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第4章 魔人アモア編
第89話 魔人アモア(リタイム編)
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◇ ダンジョン 地下10階 ◇
どうやら異空屍からの転移に成功したようだ。
(ここは…。アモアと戦った場所に戻ってきたようだ。)
私は一年ぶりに元の場所に戻ってきたらしい。
目の前にはアモアがいる。
私は周囲を見渡した。
残念ながら仲間の姿は確認できない。
フロアの至る所に黒い炭が広がっており、EXフレアの威力が凄まじいことを改めて知ることとなった。
仲間達は凄まじい業火で焼かれてしまい、灰になってしまったようだ。
やはり時間は異空屍に飛ばされた時点で停止していたらしく、EXフレアの業火で焼かれた直後の状態のようだ。あの時の記憶が蘇る。
「クソッ!」
悔しさが込み上げてくる。唇を強く噛んだ。血が滲む。
〘 マスター、お仲間なら大丈夫ですよ。取得された時空魔法で何とかなる筈です。〙
(エイチさん、本当ですか!?)
〘 肯定します。〙
「おや?おやおやおや!サカモトちゃん。先程異空屍に飛ばした筈ですが?失敗しちゃったんですかねぇ。それにしてもその姿。そしてその女性は?」
私はニヤリと笑みを浮かべた…。
〘 マスター、時間魔法の『リタイム』を使用して下さい。時空魔法は、まだ初級ですので、せいぜい5分程度しか遡れませんが、それだけの時間があれば、お仲間の救出は可能だと判断します。〙
私は、脳内メニューから時空魔法を選択し、『リタイム』の情報を閲覧する。称号を得ているからか、その場で発動方法を理解する。
このリタイムは、任意の時間まで遡らせた上で、時間軸を強制的に分岐させるものだそうだ。
もともと存在する時間軸をAとするならば、任意時間の地点で、時間軸Bが分岐され、私たちは、時間軸Bに移動することになるようだ。
〘 マスター、『リタイム』は頻繁に使用することを神から禁じられています。また、同じ又は類する時間帯でのリタイムも不可となっております。実質チャンスは一度きりとお考え下さい。〙
(エイチさん、助言ありがとう。必ず成功させますよ。)
『リタイム!』
早速、リタイムを唱えた。予想に反してあっさりと転送が終了した。
(えっと、状況は…?)
〘マスターが放った弾丸が魔人アモアに命中した局面です。アモアの再生も完了しています。〙
(は、はい。了解しました。)
周りを見回すと、まだ全ての仲間たちが生存している。
「よし!成功したみたいだ。」
私が小さくガッツポーズしたところをリヨンさんに見つかる。
「レイ様、その方は…。」
一年ぶりに見るリヨンさんに感動して抱きつきたいが、ここはグッと気持ちを抑える。
リヨンさんは、突然出現したココアに驚いた様子だ。
「新しい仲間です。詳しくは後できちんとお話ししますね。」
「分かりました。レイ様を信じます。」
私は、死んでしまったと思った仲間たちに、一年ぶりに会えたことが何より嬉しかった。
しかし、それと同時に、この先の結末を知っているからこそ、絶対に失敗できないと気を引き締める。
今は、戦闘の真っ最中だ。決して気を抜けない状況である。
私は、改めて魔人アモアのステータスを鑑定する。
- 名前:アモア
- 性別:男性
- 年齢:1027歳
- 種族:魔人(上級魔族)
- 能力:再生 魅了 召喚 悪い予感
- 魔法 :EXフレア シャドウボム コメットレイン etc…
鑑定の能力が上がって、かつては見れなかった情報が見えるようになった。
しかし、その情報は前のバトルの時に体験していて、殆ど分かってしまったのだ。弱点もないらしいし…。
(キャシャリーンが言っていた弱点とは何だっただろう?)
〘 マスター、僭越ですが、アモアには弱点らしきものはありません。しかし、逆に考えるとマスターがアモアを倒せない理由が理解できれば、そこに勝機が見えるのではないでしょうか?〙
(勝てない理由か…。確かにね!何かわかった気がするよ。ありがとう、エイチさん。)
私は、ふと作戦を思い付き、思念でココアに指示を与える。
〘 主様、了解ッス!〙
「その竜人は、どうしたのですかねぇ。突然現れたので少々驚きましたよ。瞬間移動の類いですかねぇ。研究の為に是非お教え頂きたいものです。しかし、竜人が増えた所で、あなた方が私を倒すことなど不可能なのですけどねぇ。」
「それはわかりませんよ!」
私は、脳内メニューを開き、あることを密かに実行することにした。
〘 アモアの『再生スキル』をスキルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは失敗。〙
〘 再びアモアの『再生スキル』をスキルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは失敗。〙
〘 再びアモアの『再生スキル』をスキルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは成功。『再生スキル』を獲得。〙
(やった!これでアモアの再生能力がなくなったぞ!)
私は、脳内メニューから、『スキルスティール』を実行していた。
戦闘中であるが、エイチさんにバックグラウンドで処理してもらっているので、私はアモアに集中できている。
『スキルスティール』とは、相手のスキルを奪う能力である。
しかし、必ず奪えるわけではなく、奪えないスキルも存在するようだ。
また、奪った場合、相手はそのスキルを失ってしまう。
「やや!今、何をしたのですか?少し早いですが予定を変更した方がよさそうですね。EXフレアを実験して終了しましょうかね?」
アモアは、何かを察知したようだ。もしかしたら、奴の『悪い予感スキル』が仕事したのかも知れない。
〘 アモアの『魅了スキル』をスキルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは成功。『魅了スキル』を獲得。〙
「そうはさせませんよ!」そう言って、私は双銃を構えてアモアに狙いを定める。
〘 アモアの『召喚スキル』をスキルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは成功。『召喚スキル』を獲得。〙
「ん!?何だと?『魅了』が使えないだと?キサマ!何をしたのだ?」
アモアの口調が急に変わった。『魅了スキル』が使えなくなったことに気づき、激怒したらしい。
〘 アモアの『悪い予感スキル』をソウルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは失敗。〙
〘 再び『悪い予感スキル』をソウルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは失敗。〙
〘 再び『悪い予感スキル』をソウルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは成功。『悪い予感スキル』を獲得。〙
「こうなったらシャドウデーモンを『召喚』…って、なにぃー!召喚までもかぁ~!このクズがぁ!!」
アモアは、魔力を集め始めた。怒りのせいか、以前よりも魔力の上昇が激しかった。
時間がない。
《プシュン!》
《プシュン!》
《プシュン!》
《プシュン!》
《プシュン!》
《プシュンッ!》
私の銃から火花が飛んだ。
前回のように、魅了でギルバートさんを盾にできなくなり、シャドウデーモンも召喚できなくなったアモアは、急いで回避行動に切り替えたようだ。
「ぐぁぁ!」
アモアは、身体能力の高い魔人である。
通常ならば頭や心臓に撃てば即死させられるのだが、俊足での移動により、致命傷は回避したようだ。
それでも、腕や腹には命中し、血を流している。
「何っ?『再生』もかぁ!!キサマ!何しやがった!?」
気づけばアモアのスキルは、全てエイチさんが奪っていたのである。
スキルが使えなくなったことでアモアの怒りが頂点に達していた。
アモアの魔力は怒りで更に高まり、EXフレアの準備が整ってしまったようだ。
ココアには、最悪の事態の際には、黒龍に戻り爆破から皆を守るように指示を出していた。
彼女は、竜人の状態から黒龍に変化して皆の盾になる。
「皆さん、黒龍の後ろに隠れて下さい。」
全員、巨大な黒龍に驚いていたが、私の声に反応する。
緊急事態であることを察して、全員が言われた通りに行動してくれた。
(良かった。これで専念できますね。)
「黒龍だと!?だが、実験には丁度いい。最大出力のEXフレアだ。何が来ようが無駄だ。全員消し炭となるがよい!」
アモアは、両腕を高く掲げた。
その先には1m程の真っ赤な球体が形成されていた。
高濃度に練り上げられた魔力が危険であることを示しているようだ。
「レイや、その魔法は危険じゃ。人の力では防ぎきれんぞ!早く逃げろー!!」
膨大な魔力を察知したミリモルさんが黒龍の脇から顔出して声をあげる。
(ミリモルさん、心配して下さってありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ。)
私の心の声を伝える為にミリモルさんの方に振り向き、片手をあげて微笑む。
そして、直ぐにアモアと対峙して声を上げる。
『魔法術式破壊!』
《パチンッ!!》
パチンと割れるような音が鳴る。
すると、アモアが、打ち込もうとしようとしている魔力球が突然消失する。
「な、ななな。何だと!?何が起こった?」
アモアは、あまりにも想定外な事態が起こり、理解が追いついていない様子だ。
『魔法術式破壊』は、相手が魔力を練り上げている最中に、魔法術式を破壊するスキルである。
魔法は、術式によってその種類や性質が異なっており、術式なしでの発動は不可能である。
このスキルは、その術式を破壊することで、発動しようとする魔法を無効化できるのだ。
そして、このスキルの凄い所がもう一つある。
術式破壊された魔法は、その場で消滅し、魔力だけが霧散して宙を漂う。
その魔力をこちらに引き寄せて吸収し、魔力を増強できるのだ。
この『魔法術式破壊』は、異空屍での一年間の戦闘経験で身に付いた神スキルである。
『魔力総数の上限が1000ポイント上昇されました。』
「魔人アモアよ、私はあなたの魔法術式を崩壊させました。つまり、フレアの実験はこれで終了ということになります。」
「な…んだと…!?」
アモアは顔を歪ませながら、言葉吐き出すのが精一杯である。
流石のアモアもこれには絶望しただろう。
彼の目は恐怖と怒りで充満し、唇は震えていた。
「さあ、観念して下さい。あなたは、沢山の方を殺めました。罪は償って頂きますよ!」
「バカな…!こんなバカなことがあっていいのか?!魔人のこの私が、グズどもに敗れるなど…あっていい訳がない!そうだ。まだ手はある!私には、これがあったんだよ。これだ!異空屍だ!キサマはこれで異次元空間へ封じ込められる!」
アモアは、嬉しそうに『異空屍』を取り出して起動させる。
前回、これによって一年も苦しめられた訳なので、決して忘れる筈のないアイテムだ。
逆に異空屍での経験が勝機に繋がろうとしている訳なので、何と皮肉なことだろうか?
「さあ、さあ、さあ、さあ。サカモトちゃん。いつか現れる魔王に使ってやろうと思っているマジックアイテム『異空屍』です。この世界とはまた別の異次元空間にあなたを閉じ込めます。永遠にね!今頃多くの魔物が生成されている頃です。餌になるかも知れませんが、きっと退屈はしないでしょう。では、おさらばねぇ。」
― to be continued ―
どうやら異空屍からの転移に成功したようだ。
(ここは…。アモアと戦った場所に戻ってきたようだ。)
私は一年ぶりに元の場所に戻ってきたらしい。
目の前にはアモアがいる。
私は周囲を見渡した。
残念ながら仲間の姿は確認できない。
フロアの至る所に黒い炭が広がっており、EXフレアの威力が凄まじいことを改めて知ることとなった。
仲間達は凄まじい業火で焼かれてしまい、灰になってしまったようだ。
やはり時間は異空屍に飛ばされた時点で停止していたらしく、EXフレアの業火で焼かれた直後の状態のようだ。あの時の記憶が蘇る。
「クソッ!」
悔しさが込み上げてくる。唇を強く噛んだ。血が滲む。
〘 マスター、お仲間なら大丈夫ですよ。取得された時空魔法で何とかなる筈です。〙
(エイチさん、本当ですか!?)
〘 肯定します。〙
「おや?おやおやおや!サカモトちゃん。先程異空屍に飛ばした筈ですが?失敗しちゃったんですかねぇ。それにしてもその姿。そしてその女性は?」
私はニヤリと笑みを浮かべた…。
〘 マスター、時間魔法の『リタイム』を使用して下さい。時空魔法は、まだ初級ですので、せいぜい5分程度しか遡れませんが、それだけの時間があれば、お仲間の救出は可能だと判断します。〙
私は、脳内メニューから時空魔法を選択し、『リタイム』の情報を閲覧する。称号を得ているからか、その場で発動方法を理解する。
このリタイムは、任意の時間まで遡らせた上で、時間軸を強制的に分岐させるものだそうだ。
もともと存在する時間軸をAとするならば、任意時間の地点で、時間軸Bが分岐され、私たちは、時間軸Bに移動することになるようだ。
〘 マスター、『リタイム』は頻繁に使用することを神から禁じられています。また、同じ又は類する時間帯でのリタイムも不可となっております。実質チャンスは一度きりとお考え下さい。〙
(エイチさん、助言ありがとう。必ず成功させますよ。)
『リタイム!』
早速、リタイムを唱えた。予想に反してあっさりと転送が終了した。
(えっと、状況は…?)
〘マスターが放った弾丸が魔人アモアに命中した局面です。アモアの再生も完了しています。〙
(は、はい。了解しました。)
周りを見回すと、まだ全ての仲間たちが生存している。
「よし!成功したみたいだ。」
私が小さくガッツポーズしたところをリヨンさんに見つかる。
「レイ様、その方は…。」
一年ぶりに見るリヨンさんに感動して抱きつきたいが、ここはグッと気持ちを抑える。
リヨンさんは、突然出現したココアに驚いた様子だ。
「新しい仲間です。詳しくは後できちんとお話ししますね。」
「分かりました。レイ様を信じます。」
私は、死んでしまったと思った仲間たちに、一年ぶりに会えたことが何より嬉しかった。
しかし、それと同時に、この先の結末を知っているからこそ、絶対に失敗できないと気を引き締める。
今は、戦闘の真っ最中だ。決して気を抜けない状況である。
私は、改めて魔人アモアのステータスを鑑定する。
- 名前:アモア
- 性別:男性
- 年齢:1027歳
- 種族:魔人(上級魔族)
- 能力:再生 魅了 召喚 悪い予感
- 魔法 :EXフレア シャドウボム コメットレイン etc…
鑑定の能力が上がって、かつては見れなかった情報が見えるようになった。
しかし、その情報は前のバトルの時に体験していて、殆ど分かってしまったのだ。弱点もないらしいし…。
(キャシャリーンが言っていた弱点とは何だっただろう?)
〘 マスター、僭越ですが、アモアには弱点らしきものはありません。しかし、逆に考えるとマスターがアモアを倒せない理由が理解できれば、そこに勝機が見えるのではないでしょうか?〙
(勝てない理由か…。確かにね!何かわかった気がするよ。ありがとう、エイチさん。)
私は、ふと作戦を思い付き、思念でココアに指示を与える。
〘 主様、了解ッス!〙
「その竜人は、どうしたのですかねぇ。突然現れたので少々驚きましたよ。瞬間移動の類いですかねぇ。研究の為に是非お教え頂きたいものです。しかし、竜人が増えた所で、あなた方が私を倒すことなど不可能なのですけどねぇ。」
「それはわかりませんよ!」
私は、脳内メニューを開き、あることを密かに実行することにした。
〘 アモアの『再生スキル』をスキルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは失敗。〙
〘 再びアモアの『再生スキル』をスキルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは失敗。〙
〘 再びアモアの『再生スキル』をスキルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは成功。『再生スキル』を獲得。〙
(やった!これでアモアの再生能力がなくなったぞ!)
私は、脳内メニューから、『スキルスティール』を実行していた。
戦闘中であるが、エイチさんにバックグラウンドで処理してもらっているので、私はアモアに集中できている。
『スキルスティール』とは、相手のスキルを奪う能力である。
しかし、必ず奪えるわけではなく、奪えないスキルも存在するようだ。
また、奪った場合、相手はそのスキルを失ってしまう。
「やや!今、何をしたのですか?少し早いですが予定を変更した方がよさそうですね。EXフレアを実験して終了しましょうかね?」
アモアは、何かを察知したようだ。もしかしたら、奴の『悪い予感スキル』が仕事したのかも知れない。
〘 アモアの『魅了スキル』をスキルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは成功。『魅了スキル』を獲得。〙
「そうはさせませんよ!」そう言って、私は双銃を構えてアモアに狙いを定める。
〘 アモアの『召喚スキル』をスキルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは成功。『召喚スキル』を獲得。〙
「ん!?何だと?『魅了』が使えないだと?キサマ!何をしたのだ?」
アモアの口調が急に変わった。『魅了スキル』が使えなくなったことに気づき、激怒したらしい。
〘 アモアの『悪い予感スキル』をソウルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは失敗。〙
〘 再び『悪い予感スキル』をソウルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは失敗。〙
〘 再び『悪い予感スキル』をソウルスティールしますか?〙
(Yes…)
…
〘 スキルスティールは成功。『悪い予感スキル』を獲得。〙
「こうなったらシャドウデーモンを『召喚』…って、なにぃー!召喚までもかぁ~!このクズがぁ!!」
アモアは、魔力を集め始めた。怒りのせいか、以前よりも魔力の上昇が激しかった。
時間がない。
《プシュン!》
《プシュン!》
《プシュン!》
《プシュン!》
《プシュン!》
《プシュンッ!》
私の銃から火花が飛んだ。
前回のように、魅了でギルバートさんを盾にできなくなり、シャドウデーモンも召喚できなくなったアモアは、急いで回避行動に切り替えたようだ。
「ぐぁぁ!」
アモアは、身体能力の高い魔人である。
通常ならば頭や心臓に撃てば即死させられるのだが、俊足での移動により、致命傷は回避したようだ。
それでも、腕や腹には命中し、血を流している。
「何っ?『再生』もかぁ!!キサマ!何しやがった!?」
気づけばアモアのスキルは、全てエイチさんが奪っていたのである。
スキルが使えなくなったことでアモアの怒りが頂点に達していた。
アモアの魔力は怒りで更に高まり、EXフレアの準備が整ってしまったようだ。
ココアには、最悪の事態の際には、黒龍に戻り爆破から皆を守るように指示を出していた。
彼女は、竜人の状態から黒龍に変化して皆の盾になる。
「皆さん、黒龍の後ろに隠れて下さい。」
全員、巨大な黒龍に驚いていたが、私の声に反応する。
緊急事態であることを察して、全員が言われた通りに行動してくれた。
(良かった。これで専念できますね。)
「黒龍だと!?だが、実験には丁度いい。最大出力のEXフレアだ。何が来ようが無駄だ。全員消し炭となるがよい!」
アモアは、両腕を高く掲げた。
その先には1m程の真っ赤な球体が形成されていた。
高濃度に練り上げられた魔力が危険であることを示しているようだ。
「レイや、その魔法は危険じゃ。人の力では防ぎきれんぞ!早く逃げろー!!」
膨大な魔力を察知したミリモルさんが黒龍の脇から顔出して声をあげる。
(ミリモルさん、心配して下さってありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ。)
私の心の声を伝える為にミリモルさんの方に振り向き、片手をあげて微笑む。
そして、直ぐにアモアと対峙して声を上げる。
『魔法術式破壊!』
《パチンッ!!》
パチンと割れるような音が鳴る。
すると、アモアが、打ち込もうとしようとしている魔力球が突然消失する。
「な、ななな。何だと!?何が起こった?」
アモアは、あまりにも想定外な事態が起こり、理解が追いついていない様子だ。
『魔法術式破壊』は、相手が魔力を練り上げている最中に、魔法術式を破壊するスキルである。
魔法は、術式によってその種類や性質が異なっており、術式なしでの発動は不可能である。
このスキルは、その術式を破壊することで、発動しようとする魔法を無効化できるのだ。
そして、このスキルの凄い所がもう一つある。
術式破壊された魔法は、その場で消滅し、魔力だけが霧散して宙を漂う。
その魔力をこちらに引き寄せて吸収し、魔力を増強できるのだ。
この『魔法術式破壊』は、異空屍での一年間の戦闘経験で身に付いた神スキルである。
『魔力総数の上限が1000ポイント上昇されました。』
「魔人アモアよ、私はあなたの魔法術式を崩壊させました。つまり、フレアの実験はこれで終了ということになります。」
「な…んだと…!?」
アモアは顔を歪ませながら、言葉吐き出すのが精一杯である。
流石のアモアもこれには絶望しただろう。
彼の目は恐怖と怒りで充満し、唇は震えていた。
「さあ、観念して下さい。あなたは、沢山の方を殺めました。罪は償って頂きますよ!」
「バカな…!こんなバカなことがあっていいのか?!魔人のこの私が、グズどもに敗れるなど…あっていい訳がない!そうだ。まだ手はある!私には、これがあったんだよ。これだ!異空屍だ!キサマはこれで異次元空間へ封じ込められる!」
アモアは、嬉しそうに『異空屍』を取り出して起動させる。
前回、これによって一年も苦しめられた訳なので、決して忘れる筈のないアイテムだ。
逆に異空屍での経験が勝機に繋がろうとしている訳なので、何と皮肉なことだろうか?
「さあ、さあ、さあ、さあ。サカモトちゃん。いつか現れる魔王に使ってやろうと思っているマジックアイテム『異空屍』です。この世界とはまた別の異次元空間にあなたを閉じ込めます。永遠にね!今頃多くの魔物が生成されている頃です。餌になるかも知れませんが、きっと退屈はしないでしょう。では、おさらばねぇ。」
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