上 下
155 / 172
第5章 『水の国』教官編

第151話 そして来る地獄……光明が見えません。

しおりを挟む
   
   
   
   ガウレッドさんとの楽しいお遊戯が始まって三日が経つ。
   ここにいると太陽や月が見えないから昼夜の区別がつかず時間感覚がおかしくなるが、【ワールドクロック】のお陰で何とか時間の流れを理解出来ている。
   さて、この三日間の活動内容だが、初日、ティアとともにガウレッドさんに我武者羅に攻め込むも、一歩も動かずに棒立ちのガウレッドさんが無造作に払う腕に阻まれ、こちらの攻撃は全く当たらなかった。その上、例によってティアには優しく、俺には鬱陶しい蝿を払うかのような追撃が加えられ、夕方にはボロボロに……
   ガウレッドさんの腕の動きは目で追えている。何故こちらの攻撃が当たらないのか、どうしてガウレッドさんの攻撃が避けられないのか、検討もつかない。
   そのまま夜を迎え、赤いドラゴン(火竜だそうだ)の作ってくれた夕食をいただき、そのまま地面に倒れ込むように就寝。火竜の作ってくれた料理は確かに、不味くはないが美味いとも言えない肉料理だった。
   二日目、朝起きて初日の感想が夕食の微妙さだけなのに気付く。このままでは本当に死んでしまうと、この日はガウレッドさんに攻撃を加えつつ、追撃を避ける事を重点に置いて戦ってみた。
   結果、ガウレッドさんの腕の振りの初動が、俺の反応速度をはるかに上回る早さなのに気付く。ガウレッドさんは俺が反応出来ないスピードで腕を振り始め、防御が間に合わない間合いで速度を緩めるという攻撃を行ってた。
   俺が見えていると思っていたのは、既に防御が間に合わない範囲の動きだったんだ。防御は勿論、避けられないのは無理もない話である。
   それに気付き、午後からはティアとの連携を密にしてガウレッドさんの反応速度に対抗してみたが、ガウレッドさんは連携で初動が遅れた分、腕の振りの速度を上げてきた。どうやらガウレッドさんはまだまだ本気の域ではないらしい。
   ガウレッドさん酷い、最初っから俺達じゃ対応出来ない動きをしていたんだ。と、寝る前にボロボロになった身体にエクストラヒールを掛けながらティア相手に愚痴をこぼしてみたら、ティアから『ん~もうちょと頑張れば何とかなる?』という、疑問文的な回答を小首を傾げられながらいただいた。何とも心強い事だ……
   ちなみにここにいる間、朝と夕、二食食事が出るがどれも肉料理。朝は煮て、夜は焼く。不味くはない、不味くはないのだが、今日の夕食の時点で肉料理大好きのティアが微妙な顔をし始めた。
   そして三日目の朝、起きたら隣で丸くなって寝てた筈のティアが居ない。暫く待ってみると、奥に通じる通路から自分の身体が隠れる程の大皿に大量の肉料理を乗せたティアが登場。その姿に唖然としていると、いつの間にか隣にナイフとフォーク持参でガウレッドさんが座っていた。
   肉料理は唐辛子を主とした甘辛いタレが味付けになっており、辛味と肉本来の味がマッチしてとても美味しかった。ガウレッドさんも顔をほころばせて食べていたけど、これでこの後の戦闘で手心を加えてくれるということは、無いんだろうなぁ……
   その日の午前中……

[解析した結果、ガウレッドの攻撃及び防御はには、無駄な動きは一切認められませんでした]

   何とか隙を突けないかとアユムにも協力を願ったが、結果は今の通り。どうやら、ガウレッドさんの一見無造作に見える動きは、腕を最短距離で振るっている事で生まれた動きの様だ。構えていないから、ただ腕を振るってるだけに見えるが、最短距離で腕を振るい、更に戦闘不能にならない程度に力加減をしているとても洗練された動きだったらしい。

(うっわ……なんかこの先、絶望感しか感じられないや)
《勝とうと思うから絶望しか感じられないんだよ、マスター。先ずは一撃入れる事だけ考えれば?》
(いやいや、元々勝とうなんて思ってないよ。ただ、生き残ろうと必死なだけ)
《それはそれで、なんか情けない様な気がするけど……取り敢えずこのままダラダラと戦っても意味は無いんじゃない?》
(確かに、目標ぐらいはあった方が良いか。よし、先ずはニアの言う通り一発入れる事を目標にして、集中しよう。じゃないと、いつか心が折れて立ち直れなくなりそうだ)

   目標設定が低い気がするけど相手はガウレッドさん、仕方がないよね……
   そんな事を思いつつガウレッドさんの背後に回り込み隙を窺っていると……

   バシッ!

「おおっ!」

   撫でようとティアの頭に伸ばされたガウレッドさんの腕が、ティアによって払い除けられる。驚きの表情を浮かべるガウレッドさんに、ティアがすかさず一歩踏み出しながら腹部に拳を放つ。それに合わせて俺が後方上空から側頭部に回し蹴りを繰り出してみたが、ガウレッドさんはそれを空間移動でティアの背後に移動して躱す。

「クッカッカッカッ、ついに動かされたか」

   愉快げに笑うガウレッドさんを尻目に、俺は驚きの視線を躱されて残念がっているティアへと向ける。

「よくガウレッドさんの撫で撫で攻撃に反応出来たな」
「ん、身体が勝手に動いた」

   どうしたのか本人もよく分かってないのか、ティアはガウレッドさんの腕を払い除けた自分の右手を不思議そうに見つめながら小首を傾げていた。
   秘訣を聞こうかと思ったが、どうやら無理らしい。

「博貴、今ティアがやった事を聞こうとしても無駄だ」

   そんな俺の心中を読んだのかの様な言葉に、俺はガウレッドさんの方へと視線を向ける。すると、ガウレッドさんはニヤニヤと俺を見据えていた。

「今のティアの防御はティア自身、自覚がねぇよ。無意識に身体が反応したんだ、反射というやつだな。攻撃にしても防御にしても考えすぎるお前には無理な芸当だ」
「うぐっ……確かに俺は思考から入りますけど……」

   先ずは頭で考えてから行動する癖が付いている事を自覚させられ渋面を作っていると、ガウレッドさんがそんな俺を見ながら片眉を上げる。

「絶えず戦いに身を置いていれば、考えずとも効果的な動きを身体が勝手にしてくれるものだ。それが出来ないのは単純に実践が足りねぇんだよ」
「それは、実力行使を最後の手段にしている俺への当てつけですか」
「弱肉強食のこの世界で、その考えはどうかと思うが……」

   説教とも訓示とも取れる言葉を途中で止めたガウレッドさんは、厳しい目付きになり、不意に外への出入り口の方へと視線を向けた。
   ん?   誰か居るのか?
   ガウレッドさんに集中するために使ってなかった【忍ぶ者】の【気配察知】を発動させてみるが、通路の方に気配は感じられない……
   不思議に思っていると、隣にいたティアが突然身構えた。

「何か……来る」
「来るって、何が……」

   【気配察知】には相変わらず反応が無いのに、妙な警戒心を露わにするガウレッドさんとティア。一人理解が出来ずに首を傾げていると、アユムからの警告が飛んでくる。

[マスター!【空間掌握】に反応があります!]

   【空間掌握】!   通路を来るんじゃなくて、時空間転移か!
   
   
   
   
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

寝込みを襲われて、快楽堕ち♡

すももゆず
BL
R18短編です。 とある夜に目を覚ましたら、寝込みを襲われていた。 2022.10.2 追記 完結の予定でしたが、続きができたので公開しました。たくさん読んでいただいてありがとうございます。 更新頻度は遅めですが、もう少し続けられそうなので連載中のままにさせていただきます。 ※pixiv、ムーンライトノベルズ(1話のみ)でも公開中。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

英霊召喚 ~ハズレと呼ばれた召喚魔法で、過去の大賢者を召喚して史上最強~

向原 行人
ファンタジー
適性クラスが最弱と呼ばれる召喚士だと判定されてしまった俺は、今まで騎士になるために努力してきたが、突然魔法の勉強をさせられる事に。 魔法の事なんて全然知らないけれど、とりあえず召喚魔法とやらを使ってみると、あろう事かゴーストが召喚されてしまった。 しかし、全く使えないと思っていたのだが、実はそのゴーストが大昔に大賢者と呼ばれて居たらしく、こっそり魔法の知識を授けてくれる。 ……って、ちょっと待った。やけに強力過ぎる……って、これ魔導書で紹介されてるロスト・マジックじゃねーかっ!

異世界に飛ばされたおっさんは何処へ行く?

シ・ガレット
ファンタジー
おっさんが異世界を満喫する、ほのぼの冒険ファンタジー、開幕! 気づくと、異世界に飛ばされていたおっさん・タクマ(35歳)。その世界を管理する女神によると、もう地球には帰れないとのこと……。しかし、諦めのいい彼は運命を受け入れ、異世界で生きることを決意。女神により付与された、地球の商品を購入できる能力「異世界商店」で、バイクを買ったり、キャンプ道具を揃えたり、気ままな異世界ライフを謳歌する! 懐いてくれた子狼のヴァイス、愛くるしい孤児たち、そんな可愛い存在たちに囲まれて、おっさんは今日も何処へ行く? 2017/12/14 コミカライズ公開となりました!作画のひらぶき先生はしっかりとした描写力に定評のある方なので、また違った世界を見せてくれるものと信じております。 2021年1月 小説10巻&漫画6巻発売 皆様のお陰で、累計(電子込み)55万部突破!! 是非、小説、コミカライズ共々「異世界おっさん」をよろしくお願い致します。 ※感想はいつでも受付ていますが、初めて読む方は感想は見ない方が良いと思います。ネタバレを隠していないので^^;

処理中です...