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第4章 超越者の門出編

第79話 ファルムの冒険者ギルド2……レリックさんの相手は本当に疲れます

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「申し訳ありませんでした!」

   Sランクの冒険者ギャレットがいきなり土下座をかました事により周りが騒然となる中、その喧騒より大きな声でギャレットが謝罪の言葉を口にする。
   いや、あんた今回はまだ謝るような事はしてないでしょ……っていうか、そのダイナミックな土下座の仕方、もしかしてこの世界ではオーソドックスなの?
   もしそうなら絶対先代勇者の影響だな、と思っている間にも、土下座の姿勢のまま顔を上げずに身体を小刻みに震わせているギャレットの謝罪の言葉は続く。

「まさか貴方方だったとはとはつゆ知らず、大口を叩いてしまい誠に申し訳ありませんでした!   どうか、何卒お怒りをお鎮めください!」

   いや、怒ってないし。ていうか、その土下座辞めてくれない?   じゃないとほら、ルティールの町の二の舞になるから……魔王が降臨したなんて噂が立っちゃうから!

「あら?   ギャレットどうしたの床に這いつくばっちゃって」

   ルティールの町の様な噂が立ってはかなわんと、ギャレットの土下座を止めさせようとすると、背後のギルド入り口辺りから女性の声が聞こえてきた。
   いや、【忍ぶ者】の気配察知で誰かが入って来るのは知ってたんだけど、まさかギャレットの知り合い?
   不測の事態発生に咄嗟にそちらを振り向くとそこに居たのは、魔術師風の女性と軽装の小男、そしてエルフの女。
   あー……こいつらも見た事あるわ……
   ギャレットの様子から次に起こるであろう事態を想定し、三人に声をかけようとしたら、それよりも早くその三人は俺の顔を見て『ひっ!』と短い悲鳴を上げ、その場に腰が砕けた様にへたり込んだ。
   そして引きつった表情で二、三回イヤイヤと顔を左右に振った後に揃って平伏。
   ええいっ、あんたらもかい?!

「何故、貴方方がここにいらしっゃるのですか」
「もう、その子に下卑た呼び方はしませんのでお許し下さい」
「俺達は何も喋っていません。これからも喋るつもりは無いのでどうかご容赦して下さい」

   ああっもう!   だから勘弁してよ。っていうか何も喋ってないってどういう事よ……って、ああ、そうか。かなねぇがこいつらにログハウスの出来事の口止めでもしてたんだろうな。
   しかし、何だこいつらの怯えようは……確かにあの時も【威圧】を使ったけどあれから大分時間が経ってるのに、こんなに恐怖を植え付ける程強烈だったのか?
   ギャレットの仲間も俺達に平伏した事により、周りの冒険者やギルドの職員達が一層騒然となる。
   ああっ、これ収拾つくのか?   さすがにここのギルドは、もう来ないって訳にはいかないし……嫌だよ俺、ギルドに入る度に怯えた視線を向けられるの。

「何事ですか?」

   収拾のつけ方が分からなくなり呆然としていたところに、静かだかよく通る声が響き渡った。
   声のした方に振り向くと、そこには階段を下りてきたタキシードをビシッと着こなした紳士の姿。

「レリックさん!」

   この事態を収拾出来うる救世主の登場に、俺は歓喜の声を上げる。

「……ヒイロさんとティアさん……それとギャレット?」

   レリックさんは俺を確認した後に、平伏するギャレット達を見て、少し考え込む素振りを見せたと思ったら、やおら手をポンッと叩く。

「ああ、成る程、理解しました。取り敢えず、ヒイロさん達はこちらに」

   レリックさんに促され、俺とティアは階段の方へ。レリックさんの『上でお待ち下さい』という言葉に従って階段を上りきった所で待機していた。
   そこから、下で何やら指示を出すレリックさんをぼんやりと眺めながら待つ事数分。

「お待たせしました」
「ああ、レリックさん。上手く事態を収拾する為に言いくるめてくれましたか?」

   階段を上って来たレリックさんに焦燥に駆られながら尋ねると、彼は戯けた様に肩をすくめる。

「言いくるめるなどと、まるで私が詐欺師みたいな言い方はやめて下さい。私はただ、本当のことを言って場を収めてきただけですよ」
「本当の事?」
「ええ、前に彼等が総統の知り合いである貴方方に、失礼な事をして総統にこっ酷く叱られたという話をしただけですよ。その時の恐怖がヒイロさん達に会った事によりぶり返したのではないかと」

   ……それは、確かに事実なんだろうけど、語ってない部分が大分あるよね。

「間違ってはいないんでしょうけど、その言い方だと彼等は俺ではなくかなねぇが怖くてああなったと取れますよね」

   俺がそう指摘すると、レリックさんはわざとらしく『ああっ!』と自分のおでこをポンッと叩く。

「そうですね。私とした事が、言葉足らずでした」

   嘘つけ!   わざとそういう風に取れるように持っていったくせに……しかし、恐怖の対象を俺からかなねぇに移して何の得があるんだ?
   レリックさんが今回そうした理由が分からず、顔をしかめていると、レリックさんはやおら口角を上げた。

「冒険者にも色々な人種がいますからね。総統がカリスマだけの人間では舐めてかかる輩も出てくるのです。ですから、偶に怖さも匂わせなければならないのですよ。恐怖は人を支配するのに最も効果的なスパイスですからねぇ」

   そうのたまうレリックさんは実に生き生きしていた。

「まぁ、恐怖だけではいつか反感を買ってしまいますが、総統はカリスマと人当たりだけは異様に良いですから、その辺はバランス良くやっています」

   前触れも無く説明を終えるレリックさん。俺は思わず顔に手を当てる。
   くそっ、また表情で考えてる事を読まれた。この辺はやはり経験と年季の差か?

「ふっふっふっ、また、しまったという顔をしてますよ。まぁ、私と博貴殿の仲ではないですか、私に考えを読まれたからといってそんなに警戒しないで下さい」
「距離感を縮めて、俺を仲間に引き入れる算段ですか?」
「ふふっ、まぁ、それは否定しません」
「……今度は隠し事はしません、というポーズですか」
「……本当に博貴殿はやり辛いですねぇ」
「それはお互い様です」
「ふぅ……まぁ、ここで長々と話していても仕方がないので、そろそろ行きましょう」

   俺の警戒マックスのセリフに、レリックさんは一つ大きなため息を吐いた後、廊下の奥に俺達を案内し始めた。

   
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