91 / 172
第4章 超越者の門出編
第87話 『風の国』の内情……ほとんどグチです
しおりを挟む桃花さんの話では、『風の国』は勇者が来る大分前から戦争の準備をしていたらしい。
それは勇者が来る数年前から『風の国』を牛耳り始めた宰相の独断で、どうやら宰相は始めから勢力拡大を企てていたようだ。それに拍車を掛けたのが、他の国々の勇者よりレベルが高かった井上の存在。
宰相は井上の力が他の勇者より頭一つ抜きん出ている事を知ると早々に井上を抱き込み、それまで水面下でひっそり行なっていた戦力拡大をちょっと強引なものに変えたそうだ。
「全く、宰相と井上のコンビは最悪よ! 二人共支配欲が底無しで独裁的なんだもん。しかも宰相が井上を甘やかすもんだから、井上の奴、止まることを知らない位付け上がっちゃって、最近は窪さんの忠告も全く聞かなくなっちゃったわ」
桃花さん、中々にフラストレーションが溜まっているみたいだ。こういう時は大人しく聞いとくのが一番。そこんとこはかなねぇ相手に実証済みだ。
「それに、宰相に感化されてるのか、井上は世間体を気にしなくなったから、嫌な性格が前面に出まくっちゃってて……今日も、私が無口で断らないのをいい事に、こんな地味な諜報活動もお願いじゃなくて命令口調で指示してくるんだよ! もうあいつ、私達の事を家来とでも思ってるんじゃない?」
途中から桃花さんの愚痴に変わった『風の国』の内情を、俺は苦笑いを浮かべながら静かに聞く。
普段、話す相手もまともにいないだろうから、聞くだけでもストレスは発散にはなるだろう。そうしないと、その内、桃花さんが爆発しそうだ。しかしーー
「大陸統一……ね。この世界に無知な井上は兎も角、宰相はこの大陸には勇者なんか目じゃ無い強者がゴロゴロしてるのを知らないんですかね」
「勇者よりも強い? この世界にはそんなのがいっぱいいるの?」
桃花さんも知らなかったみたいで目を見開き、驚いた様子でこちらに振り向く。
「はい。先代勇者の生き残りも国に属さずに結構いるみたいですし、勇者を超越した化け物みたいな人……もとい、人じゃない者達も三人程いるらしいですよ」
「……嘘でしょ。私達、そんなの相手に戦わされちゃうの?!」
桃花さんが表情に陰りを見せるが勿論、そんな真似をさせるつもりはない。
「桃花さん達を戦争に参加させるなんて、そんな事は絶対にさせませんよ」
俺がきっぱりと断言すると、不安げだった桃花さんの顔が明るく変わる。
「フフッ、あの何も出来なかった博貴君がすっかり逞しくなっちゃって」
「何も出来ないって、それはこっちの世界に来てからの話でしょ……ところで今更な質問なんですけど、なんで桃花さんはレクリス卿の監視なんかしてるんです?」
「ああ、これ? 詳細は分からないけど、なんでも宰相が頭になって進めてた計画に必要な薬が何本か無くなってたみたいなのよ。その件で宰相はレクリス卿の事を疑ってるみたい。全く、この手の事が得意な諜報部隊がちゃんといるのに井上の奴、『それなら監視に喜多村も出しましょう』なんて、私の返事も聞きもしないで……ふざけるのも大概にしてもらいたいわ!」
再び井上に対する怒りが爆発する桃花さん。これは本当に早めに何とかしないと……
それにしても大事な薬……ね。おそらくアレの事かな? その辺は爺さんに直接聞いてみるか。
「ーーそういえば、博貴君こそ何でこんな所に?」
考え事をしていると、突然桃花さんに質問される。
まあ、確かに俺がここに現れたのは不思議に思って当然だ。
「ん、俺ですか。俺はレクリス卿に用がありまして」
「……レクリス卿に? ちょっと確認なんだけど博貴君、レクリス卿と面識があるの?」
「ええ、ちょっと縁がありまして」
「もうレクリス卿と面識があるんだ……博貴君、結構顔が広いのね。おねぇさんはてっきり私を見つけて、いても立ってもいられなくなって攫いに来てくれたのだと思ったんだけど、残念だわ」
頬に手を当てて残念そうにため息を吐く桃花さん。
いや、最初に死を偽装した合流がベストだと説明しまいたよね。
桃花さんの相変わらずぶりに、懐かしさを感じながら苦笑いを浮かべる。
ーーっと、懐かしさに浸ってる場合じゃなかったな。開戦が先の話ではないと分かった以上、早めに何らかの手を打たないと……
「桃花さん。名残惜しいけど、俺、そろそろ行きます」
「そう……分かったわ。それじゃ、約束の日を楽しみにしてる」
桃花さんはそう言うと優しく微笑んだ。だから俺も笑みを浮かべながら頷く。
「はい。それと、俺と会った事は健一達には内緒にしといて下さい。健一はいいとして、窪さんとヒメはそんな事を聞いたら態度に出そうなんで……」
「あー、確かにそうかも。でも、ヒメちゃんは知ってたんじゃないかな。最近、随分と機嫌が良かったわよ。表立って接触する機会が無かったから理由は聞けなかったんだけど」
「ああ、それならちょっとしたツテで俺の生存確認をしたみたいです」
「そういう訳だったのね。それじゃあ、博貴君がここまで来てる事はまだおねぇさんしか知らないって事か。なら、これは二人だけの秘密って事で……」
「何でそんな意味深な言い方をするんですか……それでは失礼します」
俺は、頬をヒクつかせながら桃花さんに軽く会釈すると、そのまま飛び上がり塀を飛び越えた。
⇒⇒⇒⇒⇒
ーーコンコン
複数の兵が警邏していた広い庭を走り抜け、年季の入った三階建ての立派な屋敷に侵入した俺は、屋敷の一番奥に位置する部屋のドアをノックする。
「……誰じゃ」
部屋の中から聞こえてきたのは、聞いた者に緊張を与える重厚な声。
ビンゴ! 屋敷の中で感知した気配の中で、お偉いさんがいそうな一番奥にある部屋のドアをノックしたんだけど、一発で当たったよ。
俺は内心喜びながらも、それを表に出さずに返事を返す。
「俺です」
「……オレなどという名に覚えが無いのじゃがな。その様な者をここまで通すとは、警備の者は一体何をしておったんじゃろうな」
身に覚えが無い来訪者が来たというのに、随分と落ち着いてるレクリス卿。よっぽど自分の力に自信があるのか、それとも常に死を覚悟して生きているのか……
……どっちもあの合成魔術を見てハッスルしていた爺さんと重ならない……
「……森の中のログハウスでお世話になった俺ですよ」
「……鍵は開いておる。入るがよい」
レクリス卿は少し間を置き入室許可を出してくれる。
許可を得た俺は静かにドアを開けた。
1
お気に入りに追加
4,327
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
贖罪のセツナ~このままだと地獄行きなので、異世界で善行積みます~
鐘雪アスマ
ファンタジー
海道刹那はごく普通の女子高生。
だったのだが、どういうわけか異世界に来てしまい、
そこでヒョウム国の皇帝にカルマを移されてしまう。
そして死後、このままでは他人の犯した罪で地獄に落ちるため、
一度生き返り、カルマを消すために善行を積むよう地獄の神アビスに提案される。
そこで生き返ったはいいものの、どういうわけか最強魔力とチートスキルを手に入れてしまい、
災厄級の存在となってしまう。
この小説はフィクションであり、実在の人物または団体とは関係ありません。
著作権は作者である私にあります。
恋愛要素はありません。
笑いあり涙ありのファンタジーです。
毎週日曜日が更新日です。
職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~
新米少尉
ファンタジー
「私は私の評価を他人に委ねるつもりはありません」
多くの者達が英雄を目指す中、彼はそんなことは望んでいなかった。
ただ一つ、自ら選択した道を黙々と歩むだけを目指した。
その道が他者からは忌み嫌われるものであろうとも彼には誇りと信念があった。
彼が自ら選んだのはネクロマンサーとしての生き方。
これは職業「死霊術師」を自ら選んだ男の物語。
~他のサイトで投稿していた小説の転載です。完結済の作品ですが、若干の修正をしながらきりのよい部分で一括投稿していきますので試しに覗いていただけると嬉しく思います~
異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。
猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。
もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。
すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。
主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。
――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました――
風景が目まぐるしく移り変わる。
天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。
移り変わる景色こそは、
第一天 ヴィロン。
第二天 ラキア。
第三天 シャハクィム。
第四天 ゼブル。
第五天 マオン。
第六天 マコン。
それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。
気付けば明星は、玉座に座っていた。
そこは天の最高位。
第七天 アラボト。
そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。
――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる