んだ。 ――それから100年。 遂にタケルは大魔王を討伐する事に成功する。 そして彼はエデンへと帰還した。 「さあ、帰ろう」 だが余りに時間が立ちすぎていた為に、タケルの事を覚えている者はいない。 それでも彼は満足していた。 何故なら、コーガス家を守れたからだ。 そう思っていたのだが…… 「コーガス家が没落!?そんな馬鹿な!?」 これは世界を救った勇者が、かつて自分を拾い温かく育ててくれた没落した侯爵家をチートな能力で再興させる物語である。

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

処理中です...