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第4章 超越者の門出編

第87話 『風の国』の内情……ほとんどグチです

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   桃花さんの話では、『風の国』は勇者が来る大分前から戦争の準備をしていたらしい。
   それは勇者が来る数年前から『風の国』を牛耳り始めた宰相の独断で、どうやら宰相は始めから勢力拡大を企てていたようだ。それに拍車を掛けたのが、他の国々の勇者よりレベルが高かった井上の存在。
   宰相は井上の力が他の勇者より頭一つ抜きん出ている事を知ると早々に井上を抱き込み、それまで水面下でひっそり行なっていた戦力拡大をちょっと強引なものに変えたそうだ。

「全く、宰相と井上のコンビは最悪よ!   二人共支配欲が底無しで独裁的なんだもん。しかも宰相が井上を甘やかすもんだから、井上の奴、止まることを知らない位付け上がっちゃって、最近は窪さんの忠告も全く聞かなくなっちゃったわ」

   桃花さん、中々にフラストレーションが溜まっているみたいだ。こういう時は大人しく聞いとくのが一番。そこんとこはかなねぇ相手に実証済みだ。

「それに、宰相に感化されてるのか、井上は世間体を気にしなくなったから、嫌な性格が前面に出まくっちゃってて……今日も、私が無口で断らないのをいい事に、こんな地味な諜報活動もお願いじゃなくて命令口調で指示してくるんだよ!   もうあいつ、私達の事を家来とでも思ってるんじゃない?」

   途中から桃花さんの愚痴に変わった『風の国』の内情を、俺は苦笑いを浮かべながら静かに聞く。
   普段、話す相手もまともにいないだろうから、聞くだけでもストレスは発散にはなるだろう。そうしないと、その内、桃花さんが爆発しそうだ。しかしーー

「大陸統一……ね。この世界に無知な井上は兎も角、宰相はこの大陸には勇者なんか目じゃ無い強者がゴロゴロしてるのを知らないんですかね」
「勇者よりも強い?   この世界にはそんなのがいっぱいいるの?」

   桃花さんも知らなかったみたいで目を見開き、驚いた様子でこちらに振り向く。

「はい。先代勇者の生き残りも国に属さずに結構いるみたいですし、勇者を超越した化け物みたいな人……もとい、人じゃない者達も三人程いるらしいですよ」
「……嘘でしょ。私達、そんなの相手に戦わされちゃうの?!」

   桃花さんが表情に陰りを見せるが勿論、そんな真似をさせるつもりはない。

「桃花さん達を戦争に参加させるなんて、そんな事は絶対にさせませんよ」

   俺がきっぱりと断言すると、不安げだった桃花さんの顔が明るく変わる。

「フフッ、あの何も出来なかった博貴君がすっかり逞しくなっちゃって」
「何も出来ないって、それはこっちの世界に来てからの話でしょ……ところで今更な質問なんですけど、なんで桃花さんはレクリス卿の監視なんかしてるんです?」
「ああ、これ?   詳細は分からないけど、なんでも宰相が頭になって進めてた計画に必要な薬が何本か無くなってたみたいなのよ。その件で宰相はレクリス卿の事を疑ってるみたい。全く、この手の事が得意な諜報部隊がちゃんといるのに井上の奴、『それなら監視に喜多村も出しましょう』なんて、私の返事も聞きもしないで……ふざけるのも大概にしてもらいたいわ!」

   再び井上に対する怒りが爆発する桃花さん。これは本当に早めに何とかしないと……
   それにしても大事な薬……ね。おそらくアレの事かな?   その辺は爺さんに直接聞いてみるか。

「ーーそういえば、博貴君こそ何でこんな所に?」

   考え事をしていると、突然桃花さんに質問される。
   まあ、確かに俺がここに現れたのは不思議に思って当然だ。

「ん、俺ですか。俺はレクリス卿に用がありまして」
「……レクリス卿に?   ちょっと確認なんだけど博貴君、レクリス卿と面識があるの?」
「ええ、ちょっと縁がありまして」
「もうレクリス卿と面識があるんだ……博貴君、結構顔が広いのね。おねぇさんはてっきり私を見つけて、いても立ってもいられなくなって攫いに来てくれたのだと思ったんだけど、残念だわ」

   頬に手を当てて残念そうにため息を吐く桃花さん。
   いや、最初に死を偽装した合流がベストだと説明しまいたよね。
   桃花さんの相変わらずぶりに、懐かしさを感じながら苦笑いを浮かべる。
   ーーっと、懐かしさに浸ってる場合じゃなかったな。開戦が先の話ではないと分かった以上、早めに何らかの手を打たないと……

「桃花さん。名残惜しいけど、俺、そろそろ行きます」
「そう……分かったわ。それじゃ、約束の日を楽しみにしてる」

   桃花さんはそう言うと優しく微笑んだ。だから俺も笑みを浮かべながら頷く。

「はい。それと、俺と会った事は健一達には内緒にしといて下さい。健一はいいとして、窪さんとヒメはそんな事を聞いたら態度に出そうなんで……」
「あー、確かにそうかも。でも、ヒメちゃんは知ってたんじゃないかな。最近、随分と機嫌が良かったわよ。表立って接触する機会が無かったから理由は聞けなかったんだけど」
「ああ、それならちょっとしたツテで俺の生存確認をしたみたいです」
「そういう訳だったのね。それじゃあ、博貴君がここまで来てる事はまだおねぇさんしか知らないって事か。なら、これは二人だけの秘密って事で……」
「何でそんな意味深な言い方をするんですか……それでは失礼します」

   俺は、頬をヒクつかせながら桃花さんに軽く会釈すると、そのまま飛び上がり塀を飛び越えた。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

   ーーコンコン

   複数の兵が警邏していた広い庭を走り抜け、年季の入った三階建ての立派な屋敷に侵入した俺は、屋敷の一番奥に位置する部屋のドアをノックする。

「……誰じゃ」

   部屋の中から聞こえてきたのは、聞いた者に緊張を与える重厚な声。
   ビンゴ!   屋敷の中で感知した気配の中で、お偉いさんがいそうな一番奥にある部屋のドアをノックしたんだけど、一発で当たったよ。
   俺は内心喜びながらも、それを表に出さずに返事を返す。

「俺です」
「……オレなどという名に覚えが無いのじゃがな。その様な者をここまで通すとは、警備の者は一体何をしておったんじゃろうな」

   身に覚えが無い来訪者が来たというのに、随分と落ち着いてるレクリス卿。よっぽど自分の力に自信があるのか、それとも常に死を覚悟して生きているのか……
   ……どっちもあの合成魔術を見てハッスルしていた爺さんと重ならない……

「……森の中のログハウスでお世話になった俺ですよ」
「……鍵は開いておる。入るがよい」

   レクリス卿は少し間を置き入室許可を出してくれる。
   許可を得た俺は静かにドアを開けた。

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