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第4章 魔人アモア編

第74話 4人の絆

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 サルバネーロへの移動では必ず訪れるのが野営の時間である。

 山賊や魔物はこちらの都合で手を緩めてくれるはずもないので、野営の時間は旅人にとって危険な時間である。

 しかし、我々エチゴヤには『異空館』というアイテムによって、異次元空間の別荘で安全に休息がとれていた。

◇ 異空館 食堂 ◇

「料理長自慢のマルポーのジューシー揚げと、マーギン鳥の焼き鳥に、サミ菜とニンジナのサラダです。どうぞ召し上がって下さい。」

 全員の入浴が終わり、メンバー全員が集まったので、タイゲンカバンから、晩御飯を取り出した。

 タイゲンカバンは、異空館と同じく異次元空間に繋がっているアイテムで、中には様々な物が収納されている。

 料理は、料理長にお願いした作り立てをタイゲンカバンにしまっているので、いつでもホカホカの料理が楽しめるのが魅力である。

 いつの間にかメイド服に着替えたリヨンさんが、慣れた手つきで配膳している。

「いただきます!ん、んまぁ~!」

 こっちでは、まんま豚的な家畜であるマルポーの料理は、一般的にも人気料理だ。

 もちろん、私も大好物である。料理長が、良質な肉を仕入れて調理してくれるので、品質も言うことなしである。

「主よ、それにしてもおかしくないか?下山してから誰ともすれ違わないとはな。入山する前には、冒険者や商人なんかと良くすれ違ってたのによ。」

「そうですよね…。確かにこの湖畔の街道は、王都に向かう者ならば、必ず通りますからね。しかし、もう夕方ですし、移動する方が少ない時間帯ではあるかもしれませんけど。」

「奇妙ではありますが、情報がありませんし、仕方ありませんね。明日の朝、日が登ったらすぐに向かいましょう!」

「ご主人様!今日は一緒に寝てくれる?」

「あらあら、いいわね。私もご一緒しちゃおうかしら?」

「えっ!ええ!?」

「こらこら、ミミさん、ミザリ。レイ様が困っているじゃない。あなた達はどうしていつもそうなんですか?女性らしく慎ましくなさい!」

「おうおう、主は人気だなぁ。俺は邪魔しないから存分にやんなさいよ!俺はサルバネーロに行ってからだな。」

(アッシュさんも、イメージなかったけどそういうの興味あるんだ。というか、アッシュさんの相手が務まる方がいるのかが疑問…。)

「アッシュさん、あなたまで煽ったらいけませんよ。」

「はははっ。リヨンさんよ。あんたもあんまりいい子ちゃんだと大事なもの取られちまうぜ!」

「なな、何を!?」

 リヨンさんは、あうあうと顔を赤らめて口をパクパクさせていた…。

 流石に意味ありありな会話に、私も動揺してしまう。

 今の私は一体どんな顔をしているのだろう?否応でも意識しまうのであった…。

◇ 異空館 レイの部屋 ◇

 とても賑やかな晩御飯を済ませて、自由時間になった。

 何だか、妙な空気になったので、私は足早に部屋に戻ることにした。

 そして、モヤモヤした気持ちを打ち払うかのように、新たな実験を始めるのであった…。

  今やっているのは、この異空館で以前に入手したスキル、『異次元空間連結移動』の実験だ。

 この館に付与されている『異次元空間連結移動』スキルは、現在この異次元空間と、アイテム名『異空館』を繋げて移動できるように設定されている。

 私は、このスキルを応用して任意の場所に移動できないだろうか?と考えたのだ。

 スキルを展開すると、脳内で移動先を何処にするかの設定を求められていて、任意の物や場所を予め設定しておけるようだ。

 ただし、実在していない物や、自分自身が見たことがない物や、行ったことがない場所などは選択肢に表示されないので行けないようだ。

 この設定に関しては、まるでプログラミングというか、ゲームの感覚に近い為、スキルと言うのには少々違和感を覚えてしまう。

  接続先の設定は、想像以上に簡単にできてしまった。さてさて、早速実験してみないとね。

 私は、接続元を異空館自室のドアにすることにした。

 ひとまずは、ドアを通過することがスキル作動条件にしておこう。そして、接続先の方は、ミリモル邸の玄関に指定した。

 この条件を設定記憶させられたので、実際にやってみることにする。

 ミリモル邸のロビーに辿り着ければ成功だ。

 私は、ドアを開けて通過してみる。すると…。

 その先には、見覚えのあるミリモル邸のロビーがそこにあった…。

「おっしゃー!成功だ!」

 私は、興奮してつい声を出してしまう。

 誰も入ってくる筈のない玄関口から突然大声をあげた男が現れたので、ミリモルさんの護衛係のユーリさんやゼスさん、他の使用人の方々が集まってしまった…。

「あれ、レイじゃないか?まさか、転移魔法でも使えるようになったのかの?」

 騒ぎを聞きつけてミリモルさんまで出てきてしまった。ヤバい…。

「皆さん、申し訳ありません。今、サルバネーロから約20キロくらいの地点で野営中です。魔道具の『異次元空間移動スキル』の実験していたら、成功して来ちゃいました。」

「来ちゃいましたでできる程、空間転移は簡単ではないはずじゃが…。まったく、お主はもの凄いことを平気でやりおるのぅ。」

「失礼しました。上手く行けば帰りが楽だなぁと思ってつい…。」

「ワハハ!相変わらずじゃな。まあ、良い。今度ワシの分も作っておくれ。」

「えっ!ええ!?わかりました。では、一旦戻りますね?」

「ウム。気をつけての。」

 やたら注目を浴びてしまっていて、何だか恥ずかしくなって来たので、早々とお暇することにした。

 ミリモルさんも、どさくさに紛れて『異次元空間連結移動』スキルの魔道具を強請るとは、抜け目がないな…。

 ペコペコと散々お詫びのお辞儀をした後に、再びミリモル邸の玄関を通過して自室に戻ってきた。

 実験は、成功したのだが、このままの状態は不味いことにすぐに気づいた。

 設定を解除しないでいると、自室から出る度にミリモル邸に飛んでしまうし、向こうも玄関を出る度にこの部屋に来てしまう訳だ。

 接続元や接続先の設定は、人の立ち入らない場所を選ばないと少々問題であることがわかった。

 次使う際には気をつけよう。とりあえず、今回の接続の設定は解除しておいた。

 非常に便利な物をゲットできたな。今後の旅がまた更に楽になるだろう…。ただし、運用方法は充分気をつけないとならないだろう。

 誰でも簡単に立ち入れる場所にすれば、異空館を通じて賊に侵入される可能性が出てくるので、国家単位で悪用されれば、敵国の兵士が一気に王城へなだれ込むことだって有り得るのだ。

 公にはできない秘密のアイテムとして、気をつけて取り扱う必要がありそうだ。

◇ 《実験終了後》 自室 ◇

《トン トン!》

 部屋のドアをノックする音がする。
私は、実験を終えたので、疲れた身体を休めようと、ベットに横になろうとしていた時のことだった。

「はーい。」

 飛び起きてドアを開ける。

 大体は予想がついていた訳だが、私は予想外な展開に驚く。

 ドアの前に立つのは、一人だけではなく三人…。ミミとミザーリアさんとリヨンさんだった。

 何となくミミとミザーリアさんは来るのではと予想が着いていたのだけれど、この時間にリヨンさんが来るのは非常に稀なことだし、三人同時に来るとは思ってもみなかった。

「わっ!三人とも、どうしたのですか?」

 つい焦って声が上ずってしまう。

「来ちゃったにゃん!」
「来ちゃったわ!」
「え…と。来ちゃいました。」

 ニコニコ元気いっぱいのミミさんと、少し色っぽい雰囲気のミザーリアさんと、恥ずかしそうに顔を赤らめているリヨンさんと三者三様だった。

「は、はぁ。どうぞ。」

 私は、部屋の中に三人を通す。

 私の部屋は、異空館に手を加えた際に、自室を自分の好みに手を加えている。

 作業ができる大きめなテーブルや、何人かが部屋に来ても大丈夫なように置かれたソファー。

 ゆったりと睡眠がとれるようにあえて大きいサイズにしたキングベット。自分の拘り抜いた家具である。

 私は、三人をソファーに案内する。三人とも腰掛けたのを確認すると、先日ベニーさんから仕入れて貰った、紅茶の葉を取り出して三人に注いで差し出した。

 淹れたての紅茶からは、湯気が薄ら立ち上り、ほんのり紅茶の香りが鼻腔に伝達してくる。

「レイ様。ありがとうございます。この紅茶、とても良い香りがしますね。」

「そうですね。私もとても気に入っています。これにミルクを少し入れると…。さあ、召し上がってください。」

 私は、適量のミルクを三人のカップへと注ぎ入れて、ゆっくりと掻き混ぜる。

「わぁ、これがあの…。」

「ええ。『ミルクティー』です。」

 紅茶の葉は、前の世界と同じ物が存在しておらず、ベニーさんに色々探して頂いた。

 自分のイメージに近い味わいの紅茶葉を入手できたのは、つい先日のことである。

 そして、紅茶にミルクを混ぜて飲むミルクティーもこちらにはない飲み方であった。

 ミルクティーについては、皆には話題としては教えていたのだが、振る舞うのは今回が初めてとなる。

「甘くて美味しいにゃあ!」

「美味しい!少し苦味のある紅茶の味がとてもまろやかになりました。」

「まあ!美味しいわ!レイ君。ありがとう。」

 三人は、とても満足した様子だった。

「それで、一体どうしたのですか?」

 三人ともミルクティーで落ち着いた様なので、私は三人に訊ねることにする。

 三人は、手に持っていたコップをそっとテーブルに置くと、真剣な表情で私に向き直った。

「その…私たちのこと、どう思っているのかしら?」

 ミザーリアさんが口を開く。リヨンさんとミミもウンウンと頷きながらこちらを見つめている。

「いやぁ。参ったなぁ~。三人とも、大切に思っていますよ。」

「大切にして頂いているのは私たちもわかっています。私たちが聞きたいのは、そういうことではなくて、女性としてどう思っているかですよ?」

 顔を赤らめながら、精一杯発声するリヨンさん。

 私は、真っ直ぐ見つめてくる彼女達の瞳を見て、鼓動が高鳴るのを感じていた…。

「あ、ああ。そういうことね…。ミミ、まさか…君まで!?」

「にゃあ!にゃんは、昔からずっとご主人様の女になりたかったにゃあ!」

「マジ…か…。」

 何時ぶりだろう?私の恋愛感情に火が灯るのは…。しばらくオッサンの生活に慣れ親しんでいた私には、久しぶりの感情である。

 これまでの流れで、好意的に思って頂いているのは充分に伝わっており、彼女たちの気持ちに心打たれていた。

 同時に好意を持って貰えたことに心から喜びを覚えた。きっと、顔の温度がいつもより2、3℃は上昇しているだろう。

 そして、私は覚悟を決めた。

「三人ともとても魅力的だし、好き…ですよ。リヨンさん、ミザーリアさん、ミミ。私は異性として大好きです!」

 こんな恥ずかしい気持ちになったのは初めてだ。穴があったら入りたい…。

「にゃにゃ!嬉しいにゃー!私もご主人様大好き!」

「あらあら。レイ君に好きって言われちゃったわ。嬉しいわ。」

 ニコニコと能天気に喜ぶミザーリアさん。

「嬉しいです!私もレイ様が大好きです。」

 感極まって泣き始めるリヨンさん。

 人種も性格も違う三人だが、とても愛しく思えた。

 今日、15年ぶりの恋人をなんと三人も手に入れることになってしまった。

 嬉しいのと恥ずかしい気持ちが混ぜこぜになっていて、天にも登る想いだった。けれども…。

「でも、三人もの恋人ですよ…。みなさんは、その…嫌じゃないのですか?」

「全然!私たちにとっては普通のことよ。」

 何で?みたいな顔をしながらミザーリアさんは答えた。

「にゃんも他の女がリヨンにゃんとミザリならいいにゃあ!」

「私も気にしませんよ。ですが、三人とも同じように大事にしてくださいね。」

「ありがとうございます。お約束します。しかし…ミミはともかく、リヨンさんの親代わりであるミリモルさんや、ミザーリアさんのお父さんのガラフさんには何て説明したらいいのか…。」

「それでしたら、ミリモル様からはとっくに了解を得ていますよ。」

「あらあら。お父さんからは、頑張るようにと言われているわよ。」

「えぇー!そうだったんですか?全然知らなかったな…。」

「知らなかったのは、レイ君だけじゃないかしら?エチゴヤの従業員ならみんな知っているわよ。」

「うわぁ~。何か恥ずかしい…。」

 停滞していた私達の関係は、この日、急激に前へと動き出した。

 停滞していた原因は、やはり私だよな?

 前の世界のことを引きずり、どうしてもこの世界を受け入れられなかった自分がいた。

 そのことから、これまで人間関係では、どこか深入りしないようにしていた様に思う。

 しかし…。

 私は、この世界に来て、多くの人と関わり、たくさんの方に支えられ助けられてきたのだ。

 リヨンさんや、ミミ、そしてミザーリアさんともたくさん関わり合い、協力し合い、そして密かに惹かれていた。

 もう好きになる気持ちを抑えなくてもいいんだよな。私は、三人の想いに打たれて遂に決心がついたのだった…



 この日、私達四人は、愛し合った。心も体もすべてをさらけ出し、求め合った。

 三人は、私の予想を裏切らず、魅力的な存在だった。触れた肌の感触と、共有する熱を感じながら、互いに絡み合った。
  
 まるでこのまま溶けてしまうかのような感覚に酔い続け、混ざりあい、そして一つになった…。

 これまで慣れ親しんでいたキングサイズのベッドも、今日からはちょうどピッタリのサイズになった。私達は、この後も何度も互いを求め合っていたのだった…。
 

◇ 《翌朝》レイの部屋 ◇

 朝、目を覚ます。自分の隣には、しがみついているミザーリアさんとミミの寝顔があった。

 彼女たちの温もりが心地よい。顔に掛かっている髪を直して上げて起き上がる。リヨンさんは、隣にはいなかった。

「リヨンさん?」

「おはようございます、レイ様!」

 いつも通り、笑顔の彼女がそこに立っていた…。
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