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第5章 バロー公国編

第110話 ボーゲンのダンジョン(入口)

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 私たちは王城を後にしてダンジョンへと急ぐことにした。

 すでに公国防衛軍がダンジョンへ向かっているということだったが、彼らの無事を祈った。

「待ってくれ!」

 声がして振り返ると、ミューゼラさんが走ってきた。

「今からダンジョンに向かうのだろう?陛下からあなた方に協力するようにと命じられた。これから同行させてもらう。戦闘では必ず役に立つと約束する。」

(申し訳ないが、大公の間で感じた悪意が気になる。念の為、能力鑑定させてもらおう。)

ミューゼラ・アマサル
種族 人間
年齢 21歳
性別 女性
職種 公国防衛軍(鞭士)
スキル 連続打ち スタン打ち
魔法 なし
アマサル男爵家の長女。公国防衛軍の第三番隊隊長。

(強そうだ…。物理攻撃に特化しているし、基礎能力も高い。鞭士というのも珍しいな。どんな戦闘スタイルなのだろうか?悪意探知には反応しないようだが…。)

「承知しました。ミューゼラ・アマサルさん。これからよろしくお願いします。」

「サカモト様。ありがとうございます。これからは気楽に接してください。私のことはミューゼラと呼んでください。」

「わかりました。ミューゼラさん。私は爵位を持っていますが、商人ですし、敬語は必要ありません。あっ、私が敬語を使うのは癖ですので気にしないでください。」

「ありがとう。了解した。」

 こうしてミューゼラさんを加えた八人で古代魔族技師ボーゲンのダンジョンへと向かった。

◇ ◇ ◇

「やあっ!」

《グァッ!》

 道中での戦闘だった。魔物の数が多くなってきており、メンバー全員で対処した。

 ミューゼラさんの武器は鞭だったが、それは竜髭鞭という特殊なものであった。竜の髭を使って作られた鞭であり、岩をも砕くほどの威力があるという。

 ココアに聞いたところ、この竜髭鞭は下級竜のものであり、上級竜のものならさらに強度が増すそうだ。

「連続打ち!」

 ミューゼラさんはマッドアントたちを次々と斬り裂いていった。

 比較的硬い外皮も鞭の一撃で切り裂かれていた。鞭はリーチが長く、素早い攻撃ができるようだった。

 対人戦闘ではミューゼラさんの懐に入り込むのは難しいだろう。

「ミューゼラさん、すごいですね!」

「皆さんもなかなかやりますね。商人と言っていたので侮っていました。」

 私たちエチゴヤ旅団も負けてはいなかった。

 それぞれの得意分野を生かした戦闘で魔物たちを倒していった。正直、この辺りの魔物では敵ではなかった。だが、お互いの実力を確かめるには良い機会となった。

 戦闘が終わり、日が暮れたので今日の移動は終了した。

 異空館を設置して館で休むことにした。ミューゼラさんは最初は異空館の存在に驚いていたが、すぐに慣れてお風呂や美味しい食事を楽しんでいたようだ。

 この異空館の存在に関しては口外しないようにお願いし、約束してもらった。

◇ ◇ ◇

 翌日。昨日からの続きで移動を再開した。

 ダンジョンに近づくにつれて、魔物との遭遇率も高まっているようだった。魔物の肉は公国の人々にとって貴重な食料源でもあるので、狩り続けた。

 昼頃、ダンジョンの入口に到着した。

 山の岩壁に大きな穴が開いており、そこから黒くて不気味な空気が漂っていた。その手前では兵士たちが巨大な魔物と戦っているところだった。あれはトロールという魔物である。既に多くの兵士が倒れており、血まみれになっていた。私たちは全力で現場へと駆けつけた。

◇ ダンジョン入口付近 ◇

「皆さん、手分けして対応しましょう。私とリヨンさんとキャシーさんはポーションで負傷者の手当てをします。残りの方々でトロールを殲滅して下さい。」

 私はそう言って、リヨンさんとキャシーさんにポーションを渡した。

 部隊の3分の1の兵士は、既に惨殺されていた。負傷者は、約500名程度だった。

 私は、脳内マップと生存反応を駆使して瀕死の方を優先して治療に当たった。

 一方、他のメンバーは、トロール五体とのバトルを行っていた。

『にゃおー!』

 ミミが音波攻撃を仕掛けた後に突撃する。ココアやアッシュさんもそれに続く。ミザーリアさんは、後方より魔法による援護をしている。

「兵士さん達、どいて下さいッス!派手に行きますッスよ!『波動掌!』」

  ココアがトロールに向かってエネルギーの塊を放った。それはトロールの体を貫き、大穴を空けた。トロールは力なく地面に倒れた。

「やるな、ココアよ!よし。俺も負けてられねぇな。」

 アッシュさんが大剣を振り上げた。トロールの強力な打撃を受け止めると、反撃に転じた。

「んじゃぁやるか。一刀両断!」

 アッシュさんがトロールの目線の高さまで飛び上がった。

 落下の重力も相まって、トロールが頭上より真っ二つになった。二人の凄まじい攻撃に、兵士達から歓声が湧き上がった。

 しかし…。

 完全に屠ったはずのトロール二体は、ダメージの受けて損傷した箇所が修復し始めた。

「クソが!再生持ちか。」

「あらあら。それじゃあ、お姉さんに任せなさい!爆裂魔法の詠唱完了!皆さん離れていてね。」

「弱フレア!」

《ドッカァーン!!》

  爆風がこの辺り一面を吹き抜けた…。

 全てのトロールや、他の魔物まで巻き込んだ凄まじい爆発だった。

 ミザーリアさんは、練り上げる魔力量を減らしてアモア戦の時よりも規模の小さな爆発にしたようだったが、それでもトロールを消滅させるには充分な威力だったようだ。

「凄いわね。次元が違うわ。」

  ミューゼラさんが驚嘆した。ミザーリアさんの弱フレアにより、ダンジョン入口の魔物は全て消滅した。

  私たちも治療も終えた。

 到着時に生存されていた負傷兵は全て救うことが出来た。

 既に絶命していた兵士達はミューゼラさんに事情を説明し、タイゲンカバンで大切に保管した。ダンジョンの件が終わったら、ご遺体は遺族へお渡しすることになった。

「サカモト様、多大なご支援やご配慮に感謝致します。それにしてもあなた方の能力は、常軌を逸している…。」

「いやぁ。そ、そうですかね~。」

「まぁ、あなた方には大きな借りが出来ました。あまり詮索はしないでおきますよ。」

「ミューゼラさん、ありがとうございます。」

 ダンジョン入口での戦闘は終わった。

 兵士達は、回復はしたものの、多くの犠牲が出てしまったので、これ以上の討伐は困難であると判断し、公都へ帰還する運びとなった。

 私たちは、ダンジョン内部の調査という名目で残留することになった。

 ミューゼラさんが部隊長に報告してくれており、問題なく承認された。

 私たちは、地面に散らばっているトロール達の魔石を回収し、ダンジョン内部へと入ることにしたのだった…。
 
―――― to be continued ――――
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