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第3章 覚醒編

第66話 ウエポンリング

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 私は異空館中枢のダンジョンコアの部屋から移動し、今は自分の寝室に戻ってきている。ただの調査のつもりが予想外の展開になった。まだ興奮が冷め止まない。私はベッドに寝転んで天井を見て、物思いに耽っていた…。

 確か魔族技師のボーゲンが言っていた。奴が創った三箇所のダンジョンを攻略しろと…。私に必要な物があると…。一体なんだろう?

 ダンジョンをただただ攻略してみたい気持ちはあるが、ボーゲンが言っていた私に必要な物と言うのも気になっている。

「でも、今は目先のことをしっかりやらないとね。」

 いずれは攻略したいが、当面は、サルバネーロの調査を最大の目標にし、今は硫黄山に全力を尽くそう。

 私はそう決めてベッドから勢いよく起き上がった。サルバネーロ攻略は後回しにしても、今すぐやらなければならないことがあった。それはリヨンさんとアッシュさんの武器の対策だ。昨日の戦闘では活躍してくれたポボロアーヌの大鎌とレイの大剣だが、欠点もあった。

 これらの武器は、リーチを活かした攻撃が出来ることが最大の長所であるが、戦闘時以外には、結構邪魔になる。

 二人には、マジックバッグを渡しているので、そこに収納しておけば良い話なのだが、複数のアイテムを所持している場合、取り出すには、アイテムを選択する必要がある。つまりは、戦闘の準備に多少なりの時間が掛かってしまうと言うことである。時間の猶予がある際には問題ないのだが、予期しない戦闘があった場合には、数秒の遅れも命取りになりかねない。

 そこで私は、普段は邪魔にならず、戦闘時にはスムーズに準備できる手段を考えていた。マジックバックを利用する方法は、いい線いっていると思うので、それを応用してどうにかならないだろうか?

「フーム…。魔力操作するだけで武器が現われれば問題はないよな…?…ん?なら…鎌や剣の一本だけをマジックバッグに格納すれば選択せずに現われる…かも?」

 試しに空のマジックバッグで実験する。私は魔法が使えないので、今回は、魔石で代用して行う。

 まずは、ポボロアーヌの大鎌とレイの大剣をマジックバッグに入れる。魔石を使用するとウインドウが立ち上がった。リストにはポボロアーヌの大鎌とレイの大剣が表示されている。マジックバッグは、選択された物が目の前に現われる仕組みになっている。今度は、予めレイの大剣を取り出しておき、ポボロアーヌの鎌だけがマジックバッグに入っている状況にしてから実行してみた…。

 すると…今度は、ウインドウは立ち上がらずに、突然ポボロアーヌの大鎌が現われた!

「おお、思った通りだ!ウインドウが表示されずに出てきたぞ。つまりは、マジックバッグは、単品保管にすれば時短できるな。」

 自分の目論見通りになってくれて良かった。まさか、こんな単純な方法で改善するとは思わなかった。まあ、これでマジックバッグを持ち歩けば解決するな。

 でも、そのままじゃあつまらない。私は、マジックバッグの代りに、アクセサリーを媒体にして、異次元空間保管できるように工夫してみることにした。以前に王都の露店で買い漁ったリングが数種類あったので、これらに付与して錬成してみよう。

「うっし、完成だ。これは案外簡単に作れるな。大量生産も可能だし、エチゴヤの商売にも使えそうだ。武器とセットで売り出せば儲かるぞ。」

 ついつい、商人の血が騒ぎ出してしまう…。このアイテムは、名付けて『ウエポンリング』としよう。私は、魔剣と通常武器の二つのウエポンリングをリヨンさんとアッシュさん用に作成した。

 私は、アイテムが完成してホッとしたのか、気が付けばベッドに寝転んでいた。流石にダンジョンコアの件やウエポンリング製作などで疲労が溜まっているが自分でもわかる。そのまま直ぐに意識を手放してしまっていたのだった。

◇ 《翌朝》リーゼル山地 ◇

 翌日、馬車はリーゼル山地を走行している。平野部と違い、道幅は狭く、ひたすら登り坂である。道には、突き出した石や、窪みなども見られ、馬車は沈んだり跳ねたり、快適とは程遠い状況であった。愛馬のオグリンキャップは、悪路をものともせず、快走を続けている。

「ウエップ…。この揺れは酷すぎませんか?おい、オグリンキャップや、もう少しゆっくり走りませんか?」

 オグリンキャップが私の言葉を理解できたのかはわからないが、私が激しい乗り物酔いで参っていたのは、確かなことであった。

「そうだ、お二人には新しいアイテムを差し上げます。名付けて『ウエポンリング』です。」

「ウエポンリングですか?初めてお聞きする名前です。」

「オェー!オグリンキャップ!!ストップ!!」

 私は、慌てて馬車を止めると、崖下目掛けて全てを解き放った…。

「レイ様、大丈夫ですか?少し休みましょう。」

「おい、おい、主よ…。」

「ええ、申し訳ありません。少し楽になりましたよ。えっと、ウエポンリングの説明でしたね。このリングには、マジックバッグと同様の技術が組み込まれています。魔力操作するだけで素早く武器が現われます。リング一つに付き、武器も一つだけ保管するようにしています。」

 私は、フラフラした足取りで通常用と魔剣用の二つのリングを二人にそれぞれ渡した。

 二人ともリングを指に嵌めると、ウエポンリングを実際に扱ってみている。

「なるほど、これは便利だな。瞬時に武器を取り出せるアイテムか…主よ、流石と言っておこう。だが、その姿はいただけないがな。ワッハッハ!」

 褒められてるんだか、貶されてるんだか…。そう言えば、アッシュさんの笑い顔は初めて見た気がする。

「アッシュさん、レイ様が辛い思いをされているのに…。」

「いや、失敬!化け物級の主も、やはり人間だったのだと思うとあまりにも意外なのでな。」

「アッシュさん、一体私を何だと思っているのですか…?」

「普通に化け物だな。ワッハッハ!」

「オェッ!」

 また、アッシュさんの笑い声が山間を木霊していた…。

― to be continued ―
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