110 / 141
第5章 バロー公国編
第110話 ボーゲンのダンジョン(入口)
しおりを挟む
私たちは王城を後にしてダンジョンへと急ぐことにした。
すでに公国防衛軍がダンジョンへ向かっているということだったが、彼らの無事を祈った。
「待ってくれ!」
声がして振り返ると、ミューゼラさんが走ってきた。
「今からダンジョンに向かうのだろう?陛下からあなた方に協力するようにと命じられた。これから同行させてもらう。戦闘では必ず役に立つと約束する。」
(申し訳ないが、大公の間で感じた悪意が気になる。念の為、能力鑑定させてもらおう。)
ミューゼラ・アマサル
種族 人間
年齢 21歳
性別 女性
職種 公国防衛軍(鞭士)
スキル 連続打ち スタン打ち
魔法 なし
アマサル男爵家の長女。公国防衛軍の第三番隊隊長。
(強そうだ…。物理攻撃に特化しているし、基礎能力も高い。鞭士というのも珍しいな。どんな戦闘スタイルなのだろうか?悪意探知には反応しないようだが…。)
「承知しました。ミューゼラ・アマサルさん。これからよろしくお願いします。」
「サカモト様。ありがとうございます。これからは気楽に接してください。私のことはミューゼラと呼んでください。」
「わかりました。ミューゼラさん。私は爵位を持っていますが、商人ですし、敬語は必要ありません。あっ、私が敬語を使うのは癖ですので気にしないでください。」
「ありがとう。了解した。」
こうしてミューゼラさんを加えた八人で古代魔族技師ボーゲンのダンジョンへと向かった。
◇ ◇ ◇
「やあっ!」
《グァッ!》
道中での戦闘だった。魔物の数が多くなってきており、メンバー全員で対処した。
ミューゼラさんの武器は鞭だったが、それは竜髭鞭という特殊なものであった。竜の髭を使って作られた鞭であり、岩をも砕くほどの威力があるという。
ココアに聞いたところ、この竜髭鞭は下級竜のものであり、上級竜のものならさらに強度が増すそうだ。
「連続打ち!」
ミューゼラさんはマッドアントたちを次々と斬り裂いていった。
比較的硬い外皮も鞭の一撃で切り裂かれていた。鞭はリーチが長く、素早い攻撃ができるようだった。
対人戦闘ではミューゼラさんの懐に入り込むのは難しいだろう。
「ミューゼラさん、すごいですね!」
「皆さんもなかなかやりますね。商人と言っていたので侮っていました。」
私たちエチゴヤ旅団も負けてはいなかった。
それぞれの得意分野を生かした戦闘で魔物たちを倒していった。正直、この辺りの魔物では敵ではなかった。だが、お互いの実力を確かめるには良い機会となった。
戦闘が終わり、日が暮れたので今日の移動は終了した。
異空館を設置して館で休むことにした。ミューゼラさんは最初は異空館の存在に驚いていたが、すぐに慣れてお風呂や美味しい食事を楽しんでいたようだ。
この異空館の存在に関しては口外しないようにお願いし、約束してもらった。
◇ ◇ ◇
翌日。昨日からの続きで移動を再開した。
ダンジョンに近づくにつれて、魔物との遭遇率も高まっているようだった。魔物の肉は公国の人々にとって貴重な食料源でもあるので、狩り続けた。
昼頃、ダンジョンの入口に到着した。
山の岩壁に大きな穴が開いており、そこから黒くて不気味な空気が漂っていた。その手前では兵士たちが巨大な魔物と戦っているところだった。あれはトロールという魔物である。既に多くの兵士が倒れており、血まみれになっていた。私たちは全力で現場へと駆けつけた。
◇ ダンジョン入口付近 ◇
「皆さん、手分けして対応しましょう。私とリヨンさんとキャシーさんはポーションで負傷者の手当てをします。残りの方々でトロールを殲滅して下さい。」
私はそう言って、リヨンさんとキャシーさんにポーションを渡した。
部隊の3分の1の兵士は、既に惨殺されていた。負傷者は、約500名程度だった。
私は、脳内マップと生存反応を駆使して瀕死の方を優先して治療に当たった。
一方、他のメンバーは、トロール五体とのバトルを行っていた。
『にゃおー!』
ミミが音波攻撃を仕掛けた後に突撃する。ココアやアッシュさんもそれに続く。ミザーリアさんは、後方より魔法による援護をしている。
「兵士さん達、どいて下さいッス!派手に行きますッスよ!『波動掌!』」
ココアがトロールに向かってエネルギーの塊を放った。それはトロールの体を貫き、大穴を空けた。トロールは力なく地面に倒れた。
「やるな、ココアよ!よし。俺も負けてられねぇな。」
アッシュさんが大剣を振り上げた。トロールの強力な打撃を受け止めると、反撃に転じた。
「んじゃぁやるか。一刀両断!」
アッシュさんがトロールの目線の高さまで飛び上がった。
落下の重力も相まって、トロールが頭上より真っ二つになった。二人の凄まじい攻撃に、兵士達から歓声が湧き上がった。
しかし…。
完全に屠ったはずのトロール二体は、ダメージの受けて損傷した箇所が修復し始めた。
「クソが!再生持ちか。」
「あらあら。それじゃあ、お姉さんに任せなさい!爆裂魔法の詠唱完了!皆さん離れていてね。」
「弱フレア!」
《ドッカァーン!!》
爆風がこの辺り一面を吹き抜けた…。
全てのトロールや、他の魔物まで巻き込んだ凄まじい爆発だった。
ミザーリアさんは、練り上げる魔力量を減らしてアモア戦の時よりも規模の小さな爆発にしたようだったが、それでもトロールを消滅させるには充分な威力だったようだ。
「凄いわね。次元が違うわ。」
ミューゼラさんが驚嘆した。ミザーリアさんの弱フレアにより、ダンジョン入口の魔物は全て消滅した。
私たちも治療も終えた。
到着時に生存されていた負傷兵は全て救うことが出来た。
既に絶命していた兵士達はミューゼラさんに事情を説明し、タイゲンカバンで大切に保管した。ダンジョンの件が終わったら、ご遺体は遺族へお渡しすることになった。
「サカモト様、多大なご支援やご配慮に感謝致します。それにしてもあなた方の能力は、常軌を逸している…。」
「いやぁ。そ、そうですかね~。」
「まぁ、あなた方には大きな借りが出来ました。あまり詮索はしないでおきますよ。」
「ミューゼラさん、ありがとうございます。」
ダンジョン入口での戦闘は終わった。
兵士達は、回復はしたものの、多くの犠牲が出てしまったので、これ以上の討伐は困難であると判断し、公都へ帰還する運びとなった。
私たちは、ダンジョン内部の調査という名目で残留することになった。
ミューゼラさんが部隊長に報告してくれており、問題なく承認された。
私たちは、地面に散らばっているトロール達の魔石を回収し、ダンジョン内部へと入ることにしたのだった…。
―――― to be continued ――――
すでに公国防衛軍がダンジョンへ向かっているということだったが、彼らの無事を祈った。
「待ってくれ!」
声がして振り返ると、ミューゼラさんが走ってきた。
「今からダンジョンに向かうのだろう?陛下からあなた方に協力するようにと命じられた。これから同行させてもらう。戦闘では必ず役に立つと約束する。」
(申し訳ないが、大公の間で感じた悪意が気になる。念の為、能力鑑定させてもらおう。)
ミューゼラ・アマサル
種族 人間
年齢 21歳
性別 女性
職種 公国防衛軍(鞭士)
スキル 連続打ち スタン打ち
魔法 なし
アマサル男爵家の長女。公国防衛軍の第三番隊隊長。
(強そうだ…。物理攻撃に特化しているし、基礎能力も高い。鞭士というのも珍しいな。どんな戦闘スタイルなのだろうか?悪意探知には反応しないようだが…。)
「承知しました。ミューゼラ・アマサルさん。これからよろしくお願いします。」
「サカモト様。ありがとうございます。これからは気楽に接してください。私のことはミューゼラと呼んでください。」
「わかりました。ミューゼラさん。私は爵位を持っていますが、商人ですし、敬語は必要ありません。あっ、私が敬語を使うのは癖ですので気にしないでください。」
「ありがとう。了解した。」
こうしてミューゼラさんを加えた八人で古代魔族技師ボーゲンのダンジョンへと向かった。
◇ ◇ ◇
「やあっ!」
《グァッ!》
道中での戦闘だった。魔物の数が多くなってきており、メンバー全員で対処した。
ミューゼラさんの武器は鞭だったが、それは竜髭鞭という特殊なものであった。竜の髭を使って作られた鞭であり、岩をも砕くほどの威力があるという。
ココアに聞いたところ、この竜髭鞭は下級竜のものであり、上級竜のものならさらに強度が増すそうだ。
「連続打ち!」
ミューゼラさんはマッドアントたちを次々と斬り裂いていった。
比較的硬い外皮も鞭の一撃で切り裂かれていた。鞭はリーチが長く、素早い攻撃ができるようだった。
対人戦闘ではミューゼラさんの懐に入り込むのは難しいだろう。
「ミューゼラさん、すごいですね!」
「皆さんもなかなかやりますね。商人と言っていたので侮っていました。」
私たちエチゴヤ旅団も負けてはいなかった。
それぞれの得意分野を生かした戦闘で魔物たちを倒していった。正直、この辺りの魔物では敵ではなかった。だが、お互いの実力を確かめるには良い機会となった。
戦闘が終わり、日が暮れたので今日の移動は終了した。
異空館を設置して館で休むことにした。ミューゼラさんは最初は異空館の存在に驚いていたが、すぐに慣れてお風呂や美味しい食事を楽しんでいたようだ。
この異空館の存在に関しては口外しないようにお願いし、約束してもらった。
◇ ◇ ◇
翌日。昨日からの続きで移動を再開した。
ダンジョンに近づくにつれて、魔物との遭遇率も高まっているようだった。魔物の肉は公国の人々にとって貴重な食料源でもあるので、狩り続けた。
昼頃、ダンジョンの入口に到着した。
山の岩壁に大きな穴が開いており、そこから黒くて不気味な空気が漂っていた。その手前では兵士たちが巨大な魔物と戦っているところだった。あれはトロールという魔物である。既に多くの兵士が倒れており、血まみれになっていた。私たちは全力で現場へと駆けつけた。
◇ ダンジョン入口付近 ◇
「皆さん、手分けして対応しましょう。私とリヨンさんとキャシーさんはポーションで負傷者の手当てをします。残りの方々でトロールを殲滅して下さい。」
私はそう言って、リヨンさんとキャシーさんにポーションを渡した。
部隊の3分の1の兵士は、既に惨殺されていた。負傷者は、約500名程度だった。
私は、脳内マップと生存反応を駆使して瀕死の方を優先して治療に当たった。
一方、他のメンバーは、トロール五体とのバトルを行っていた。
『にゃおー!』
ミミが音波攻撃を仕掛けた後に突撃する。ココアやアッシュさんもそれに続く。ミザーリアさんは、後方より魔法による援護をしている。
「兵士さん達、どいて下さいッス!派手に行きますッスよ!『波動掌!』」
ココアがトロールに向かってエネルギーの塊を放った。それはトロールの体を貫き、大穴を空けた。トロールは力なく地面に倒れた。
「やるな、ココアよ!よし。俺も負けてられねぇな。」
アッシュさんが大剣を振り上げた。トロールの強力な打撃を受け止めると、反撃に転じた。
「んじゃぁやるか。一刀両断!」
アッシュさんがトロールの目線の高さまで飛び上がった。
落下の重力も相まって、トロールが頭上より真っ二つになった。二人の凄まじい攻撃に、兵士達から歓声が湧き上がった。
しかし…。
完全に屠ったはずのトロール二体は、ダメージの受けて損傷した箇所が修復し始めた。
「クソが!再生持ちか。」
「あらあら。それじゃあ、お姉さんに任せなさい!爆裂魔法の詠唱完了!皆さん離れていてね。」
「弱フレア!」
《ドッカァーン!!》
爆風がこの辺り一面を吹き抜けた…。
全てのトロールや、他の魔物まで巻き込んだ凄まじい爆発だった。
ミザーリアさんは、練り上げる魔力量を減らしてアモア戦の時よりも規模の小さな爆発にしたようだったが、それでもトロールを消滅させるには充分な威力だったようだ。
「凄いわね。次元が違うわ。」
ミューゼラさんが驚嘆した。ミザーリアさんの弱フレアにより、ダンジョン入口の魔物は全て消滅した。
私たちも治療も終えた。
到着時に生存されていた負傷兵は全て救うことが出来た。
既に絶命していた兵士達はミューゼラさんに事情を説明し、タイゲンカバンで大切に保管した。ダンジョンの件が終わったら、ご遺体は遺族へお渡しすることになった。
「サカモト様、多大なご支援やご配慮に感謝致します。それにしてもあなた方の能力は、常軌を逸している…。」
「いやぁ。そ、そうですかね~。」
「まぁ、あなた方には大きな借りが出来ました。あまり詮索はしないでおきますよ。」
「ミューゼラさん、ありがとうございます。」
ダンジョン入口での戦闘は終わった。
兵士達は、回復はしたものの、多くの犠牲が出てしまったので、これ以上の討伐は困難であると判断し、公都へ帰還する運びとなった。
私たちは、ダンジョン内部の調査という名目で残留することになった。
ミューゼラさんが部隊長に報告してくれており、問題なく承認された。
私たちは、地面に散らばっているトロール達の魔石を回収し、ダンジョン内部へと入ることにしたのだった…。
―――― to be continued ――――
1
お気に入りに追加
1,784
あなたにおすすめの小説
前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです
珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。
老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。
そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。
完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!
音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。
頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。
都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。
「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」
断末魔に涙した彼女は……
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
うちのAIが転生させてくれたので異世界で静かに暮らそうと思ったが、外野がうるさいので自重を捨ててやった。
藍染 迅
ファンタジー
AIが突然覚醒した? AIアリスは東明(あずまあきら)60歳を異世界転生させ、成仏への近道を辿らせるという。
ナノマシンに助けられつつ、20代の体に転生したあきらは冒険者トーメーとして新たな人生を歩み始める。
不老不死、自動回復など、ハイスペックてんこ盛り? 3つの下僕(しもべ)まで現れて、火炎放射だ、電撃だ。レールガンに超音波砲まで飛び出した。
なのに目指すは飾職兼養蜂業者? お気楽冒険譚の始まりだ!
「霊感がある」
やなぎ怜
ホラー
「わたし霊感があるんだ」――中学時代についたささいな嘘がきっかけとなり、元同級生からオカルトな相談を受けたフリーターの主人公。霊感なんてないし、オカルトなんて信じてない。それでもどこかで見たお祓いの真似ごとをしたところ、元同級生の悩みを解決してしまう。以来、ぽつぽつとその手の相談ごとを持ち込まれるようになり、いつの間にやら霊能力者として知られるように。謝礼金に目がくらみ、霊能力者の真似ごとをし続けていた主人公だったが、ある依頼でひと目見て「ヤバイ」と感じる事態に直面し――。
※性的表現あり。習作。荒唐無稽なエロ小説です。潮吹き、小スカ/失禁、淫語あり(その他の要素はタグをご覧ください)。なぜか丸く収まってハピエン(主人公視点)に着地します。
※他投稿サイトにも掲載。
魔法のトランクと異世界暮らし
猫野美羽
ファンタジー
曾祖母の遺産を相続した海堂凛々(かいどうりり)は原因不明の虚弱体質に苦しめられていることもあり、しばらくは遺産として譲り受けた別荘で療養することに。
おとぎ話に出てくる魔女の家のような可愛らしい洋館で、凛々は曾祖母からの秘密の遺産を受け取った。
それは異世界への扉の鍵と魔法のトランク。
異世界の住人だった曾祖母の血を濃く引いた彼女だけが、魔法の道具の相続人だった。
異世界、たまに日本暮らしの楽しい二拠点生活が始まる──
◆◆◆
ほのぼのスローライフなお話です。
のんびりと生活拠点を整えたり、美味しいご飯を食べたり、お金を稼いでみたり、異世界旅を楽しむ物語。
※カクヨムでも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる