上 下
89 / 141
第4章 魔人アモア編

第89話 魔人アモア(リタイム編)

しおりを挟む
 ◇ ダンジョン 地下10階 ◇

    どうやら異空屍からの転移に成功したようだ。

 (ここは…。アモアと戦った場所に戻ってきたようだ。)

 私は一年ぶりに元の場所に戻ってきたらしい。
 
 目の前にはアモアがいる。

 私は周囲を見渡した。

 残念ながら仲間の姿は確認できない。

 フロアの至る所に黒い炭が広がっており、EXフレアの威力が凄まじいことを改めて知ることとなった。

 仲間達は凄まじい業火で焼かれてしまい、灰になってしまったようだ。

 やはり時間は異空屍に飛ばされた時点で停止していたらしく、EXフレアの業火で焼かれた直後の状態のようだ。あの時の記憶が蘇る。

「クソッ!」

 悔しさが込み上げてくる。唇を強く噛んだ。血が滲む。

 〘 マスター、お仲間なら大丈夫ですよ。取得された時空魔法で何とかなる筈です。〙

 (エイチさん、本当ですか!?)

 〘 肯定します。〙

「おや?おやおやおや!サカモトちゃん。先程異空屍に飛ばした筈ですが?失敗しちゃったんですかねぇ。それにしてもその姿。そしてその女性は?」

 私はニヤリと笑みを浮かべた…。

 〘 マスター、時間魔法の『リタイム』を使用して下さい。時空魔法は、まだ初級ですので、せいぜい5分程度しか遡れませんが、それだけの時間があれば、お仲間の救出は可能だと判断します。〙

 私は、脳内メニューから時空魔法を選択し、『リタイム』の情報を閲覧する。称号を得ているからか、その場で発動方法を理解する。

 このリタイムは、任意の時間まで遡らせた上で、時間軸を強制的に分岐させるものだそうだ。

 もともと存在する時間軸をAとするならば、任意時間の地点で、時間軸Bが分岐され、私たちは、時間軸Bに移動することになるようだ。

 〘 マスター、『リタイム』は頻繁に使用することを神から禁じられています。また、同じ又は類する時間帯でのリタイムも不可となっております。実質チャンスは一度きりとお考え下さい。〙

 (エイチさん、助言ありがとう。必ず成功させますよ。)

『リタイム!』

 早速、リタイムを唱えた。予想に反してあっさりと転送が終了した。

 (えっと、状況は…?)

 〘マスターが放った弾丸が魔人アモアに命中した局面です。アモアの再生も完了しています。〙

 (は、はい。了解しました。)

 周りを見回すと、まだ全ての仲間たちが生存している。

「よし!成功したみたいだ。」

 私が小さくガッツポーズしたところをリヨンさんに見つかる。

「レイ様、その方は…。」

 一年ぶりに見るリヨンさんに感動して抱きつきたいが、ここはグッと気持ちを抑える。

 リヨンさんは、突然出現したココアに驚いた様子だ。

「新しい仲間です。詳しくは後できちんとお話ししますね。」

「分かりました。レイ様を信じます。」

 私は、死んでしまったと思った仲間たちに、一年ぶりに会えたことが何より嬉しかった。

 しかし、それと同時に、この先の結末を知っているからこそ、絶対に失敗できないと気を引き締める。

 今は、戦闘の真っ最中だ。決して気を抜けない状況である。

 私は、改めて魔人アモアのステータスを鑑定する。
 
 - 名前:アモア
 - 性別:男性
 - 年齢:1027歳
 - 種族:魔人(上級魔族)
 - 能力:再生 魅了 召喚 悪い予感
 - 魔法 :EXフレア シャドウボム コメットレイン etc…

 鑑定の能力が上がって、かつては見れなかった情報が見えるようになった。

 しかし、その情報は前のバトルの時に体験していて、殆ど分かってしまったのだ。弱点もないらしいし…。

 (キャシャリーンが言っていた弱点とは何だっただろう?)

 〘 マスター、僭越ですが、アモアには弱点らしきものはありません。しかし、逆に考えるとマスターがアモアを倒せない理由が理解できれば、そこに勝機が見えるのではないでしょうか?〙

 (勝てない理由か…。確かにね!何かわかった気がするよ。ありがとう、エイチさん。)

 私は、ふと作戦を思い付き、思念でココアに指示を与える。

 〘 主様、了解ッス!〙

「その竜人は、どうしたのですかねぇ。突然現れたので少々驚きましたよ。瞬間移動の類いですかねぇ。研究の為に是非お教え頂きたいものです。しかし、竜人が増えた所で、あなた方が私を倒すことなど不可能なのですけどねぇ。」

「それはわかりませんよ!」

 私は、脳内メニューを開き、あることを密かに実行することにした。

 〘 アモアの『再生スキル』をスキルスティールしますか?〙
 (Yes…)
 …
 〘 スキルスティールは失敗。〙

 〘 再びアモアの『再生スキル』をスキルスティールしますか?〙
 (Yes…)
 …
 〘 スキルスティールは失敗。〙

 〘 再びアモアの『再生スキル』をスキルスティールしますか?〙
 (Yes…)
 …
 〘 スキルスティールは成功。『再生スキル』を獲得。〙

 (やった!これでアモアの再生能力がなくなったぞ!)

 私は、脳内メニューから、『スキルスティール』を実行していた。

 戦闘中であるが、エイチさんにバックグラウンドで処理してもらっているので、私はアモアに集中できている。

『スキルスティール』とは、相手のスキルを奪う能力である。

 しかし、必ず奪えるわけではなく、奪えないスキルも存在するようだ。

 また、奪った場合、相手はそのスキルを失ってしまう。

「やや!今、何をしたのですか?少し早いですが予定を変更した方がよさそうですね。EXフレアを実験して終了しましょうかね?」

 アモアは、何かを察知したようだ。もしかしたら、奴の『悪い予感スキル』が仕事したのかも知れない。

 〘 アモアの『魅了スキル』をスキルスティールしますか?〙
 (Yes…)
 …
 〘 スキルスティールは成功。『魅了スキル』を獲得。〙

「そうはさせませんよ!」そう言って、私は双銃を構えてアモアに狙いを定める。

 〘 アモアの『召喚スキル』をスキルスティールしますか?〙
 (Yes…)
 …
 〘 スキルスティールは成功。『召喚スキル』を獲得。〙

「ん!?何だと?『魅了』が使えないだと?キサマ!何をしたのだ?」

 アモアの口調が急に変わった。『魅了スキル』が使えなくなったことに気づき、激怒したらしい。

 〘 アモアの『悪い予感スキル』をソウルスティールしますか?〙
 (Yes…)
 …
 〘 スキルスティールは失敗。〙

 〘 再び『悪い予感スキル』をソウルスティールしますか?〙
 (Yes…)
 …
 〘 スキルスティールは失敗。〙

 〘 再び『悪い予感スキル』をソウルスティールしますか?〙
 (Yes…)
 …
 〘 スキルスティールは成功。『悪い予感スキル』を獲得。〙

「こうなったらシャドウデーモンを『召喚』…って、なにぃー!召喚までもかぁ~!このクズがぁ!!」
 
 アモアは、魔力を集め始めた。怒りのせいか、以前よりも魔力の上昇が激しかった。

   時間がない。

 《プシュン!》
 《プシュン!》
 《プシュン!》
 《プシュン!》
 《プシュン!》
 《プシュンッ!》

 私の銃から火花が飛んだ。

 前回のように、魅了でギルバートさんを盾にできなくなり、シャドウデーモンも召喚できなくなったアモアは、急いで回避行動に切り替えたようだ。

「ぐぁぁ!」

 アモアは、身体能力の高い魔人である。

 通常ならば頭や心臓に撃てば即死させられるのだが、俊足での移動により、致命傷は回避したようだ。

 それでも、腕や腹には命中し、血を流している。

「何っ?『再生』もかぁ!!キサマ!何しやがった!?」
 
 気づけばアモアのスキルは、全てエイチさんが奪っていたのである。

 スキルが使えなくなったことでアモアの怒りが頂点に達していた。

 アモアの魔力は怒りで更に高まり、EXフレアの準備が整ってしまったようだ。

 ココアには、最悪の事態の際には、黒龍に戻り爆破から皆を守るように指示を出していた。

 彼女は、竜人の状態から黒龍に変化して皆の盾になる。

「皆さん、黒龍の後ろに隠れて下さい。」

 全員、巨大な黒龍に驚いていたが、私の声に反応する。

 緊急事態であることを察して、全員が言われた通りに行動してくれた。

 (良かった。これで専念できますね。)

「黒龍だと!?だが、実験には丁度いい。最大出力のEXフレアだ。何が来ようが無駄だ。全員消し炭となるがよい!」
 
 アモアは、両腕を高く掲げた。

 その先には1m程の真っ赤な球体が形成されていた。

 高濃度に練り上げられた魔力が危険であることを示しているようだ。
 
「レイや、その魔法は危険じゃ。人の力では防ぎきれんぞ!早く逃げろー!!」

 膨大な魔力を察知したミリモルさんが黒龍の脇から顔出して声をあげる。

 (ミリモルさん、心配して下さってありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ。)

 私の心の声を伝える為にミリモルさんの方に振り向き、片手をあげて微笑む。

 そして、直ぐにアモアと対峙して声を上げる。

魔法術式破壊マジックブレイク!』

 《パチンッ!!》

 パチンと割れるような音が鳴る。

 すると、アモアが、打ち込もうとしようとしている魔力球が突然消失する。

「な、ななな。何だと!?何が起こった?」

 アモアは、あまりにも想定外な事態が起こり、理解が追いついていない様子だ。

魔法術式破壊マジックブレイク』は、相手が魔力を練り上げている最中に、魔法術式を破壊するスキルである。

 魔法は、術式によってその種類や性質が異なっており、術式なしでの発動は不可能である。

 このスキルは、その術式を破壊することで、発動しようとする魔法を無効化できるのだ。

 そして、このスキルの凄い所がもう一つある。

 術式破壊された魔法は、その場で消滅し、魔力だけが霧散して宙を漂う。

 その魔力をこちらに引き寄せて吸収し、魔力を増強できるのだ。

 この『魔法術式破壊』は、異空屍での一年間の戦闘経験で身に付いた神スキルである。

『魔力総数の上限が1000ポイント上昇されました。』

「魔人アモアよ、私はあなたの魔法術式を崩壊させました。つまり、フレアの実験はこれで終了ということになります。」

「な…んだと…!?」

 アモアは顔を歪ませながら、言葉吐き出すのが精一杯である。

 流石のアモアもこれには絶望しただろう。

 彼の目は恐怖と怒りで充満し、唇は震えていた。

「さあ、観念して下さい。あなたは、沢山の方を殺めました。罪は償って頂きますよ!」

「バカな…!こんなバカなことがあっていいのか?!魔人のこの私が、グズどもに敗れるなど…あっていい訳がない!そうだ。まだ手はある!私には、これがあったんだよ。これだ!異空屍だ!キサマはこれで異次元空間へ封じ込められる!」

 アモアは、嬉しそうに『異空屍』を取り出して起動させる。

 前回、これによって一年も苦しめられた訳なので、決して忘れる筈のないアイテムだ。

 逆に異空屍での経験が勝機に繋がろうとしている訳なので、何と皮肉なことだろうか?

「さあ、さあ、さあ、さあ。サカモトちゃん。いつか現れる魔王に使ってやろうと思っているマジックアイテム『異空屍』です。この世界とはまた別の異次元空間にあなたを閉じ込めます。永遠にね!今頃多くの魔物が生成されている頃です。餌になるかも知れませんが、きっと退屈はしないでしょう。では、おさらばねぇ。」

 ― to be continued ―
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

うちのAIが転生させてくれたので異世界で静かに暮らそうと思ったが、外野がうるさいので自重を捨ててやった。

藍染 迅
ファンタジー
AIが突然覚醒した? AIアリスは東明(あずまあきら)60歳を異世界転生させ、成仏への近道を辿らせるという。 ナノマシンに助けられつつ、20代の体に転生したあきらは冒険者トーメーとして新たな人生を歩み始める。 不老不死、自動回復など、ハイスペックてんこ盛り? 3つの下僕(しもべ)まで現れて、火炎放射だ、電撃だ。レールガンに超音波砲まで飛び出した。 なのに目指すは飾職兼養蜂業者? お気楽冒険譚の始まりだ!

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

「霊感がある」

やなぎ怜
ホラー
「わたし霊感があるんだ」――中学時代についたささいな嘘がきっかけとなり、元同級生からオカルトな相談を受けたフリーターの主人公。霊感なんてないし、オカルトなんて信じてない。それでもどこかで見たお祓いの真似ごとをしたところ、元同級生の悩みを解決してしまう。以来、ぽつぽつとその手の相談ごとを持ち込まれるようになり、いつの間にやら霊能力者として知られるように。謝礼金に目がくらみ、霊能力者の真似ごとをし続けていた主人公だったが、ある依頼でひと目見て「ヤバイ」と感じる事態に直面し――。 ※性的表現あり。習作。荒唐無稽なエロ小説です。潮吹き、小スカ/失禁、淫語あり(その他の要素はタグをご覧ください)。なぜか丸く収まってハピエン(主人公視点)に着地します。 ※他投稿サイトにも掲載。

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

魔法のトランクと異世界暮らし

猫野美羽
ファンタジー
 曾祖母の遺産を相続した海堂凛々(かいどうりり)は原因不明の虚弱体質に苦しめられていることもあり、しばらくは遺産として譲り受けた別荘で療養することに。  おとぎ話に出てくる魔女の家のような可愛らしい洋館で、凛々は曾祖母からの秘密の遺産を受け取った。  それは異世界への扉の鍵と魔法のトランク。  異世界の住人だった曾祖母の血を濃く引いた彼女だけが、魔法の道具の相続人だった。  異世界、たまに日本暮らしの楽しい二拠点生活が始まる── ◆◆◆  ほのぼのスローライフなお話です。  のんびりと生活拠点を整えたり、美味しいご飯を食べたり、お金を稼いでみたり、異世界旅を楽しむ物語。 ※カクヨムでも掲載予定です。

処理中です...