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第1章 異世界に迷い込んだ男

第18話 旅の準備(前編)

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 ポーションの件も解決し、手に入れた金貨が一気に15枚となった。今後は、この国の他の都市や街も巡りたい。そのためには商品の確保や資金調達、旅の装備の準備などをしっかりとやっておきたいと思う。

「レイ様。本日の予定は…ゲーツ工房で瓶の調達、素材屋で魔コンロの仕入れと新たな魔道具開発のチェック、商業ギルドでポーションの納品とポーション素材や魔石の購入となっています。」

 リヨンさんは、メイド業務だけでなく、監視業務や護衛業務、秘書業務も兼任しているようだ。彼女の体力には感心する。

「リヨンさん、了解しました。ですが、過労で倒れたら大変です。無理なさらないで下さいね。」

「心配して下さってありがとうございます。楽しみながらやらせて頂いていますので、全然大丈夫ですよ!では、馬車を玄関に用意しておきますね。」

「ありがとうございます!ミリモルさんに挨拶してから出発しますので、しばらく待っていて下さい。」

 ポーションのお陰で資金が集まったので、以前頂いたお金を返そうと思う。ミルモルさんの自室に向かい、軽くノックする。

「レイです。」

「どうぞ、お入り!」

「失礼します。ある程度資金が集まりましたので、頂いたお金をお返ししに参りました。」

「何じゃ、あれはワシがお主に上げたものじゃ。返済の必要はないのじゃよ。」

「いや、しかし…。」

「くどい!お主は他人かと思っているかも知れんが、ワシはお主を本当の家族だと思っておる。じゃから、変な気遣いは無用なのじゃよ!」

「ミルモルさん…。」

 私はこの世界には身寄りがなく、孤独だと感じていた。しかし、こんな私を家族だと言ってくれる人がいる。家族がいることがこんなにも嬉しいことだとは思ってもみなかった。

「とても嬉しく思います。ありがとうございます。では、頂戴いたします。」

「うむ。それでよい。確かお主は王都以外の場所にも行くつもりなのじゃろう?」

「ええ。商品の仕入れや販売もあるので、王都を拠点にし、短期で様々な都市や街を見て回ろうと思っています。」

「そうか。まあ、王都を拠点にするなら、これからもちょくちょく会うじゃろう。今まで通り、ここを我が家だと思って使うがよいのじゃ。」

「ありがとうございます!」

 ミルモルさんへの挨拶が済んだので、リヨンさんの元へ向かう。まずは、ゲーツ工房へ向かうことにする。

◇ ゲーツ工房 ◇

「こんにちは!できていますか?」

「はいよ!」

 ゲーツさんは無言で作業台に向かっていた。彼の腕は確かで、仕上げた瓶は一つとして欠陥がなかった。私は片眼鏡で検品を済ませ、タイゲンカバンに30本収納した。

「ゲーツさん、これで30本ですね。代金は銀貨二枚です。」

 私は予定より多めに銀貨を渡した。出来栄えを加味すると、この程度が妥当な金額だと考えたからである。

「こんなにいいのか?」

 ゲーツは驚いたように言った。

「瓶の出来が素晴らしいからですよ。気兼ねなく受け取ってください。それからゲーツさん、今後も定期的に購入をお願いしたいのですが、定期購入契約を結んで頂けないでしょうか?1本大銅貨1枚で、3日で30本ずつお願いできますか?」

 私は切り出した。彼の瓶は品質が高く、今後も需要は高まるだろう。

「そんなに頂けるのか。感謝する。常に最高な物を出すと約束しよう。」

 ゲーツさんは快諾してくれた。彼は仕事に妥協しない人なので、信用できる。

「ありがとうございます。ただ、私は王都を留守にすることが増えるので、買付けに使いを出す形にしたいのですが、問題ありませんか?」

「ああ、構わない。」

 ゲーツは淡々と答えた。

 準備してあった契約書を取り出し、双方に署名して締結させる。

「リヨンさん、使いで協力してくれる方と、瓶を確保する倉庫が必要になりそうです。帰ったら相談に乗って下さい。」

「はい、それなら心あたりがございます。お任せ下さい。」

「では、ゲーツさん、また宜しくお願いします!」

 お礼を言ってゲーツ工房を後にする。次はメサの素材屋だ。

◇ 素材屋 ◇

「よう!兄ちゃんか。待ってたぜぇ!ほらほら!見てみろよ!」

 メサは得意げに魔コンロを見せてきた。先日お願いした魔コンロは安全装置も修正されていて品質も問題なかった。私は片眼鏡で検品を済ませた。

「完璧な出来です。ありがとうございます!一台で銀貨一枚と大銅貨三枚という約束でしたので、10台で金貨一枚と銀貨三枚です。受け取って下さい。」

「うほぅ!やったぜぇ。今日はガッツリ飲めるぜぇ。それから、頼まれてたアレが出来てるぜぇ。」

 メサは魔コンロとは別に、懐魔光を改良した物をお願いしていた。私は日本の懐中電灯の技術を利用し、光の周囲に鏡を張り巡らせて反射し、光を集束させる仕組みを考えた。集束された光は、強い光となって前方を照らす。

 メサには、反射鏡の開発と加工、懐中電灯の先端にガラスカバーも付けて貰うようにお願いしていた。既製品を改良しただけの品だ。仕上げに私が錬成して完成した。

 実験は、太陽の下では効果を把握できない為、馬車の中に持って行って皆でチェックした。

「マジですげぇなこれ!!」

(最近、メサの喋りが結構ツボですわ。)

「レイ様、凄いですね!完成おめでとうございます。」

「リヨンさん、ありがとうございます。夜や暗闇などで照らしながら移動できるので便利なんです。これも製品化しましょうか。名前は…『懐中魔灯』にします。」

「魔法付与以外なら俺っちが全部できるぜぇ。」

「材料費込みで幾らでやって頂けますか?」

「そうだなぁ…。大銅貨一枚は貰いたいところだなぁ。」

(あー、コイツまたヘンテコな価格設定を…。)

「それでは材料費にもならないでしょう?大銅貨四枚で如何でしょうか?」

「ま、マジかぁ~?うほーい!やるぜぇ。やるぜぇ!」

「とりあえず、魔コンロを10台と、懐中魔灯を20個作って頂きたいですね。それからメサと定期的に購入する契約を結べたらと思います。この『魔コンロ』と『懐中魔灯』は、私の大事な商品です。誰かに作ったり、作り方を教えたりは無しにして下さい。約束を守って頂けるのでしたら、定期的にメサにこれらの製作を任せます。賃金は、魔コンロ一台に付き材料込みで銀貨一枚と大銅貨三枚。懐中魔灯は、一個に付き材料費込みで大銅貨四枚です。如何ですか?」

「おう!いいな。わかったぜぇ。約束を守るぜぇ。」

 商談成立である。予め準備してあった契約書に必要事項を記載する。

「これが契約書です。内容に目を通してからサインして下さい。」

「お、おう。書いたぜぇ。」

(契約内容は、絶対読んでないと思う…。)

「今後は、私が来られない場合があります。その時には使いを出すので、宜しくお願いします。」

 こうして、素材屋メサの件も解決した。





 素材屋の後に目指したのは商業ギルドである。目的は、高品質ポーションの納品であった。ゲーツさんの瓶の入荷待ちだったため、仕入れたばかりのものを馬車の荷台で全て並べて準備することにする。その際に、以前にリヨンさんと作製したポーションを鍋ごと取り出した。

「レイ様、これはあの時一緒に作ったものですよね?流石に劣化しているのでは?」

 リヨンさんが不安そうに聞いた。

「ああ。リヨンさんには知らせてなかったですね。私のこのカバンは、特別な仕様になっていまして、中は時間停止の効果が付与されているのです。ですから、このポーションは、いつでも作りたてなのです。蔵から頂いた貴重なアイテムですから、このことは秘密にして下さいね。」

 私はカバンを見せながら説明した。黒い革で作られており、赤色の刺繍が施されているカバンだ。普通に見れば高級品には見えないが、中身はとても凄い。異次元空間と繋がっており、時間が止まっている。どんな物でも新鮮なまま無限に保存できる。

「承知しました!なるほど…。レイ様の色々凄い理由の一つですね。お口結んでおきます!」

 リヨンさんは感嘆しながら言った。

「あはは、私は戦いはまるっきしですけどね!」

「戦いが全てではありません。レイ様の危険は、私が命を賭けてお守り致します。」

「命は賭けなくていいですが、お気持ちはありがとうございます!では、瓶に移すのを手伝って下さい。」

 二人でポーションを瓶に移していく。一人でやるよりも断然効率がいい…。

 入れ終わったらきちんと栓をして、ひとまずカバンに仕舞う。以前行ったようにエア抜きして、瓶内部を真空にする為である。カバンの中で空気を分離できるのは『タイゲンカバン』の凄い所だと思う。

 今後は海水から塩だけ取り出したり、不純物を全て取り除いた純水なような物を作れるか挑戦してみようかな。できるなら商売になりそうだしね。

 完成したので、二人で商業ギルドに納品しに行くことにする。

◇  商業ギルド  ◇

 商業ギルドの建物は、王都の中心部にある大きな石造りの建物だ。商人や冒険者が行き交う賑やかな場所だ。私たちは馬車を停めて、ギルドに入った。

「ロッケ!来たわよ!」

 受付にはロッケさんという女性がいた。彼女は商業ギルドの職員で、私たちの担当者だ。彼女はメガネを掛けており、少し地味な印象を持つ。しかし、実は裏の顔を持ち、ベニーさん仕込みの凄腕でもあった。私がクナップスに捕らわれていた際には、リヨンさんと協力して助けて頂いた。

「ロッケさん、こんにちは。ポーションの納品に来ました。」

「二人ともいらっしゃい。確か30本の納品だったわね?検品するのでお待ち下さい。」

「では、ギルド内の商店で素材を見ているので、終わったら教えて下さい。」

「はい!承知しました。」

 ロッケさんは、鑑定士のレネーさんに瓶を渡して、検品を依頼した。レネーさんはアイテム鑑定魔法が使えるらしく、これからポーションの品質を鑑定するそうだ。

 検品の間、私たちは商店を見に行く。今日は、ポーションの素材や、魔石の仕入れをする。一般販売用に廉価品のポーションも製作するので、薬草なども、もう少し在庫を抱えるつもりである。

 良質の物を選び、支払いが終わった所で、検品が済んだと連絡があった。

「お待たせしました。今回も全て高品質ポーションでした。規定通り1本につき銀貨5枚と致しまして、30本で承ります。宜しいですか?」

「宜しくお願い致します。」

 金貨15枚を受け取り商業ギルドを後にした。資金もだいぶ集まってきたみたいだ。廉価品ポーションの瓶は、ガスト工房で更に50本購入し、次は旅の準備を少し進めたいと思う。

「リヨンさん、今度の旅の話ですが、海辺の都市で、王都から近い場所があればそこを目指したいと思っています。」

「そうですか。でしたら『港町ペルモート』が宜しいかと。何か目的がおありですか?」

「上手く行くかはわかりませんが、塩の製造ができたらいいなと思っているんですよ。」

「まあ、それは素晴らしいですね。確かにペルモートでは、塩を生産していますが、なかなか高純度な塩は手に入りません。不純物が混ざると、味にも雑味が混じるので、どれだけ不純物を無くせるかが生産者の腕の見せ所だそうです。」

「なるほど、非常に興味深い話ですね。是非行ってみたいものです。港町ペルモートへの移動時間は、どれくらいかかりそうですか?」

「馬車でおよそ4日はかかると思います。」

「丁度いいですね。では、そこを目指します。旅に必要な物がありましたら教えて下さい。」

「そうですね、ますば片道分の食料に飲水、野盗や魔物との遭遇も考えられますので装備はきちんとされた方がよろしいかと。後は念の為に野営道具や、寝具なども必要かも知れませんね。」

「なるほど。食料は、出発前までに揃えましょう。まずは、服と装備を新調しましょうか。今着ている服は旅に向いていないし、装備も古くなってきましたからね。既製服を売っているお店に案内して頂けますか?」

「承知しました。では、王都の東門近くにある『ゲッコウ』というお店に行きましょう。そこは品質も良くて値段も手頃な服や装備が揃っていますよ。レイ様の旅の目的が塩の製造だということでしたら、海辺で活動することも考えられますから、防水や防寒の効果があるものがおすすめですね。」

 リヨンさんは私の旅の目的に興味を持ちつつも、不安を隠せない様子だった。彼女は私を守ることを誓ってくれているが、私も彼女に迷惑をかけたくないと思っていた。

「ありがとうございます!それでは、ゲッコウに行きましょう!リヨンさんも何か欲しい物があったら言ってくださいね!」

 私は笑顔で言った。リヨンさんは少し照れながらも、快く案内してくれた。

― to be continued ―
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