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第1章 異世界に迷い込んだ男

第10話 レイのポーション

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 商業ギルドの厳かなる壁の内側で、ギルドカードの発行手続きと貴重なポーションの材料の購入が行われた。心躍るような興奮と緊張感が私の胸を埋めつくし、ギルドを後にすると、手にした買い物リストを取り出して、次の目的地へと歩き出した。

 街の喧騒が鳴り響く中、私は周囲の人々とすれ違いながら、新たな買い物の舞台へと身を投じるのだった。

(後は、鍋と火起こしの道具だな。)

 鍋は、道具屋にて大鍋を入手した。しかしながら、火を起こすための道具が課題であった。もし魔道具店になければ、自ら作り上げるしかないのだろう…。

 魔道具店に到着する。

「申し訳ありませんが、鍋に直接火をあてるような魔道具はございませんか?」

「なんだって?鍋だろ?普通に竈(かまど)で炊くだけじゃダメなんか?そんな奇妙な道具は売ってねぇよ。」

(やはりそうか……私はIHや、ガスコンロのような魔道具を思い描いていたが、この世界はまだ竈が主流なのだろう。しばらくは竈を使うしかないが、自作して作ってもいいかも知れない。設計の概要は、おおよそ頭に浮かんでいる。あとは『あの人』次第だな…。)

 私は、『あの人』がいる露店街へと足を運ぶことにした。

◇  素材屋 ◇

「おう!兄ちゃん、また来たな。何か用かい?」

 店主のメサが笑顔で声をかけてくる。

「やあ、メサ!耐熱性のある金属は扱っているかい?」

「あたりめーよ!少し高くつくけどな。ガハハ!アルガステンって金属だ。加工もできるぜぇ。」

 私は、ガスコンロの代わりに、火の魔法陣による魔力付与で火を起こす道具のアイデアを思いついていた。当然のことながら、エネルギー源は魔石である。

 私は、メサに道具の構造と仕組みを丁寧に説明して、商品開発の交渉をした。

「兄ちゃん、随分と奇妙な道具を考えつくんだなぁ。いいぜぇ、面白そうだ。今日は店閉めて作るから、明日またこいや!魔法陣と魔法付与は誰かに頼みな!」

 メサが提示した費用は、初回の開発費として製作費に銀貨3枚、材料費に銀貨1枚だった。

【魔コンロの開発費】
 
製作費:銀貨3枚
材料費:銀貨1枚
 
合計金額 銀貨4枚 

 メサは、たった銀貨4枚で開発が済むのか!?日本の企業の視点で開発費を算出すれば、こんなわずかな額では済まないだろうが…。しかし、メサがそれで十分だと言うなら、仕方がないか…。

 挨拶を交わした後、私は家に帰る。今からポーションを作らなければならない。

 ミルモル邸に到着すると、リヨンさんに竈を借りてポーションを作るための許可をお願いする。

「レイ様、竈を使用しても構わないとのことでございます。私もお手伝いいたしますので、どうぞご指示くださいませ!」

「リヨンさん、ありがとうございます。よろしくお願いします。」

 二つの竈があるため、ポーションと魔ポーションを同時に製作することにする。リヨンさんには火起こしをお願いし、大鍋には適量の水を注ぎ、沸騰させる。

 私は薬草、ガボの実、魔留草を必要な量だけそれぞれすり潰し、別々の布袋に入れておく。

 その間に、リヨンさんには魔石をきれいに洗浄してもらう。お湯が沸騰し始めたので、一つ目の鍋には薬草の袋とガボの実の袋を投入する。

 二つ目の鍋には、薬草の袋と魔留草の袋、そして魔石を投入する。これから約15分ほど煮詰める。

 その後、それぞれの成分がお湯にしっかり染み込むまでよく混ぜ合わせる。どうやら両方の鍋で成分がしっかりと溶け込んだようだ。さらに10分ほど待って、アツアツの液体を少し冷ます。

 そろそろ頃合いのようだ。まずはポーションの錬成を始める。書物で得た知識通りに、心を込めて集中し、イメージをしっかりと形にする。ポーションの液体は、一度発光し、そして「ポン!」と小さな音を立てながら、か細い煙を立ち上げていた…。どうやら成功したようだ。

 鑑定スキルによると、『ポーション(高品質)』と表示された!

「やった!大成功だ!」

「レイ様、おめでとうございます!」

 私たちは自然に手を取り合い、喜びに満ちていた。

「次は魔ポーションだ!」

 ポーションと同じく、集中して錬成のイメージを込める。すると、「ポン!」と音が響き、煙が立ち上がった。

『魔ポーション(高品質)』と表示され、こちらも無事に完成した。

 先日購入した10本の小瓶を準備し、5本ずつ手分けして液体を移し替えた。

 しかし、小瓶が足りなくて困った…。ポーションも魔ポーションも鍋の中に大量に残ってしまったからだ。品質が落ちる前に売らなければ…。

 仕方なく、液体ごと鍋をカバンに入れた。カバンは時間停止の効果があるから、中身は劣化しないはずだ。余ったポーションに関しては、保存に関する懸念は解消されたのであった。

 高品質なポーションには、高品質な容器が必要だ。リヨンさんに頼んで、ポーションの小瓶を作る『ガスト工房』と『ゲーツ工房』を目指した。

 馬車はまずガスト工房で停止した。「リヨンさん、馬車を見張っててくださいね」と言って私は中に入った。

 工房内は活気に満ちていた。瓶の型を作る者や焼きを担当する者、仕上げをする者など、それぞれの役割を持って忙しく働いていた。私は店主らしき男性に声をかけた。

「こんにちは!商業ギルドの方から話を伺い、小瓶の卸し先を探しています。実際に使ってみて確認したいのですが…。」

「おお、待ってな。ちょっと見せてやるよ。」

「ほら、これだ。どうだい?完成までのスピードも品質も、当工房は王都でも一番だと自負しているんだ。」

 美しい仕上がりで問題がないと判断する。鑑定スキルでも『良質』とほぼ満足の出来栄えだ。

「お値段と販売可能数、納品までの期間を教えていただけますか。」

「1本あたり銅貨7枚頂くよ。他の商人との取引もあるから、最大でも40本までなら卸せるよ。納品は2日以内にできるよ。」

「なるほど、了解しました。検討いたします。お忙しいところありがとうございました。」

 なかなか好感触だ。とりあえず保留にしておくことにしよう。

 もう一軒はゲーツ工房だ。

 建物や作業場は古びていたが、落ち着いた雰囲気が漂っていた。中年くらいの店主が一人で切り盛りしていた。

「こんにちは!商業ギルドの方で話を伺い、卸している小瓶を見せていただきたいのですが…。」

「よく来たな。これが当店の瓶だ。」

 こちらも非常に美しい。『高品質』と鑑定スキルが示した。ガスト工房も素晴らしい工房だが、ゲーツ工房はまさに職人の気質が溢れていた。

(どちらも優れた店だ…。しかし、私はポーションにも高品質を求めているから、瓶も上質な素材を使って、より長期間劣化しない商品を提供したいと思っている。)

 結局は…ゲーツ工房にお願いすることに決めた。

「ゲーツさん、これからそちらでポーション小瓶の製作をお願いできますか?」

「そうか。いいだろう。」

「とりあえず、今ある分を全部購入したいのですが…。」

「今、30本出せる。」

 ポーション小瓶(1本につき銅貨5枚)を30本購入することになり、銀貨1枚と大銅貨5枚を支払った。そして、次回の製作もお願いした後、工房を後にした。

 馬車で待機しているリヨンさんに、すべて上手く行ったことを伝えて帰宅することにした。

 ミルモル邸に到着した。「リヨンさん、今日はありがとうございます!」と言って私は馬車から降りた。

「レイ様。これは使用人の仕事ですから、どうぞお部屋でお寛ぎ下さいませ。」

「リヨンさん、いいんですよ。リヨンさんにも馬にもとてもお世話になったので、これくらいはさせて下さい。」

 私は、リヨンさんに手入れの仕方を教えてもらいながら、馬の毛づくろいを手伝った。

「レイ様、ありがとうございます!」

「そうだ、リヨンさん。次は乗馬のレッスンをお願いしてもいいですか?旅に出るときには乗馬が必要になるかもしれませんので。」

「かしこまりました。おまかせください!」

 馬の手入れが終わり、馬舎を後にして部屋に戻ってきた。今度は商品の仕上げだ。先ほど、ゲーツさんから購入した高品質の小瓶を机に並べた。その小さな瓶は30本もあり、どれも見事な出来栄えだった。次に、鍋ごとカバンに保管していた高品質なポーションと魔ポーションを取り出した。

 それぞれ15本ずつの瓶に移し替えて栓をする。最後に、タイゲンカバンの特殊な効果を使って、ポーション容器内のエア抜きする。これで万全の状態だ…。

 明日はついに商売開始だ。期待に胸を膨らませた私は、興奮してなかなか寝付けない夜を過ごしたのであった…。

― to be continued ―
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