上 下
149 / 172
第5章 『水の国』教官編

第145話 【超越者】……他の人達はいつ来るんでしょ

しおりを挟む
   
   
   
   
「ひろちゃん!   一体、どういう事なの!」

   アクアガーデンの門の前で凄い迫力で仁王立ちしていたかなねぇは、戻ってきた俺の姿を見つけるなり凄まじい勢いで近付いてきた。

「ちょっと、かなねぇ。どういう事って何のことだよ」
「『火の国』の事よ!」

   俺の肩を掴みブンブンと激しく前後に振るかなねぇに目を丸くすると、かなねぇは烈火の如く返答を返す。

「あー……アレね」

   ガウレッドさんの件は忍さんにもかなり突っ込まれたっけ……

「そう言えば結局、博貴君と超魔竜の関係は『風の国』の軍勢が来て有耶無耶になっていたな」

   かなねぇの勢いに乗っかり、隣にいた忍さんも話をぶり返し始めた。

「『火の国』が軍を火竜山辺りまで進めたら、多くのドラゴンを従えた超魔竜が出現。超魔竜のブレス一発で『火の国』の四万の軍勢はその三割が壊滅し、残りは逃げ帰ったって話よ!   このシナリオを書いたのはひろちゃんよね!   一体、何をどうすれば超魔竜を動かせるのよ!」

   更に興奮しながら俺を揺さぶり続けるかなねぇは取り敢えず無視して、俺はガウレッドさんの仕事ぶりに思わず顔を引きつらせる。

「ブレス一発で一万以上の被害……あのおっちゃん容赦ねぇな……」

   追い返してくれとは言ったけど、まさかそんな事になってるとは……
   自分で計画した事ながら、その想像以上の被害に冷や汗が出始めた俺に、かなねぇと忍さんがギョッと目を見開く。

「……おっちゃん?   ……まさか、超魔竜のこと?」
「おいおい、博貴君。超魔竜をおっちゃん呼ばわりする程の仲なのかい?   私はてっきりよっぽどの犠牲を払って超魔竜を動かしたものと思っていたのだが」

   揺さぶるのを止め真顔で凝視してくるかなねぇと、その脇から同じく凝視する忍さん。二人とも驚きでこれ以上ないくらい目を見開いている。

「あ……うん、まぁ……おっちゃん呼ばわりするのはティアなんだけどね……俺には流石に正面切ってそう呼ぶ度胸は無いわ……」
「ティアちゃんが?   一体どういう事なの?」
「忍さんの前ではちょっとね……」

   更に食い下がるかなねぇの耳元で小さく囁くと、かなねぇはハッとなりながらコクリと頷いた。

「何だい?   私には内緒のことかい?」
「調停者が信頼できるのなら話しても良いんですけどね」

   俺がかなねぇの耳元で何か言ったのに気付いた忍さんがあからさまに渋面を作るが、俺がキッパリと調停者を信用しきれてない事を告げると、忍さんはニヤッと笑ってみせた。

「確かに、まだ付き合いも短いのに信用しろって言っても無理な話だよな」
「そうですよ。調停者のリーダーがどの様な人間なのかも分からないのに、調停者を信用出来るはずはありません」
「違いない。分かった、その辺の事は花凛に報告しとこう。取り敢えずは私との親交を深めるために、今日は宿で飲もうじゃないか。宿に戻ったら私の部屋に顔を出してくれ」
「……今日はって、ほぼ毎日アルコールはついてたじゃないですか!」

   強引に今夜飲む事を確約した忍さんは、俺の叫びに笑って手を振りながら答えつつ、それでも大人しく引き下がるように宿へと足を進めていく。
   深追いはしないけど、飲むのは反故にしないのね……
   そんな忍さんを見送っていると、隣にいたかなねぇが大きな溜息を吐きながら顔を手で覆った。

「どうしたのかなねぇ」
「どうしたのじゃないわよ。さっきの話、花凛に報告しとくって事は、下手をしたら今度は調停者の代表、西条花凛がひろちゃんの前に現れるわよ……」
「えっ?   調停者のリーダーって、そんなにフットワークが軽いの?」
「あいつはそれが必要な事だと思ったら、何処にでも現れるの。加藤忍がひろちゃんをどうしても調停者に入れたいと報告すれば、西条花凛は間違いなくひろちゃんの下に足を運ぶわ」
「俺を……ねぇ……」

   俺にはとんでもない爆弾がついてるんだけどな……
   ガウレッドさんは言った。新たに生まれた超越者である俺達の下には、近いうちにほかの超越者たちが様子を見に来ると。
   ガウレッドさんはまだ友好的(友好的だったよな?)だったから良かったけど、俺やティアが気に入らないって超越者が来た場合、周りに尋常じゃない被害が出るかもしれないんだけどな。
   もし、健一達と一緒の時に現れたら時空間転移で被害が健一達に出ないようにするつもりだけど、他の人が一緒だったら?
   多分、その人達を巻き込んで自分が少しでも生き残る可能性を模索するだろう。それでも、ガウレッドさんの様な人が本気で殺しにきたら生存確率は限りなくゼロだろうけど……
   ああ……みんな友好的なら良いなぁ……

   ⇒⇒⇒⇒⇒

「それで、一体何処で超魔竜と知り合ったの?」

   冒険者ギルドのギルドマスターの部屋。本来のこの部屋の主人である響子さんまで追い出して、かなねぇは椅子に座って机に両肘を置き、指を組んで俺を見据える。

「かなねぇ、俺の進化系スキルって教えたよね」
「【超越者】だっけか……とんでもないスキルだったわよね」
「うん。あの時はとんでもないスキルだとは思ってなかったからあっさり教えたんだけどね」
「ひろちゃんのとんでもないの基準が分からないわ……」

   呆れた様に呟くかなねぇに苦笑いを向けながら俺は話を続ける。

「どうも、超魔竜ーーガウレッドさんは、竜種の【超越者】らしいんだよね」
「……は?」
「それで、【超越者】というのはこの世界の頂点に立つべき生物で、新たに【超越者】となった俺とティアをガウレッドさんは見に来たんだって。それが俺とガウレッドさんが知り合った理由」
「……ちょっと待って!」

   かなねぇは右手のひらを俺に向けながら、渋い顔をして目の間を親指と人差し指で摘む。

「え~と、超魔竜が【超越者】?   で、新人のひろちゃんとティアちゃんも?   見に来たの?」
「そう。ちなみに、ティアはエルフの【超越者】だよ。で、単体で強大な力を得る【超越者】の新人を、先輩【超越者】たちは品定めに来るらしいんだ。その力を不用意に使う様な者なのかどうかをね」
「えっ!   先輩【超越者】達?   超魔竜みたいなのが他にもいるの!?」
「うん、この世界に八人。この大陸だけでも三人いるらしい。俺はまだガウレッドさんとしか会ってないけど、その内みんな会いに来るらしいよ」

   かなねぇは話を聞き終わると『か~』と呻きながら机に突っ伏した。
   その気持ちは分かるよ。当人の俺もそれを考えると寝込みたくなるから、最近は考えない様にしてるもんな。

「……もし、先輩【超越者】がひろちゃんを気に入らなかったら?」

   机から顔を上げ、苦しげな表情でそう聞いてくるかなねぇに、俺はかぶりを振る。

「さぁ?   でも、考えられる最悪の状況は、この世界に悪影響を与える者として、成長する前に粛正……かな」
「超魔竜に匹敵する者が?」
「そうだね。でもまぁ、そうなったらそうなったで色々考えてはいるんだけどね」
「例えば?」
「ティアをガウレッドさんの所に使いに出した時に、ガウレッドさんの居住区に時空間転移のポインターをセットさせてるから、そこに転移してガウレッドさんを巻き込む、とか?」
「それ、超魔竜が仲間の【超越者】に加勢、なんて事にならないでしょうね」
「その可能性はゼロじゃないんだよねぇ。だから、それは最後の手にしたいんだけど」

   戯けながら肩をすくめて見せると、かなねぇは盛大に溜息を吐いた。

「……味方になってくれる【超越者】ばかりなのを祈るしかないか……加勢したいけど、超魔竜レベルが相手では私達勇者でも何の役にも立ちそうにないものね。ちなみに、この大陸にいる残りの【超越者】って何者か分かってるの?」
「何者かまでは分からない。でも、『光の国』と『闇の国』にいるらしいよ」

   俺の言葉にかなねぇは少し考える素ぶりを見せると、やがて何か思い出した様に俺の方に向き直る。

「……『光の国』は分からないけど、『闇の国』の【超越者】には心当たりがあるわね……」
「えっ、マジで!」
「【闇の国】の魔族の王。つまり魔王ね」

   魔王……すっごい怖そうな肩書き……ガウレッドさん、確か『闇の国』の【超越者】は何とかなるだろうって言ってたけど、本当に大丈夫なの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最弱の冒険者と呼ばれてますが、隠してるチート能力でたまには無双します!……と言いたいところだが、面倒だから今日は寝る。お前ら、邪魔するなよ?

ランド
ファンタジー
『最弱の冒険者』の称号をほしいままにしている、リアトリス。 仲間であるジャスミンにいくら誘われようとも、冒険に行かず、レベル上げすらもしようとしない怠惰っぷり。 冒険者の義務なんて知らない。 仕事なんて絶対にしたくない。 薬草採って、ポーション作って売ってのその日暮らしができれば大満足。 そんな舐めた事ばかり考えているリアトリスだが、実はこの世界で最も強力な能力を持つ最強の冒険者。 それも、本気を出せば魔王軍幹部すらも圧倒できるほどの。 だが、リアトリスは意地でも能力を隠そうとする。 理由はいたって単純。 面倒な事には関わりたくないから。 そんなリアトリスが、果たして魔王を倒すことができるのか。 そもそも、冒険の旅に出てくれるのだろうか。 怠惰で最強な冒険者による、異世界奇譚をお楽しみください! ※作品内に一部過激な描写がありますので、投稿ガイドラインに基づき、R15指定としています。 この作品はなろうとカクヨムにも掲載しています(下記URL参照)。また、タイトルの文字数制限の関係で、少々タイトルも変えています。 https://ncode.syosetu.com/n4679gv/ https://kakuyomu.jp/works/16816700428703293805

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

王家を追放されたわけじゃないけど、世直しすることにしました。

克全
ファンタジー
 アリステラ王国の16番目の王子として誕生したアーサーは、性欲以外は賢王の父が、子供たちの生末に悩んでいることを知り、独自で生活基盤を作ろうと幼い頃から努力を重ねてきた。  王子と言う立場を利用し、王家に仕える優秀な魔導師・司教・騎士・忍者から文武両道を学び、遂に元服を迎えて、王国最大最難関のドラゴンダンジョンに挑むことにした。  だがすべての子供を愛する父王は、アーサーに1人でドラゴンダンジョンに挑みたいという願いを決して認めず、アーサーの傅役・近習等を供にすることを条件に、ようやくダンジョン挑戦を認めることになった。  しかも旅先でもアーサーが困らないように、王族や貴族にさえ検察権を行使できる、巡検使と言う役目を与えることにした。  更に王家に仕える手練れの忍者や騎士団の精鋭を、アーサーを護る影供として付けるにまで及んだ。  アーサー自身はそのことに忸怩たる思いはあったものの、先ずは王城から出してもらあうことが先決と考え、仕方なくその条件を受け入れ、ドラゴンダンジョンに挑むことにした。 そして旅の途中で隙を見つけたアーサーは、爺をはじめとする供の者達を巻いて、1人街道を旅するのだった。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。

石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません 俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。 本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。 幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。 そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。 彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。 それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』 今度もまた年上ヒロインです。 セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。 カクヨムにも投稿中です

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...