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第1章 異世界に迷い込んだ男

第11話 ポーションを巡って

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◇ ミリモルの部屋 ◇
 
「ほぅ、完成したのじゃな?」

「えぇ。かなり良質のポーションになったと思います。査定して頂き、相応な価格設定にするつもりです。」

「一つ見せて貰えるかの?」

「はい。こちらです。」

 私は薄い緑色の小瓶と薄い紫色の小瓶をミルモルさんの机の前に置いた。私は、『錬成スキル(上級)』を獲得したことで、非常に高品質なポーションを作り上げることに成功したのである。
 
「これは、見事じゃな。ワシが知っているポーションとは、雲泥の輝きじゃ。性能はどの程度のものじゃ?」

「鑑定の情報によれば、上位魔法のハイキュア相当だそうです。『高品質』の四つ星アイテムのようです。」

「ハイキュアじゃと!?ハイキュアは、既に失われた上位魔法で、使える者はこの国にはおらんのじゃ。」

「そ、そうなんですか!?マズイもの作ってしまったかな…。」

「いや、このポーションがあれば、今まで重症で助けることが難しかった命も救えるじゃろう。ローランネシア王国としても非常に利益のある話じゃ。レイよ。すまないが、この件は私も一枚噛ませてもらうぞ。王宮の宮廷魔法師としてな。悪いようにはせぬから安心せい。」

「わ、わかりました。」

 何だか急に凄い展開になってきた。ポーションの商品登録のため、ミルモルさんと一緒に商業ギルドへ向かうことになった。リヨンさんも御者として同行してくれることになり、三人で商業ギルドを目指した。

◇ 商業ギルド ◇

 我々は商業ギルドに到着した。馬車はリヨンさんに任せて、私とミルモルさんはギルドホールへと歩いた。

「ミルモル様、いらっしゃいませ。ご足労頂きありがとうございます。本日は、どのようなご用件でしょうか?」

 私の前に立って声をかけてくれたのは、先日商業ギルド登録時に親切に対応してくれたベニーさんだった。

「うむ。レイがとんでもない高品質のポーションを作ったと言う話になってな、そちらの査定次第では王宮案件になるじゃろうから一緒に来た次第じゃ。」

「高品質ポーションですか?確かにお目にかかったことはございませんね。とりあえず査定させて頂きます。サカモト様。宜しいですか?」

「はい、緑色の小瓶がポーション。紫色の小瓶が魔ポーションになります。」

 私は、二本の小瓶をバックから取り出して、ベニーさんの前に並べて置いた。

「確かにこれは見事ですね。では早速査定に回しますね。待ち合いの方でお待ち下さいませ。」

「うむ。ベニーよ。くれぐれも適正な審査を致すように…じゃ。」

「はっ。承知致しました。」

 ベニーさんは、深くお辞儀して事務所の奥へ移動して行った。

「レイや、一つ忠告じゃ。お主のポーションくらい優れた品だと、一歩間違うと災いの火種になることもある。お主のポーションを利用して悪巧みをする連中が現れるかも知れぬと言うことじゃ。そのことを肝に銘じておくようにな。」

「わかりました。気をつけます。」
 

◇◇◇◇ 視点切替『ベニー』 ◇◇◇◇

 
 私、ベニーは、サカモト様からお預かりしたポーションと魔ポーションを手に、事務所の奥に位置するレネーさんのもとへと歩を進めた。

 レネーさんは、固有の鑑定魔法を持つ鑑定士の一人であり、非常に希少な存在である。

(サカモト様が作ったポーションが本当に高品質だとしたら…それは大変な発見ですよ…!)

 私は期待と興奮で胸が高鳴るのを感じながら、レネーさんの部屋前に立ち、ノックした。

「レネーさん、お忙しいところをお邪魔します。ギルドランクDのサカモト・レイ様からお預かりしたポーションと魔ポーションです。品質が非常に優れているとのことで、鑑定をよろしくお願いします。それから、サカモト様の身元引受人は宮廷魔法師のミルモル様ですのて、対応にはお気をつけくださいね。」

「承知しましたわ。お任せくださいませ。」

 レネーさんは返信すると、目を閉じて詠唱を始めた。一瞬、まるで閃光のような光が辺りを照らし、すぐに収まった。鑑定が終わったのだろう。

「ベニーさん、間違いなくこれは『高品質』のポーションと魔ポーションですわね。大変な価値があるでしょう。」

「それは凄いですね。サカモト様は、王の推薦状を持って登録に来た方なのです。やはり、只者では無かったようですね。では、ギルマスに報告をお願いします。相手方にも報告しなければなりませんので、早急にまとめてください。」

「そうでしたか。承知しましたわ。」

◇◇◇◇ 視点切替『レネー』 ◇◇◇◇

 私はベニーさんから小瓶を受け取り、商業ギルドマスターのヨンスさんの元へ向かいます。

(強欲なヨンスさんが、素直に査定を認めてくれればいいのですけれど…。)

 ヨンスさんの部屋前に立ち、ノックします。

「レネーです。鑑定の件で報告に参りました。」

 高品質アイテムやレア素材の鑑定結果が出た場合は、ギルドマスターのヨンスさんに報告する規定になっていたのです。

「入ってください。」

 私はギルマスの執務室に入りました。

「それで、どうしましたか?」

「ギルドランクDのサカモト・レイ様が持ってきたポーションと魔ポーションですが、それぞれ『高品質』と判定されました。」

「ほほぅ…。高品質ポーションは聞いたことがありませんね。やり方次第では、かなり利益が見込めそうですね…。ふむ…。」

 ヨンスさんは何かを思いついたような表情で口角を上げ、やがて微笑みました。

(どうせ良からぬことを企んだに違いありませんわ…。)

「その方は使えそうですね。直接契約しましょう。鑑定結果は『良質』だったことにしておきます。いいですね?」

「でも、彼の身元引受人はミルモル様です。誤った結果を伝えるのは非常に危険ですわ。」

「安心してください。ミルモル様は、能力鑑定はあってもアイテム鑑定はできません。したがって、ポーションの品質については、彼女にはわかりませんよ。いいですね?余計な口出しは無用です。お二人を連れてきてください。」

「承知しました。」

 私は部屋を出て、ベニーさんに連絡します。

(こういうの嫌なんだけどな~。)

「ベニーさん、貴方の言った通りでしたわ。お二人を執務室へ案内してくださいませ。後ほど私も行きますので…。」

「承知しました。」

◇◇◇◇ 視点切替『レイ』 ◇◇◇◇

 私とミルモルさん、ゼスさん、ユーリさんの四人は、指示通りに待ち合いで連絡を待っていた。

 約15分が経過した頃、ベニーさんが事務所の奥から現れた。どうやら、別室で話をすることになったようだ。商業ギルドに来るのは二回目だが、別室での面談など予想だにしなかった...。

 案内された部屋は、商業ギルドマスターの執務室だった。護衛の立ち入りを禁じられ、ゼスさんとユーリさんは部屋の外で待機している。ベニーさんの案内で部屋に入ると、小太りな男性が奥の机に座り、こちらを見つめていた。

「ミルモル様、お越しいただきありがとうございます。商業ギルドマスターのヨンスと申します。」

「突然悪かったね。この子の身元引受人として、そして王宮の宮廷魔法師として関わらせて貰うことにしたのじゃ。」

「まったく問題ございません。ミルモル様のお立場は承知しております。ご心配なさらずに。さて、あなたがサカモト・レイ殿ですね。どうぞよろしくお願いします。」

 ヨンスはニヤリと微笑み、ソファに案内する。ベニーさんが退室すると、一人の女性が入ってきて、ヨンスの横にそっと腰をおろした。

「いやー。それにしても見事な出来のポーションですな。これはどのように入手されたのですかな?」

「小瓶以外は全て自分で作りました。」

「左様ですか。それは凄いですな。レイ殿のような逸材がいるとは存じ上げませんでしたな。」

「それで、査定の結果はいかがでしたか?」

「そうでしたね。まず、隣にいる彼女は商業ギルドの鑑定士、レネーと申します。彼女は固有魔法のアイテム鑑定魔法が使えます。ミルモル様の能力鑑定魔法と似たような魔法ですね。」

「レネーと申します。」

「レネーに鑑定して貰った所、お預かりしていたポーションと魔ポーションに『良質』の価値があることがわかりました。そこで…。」

「え!?」
「何じゃと?」

 私とミルモルさんの声が同時に響き渡った。私たちは片眼鏡の鑑定によって、ポーションが『高品質』だったことを既に知っていたからだ。

 もちろん、現在目の前に置かれているポーションの品質は、私の片眼鏡を通じて依然として『高品質』となっている。

 私は、片眼鏡の鑑定結果を信じて疑わなかった。タイゲンさんの道具が、並の道具とは別次元で優秀なことを知っているからである。だからこそ、ヨンスの言葉には納得できなかった。私は、ヨンスの目に不自然な光が宿っているような気がして、胸騒ぎがした。

「それは、おかしいのじゃ。ヨンスよ。その結果は、確かなのかの?」

 ミリモルさんの問に、ヨンスの表情には焦りの色が見て取れた。

「ミルモル様。も、もちろんでございます。レネーの鑑定能力は、私が保証しますよ!このポーションは、間違いなく『良質』でございます。」

「ふむ…残念じゃが、レイのポーションの件は、王宮で預かることにしようかの。ヨンスよ。欲に目が眩んだな。」

「ミルモル様、それはどう言う…。」

「ヨンスよ。お主は、ワシがアイテム鑑定が出来ぬと思っていたようじゃが、低位のアイテム鑑定の魔法は習得しておるわ。固有の鑑定魔法を持つレネー程ではないが、このポーションが高品質であることくらいはワシにもわかるのじゃよ。失礼するぞ。」

「な、な…」

 ヨンスは驚きの表情を浮かべたまま、言葉に詰まった。

 私とミルモルさんは、ポーションを持って部屋を出た。

(やはり商業ギルドは怖いところだ…。)

 私は心底そう思った。

 ポーションの販売は保留状態のまま、物別れという結末を迎えてしまった。今のところ、この問題はミルモルさんに一任するしかないようだ。

 ミルモルさんはそのまま王城に向かい、ポーションの報告と今後の運用について相談するとのことだ。私も同行するように声をかけられたが、ドワーフのメサに頼んでいる魔コンロの開発の打ち合わせが控えているため、丁重にお断りし、徒歩で露天街に向かったのであった…。
 

 ◇◇◇◇ 視点切替『レネー』 ◇◇◇◇
 

 部屋には、ミルモル様とサカモト様が去り、ヨンスさんと私だけが残されてしまった...。

「くそっ...あいつら、許さないぞ!このままでは気が収まらん。」

「ギルマス。ど、どこへ行くんですか?」

「うるさい!しばらく留守にするんだ!」

 私は、今のヨンスが恐ろしかった。それはなぜかというと...私は以前、似たような状況を経験し、その結末を知っているからでした。私は立ち尽くし、ただヨンスの背中を見つめることしかできなかったのです...。

― to be continued ―
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