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第一章 恋愛編

第29話 恵美の真実

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◇ 拓弥 ◇

 病院の後、再び営業の業務に戻り、会社に戻る。

 事務所の通路を通過して営業部室へ移動する。

 すると、俺の帰りに気づいた恵美が声を掛けてきた。

「拓弥、お帰りなさい。今日の営業はどうだった?」
 
 明るい笑顔での声掛けに、佐々木恵美との違いを改めて感じてしまう。

 大学時代の恵美とは友人として交流していたが、真由や今の恵美のような柔らかい雰囲気は全く無かったことを思い出す。

「ただいま。なかなか好感触だったよ。あのさ、恵美。今日は、外で何か買って家で食べないか?」

「ええ。いいわよ。後30分で上がりだから一緒に帰ろう。」

「わかった。」

 お互い業務に戻って残りの仕事をこなして、時間を合わせてから一緒に帰る。

 晩御飯は、デパ地下のお弁当を購入して、二人で俺のマンションを目指した。

「拓弥の部屋で食事は久しぶりね。何かあったの?」

「ああ、ちょっとね。」

 バスで15分程揺られると、マンションの近くのバス停に到着した。
 

◇ 自宅マンション ◇

 テーブルに二人の弁当を並べて置く。

 俺は、二人分のコップと冷蔵庫からお茶を取り出して準備する。

 コップは、恵美が買ってくれた色違いでお揃いのコップである。

「じゃあ、食べようか。」

「うん。いただきます。」

 改めて恵美を見る。

 美しい外見や仕草、そして恵美自身が放つ雰囲気…。

 大学の頃の恵美とは全く別人のようである。

「ん?どうかしたの?」

「いや…。」

 俺は今日、恵美に全てを話すつもりだ。

 大学時代のことも、佐々木先生と話したことも…。

 俺たちは、今日の職場での出来事を話しながら、いつも通りに食事を続けている。

 やはり、恵美は職場で知り合った時から、優しく、穏やかな雰囲気を放っており、あんなことをした人物とは到底思えなかった。

(このことを話せば俺たちの関係は確実に終わる…。本当に言うべきことなのだろうか?佐々木恵美はともかく、宮原恵美としての彼女は、俺にとって決して悪い相手では無かった。)
 
 本当に話して良いのだろうか。
 この期に及んで迷い始める…。
 そんな優柔不断な自分が情けなくなる。

 しかし、直ぐに真由の顔が思い浮かんだ。

 優しく、穏やかで、俺のことを最も理解し、支え続けてくれた女性である。

 真由とのの思い出が今脳裏に過ぎっていく。

 俺は、決心した。箸を置いて恵美を見据えて口を開いた…。

「恵美、あのさ…。」

 恵美の真っ直ぐで優しい視線が俺を捉えている。

「ん?何?」

「恵美は、宮原恵美で佐々木恵美なんだろ?」

「えっ!?拓弥…何を言っているの?」

 恵美は、俺の突然の発言に目を見開き、明らかに動揺した様子を見せていた。

「佐々木恵美は、大学時代に華香と結託して俺を陥れ、有りもしない浮気情報を与えて俺と真由を別れさせた。」

「拓弥!何のことかな?変な話しないでよ!」

「俺は、あの時から三年間。何も知らないまま過ごして来たんだな。」

「拓弥!もう止めて!私はそんな話したくない!」

「恵美。これは大事な話なんだ。だから包み隠さず本当のことを話して欲しい。君は、あの佐々木先生の娘なんだろ?」

「ち、違うわよ!あの時先生も言っていたじゃない?私達は、親子ではないわ。親戚なのよ。」

「佐々木先生が恵美を娘だと認めたよ…。」

「嘘よ!そんなめちゃくちゃな話。私は、あの人の娘なんかじゃないわ。」

「これを聞いてもそう言える?」

 俺は、佐々木先生に許可を頂き、病院でのやり取りを保存した音声を再生した。

 佐々木先生自らが恵美に関して語っている内容が耳に届いてくる。

「酷いわ!こんなのって…。」

 恵美は、涙を流して嘆き始める。

「全部知られてしまったから言うけど、私だってあなたに振り向いてもらう為に必死に頑張っていたのよ。外見を美しくする為に、わざわざ韓国に渡って整形手術して、メイク技術も学んだ。就職が中途採用になったのは、半年間韓国に行っていた為よ。性格だってあなたに気に入られるように真由さんを参考に研究して、ずっと装って生きていたの。」

(なるほど…何となく真由に雰囲気が似ていたのはその為か…。)
 
「恵美の頑張りは認めるけど、陰湿な手段を使って俺たちを無理やり引き裂いたのは許せないし、真由を装っていたなら、俺が付き合っていたのは一体誰だったんだ?恵美だって真由を真似して無理して生活していくのは大変だっただろう…。きっと、恵美のやり方は間違っていたのだと思うよ。さあ、音声にはまだ続きがあるんだ。」
 
 続きの音声を再生する。

 それは、佐々木先生が恵美に宛てて残した言葉であった。その内容は…。

『恵美ちゃん。パパは、恵美ちゃんのお願いを守ってあげられなくてごめんね。佐野さんと話をした上でそう判断したんだよ。恵美ちゃんがしたことは、愛し合う恋人の仲を無理やり引き裂き、自分の利益の為に二人の未来を狂わせてしまう非道なやり方だった様に思う。恵美ちゃんが彼を想う気持ちはきっと本物だろうし、疑う余地もない。好きな人に振り向いて貰うために必死に頑張ることは、素晴らしいことだと思う。しかし、アプローチの仕方を間違えていたんだ。恵美ちゃんには、幸せになって欲しい。歪んだ偽物の恋愛ではなく、お互いが尊重しあい、惹かれ合うような、真実の愛が恵美ちゃんに訪れることを祈っています。』

 ここで音声は、途絶えた。

 佐々木先生の言葉は、とても優しく、恵美を諭すような内容だった。

 恵美も父の言葉に心打たれたようで、ポロポロと涙を流していた。

「私が間違っていたようね。でも、あなたを想う気持ちは本当よ。私、まだあなたを諦めたくない!」

「恵美、ごめん。俺の気持ちはもう…。」

「それ以上は言わないで!まだ受け入れられないから…。」

 恵美は、そう言うと足早に部屋から立ち去ってしまったのであった…。
 
「恵美…。」
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