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第3章 覚醒編

第52話 王都の商人

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◇ 商業区 露店街 ◇

 ポーションと湯沸かしの作業が一段落した後、フリン君とガラフさんのエチゴヤコンビに『あるお願い』をした。私は彼らとは別行動で、リヨンさんとミミを引き連れて商業区へ出向いていた。素材屋と商業ギルドに用があったからである。最初は、メサの素材屋に向かうことにする。

「メサ。景気はどうですか?」

「よう、兄ちゃんか。久しぶりじゃねぇか。好調だぜぇ。魔コンロや、懐中魔灯なら、こないだボウズに渡したぜぇ。やや、その猫娘ちゃんは兄ちゃんの新しい女か?あの時の姉ちゃんもいるじゃんか、モテモテだなぁ。マジすげぇな!」

「メサっ!何言っているんですか!?」

「そうにゃ!にゃんはご主人様の女にゃん!」

「えっ…ミミ!?」「ミミさん!誤解されるでしょ?」

「ガハハ!相変わらず面白れぇなぁ!そんで、何か用か?」

「ええ。今日は別件で来たんですよ。」

 実は、護身用の銃作りに取り掛かるつもりだったが、火薬に必要な素材のうち、『硝石』の入手が問題だったからだ。

「ダメ元で聞きますが、硝石ってありますか?」

「あるぜぇ。」

「えっ、マジ?何であるんですか!?」

「兄ちゃん、マジだぜぇ。何だよ!あったら問題あるみたいに聞こえるぜぇ。昨日仕入れたばかりなんだぜぇ。どれくらいいるんだ?」

「あるだけ売って下さい!!」

 意外にも難航する予定だった『硝石』があっさりと大量入手出来てしまった。メサ、恐るべし!

 その他には、鋼や金属素材も購入できたので、火薬の素材の『木炭』『硫黄』が揃えば、いよいよ私にも武器ができるのだ。

 木炭は、既にミリモル邸で頂いており、残りは硫黄だけだった。硫黄も硫黄山にあるのは既に調査済みである。次の目的地『サルバネーロ』に向かう前に硫黄山に行ってみようと思う。
 

◇ 商業ギルド ◇

 メサの素材屋を出て、次に向かったのは商業ギルドであった。ポーションの状況確認と、レア素材の買い付けが目的である。

「サカモト様、ようこそおいで下さいました。」

 ロッケさんが笑顔で出迎えてくれた。リヨンさんと同じくアサシンという裏の顔がある。見た目では強い方だとは全然見えないのだけれどね…。ベニーさんが私に用があるらしく、彼女に案内されてギルドマスターのベニーさんの部屋へ向かった。

「サカモト様。良くいらっしゃいました。まずはCランクの昇格おめでとうございます。」

「あ、ありがとうございます。」

 ギルドマスターのベニーさんもアサシンの裏の顔を持っていた。もちろん現在は引退されているようだが、現役時代はリヨンさんと互角の実力者だったそうだ。元アサシンとは思えないほど物腰が低く、仕事もできるし責任感も強い方なので私は彼を信用している。

「ペルモートでは色々あったようですね?」

「ええ、ペルモートでは下級魔族による被害があり、近くのハマカゼ村は上級魔族によって滅ぼされました。下級魔族の方は我々で倒しましたが、上級魔族は未だ行方不明です。」

「やはり魔族が現れ始めているようですね。国内だけでなく国外でも被害が出始めているようでございます。ただ殆どが下級魔族と聞いております。幸い討伐には成功しているようですが…。」

「やはり…。我々はこれからその上級魔族への僅かな手がかりを元に北のサルバネーロへ向かうつもりです。」

「サカモト様。上級魔族は並の強さではございません。上級魔族討伐の報告が上がっていないのはその強さ故だそうです。申し訳ございません。我々にはこの件に関して戦力として協力させて頂く余裕がございません。しかし支援としてご用意出来る提案が二つございます。」

「一つは冒険者による下級若しくは中級魔族討伐による討伐素材のご提供です。もう一つは商業区の空き店舗のご提供でございます。魔族の討伐素材に関しては素材自体には高い価値がございますが、ドワーフでも扱いに困っており、売り捌くのが難しいのでCランクに昇格されたレイ様にお話させて頂きました。必要でしたら相場価格より格安でお譲り致します。」

(クリエイトスキルでどうにでもなるからこれは買いだね。)

「ありがとうございます。喜んで購入させて頂きます。」

「承りました。まずはこちらをご覧下さい。」

 ギルド執務室の一角には、魔族の素材がぎっしりと積まれていた。甲亀鬼の甲羅、風雷鳥の両翼、豪鬼の牙と棍棒、魔狂馬の蹄と骨…。どれも希少価値の高いものばかりだ。私は片眼鏡を通して素材の品質や価値をチェックしていく。

甲亀鬼こうききの甲羅
価値☆☆☆☆
相場価格 error
説明 下級魔族の甲亀鬼の甲羅。非常に固く、物理攻撃や様々な属性攻撃から身を守っていた。防具や盾に加工すれば、高い防御力を得られるだろう。

風雷鳥ふうらいちょうの両翼
価値☆☆☆☆
相場価格 error
説明 下級魔族の風雷鳥の両翼。右翼は雷属性、左翼は風属性を持つ。羽根は軽くて丈夫で、矢や刃物に使える。また、翼自体にも属性エネルギーが残っており、それを利用すれば武器や装飾品にもなる。

豪鬼ごうきの牙と棍棒
価値☆☆☆☆
相場価格 error
説明 中級魔族の豪鬼の牙と棍棒のセット。力を増幅する効果がある。牙は切れ味が良く、剣やナイフに加工できる。棍棒は重量感があり、そのままでも十分な武器となる。

魔狂馬まきょうばの蹄と骨
価値☆☆☆☆
相場価格 error
説明 下級魔族の魔狂馬の蹄と骨。骨は丈夫で素早さが上昇する効果がありそうだ。蹄は硬くて滑りにくく、靴やブーツに使える。また、蹄からは強力な衝撃波を放つことができる。

「どれも見事な素材ですね。これなら欲しがる方も多いでしょうね。」

「仰る通りでございます。しかし、硬さもあり、火にも強い素材ばかりでして、ドワーフの鍛冶師もついに音を上げました。武器にならない素材を欲しがる方はいないので、扱いに困っている次第です。」

「私が全て購入させて頂きます。お幾らで譲って頂けますか?」

「そう言って頂けると信じておりました。本来、素材だけでも金貨500枚は頂く程の価値でございますが、このまま売れ残ってしまうのも薄気味悪く存じますので、全て合わせて金貨20枚でいかがでしょうか?」

 ベニーさんは目を細めて言った。彼は私に対して何か期待を抱いているようだった。私は驚きながらも、彼の提案に応じた。

「い、いいんですか?破格値ですが…。」

「サカモト様からは、何か唯ならぬ物を感じます。強さとかそういう意味ではなく、何か凄いことをやってくれそうな、そんな期待感をあなた様には感じてしまうのですよ。ですから、その未来の為の投資と言った所でございましょうか。」

「買いかぶりですよ。ですが、評価して下さりありがとうございます!その金額でお願い致します。」

 私は金貨20枚を支払い、素材を全てタイゲンカバンに収納しておく。タイゲンカバンというのは、中に入れた物の重さや大きさを無視して持ち運べる便利な神器である。

「こちらこそありがとうございます。それがサカモト様の特殊なカバンですね。非常識な機能がおありの様ですね。では、次は店舗をご紹介致します。現地までご一緒にお願い致します。」

「あはは…。ご案内お願いします。」

 ベニーさんはギルドを出ると、外で待機していたリヨンさんに声をかけた。リヨンさんは私のパートナーであり、最高の護衛でもある。今回彼女は、御者と護衛を務めてくれている。

「リヨン様、あなたでしたか。サカモト様から伺っておりますよ。上級魔族を追っているのだとか。上級魔族はかなりの強敵のようです。流石のあなたでも厳しいかも知れませんよ。」

「ええ、存じております。私一人では無理でしょう。ですが、私にはレイ様や、仲間がおりますから。」

 リヨンさんは胸を張り、自信を持ってベニーさんに答えていた。

 彼女は、上級魔族を追いかける私の大切な仲間である。彼女は、これまでの魔族との戦いが容易ではなかったことをよく知っていた。そして、今後相手にするであろう上級魔族の強さが、これまでとは別次元であろうことを痛感しており、その覚悟は非常に固いものであった。

「ほぅ…。あなたも成長なさったようですね。要らぬ心配を失礼致しました。あなた方ならきっと大丈夫だと信じていますよ。」

 ベニーさんはリヨンさんに微笑んだ。彼はリヨンさんと刃を交えたこともあり、二人は通づるものがありそうだ。

「ベニー様、ありがとうございます。」

 リヨンさんは感謝の言葉を述べた。彼女は普段クールな性格だが、心優しい人である。

 馬車は、商業区の中でも一般居住区や、露店街に近い辺りで停車した。一番賑やかな場所からは少し距離はあるが、大通り沿いだし、人通りもあるので、悪くない立地条件ではないだろうか。

「さあ、こちらです。」

 ベニーさんは馬車から降りて、入り口の南京錠を外して店舗内へと案内してくれた。店の中は小ぢんまりとした空間があり、壁や床も清潔だった。窓から光が差し込み、明るい雰囲気だった。

「にゃにゃ!陽当たりもいいし、なかなかいい所にゃん!」

 ミミは、一目見てこの店舗が気に入った様子である。

「ここの前のオーナーはどうして店を売りに?」

 私は店内を見回しながらベニーさんに尋ねた。この店舗はかなり良さそうに見えたが、何故手放したのだろうか?

「前のオーナーさんですか…。実は、冒険者を引き連れ、商品をサルバネーロに輸送していたのですが、途中で山賊に襲われ、帰らぬ人となってしまいました。その後、家族が売りに出しています。」

 ベニーさんは悲しげに述べた。『サルバネーロ』というのは、この国の最北端に位置する都市であり、現在上級魔族を追って我々が向かう目的地でもある。しかしながら、その道のりは非常に危険であり、山賊や魔物の襲撃も珍しくないのだそうだ。

「そうですか…。余計なことを聞きました。それで、お幾らで購入できますか?」

 私は気を取り直してベニーさんに聞いた。この店舗は、エチゴヤには最適な場所だと思った。広さも十分で、立地も悪くない。値段次第では即決である。

「それなんですが、販売ではなく借入れはいかがでしょうか?ひと月あたり、銀貨五枚を納めて頂ければと思いますが…。」

 ベニーさんは提案した。彼はギルマスとしての手腕を発揮していた。一括売りより、長期間賃金を受け取る方が合計金額は稼げるということだろう。流石はギルドマスターである。抜かりがないね。しかし、その額なら悪い話ではなさそうだ。

「それで構いません。借入れの手続きを進めて下さい。」

 私は即答した。ひと月で銀貨五枚なら、商品の売上で十分に賄えるだろう。

「ご契約ありがとうございます。では、こちらにご署名をお願い致します。」

 ベニーさんとの契約を無事に済ませ、いよいよ私は店持ちとなった。エチゴヤも本格始動となりそうだ。開店の準備もしていかないとならないだろう。

 これからは、もう少し従業員が必要かも知れないと思う。このままでは、フリン君や、ガラフさんが過重労働でパンク状態になってしまうだろうから…。ブラック商店だとは言われたくない。

 直ぐにベニーさんにお願いして、安心して使えそうな人材がいれば紹介して欲しいと告げて、彼とは店先で別れた。


◇ ミリモル邸 ◇

「お帰りなさいませ、旦那様!」

 先程、ベニーさんとの店舗契約を無事に成立させ、私はミリモル邸へと帰ってきた。すると、そこには聡明なガラフさんと、可愛い獣人少年フリン君が待っていてくれた。

 ガラフさんはまるでラノベの執事のように完璧に仕事をこなし、フリン君は私のことを慕って一生懸命働いてくれる。私は、いい人材に恵まれていると感じていた。

「旦那様のご要望にお応えして、ベッド10個をご用意致しました。」

「もう用意できたのですか!?」

 私がガラフさんとフリン君に頼んだ『あるお願い』というのは、『異空館』と呼ばれる異次元空間にあるお屋敷に設置するベッドだった。『異空館』は私が悪魔との戦いにおいて偶然見つけた秘密の隠れ家で、そこを快適な別荘に改造する計画を立てていた。

 異空館での楽しい生活を想像すると、私はもう待ちきれなかったのであった…。

― to be continued ―
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