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第5章 『水の国』教官編
第145話 【超越者】……他の人達はいつ来るんでしょ
しおりを挟む「ひろちゃん! 一体、どういう事なの!」
アクアガーデンの門の前で凄い迫力で仁王立ちしていたかなねぇは、戻ってきた俺の姿を見つけるなり凄まじい勢いで近付いてきた。
「ちょっと、かなねぇ。どういう事って何のことだよ」
「『火の国』の事よ!」
俺の肩を掴みブンブンと激しく前後に振るかなねぇに目を丸くすると、かなねぇは烈火の如く返答を返す。
「あー……アレね」
ガウレッドさんの件は忍さんにもかなり突っ込まれたっけ……
「そう言えば結局、博貴君と超魔竜の関係は『風の国』の軍勢が来て有耶無耶になっていたな」
かなねぇの勢いに乗っかり、隣にいた忍さんも話をぶり返し始めた。
「『火の国』が軍を火竜山辺りまで進めたら、多くのドラゴンを従えた超魔竜が出現。超魔竜のブレス一発で『火の国』の四万の軍勢はその三割が壊滅し、残りは逃げ帰ったって話よ! このシナリオを書いたのはひろちゃんよね! 一体、何をどうすれば超魔竜を動かせるのよ!」
更に興奮しながら俺を揺さぶり続けるかなねぇは取り敢えず無視して、俺はガウレッドさんの仕事ぶりに思わず顔を引きつらせる。
「ブレス一発で一万以上の被害……あのおっちゃん容赦ねぇな……」
追い返してくれとは言ったけど、まさかそんな事になってるとは……
自分で計画した事ながら、その想像以上の被害に冷や汗が出始めた俺に、かなねぇと忍さんがギョッと目を見開く。
「……おっちゃん? ……まさか、超魔竜のこと?」
「おいおい、博貴君。超魔竜をおっちゃん呼ばわりする程の仲なのかい? 私はてっきりよっぽどの犠牲を払って超魔竜を動かしたものと思っていたのだが」
揺さぶるのを止め真顔で凝視してくるかなねぇと、その脇から同じく凝視する忍さん。二人とも驚きでこれ以上ないくらい目を見開いている。
「あ……うん、まぁ……おっちゃん呼ばわりするのはティアなんだけどね……俺には流石に正面切ってそう呼ぶ度胸は無いわ……」
「ティアちゃんが? 一体どういう事なの?」
「忍さんの前ではちょっとね……」
更に食い下がるかなねぇの耳元で小さく囁くと、かなねぇはハッとなりながらコクリと頷いた。
「何だい? 私には内緒のことかい?」
「調停者が信頼できるのなら話しても良いんですけどね」
俺がかなねぇの耳元で何か言ったのに気付いた忍さんがあからさまに渋面を作るが、俺がキッパリと調停者を信用しきれてない事を告げると、忍さんはニヤッと笑ってみせた。
「確かに、まだ付き合いも短いのに信用しろって言っても無理な話だよな」
「そうですよ。調停者のリーダーがどの様な人間なのかも分からないのに、調停者を信用出来るはずはありません」
「違いない。分かった、その辺の事は花凛に報告しとこう。取り敢えずは私との親交を深めるために、今日は宿で飲もうじゃないか。宿に戻ったら私の部屋に顔を出してくれ」
「……今日はって、ほぼ毎日アルコールはついてたじゃないですか!」
強引に今夜飲む事を確約した忍さんは、俺の叫びに笑って手を振りながら答えつつ、それでも大人しく引き下がるように宿へと足を進めていく。
深追いはしないけど、飲むのは反故にしないのね……
そんな忍さんを見送っていると、隣にいたかなねぇが大きな溜息を吐きながら顔を手で覆った。
「どうしたのかなねぇ」
「どうしたのじゃないわよ。さっきの話、花凛に報告しとくって事は、下手をしたら今度は調停者の代表、西条花凛がひろちゃんの前に現れるわよ……」
「えっ? 調停者のリーダーって、そんなにフットワークが軽いの?」
「あいつはそれが必要な事だと思ったら、何処にでも現れるの。加藤忍がひろちゃんをどうしても調停者に入れたいと報告すれば、西条花凛は間違いなくひろちゃんの下に足を運ぶわ」
「俺を……ねぇ……」
俺にはとんでもない爆弾がついてるんだけどな……
ガウレッドさんは言った。新たに生まれた超越者である俺達の下には、近いうちにほかの超越者たちが様子を見に来ると。
ガウレッドさんはまだ友好的(友好的だったよな?)だったから良かったけど、俺やティアが気に入らないって超越者が来た場合、周りに尋常じゃない被害が出るかもしれないんだけどな。
もし、健一達と一緒の時に現れたら時空間転移で被害が健一達に出ないようにするつもりだけど、他の人が一緒だったら?
多分、その人達を巻き込んで自分が少しでも生き残る可能性を模索するだろう。それでも、ガウレッドさんの様な人が本気で殺しにきたら生存確率は限りなくゼロだろうけど……
ああ……みんな友好的なら良いなぁ……
⇒⇒⇒⇒⇒
「それで、一体何処で超魔竜と知り合ったの?」
冒険者ギルドのギルドマスターの部屋。本来のこの部屋の主人である響子さんまで追い出して、かなねぇは椅子に座って机に両肘を置き、指を組んで俺を見据える。
「かなねぇ、俺の進化系スキルって教えたよね」
「【超越者】だっけか……とんでもないスキルだったわよね」
「うん。あの時はとんでもないスキルだとは思ってなかったからあっさり教えたんだけどね」
「ひろちゃんのとんでもないの基準が分からないわ……」
呆れた様に呟くかなねぇに苦笑いを向けながら俺は話を続ける。
「どうも、超魔竜ーーガウレッドさんは、竜種の【超越者】らしいんだよね」
「……は?」
「それで、【超越者】というのはこの世界の頂点に立つべき生物で、新たに【超越者】となった俺とティアをガウレッドさんは見に来たんだって。それが俺とガウレッドさんが知り合った理由」
「……ちょっと待って!」
かなねぇは右手のひらを俺に向けながら、渋い顔をして目の間を親指と人差し指で摘む。
「え~と、超魔竜が【超越者】? で、新人のひろちゃんとティアちゃんも? 見に来たの?」
「そう。ちなみに、ティアはエルフの【超越者】だよ。で、単体で強大な力を得る【超越者】の新人を、先輩【超越者】たちは品定めに来るらしいんだ。その力を不用意に使う様な者なのかどうかをね」
「えっ! 先輩【超越者】達? 超魔竜みたいなのが他にもいるの!?」
「うん、この世界に八人。この大陸だけでも三人いるらしい。俺はまだガウレッドさんとしか会ってないけど、その内みんな会いに来るらしいよ」
かなねぇは話を聞き終わると『か~』と呻きながら机に突っ伏した。
その気持ちは分かるよ。当人の俺もそれを考えると寝込みたくなるから、最近は考えない様にしてるもんな。
「……もし、先輩【超越者】がひろちゃんを気に入らなかったら?」
机から顔を上げ、苦しげな表情でそう聞いてくるかなねぇに、俺はかぶりを振る。
「さぁ? でも、考えられる最悪の状況は、この世界に悪影響を与える者として、成長する前に粛正……かな」
「超魔竜に匹敵する者が?」
「そうだね。でもまぁ、そうなったらそうなったで色々考えてはいるんだけどね」
「例えば?」
「ティアをガウレッドさんの所に使いに出した時に、ガウレッドさんの居住区に時空間転移のポインターをセットさせてるから、そこに転移してガウレッドさんを巻き込む、とか?」
「それ、超魔竜が仲間の【超越者】に加勢、なんて事にならないでしょうね」
「その可能性はゼロじゃないんだよねぇ。だから、それは最後の手にしたいんだけど」
戯けながら肩をすくめて見せると、かなねぇは盛大に溜息を吐いた。
「……味方になってくれる【超越者】ばかりなのを祈るしかないか……加勢したいけど、超魔竜レベルが相手では私達勇者でも何の役にも立ちそうにないものね。ちなみに、この大陸にいる残りの【超越者】って何者か分かってるの?」
「何者かまでは分からない。でも、『光の国』と『闇の国』にいるらしいよ」
俺の言葉にかなねぇは少し考える素ぶりを見せると、やがて何か思い出した様に俺の方に向き直る。
「……『光の国』は分からないけど、『闇の国』の【超越者】には心当たりがあるわね……」
「えっ、マジで!」
「【闇の国】の魔族の王。つまり魔王ね」
魔王……すっごい怖そうな肩書き……ガウレッドさん、確か『闇の国』の【超越者】は何とかなるだろうって言ってたけど、本当に大丈夫なの?
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