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第5章 『水の国』教官編

第153話 怪獣大決戦……特等席だけど、俺達死なないよね

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「では、行きますよ」
「ふん、今回も叩きのめしてくれるわ!」

   ガウレッドさんとセリスさんはドームの中央に行くと、突然その姿を変える。
   ガウレッドさんは巨大な黒いドラゴンの姿に、セリスさんはガウレッドさんの体長を上回るくらい長く白い龍の姿に。二人とも心なしか口元が楽しげに歪んでいる。

「うっわっ……」

   その圧倒的な迫力に言葉を失っていると、俺の肩でリアがケラケラと笑う。

「相変わらず、二人とも本性は迫力あるねぇ」

   3Dムービーでも見てるかのような呑気さのリアに、俺は視線を二人から離さずに口を開いた。

「セリスさんは普段は人の姿なんですか?」
「うん、そうだよ。セリスは地元の大陸では神として崇められているから、見た者を怖がらせる本来の姿になるのを自粛してるんだ」

   そうリアと何気無い会話をしている間に、ガウレッドさんがあんぐりと口を開きその口内を黒い閃光で光らせる。

「ヤバッ!」
「んっ!」

   そのエネルギー量に、余波だけでも身の危険を感じた俺とティアは素早く結界魔法を発動させようとしたが、リアがそれを制する。

「無駄無駄、そんなちゃちな魔法で止められる程、あの二人の攻撃は安くないって」
「それって、ここに居る時点で詰んじゃうじゃないですか!」
「だ、か、ら、二人の攻撃を止めるんなら、この位やらないと……六元素複合絶対防御魔法壁!」

   リアの魔法の発動とともに、淡く虹色に光るドーム型の壁が俺達を覆う。それは、光、闇、火、水、風、土の六種の力を感じる、本来なら相反する筈の力同士が混ざり合ったあり得ない結界。

「……なんすか、これ……」
「今、この世界にある結界魔法の中では、最強だと私は自負してるけど」

   その魔法の規格外さに唖然としながら聞くと、リアは得意げに胸を張る。

「ええと……魔法は全部神級にしてますけど、こんな魔法、覚える素ぶりは全く無いんですけど……」
「アッハハハハハ、全部神級にしても無理無理。これを使うには【反魔法合成】を始めとした複数のスキルが必要だから」

   【反魔法合成】?   聞いたことない……

(アユム?)
[私のデータでも、【反魔法合成】というスキルは確認出来ませんでした]

   ガウレッドさんが放ったブレスの余波をその熱ごとリアの結界が完全に防ぐ中、アユムに聞いてみたがご覧の回答。
   う~ん、やっぱり見た目弱そうでも超越者は一筋縄ではいかないらしい……強気に出なくて良かった。

「もしかして、リアもガウレッドさん達と対等に戦える?」

   俺の素朴な質問に、リアは驚いた表情で俺の方に振り向く。

「私がアレに!」

   リアが指差す先ではガウレッドさんに巻き付き、噛み付こうと顎門を開くセリスさんと、両手でその頭を掴んで必死に抵抗するガウレッドさんの姿。
   そちらに一瞬目をやり、再び視線をリアに戻してコクリと頷くと、リアは凄まじい勢いで首を左右に振る。

「無理無理無理無理!   私があの二人と敵対したら、挑発して頭に血を登らせて罠に嵌るくらいしか出来ないよ」

   ああ……正面切っては出来なくても一応、戦う手段は有るんだ……
   『あんな、戦闘特化した連中と一緒にしないで』と憤るリアから視線を離し、再びガウレッドさん達の方に視線を向ける。ガウレッドさんが巻き付かれたまま壁に突進して、セリスさんの後頭部を壁に叩きつけてその束縛から逃れているところだった。
   二人が壁に激突した衝撃で辺りに振動が伝わる中、俺は再び口を開く。

「ところであの二人、何で仲が悪いの」
「う~ん、仲が悪いってわけじゃないと思うけどね。事の始まりは縄張り争いだったみたい」

   ガウレッドさんがセリスさんの横っ面を殴りつけ、セリスさんが尻尾でガウレッドさんの横っ面を殴り返す様子を、『行け行けぇ!』と手を振り上げて応援しながらリアが答える。ティアも足元で両手を力一杯握り締めて、目を輝かせながら見ている。その姿はさながら怪獣映画を見る子供のようだ。
   確かに興奮する見世物だが、それよりもリアの言葉が気になり俺は話を続けた。

「縄張り争い?」
「うん。この世界にあった大陸が四つに割れた時に、一番大きな大陸をどちらの縄張りにするかで、あの二人は争いを始めたみたい。もっとも口ぶりからすると、その前から何度も戦ってたみたいだけどね、あの二人」

   あっ、ガウレッドさん尻尾で足を払われて転んだ。その様子に興奮してリアの話が中断する。
   転んだガウレッドさんに、セリスさんが光り輝く雷を纏ったブレスを吐く。ガウレッドさんはそのブレスを鬱陶しそうに手で払いながら、翼と尻尾の反動を使って器用に飛び跳ねる様に立ち上がる。
   立ち上がったところで、ガウレッドさんの顔にセリスさんがカウンター気味に頭突きを喰らわせるが、顔を跳ね上げながらガウレッドさんがアッパーをセリスさんの顎に叩きつける。

「で、その勝負にはセリスが勝って一番大きな大陸はセリスが、二番目に大きなこの大陸がガウレッドの縄張りになったみたい。でも、負けた事をガウレッドが認めなかったらしいんだよね。それからは、こうやって百年毎に戦う様になったんだよ」

   いつの間にかその戦いから目が離せなくなった俺の顔の横で、リアが話の続きを話し始めた。

「……それで、ずっと戦い続けて、よくどちらかが死ぬ様な事になりませんね」

   二人の戦いは本気にしか見えない。いくら力が肉薄していてもいや、肉薄してるからこそ、手加減なんか出来ないと思うけど……

「殺す?   そんな事出来るわけないじゃい」

   リアから帰ってきた意外な返答に、思わず俺は彼女の方に視線を向けた。

「あの二人に……肉弾戦で並べる者は他には居ない。つまり、どちらかが死ねば、残った方はこの先一生本気で戦える相手を失う事になるんだよ。二人にとっては、それは何物にも変えられない損失なんじゃないかな」
「……それって、結局本気で戦ってないんじゃ……」
「ううん、本気は本気の筈だよ。じゃないと、私の最強結界がこんなに軋むわけないもん」

   確かにこの結界、偶に異様に振動している。リアが平然としてるから大丈夫だと思うんだけど……

「でも、本気で戦ってるとしたらどうやって殺さない様に……」

   そこまで口に出して、セリスさんが噛みやすい首ではなく肩口に噛み付いているのを見て俺は気付いた。

「ああ!   急所は意図的に外してるんだ!」
「気付いた?   そういう事。生命力の強い二人なら、本気の一撃でも急所に当てなければ死なないんだよ。もっとも、意図的じゃなくて無意識なんだろうけどね」

   結局、窮屈な戦い方をしている二人。でも、そんな二人はとても楽しそうで……

「本当にあの二人、啀み合ってるのかな?」
「さぁ?少なくても二人に聞いたら、お互いに嫌いだと答えると思うけど」

   何とも不器用な付き合いをしている二人の戦いを、俺は苦笑いを浮かべながら見続けていた。
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