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第1章 異世界に迷い込んだ男

第7話 王都の街で

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 王城からミリモル邸に戻った私は、街の様子を観察するために散策することを決意した。ミリモルさんからは、必要になるであろうとのことで銀貨三枚を授かった。異世界の街を訪れるのは、今回が初めての経験であり、自然に興奮と緊張が高まっている。

 私は、最初に商業地区へ向かおうと思った。商人としての知識や技術を身につけるためである。この世界ではどんな商品が売られているのだろうか?どんな価格設定がされているのだろうか?どんな交渉術が必要なのだろうか?そんなことを考えながら、タイゲンカバンを持って部屋を出た。

 すると、メイドのリヨンさんが声を掛けてきた。

「レイ様、今からお出かけですか?」

「はい、商業地区に行く予定です。」

「えっ…と、まさか徒歩で行かれるおつもりですか?」

「ええ、そのつもりですが…。」

「しかし、徒歩だと一時間近くかかってしまいますよ。もしよろしければ馬車を手配いたしましょうか?お待ちいただけますか?」

 リヨンさんは優しく微笑んだ。彼女はメイドとして、私に対して常に丁寧で親切だった。

「リヨンさん、ありがとうございます。では、お願いします。」

 ――――
 
 馬車に乗って商業地区へ向かった私は、目を輝かせていた。馬車の窓から見える景色は、私にとって新鮮で興味深いものだった。貴族特区と一般居住区の間には壁があり、通行証がなければ通過できないとリヨンさんが教えてくれた。私はリヨンさんから渡された通行証を大事にしまっておいた。

 商業地区に着き、馬車から降りると、私はリヨンさんにお礼を伝える。リヨンさんからは、帰還の際に乗合馬車を利用するようにと説明を頂いた。私は頷いて、一人で歩き出した。

 商業地区は活気に満ちていた。店舗街と露店街があり、様々な商品が並んでいる。私はまず店舗街から見て回ることにした。道具屋や武器屋や防具屋や魔道具屋など、さまざまなジャンルの店があった。私は片眼鏡の『鑑定スキル』を使って、品物の価値や相場を確認した。しかし、どの店も値段の割に質の低い品ばかりだった。

(この国では錬成師や鍛冶師や魔道具師などの技術者が少なくて、質の高い商品が入手しにくいらしい。それならば、自分で作れるようになれば儲けられるかもしれないな…)

 私はポーションの製法を知りたくて、道具屋の店主に尋ねた。すると、王立図書館に行けば書物から製法を探せるかもしれないと教えてくれた。

(王立図書館か…そこなら色々な知識が得られそうだな。今度行ってみよう)

 情報へのお礼として、ポーション用の空瓶を10本購入した。タイゲンカバンに入れようとした瞬間、ポーションの瓶がカバンの中に吸い込まれてしまった…。

(ん!?これは…)

 驚いてカバンを開けてみると、中身は空っぽだった。しかし、視界にアイテムリストが表示されており、その中に『ポーションの空瓶』と書かれた項目があった。

(このカバンは異次元空間と繋がっているんだ…すごい!)

 私はアイテムリストからポーションを取り出してみた。すると、光の粒子が集まってポーションが現れた。

(これは便利だな。カバンの容量を気にしなくてもいいし、必要な時にすぐに取り出せるのはいいな…)

 私はカバンの仕組みに感動した。伝説級と言われるアイテムの能力は伊達ではないようだ。

 カバンを閉じると、アイテムリストも消えた。私は再び歩き出した。

 次に武器屋と防具屋に立ち寄った。私は戦闘力が低いので、武器や防具が必要だと思っていた。しかし、店内の品物はどれも異常に重く感じてしまい、とても使いこなせそうになかった。更には、鑑定スキルで品物をチェックしたが、価値のある品は見当たらなかった。今回は購入を見送り、店を後にした。

 最後に魔道具屋に行った。魔道具屋は、魔法付与アイテムや魔石を利用した道具を扱っていた。私は魔法に興味があったので、店内の品物をじっくりと見て回った。店主に質問すると、色々な知識を教えてくれた。この世界の魔法は自然界に存在するエネルギーであり、それを操作する方法の一つに、魔法陣があるということだった。

(魔法陣か…それならば、自分でも使えるようになれるかもしれないな…)

 私は商品の中から懐魔光というアイテムを購入した。これは光の付与魔法が施された小さな筒で、魔石から魔力を供給することで発光する仕組みだった。暗闇で役立ちそうなアイテムだった。

 様々なお店を巡り、そろそろお腹が空いてきたので、昼食を取ろうと思った。

 商業地区には飲食店が多く並んでおり、どこに入るべきか悩んでしまう。この世界の料理は、まだまだ未知なものが多い。偶然、マルポーの料理を扱っていると看板が掲げられていたのを目撃し、無難な選択として美味しかったマルポーの料理屋に入ることにした。

 店主のおすすめでマルポー飯を注文した。マルポー飯は豚肉のようなマルポーの肉が甘辛いタレで炒められてお米の上に乗っている料理だった。日本ではチャーシュー丼と呼ばれるものだろうか。

 ご飯と一緒に肉を一口食べると、マルポーの肉の旨味とタレの甘みが口の中に広がった。

 「これは美味しい!」私は思わず声を上げてしまった。

 この異世界の料理は本当に美味しい。私は幸せな気持ちでマルポー飯を完食した。

(この世界の料理は日本の料理と似ているものもあるけど、味付けは結構違うんだよな。私はどちらも好きだけど、やはり日本食が恋しいな…)

 私は銅貨三枚を支払って店を出た。まだ時間に余裕があるので、露店街に行ってみることにした。

 人間や亜人種の商人たちが賑やかに声を張り上げている。一部の店では、ガラクタが混じっているお店もあって、思わず笑ってしまう。品質の低い店舗が意外に多いが、それもまたこの露店街の魅力なのかもしれない。

 この異世界の街並みや通行人、商品を眺めながら歩いていくと、気分が高揚してくる。露店街は、一般の店舗とは一味違う雰囲気が漂っている。そして、この露店街には、私の好奇心を刺激するものがたくさんあった。

 しばらく歩いていると、『素材屋』と書かれた看板に目が留まった。そこには、小柄な男性が店を営んでいた。地面に布を広げ、その上に商品が並べられていた。そこには、鉄板や銅板、ガラス鏡板やガラス板、そして魔石(大・中・小)など、様々な素材が並んでいた。

「こんにちは!こちらの素材を加工していただくことはできますか?」

「あたりめーよ!おれっちは、ドワーフだぜぇ。加工はお手の物よ。ちぃーと費用は頂くがな。ガハハッ!」

 彼はドワーフ族の男性だった。身長は約150cmほどだが、その小柄な体躯からは逞しさがにじみ出ている。長く伸ばした髭やたくましい筋肉は、彼の年齢を推し量ることを困難にしている。

「私はサカモト・レイと言います。今度お願いすることがあるかもしれませんが、その際はよろしくお願いします。」

「ああ、任せな!おれっちは、メサだぜぇ。また来な。ガハハッ!」

 彼は笑顔で私に手を振り、元気よく言った。メサさんの技術の優れ具合は未知数だが、何か新たな発明に取り組む際には彼の助力を得ることもあるかもしれないな。

 メサさんと別れてからも露店街を散策したが、特に目ぼしいものは見つからなかった。最後に王立図書館での調査を終えて帰ろうと思う。

 王立図書館の場所を尋ねると、商業地区ではなく貴族特区の少し手前に位置しているとのことで、乗合馬車を利用して移動することにした。

 この異世界では、乗合馬車はまさにバスのような存在だろう。非常に便利な乗り物だと感じる。私以外の利用客はいなかったため、まさに貸切状態で貴族特区の入口まで移動した。利用者が少ないのは、一般の人々にとっては運賃が高いからかもしれないと思った。

 乗合馬車の停留所で降り、そこからは徒歩で目的地へ向かった。

 目の前に現れたのは、王立図書館だった。初めて訪れる異世界の図書館に、抑えきれない好奇心が溢れ出すのを感じた。

―――― to be continued ――――
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