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第一章 ジンディオールの復讐編

第17話 静寂の森(前編)

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 目の前に現れたのは、ただの野犬やけんではなかった。

 それは魔物だったのだ。

 私は、自分の持つスキル『インフォ』でその正体を確認した。

《 基礎情報 》

種族:魔犬まけん
レベル :7 
性別:オス
説明:野犬が長期間魔素まそおかされて変異へんいした存在。魔物となって身体能力は高まったが、知性は低くなった。

《 スキル 》
  なし

(野犬と思って油断していたら、魔物だったよ。犬とは似ても似つかない恐ろしい姿だ。)

 その姿は、真っ黒な毛でおおわれており、真っ白なひとみが私たちをにらんでいた。

 黒目がないので、まるで死んだ魚のように冷たくてするど視線しせんだった。

(レベルは7でスキルはなしか…。一匹ならまだしも、三匹もいると厄介やっかいだ。どうするか…。)

「ジュリア!私が先に攻めよう。君はうしろからサポートしてくれ。」

「は、はい!わかりました。」

(ジュリアは、魔犬におびえているみたいだ。彼女に危害きがいおよぶ前に、引きつけて一気にめないと…。)

 私は、全力で魔犬に向かって走った。

 レベルが上がるようになり、前より動作が軽くなった気がする…。

 気がつくと、敵のいの中まで容易たやす侵入しんにゅうたしていた。

 魔犬たちは私の速さに驚いているようだった。

 敵は動揺どうようからか、攻撃をける様子がない。

「来ないならこちらから行くぞ!」

 私は、いきおいを殺さずに鋼鉄こうてつの剣で魔犬の首を斬り落とした。

 村長からおくられた鋼鉄の剣は優秀ゆうしゅうだが、レベル6になった剣術けんじゅつすごい。

 どれだけの力や速さ、どのタイミングでどの角度で斬るのが最適さいてきであるかを直感ちょっかんつかんでいるようだった…。

《ズシュッ!》

「ギャン!」

 敵の首は、たった一撃で体から離れて地面に落ちた。

 残る魔犬は、私の強さにおびえているようだ。

 私の攻撃に対抗たいこうできる気がしないのだろう。

「やぁ!」

 ジュリアは弓を構えており、最適さいてきなタイミングで矢を放った。

《ヒュン!》

 風を切る音と共に、矢は魔犬の頭にさった。

《パタッ…。》

 矢につらぬかれた魔犬は、いきえたようにその場に倒れた。

《ササッ!》

 足音が聞こえた。

 振り返ると、最後の魔犬が尻尾しっぽを丸めて逃げていった。

 かなわないと判断したのだろう。

 私は追いかけるのはやめて、ジュリアの方を見た。

 ジュリアは、めた緊張きんちょうの糸がけたのか、その場にすわり込んでいた。

「ジュリア!大丈夫か?」

 私は魔犬を異空庫に収納しゅうのうすると、急いでジュリアのところにった。

「ジンさん。こわかったよ~。」

 仕方ないだろう。普段は平和な暮らしをしており、彼女は戦いとはえんがない。

 私も人のことは言えないが、ジンディオールから残された記憶きおく断片だんぺんや、剣術けんじゅつスキルのおかげで、戦闘でひるむようなことは無かった。

 私は手を差し出して、ジュリアを立たせた。

「えへへ。ジンさん、ありがとう!」

 ジュリアは笑顔えがおで答えた。怪我けがはないようで良かった。

『レベル18→19にアップしました。』

(また!?一匹倒しただけでレベルが上がるものかな?普通…。)

『インフォ:レベル2→3にアップしました。』
『インフォのレベルアップにより、女神エルルの加護『成長せいちょう加速かそく』が表示できるようになりました。』

(おお、幼女神の加護には『成長加速』があったのか。なるほどね…。)

 異常なレベルアップの原因はこれだったのだろう。

 今までも効いていたのだろうが、インフォのレベルが低くて加護の効果を見られなかったのだ。

(『成長加速』はチート級の効果だな。ジュリアも魔犬を一匹倒したけど、彼女はレベルが上がったのかな?)

 私は『インフォ』で彼女のレベルを確認したが、思った通り変化はなかった。

(この世界では、一匹のモンスターを倒したくらいではレベルアップしないのだろう。それが普通なのだとしたら、異常いじょうなのは俺の方なのかもしれないな。)

 しかし、この戦いで得たものは大きかった。

 この世界の常識について少しは理解でき、自分の能力がどれほど非常識ひじょうしきなのかも実感じっかんできた。

 旅はまだ始まったばかりだ。

 これからどんな冒険が待っているのだろと考えると、想像するだけで胸がおどるのだった…。
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